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彼は普通で、世界は特別で。  作者: 麻々 翠庵
彼女との出会い
1/4

今日は入学式です。1

初めまして、麻々 翠庵(あさま すいあん)と申します。


極めて初心者ですが、ケータイ小説を執筆しています。


なろうへの投稿は当作品が初になります!!


あくまで趣味の趣味程度ではありますが、自分の文章力向上のためにも、何かかんじるところがありましたら、是非是非ご教示頂ければと思います(`・ω・)ゞ

今より40年遡った、大陸歴683年の冬。



8ヶ国が平和な生活を送るケルトア大陸の北端にあるルイーラ国領土内で、突如モンスターが狂暴化するという異変が起こった。


その異変はまるで伝染するように範囲を広げていき、発生から2年後、大陸全土が異変に包まれた時には、発生源であるルイーラ国が滅亡に至るまで深刻化していた。



ケルトア大陸南部にある“トリカ王国”でも、異変への対応は最優先事項だった。


国土は広大とは言えないが大陸で最も人口の多い都市、王都ロンライムシティを擁し、最先端の魔法技術と高い科学技術を併せ持つトリカ王国。


小国ながらも魔法分野で他国の一歩先を進む国家で、強力な軍隊も有していたが、狂暴化したモンスターの前では要所への進行を食い止める事で精一杯で、領土内の治安を維持するには至らなかった。



そのような状況の中、トリカ王国では他国に先駆けて魔法学校などの軍事系学校を建造し、より質の良い兵士の供給量を増やす事に尽力していた。


途中に二度の大陸戦争が勃発した事も手伝い、40年の内に続々と軍事系学校は創設されていき、異変前は5校だったそれも、現在では18校にまで増えた。


国王の目論見通り、より実践的な訓練を経た兵士が増えたことで兵士の質は向上し、治安は徐々に回復しつつあった。



その中で5年前、トリカ王国の東のはずれに、聞く者全てを驚かせた異例の学校が創設された。


その名は、私立獅子鐘魔法学院。


人を寄せ付けない森の中にひっそりと佇むこの学校は、国内に存在する18校のうち、貴族と平民の両方が通う唯一無二の学校だった。







「……以上15クラス、600名の入学を許可します」



司会進行をつとめていた教師は、今日というめでたい日を表すかのように、はきはきとした声で言う。



季節は春。


開け放たれた窓からは、厳しい冬を乗り越えた草花の逞しい香りを含んだ風が、遮光カーテンを靡かせながら入ってくる。



ここはトリカ王国東部の森の中にある、私立獅子鐘魔法学院の第一体育館。


現在2000人以上を収容しているこの体育館で、張り詰める緊張感の中を、千以上の乾いた拍手の音が突き抜けていく。



本日の主役である新入生は一様に目をキラキラと輝かせて、在校生などの出席者から祝福を受けていた。


まだあどけなさの残る彼らの表情は期待に満ち溢れており、これからの時代を担うに相応しい顔つきだ。


左胸部分に校章が刺繍された紺のブレザーと、シンボルカラーである淡いオレンジ色のワイシャツも、まだ着こなせてはいない。



だが新入生の中には、新しい仲間や教師の顔を見ようともせず、頭をしきりに上下させて睡魔と格闘する生徒もいた。



関津悠兎かんつ ゆうともその一人で、前髪でちょうど良く隠れる両目を閉じてさきほどからずっと俯いていた。


入学式もいよいよ終盤を迎えた今、悠兎はこの式の退屈さを振り返って大きく息を吐き出す。


領主や軍の上層部の挨拶はありきたりで、ひどくつまらないものだった。


毎年似たような事を言っているのだろう、すでに祝辞には新入生に見合うだけの新鮮さは残されていなかった。


その中で唯一学院長の挨拶だけは、心の底から祝ってくれているのだと伝わるようなものだったが、式に対する感想を覆すまでには至らなかった。



全てのプログラムを終えた一年生は、壮大な音楽と雷鳴のように轟く拍手で満ちた第一体育館を、教師に引率されて退場していった。


「はぁ、疲れた……」



高校生活最初のイベントである入学式を終え、自分のクラスである一組に戻った悠兎は、低い呻き声を出してから崩れ落ちるように机に突っ伏した。


クラスの中は騒然としていたが、初日という事もあって、席を立ってまで新しい友達を作ろうとする者はまだいなかった。



入学式の間に悠兎を襲っていた睡魔はどこかへと去っていったが、寝起きのせいで身体は酷くだるい。


顔を伏せたまま、前に座る生徒の邪魔にならない程度に身体の筋肉を伸ばしてから、悠兎はより楽な体勢を探す。



その時、話し声の間から2つの足音が聞こえてきた。


調子の良い奴が席を立ち始めたのか、或いはトイレにでも行くのだろうと思っていたが、足音は徐々に悠兎に迫ってくる。


悠兎の付近で、彼らと話をしているような声は聞こえないので、会話して仲良くなった友達のところに行くわけでもないようだ。


仕方なしに重い頭をあげて何が起こったのか確認してみると、そこにいたのは高校生活に浮かれている奴でも、トイレに行こうとしている奴でもなかった。



「初日から随分と余裕そうね、あんたは」



彼らは悠兎のよく知る人物だった。


悠兎と目があった2人のうちの女子生徒――不当愁香ふとうしゅうかは、悠兎と目が合うなり鮮やかな赤色のショートヘアを揺らして項垂れた。



「そりゃ、予想つくような話ばっかり聞いてりゃ眠くなるだろ」



「でも、昨日夜更かししてたでしょ。」



愁香の隣に立つ矢野柄十悟やのつかじゅうごが、抑揚のない声で言う。


黒ぶち眼鏡の奥から覗かせる瞳も、声と同様にどこか脱力している。



「いや、確かにちょっと遅かったけどさ」



「慣れない宿に緊張した?」



「なに、たった一日でもう孤児院が寂しくなったの?」



「ちがうから」



愁香の訝しむような眼差しに、悠兎は眉間に皺を寄せて答えた。


悠兎、愁香、十悟の3人は、トリカ国東部にあるみすぼらしい孤児院で育った。


とはいっても物心ついたときから一緒だったわけではなく、悠兎と十悟が元々入っていて、7歳の時に愁香が入ってきたのだ。





「それにしたって、初日くらいちゃんとしてほしいものだわ。あんなぐだってる奴と同じ中学出身かって思われるのは嫌よ」



「高校からはもっと真面目に授業を受けないと、留年になるかもしれない。」



「それはないだろ。一応特待生だぜ?」



一瞬だけ無表情を崩して眉間に皺を寄せた十悟に、悠兎は溜め息をつきながら答えた。


愁香と十悟の2人が通常の試験に合格して入学したのに対し、悠兎は戦闘能力の高い生徒を対象に行われる試験に合格して、ここにいる。


獅子鐘学院の一年生600名のうち、特待生枠は50名分しか設けられていない。


つまり悠兎は、獅子鐘学院に実力を認められた生徒の一人なのだ。



中学校の頃は、学年で誰よりも強かった。


一般中学校の為、全員が魔法学校への進学を希望する生徒というわけではなかったが、二番目に強かった愁香との差は、決して僅かではなかった。



「あら、一般生徒よりも基準が緩いだけで、特待生にも留年はあるのよ?」



「全教科赤点とか、単位8個以上落としたりとかね。」



「さすがにそこまで馬鹿じゃないから大丈夫」



「ふぅん。なら今年からは勉強を教えなくて良いのね」



「それとこれとは話が別だろ」



悠兎の抗議に愁香が言葉を返そうとしたその時、教室内に耳をつんざくような音が響き渡った。


全員の顔が一斉に音の聞こえた入口の方向へと動く。


教室内に静寂が訪れる。


けたたましい音を響かせて引き戸を開けたのは、随分と小柄な女性だった。



「……あ、ごめんなさい。ちょっと力が入り過ぎちゃいました」



教室内の雰囲気を感じ取ったのか、若草色のカーディガンを羽織ったその女性は、苦笑いを浮かべながら生徒たちに対して謝った。



「とりあえず、席に着いちゃって下さい」



今の音に驚いたのか、立ったまま固まっていた十悟と愁香に向かって、その女性は柔らかな笑みを浮かべて着席を促した。


2人が着席したのを確認すると、女性は教卓の前に立ち、一度乾いた咳払いをしてから話し始めた。



「それじゃあ、皆さん初めまして。今年一年間一組の担任を務める、三座河さんざがわ 智慧ちえといいます。教師生活は5年目で、獅子鐘学院の開校と同時にここで始まりました。他の先生に比べるとまだ若く、色々迷惑をかけてしまうところもありますが、この一年間を一緒に素敵な生活にしていけたらな、と思います。よろしくお願いしますね」



そう言って智慧は頭を下げると、クラスから拍手が送られたが、その中で幾人かの生徒は首を傾げて、周囲の様子を伺っていた。


悠兎も彼らと同じ疑問を抱いた一人だった。


彼女は、教師にしては随分と若く見えるのだ。


赤ぶちの眼鏡にショートヘアの彼女は、獅子鐘の制服を着てしまえば、生徒と言われても誰も疑う事はないだろう。



「優しそうな先生だね」



拍手が鳴り止む頃、悠兎の左隣から十悟が身を乗り出してささやいた。


その言葉に、悠兎は頷いて同意する。


見た目から少し頼りなさそうに感じたが、彼女の言葉を聞いてその第一印象はひっくり返された。


もう5年目になるのだから、当然と言えば当然だろう。



「さて、今度は皆さんに、簡単な自己紹介をしてもらいたいと思います。出席番号一番の、安達君からお願いします」



智慧が胸の前で手を合わせながら言うと、廊下側の列の先頭に座っていた男が、緊張した様子で立ち上がる。



「初めまして。クァプトル第三中学校出身の安達圭太です――――」



安達から始まった自己紹介は、一人1分ほどのペースで進んでいった。


自分の番が回ってくるまでは緊張していた悠兎だが、いざ自己紹介を終えると、後は十悟と話をしながら時間を潰した。



全員が自己紹介を終えると、智慧は次の作業について話し始める。



「お疲れ様でした。それでは次に寮部屋を決めるにあたって、二人一組になってもらいます。他のクラスでもちょうど準備が整ったようなので、一年生なら好きな人と組んで良いですよ。決まったら担任に声をかけてくださいね」



智慧はそう言うと教室のドアを開けて、他クラスへ移動できるようにした。


一組の生徒は徐々に立ち上がる。


教室内で組もうとする生徒もいれば、廊下へと出て知り合いを探しに向かった生徒もいた。



始まってくすぐに、悠兎は十悟を誘って承諾を得ると、智慧の元へと向かった。


恐らく誰よりも早かったのだろう、智慧から渡された部屋鍵に記されてあった部屋番号は『401号室』だった。







十悟がパンフレットに載っている情報を読み上げるのを聞いているうちに、悠兎たちは寮棟に到着した。


『ヨ』の字の形をした寮棟は、1800人を収容する巨大な外観に反してロビーは狭く、生徒が100人も集まれば身動きが取れなくなる程度だった。


入ってすぐ左手にはこぢんまりとした受付が設けてあり、その中では管理人と思われる初老の女性が新聞を読み耽っていた。


薄暗いロビーとは裏腹に、悠兎の寮室への期待は膨らんでいく。



エレベーターを使用して到着した4階は、左右に等間隔でドアが設置された、真っ直ぐな薄暗い廊下が伸びていた。


温かみのない蛍光灯の灯りが広がる廊下に人影はなく、悠兎たちの足音が廊下のずっと奥にまで響いていた。


すぐ手前の玄関扉に目を向けると、白いプラスティック製のプレートに「401号室」と表記されている。


鍵を見て番号を再度確認し、悠兎は震える手でドアノブにそれを差し込み、回した。



カチッという音が響き、手に解錠の感覚が伝わる。


悠兎はすかさずドアを引いた。



「おお……!!」



2人を迎え入れた玄関は、都市部にある安いアパートなんかよりはずっと立派なもので、2人が立っても少し余裕のあるくらいの広さがあった。


一度脱衣所に入ってトイレや浴室を確認してから、2人はリビングへと向かった。


1LDKの間取りで納戸も付いており、悠兎は寮にしては少し豪華過ぎやしないかと感じたが、当然そちらの方がありがたかった。



リビングに入ってすぐ、悠兎は窓一面に広がる二年生の寮棟に目を奪われた。


左右に数百mも続く巨大な建築物は壮大で、自分も目の前の物と同じ建物の中にいるのだと思うと、悠兎は感動すら覚えた。


これほど大きな建物に入るのはこれが初めてだった。


ベランダに出て鉄柵から身を乗り出し、隣の部屋の様子を覗いてみる。


しかし悠兎たちはかなり早い段階で鍵を受け取った為、付近の部屋からはまだ気配は感じられなかった。



悠兎は振り返り、これから生活する場に目を向けた。


予想よりずっと豪華だった部屋に悠兎はもちろん、十悟も夢中になっていた。



「孤児院とは大違いだな。同じなのは二段ベッドがある事くらいか?」



ベランダから寝室に移動した悠兎は、一昨日まで自分が住んでいた孤児院を思い出した。


孤児院は60を超える家主の老人と、彼が雇った40過ぎの女性2人の、3人で営む小規模なものだった。


そこでは成人して出ていったり、新しい子が来たりで、大体20人ほどの子供が常に暮らしている。


家は普通よりも大きい年季の入った木造の家屋だが、もちろんそれは一般家庭が住む場合の話。


実際は六畳の部屋に二段ベッドを3つ置いて6人が寝ても、部屋数が足りないくらいだった。



「でもあそこは、ここよりもずっと賑やかで楽しかった。」



冷蔵庫の様子を確認していた十悟は、悠兎を振り返って微笑んだ。



「俺は静かな方が良いんだよ」



だが、悠兎はクローゼットを開けて中の様子を確認しながら、十悟の言葉を否定した。


もちろん、孤児院が嫌いだった訳ではなく、むしろ悠兎は非常に居心地が良かったと感じていた。


誰かがふざけて、それをみんなで笑って、一般的な家庭よりはよほど幸せだったんじゃないかと思えるくらいだ。


だが、だからこそ自分の部屋というものに憧れてもいた。


誰にも気を遣わなくて良い空間というものを体験してみたかったのだ。



「ホームシックにならなければ良いけど。」



「なんか言ったか?」



「言ってない。それより、食材が無いから今日調達する必要があるよ。なにか食べたいのある?」



「安く作れるならなんでも良い」



十悟が「分かった」と言って頷いたところで、悠兎はふと時計に目をやると、10時35分を指していた。


授業開始の時間が気になった悠兎は智慧から渡された、今日一日の予定が記されてあるプリントをポケットから取り出して確かめた。


自分が今日体験した出来事を読み進めていくと、そこには11時から授業と書かれてあった。



「今更だけど、初日から授業ってどうなんだよ」



「確かに大変だね。まだ校内も把握しきれてないのに授業なんて。」



「1時まで昼飯は無しか。腹減ってちゃ、授業なんか集中できないよな」



そう言ってから、悠兎は室内を改めて見回した。


だが、やはりまだここで生活をする自分の姿は想像出来なかった。




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