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第14話 巫術師 玄雨雫と宝

 齢数百年にして政に関わり強大な巫術を使う不老不死の巫女、玄雨雫。自称、日の本の国の神。

 そして、欧米諸国を支配する多国籍企業ファイブラインズのCEO、アリス・ゴールドスミス。彼女もまた自称、西洋の女神。

 中学2年生の神峰純は、こともあろうか雫が趣味で営む骨董屋一六堂に入って行った事から、二人に神の資質を見抜かれ、女神、玄雨純になった。

 「空の門」の実験が始まった時、そこに一人の老女が現れる。老女は自分の名を「玄雨朔」と語る。朔は雫の線先代の玄雨家当主の名。その当主が、数百年の時を超え、現れた。その朔が「鬼」について語り出す。

■鬼


 わしは巫術師の巫女でもあるが、産婆も兼ねておった。

 その方が、力の強い巫術師を見つけやすかったからじゃ。

 力お強い巫術師は、たいてい、双子の内、生き残った女児、という事が判っておったからの。

 あるいは、生まれてすぐ、一度、死にかけて、生き返った女児じゃ。

 「さき」を取り上げたのも、わしじゃ。「あと」は産まれてすぐに死んだ。

 そこに、旅のご坊が通りかかったのじゃ。龍源(りゅうげん)と名乗った。

 ご坊は、家に入られると、わしらに言った。

「ここに『鬼』がいる。封じねば、人が死ぬ。見ればその赤子、強い運気を持っておる。『鬼』を封じても、大きな害はないと見る。むしろ、運気は高まるだろう」

 と言って、「さき」の家の者に頭を垂れ、その子に「鬼」を封じさせて欲しいと頼んだのじゃ。

 家の者は困った。どう考えていいものか、迷った。

 断わり、人死にが出れば、その禍の元と見なされる。さりとて、我が子に「鬼」を封じる事など、恐ろしい。

 そこで、わしの占いに任せる、という事になった。

 わしは占った。

 占いの結果は、封じるべし、と出た。

 そしてご坊は、「鬼」を「さき」に封じる行を執り行った。

「これは『鬼』だ、この子に封じる」というのは、その時、ご坊の言った言葉じゃ。

 ご坊は去る際、こう言ったのじゃ。

「『鬼』の力は、この娘に月の物が来る時、強くなる。その時はお主の技で縛って欲しい」と。

 おそらく強い巫術の才、それに封じられた「鬼」の力。

 わしは、「さき」を縛るのを、すぐに行う方が良いと考え、「あと」の亡骸をもって「さき」を縛った。


■神の資質


 朔の話しの間中、雫はもちろん、アリス、純もしわぶきの音一つさせず、ただただ聞き入っていた。

 朔の話には、「神の資質」に関する、重大な示唆が含まれていたからだ。

 聞きながら、アリスは身震いしていた。

 自分を見下ろす、もう一つの自分、その後混ざり合ったという記憶。純くんにもある記憶。

 その自分を見下ろしていたもう一つの自分が、話しに出てきた「鬼」なら。

 説明がつく。

 何故、雫が不老不死になったのか。

 何故、私が生まれ変わり、記憶を引き継ぐのか。

 何故、純くんが、リンクの声を聞くことが出来たのか。

 さらに、アリスの思索は続く。

 どうして、純くんが、これ程、巫術に長けたのか。

 純くんの調査をした時、出産後、チアノーゼになって、死にかけたとあった。

 それに、純くんは、もとは双子。その男児の方が女児を取り込んだ形だったけれど、双子の片方が死んでいる、という事例に、かなり近い。

 アリスはこれらの思索を、サーバントリンクに記録した。

 最重要の印を付けて。


「驚く事ばかりです」

 アリスが真面目な声音でそういうと、(さく)に丁寧な礼をした。

「朔曾お祖母様、貴重なお話し、真にありがとうございます」

 アリス、元の姿勢に戻ると、いきなり朔の首に抱きついた。

「ありがとう! これで、いろいろなコトの説明が付きそう! 教えてくれてありがとう!!」

 抱きつかれた反動で朔がひっくり返る。

 雫が怒鳴った。

「アリス! 朔お祖母様に何てことを!!」

 ははは。と朔は笑った。

「良い良い。まるで孫に抱きつかれ様じゃ。嬉しいものじゃ」

 と倒れたまま目を細め、アリスの頭を撫でた。

 純は思った。

 すご。アリスさんの可愛い物好き攻撃、時代を超えて、年齢の幅も超えて、通用するんだ。やっぱり無敵だよ。

「雫ぅ、帰る方法、判ってるんだったら、教えて! あと二時間くらい後でも大丈夫?」

 なんの事だ?と雫は想ったが、アリスの質問に答えた。

「それくらいなら、おそらく問題は無い」

 一体、何をするつもりなのか、と雫が問おうとした機先を制して、アリスが言った。

「朔曾お祖母様の歓送迎会を行うの!」

 ああ、と雫は得心した。

 意が伝わったのを感じてアリスは笑顔で言った。


「宴よ!」


■宴、再び


 アリスはサーバントリンクにデリバリーを頼むと、それを取りに行くように純に頼んだ。

「お願い、純くん。あなたにしかできないの」

 そう拝み倒され、もう仕方ないと、純も諦めた。

 はあ、今日六度目だよ。でも、朔曾お祖母様のためだもの。仕方ないよね。

 そうポジティブな思考に切り替えて、「空の穴」で、日米間をひとっ飛びする。

 「空の穴」から戻ってきた純は、両手に大きな紙バッグを数個ずつ持っていた。

「アリスさん、量、多過ぎですよ!」

 流石の純も、文句を言う。

 「ごめん、ごめん。いろんなものを愉しんでもらおうと思ってさ」

 と言うと、これまたアリスが卑怯なカードを切った。

 カードには、「いかなる時でも、純くんの機嫌が治る効果」と書いてあった。

 くるり、とセリスに代わると、セリスはぺこりと純に向かって頭を下げた。

「純お姉ちゃん、うちのママが我が侭放題で、ごめんなさい。セリスが代わりに謝ります」

 純の怒りはたちまち立ち消えする。

 はあ、狡いよ、アリスさん。雫さんじゃないけど、「この遣りようは、卑怯だぞ、アリス!」って言いたい。

 そう思うと、とぼとぼとした足取りで、舞い舞台に戻った。

「今のはなんじゃ!」

 セリスを見て、朔が驚いている。

 そりゃ、驚くよね。同じ身体だけど、全然違って見えるもの。

 と、純が思っていると、セリスは、ぺこりと朔にお辞儀をした。

「あの、自己紹介が遅くなってごめんなさい。朔曾お祖母ちゃん、あたしセリス。アリス・ゴールドスミスの娘です」

 セリスは頭を上げた。

「ママが代替わりした時、本当ならあたし消えちゃう所だったけど、純お姉ちゃんのお陰で、消えなくてすんだの!」

 セリスはそう言うと、紙のバッグを降ろし終った純の首に抱きついた。

「ありがとう! 純お姉ちゃん! 大好き!」

 もうこれで、純の疲れも、機嫌も完全に治った。純は元気一杯だ。あと十往復くらいできる、かも知れない。

 純は頬を赤らめて、セリスの頭をなでなでする。

 朔は雫にひっそりと呟いた。

「のう、あのアリス殿、そうとうの策士よのう」

 雫もひっそりと返事をする。

「はい。セリスに代替わりして以来、あの卑怯な手で、もはや無敵です」

 二人は、ふう、と溜息をつくと、セリス経由で伝えられるアリスの指示で、あれこれバッグの中からデリバリーを取り出して、舞い舞台上手に展開している純を見た。

 やっぱり犬に見える。

 雫は思った。

 いつの間にかブルーシートが敷かれ、運動会かお花見のような感じの一席が出来上がっていた。

 セリスが朔の手を取って、ここに座って曾お祖母ちゃん、と促す。

 そこに雫が一升瓶と碗を二つ持って座った。

 碗の一つを朔に差し出す。朔が持つと、一升瓶から日本酒を注ぐ。

 朔が一升瓶を取ると、今度は雫の碗へ。

 純とセリスは、前の宴の時と同じジュースをコップに注ぎ合った。

 乾杯の準備が整った。

 すっ、とセリスからアリスに代わると、アリスは言った。

「玄雨神社第二回目の宴、朔曾お祖母様の歓送迎会を始めま〜す!」

「乾杯!」

 碗と碗、コップとコップ、碗とコップが優しくぶつかる音が響いた。


 朔はアリスが用意した異国の食べ物を少しづつ食べ、旨い旨いと舌鼓を打ちまくった。

 ある程度食べた時。

「もっと食べて、朔曾お祖母様ぁ」

 とアリスが進めると、朔は言った。

「ありがとう。アリス殿。だが、これ以上はよす事とするよ」

 何故?とアリスが問うと、朔はこう答えた。

「元の『時』には、これほど旨いものは無い。あまり旨いものに舌が慣れ過ぎるのは、毒じゃからな」

 あ、そうか。

 少しアリスがしょんぼりした。

 アリスは、食べ物以外で何か出来ないかと、考えた。

 そうよ!これよ!

 くるり、とセリスに変わった。

「朔曾お祖母ちゃん。あのね、ママがあたしの舞いを、曾お祖母ちゃんに見せたいって」

 ほう、と朔が言った。

「それは良い。アリス考えたな」

 と雫。

 純はアリスが何を考えたか、ちょっと判らない。でも、セリスちゃんの舞いは可愛いから、ボク、見たい。と賛成する。


■セリス、舞う


 セリスが舞い始めると、純は思った。

 あれ? いつものセリスちゃんの舞いと、微妙に違うな。

 いつもは、あんなに飛び跳ねないのに。

 とそこで純もアリスの考えが判った。

 そうか、ボクや雫さんの舞いは、多分、朔曾お祖母様がご存知なのと同じ。

 でも、セリスちゃんのは!

 セリスが舞い始める前、アリスはセリスにこう伝えたのだ。

「朔曾お祖母様、バレエを見た事が無いと思うの。だから、今回の舞いは、思いっきりジャンプしちゃって!」

 ゆっくりと基本の舞いの動きをしたかと思えば、高くジャンプし、くるくると回るセリス。

 朔は、外つ国の舞いが混ざった、見た事の無い舞いを、大層愉しんだ。

 雫が朔の碗に酒を注ぐ。

「お楽しみ頂き、私共も嬉しゅうございます」

 雫は、静かに微笑んだ。

「雫、数百年、様々あった事と思う。短い人の人生でも、いろいろある」

 朔は雫の碗に酒を注ぐ。

「じゃが、今のお主は幸せそうじゃ。孫が幸せそうじゃと、わしも嬉しい」

 二人は碗と碗を、かちり、と打合せると、共に酒を呑んだ。

「何、二人でこっそり乾杯してんのよ〜」

 酔っぱらっている。

 セリスの舞いが終った途端アリスに代わって、例のジュースを相当飲んだようだ。

 で、そのアリスが絡んできた。

 左腕で、純の首をロックしている。

 やっぱりアリスさん、酒癖悪いよ〜。助けて雫さん〜。

 純は心のなかで、こっそり雫に助けを求めた。

 口に出したり、リンクで話したりしたら、何倍のカウンターが来るか、知れたものでは無いからだ。

 ふっと雫は口元を緩めると、朔に、一言言い添えた。

「余興に私の昔話を致しましょう。ただ、朔お祖母様。あなた様にとっては先の事となります故、細かい所は省こうと存じます」

 それと、と少し真剣な声音で、朔に言った。

「この事は、(のぞむ)様には、決して」

 朔も察した。

「承知した」

 雫は少し微笑むと、話し始めた。


■朝廷占い方、玄雨雫


 これは、私が、朝廷の占い方に任ぜられた時のお話し。

 まだ私が実際の年でもうら若かった時。

 こら、アリス、そこは笑う所じゃない!

 話しを戻します。

 私に嫌がらせをする者がおりました。

 何と言うか、まだ、うぶだった私に、自分の色事をとうとうと語り、私が赤くなるのを見て愉しむと言う、それは、失礼きわまりないお方が居たのです。

 ひとしきりそういう話しをなさった後、思いの相手に、我思い届くか、占えと。

 それでなくとも、恋の占いは面倒なもの。

 なにしろ叶う占いを聞きたくて仕方ないものです故。

 否と占いそのまま伝えようものなら。

 ああ、朔お祖母様も、ご同様の思いをなさった事が。

 とまあ、兎に角、面倒なものの上に、そういう嫌がらせ。

 少々、たまりかねた私は、策を練り、帝に文を書きました。

 恋の占いはしない。もし、しなければならぬなら、お役を退く、と。

 ちょうどその時、帝は後宮の姫選びの最中。

 占い方からの、かような文を読み、大層慌てたられ、私に事の次第を問いただされました。

 少々は恥ずかしい話しでしたので、人払いを頼むと、周りの官吏が、前例が無いと突っぱねる。

 私が真剣な目で帝をじっと見詰めますと、帝、おそらく私の決意をおくみ取りになり、人払いとなりました。

 少々顔を赤らめながら、嫌がらせの事の次第を申し上げた所、そやつは遠方に送る故、少なくとも余の姫選びの占いだけは、行ってもらいたい、と仰せられました。

 その時の帝の目に、少々、私への好意の色が浮かんでいるのが見て取れました。

 不味い、と思い、帝に一言申し上げました。

「恐れながら申し上げます。巫術を扱うものは、そのしきたりにて、乙女でなくてはなりませぬ」

 それで、事無きを得ました。

 ですが、帝は私を気に入られ、後宮入りは諦めたものの、占いの時は、記録方のみ残し、私と話しを愉しむようになりました。

 この事は宮中の秘密であると、記録方は、何も記してはおりません。

 故に、公の記録には、何も残っておりません。

 この時の帝の計らいで、玄雨神社は、特別な神社という扱いとなり、時代が下っても、時の権力者は、朝廷を通して私と会う、という仕組みが出来上がったのでございます。


「へえ、そんなコトがあったんだ〜」

 恋のトラウマの時に、話しの半分は聞いたけど、残り半分にこんな事があたなんて、知らなかったよ〜。

 もしかして、その帝、雫の初恋の相手だったりして。

 でも、結局、死に別れちゃうんだよね。

 アリスはちょっとしんみりした。

 なら、私もお喋りしちゃおうかな〜。

 そう思ったが、アリスは思い直した。

 でも、宴で話す話じゃないわね。

 と、アリスはどうして自分が世界を支配するに至ったか、という物語を胸の内にしまった。


 朔が、アリスの外つ国の珍味、セリスの舞い、純の労をねぎらおうと、自分も舞いを披露した。

 その舞いは、雫のものにも似てはいるが、しんと静かな、穏やかなものだった。

 朔が舞い終った時、純は雫の舞いとは違う感動を覚えていた。

 朔曾お祖母様も、この舞い舞台で、見ているたくさんの人の心に安寧を届けていたんだ、と純は悟った。

 そうこうする内、瞬く間に、約束の二時間が過ぎ去った。


■朔、去る


「それでは、わが娘たち、これにてお別れじゃ」

 朔はそう言うと、舞い舞台上手奥に設置された「空の門」に入っていった。

 黒い鏡の中に沈み込むように、朔の姿は消えていく。

 聞こえないと判ってはいても、純は叫んでいた。 

「朔、曾お祖母様。お元気で〜」

 セリスも叫ぶ。

「曾お祖母ちゃん、お元気でね〜」

 木霊(こだま)する声が消えて、舞い舞台に静寂が戻った。

 すっ、とアリスに代わると、アリスが報告した。

「雫の推論通りだったわ。玄雨神社、本社の『空の門』から、朔曾お祖母様は、現れなかったって」

 今、三柱の女神がいるのは、米国の玄雨神社分社だった。

 朔はそこの舞い舞台上手奥に設置された「空の門」から、過去に戻ったのだ。

 実は、宴が終った後、純は大忙しだった。

 朔、雫、アリスを連れて、米国の分社に行き、今度は、ラボのサーバント数名を連れて、玄雨神社本社に戻り、また、分社に飛ぶ。

 過去の純の「空の穴」の技の一日の最大使用回数を大幅に更新したのだった。

「それにしても、雫ぅ、『空の門』が過去に繋がっているって、何時判ったの?」

 アリスが雫に尋ねた。

「初めはモルモットを入れたケージが、待ってもなかなか現れなかった時、もしやと思った。決め手となったのは、『(くう)の穴』の事を、朔お祖母様が、ご存知無い、と知った時だ」

 雫の推察はこうだ。

 アリスの作った「空の門」は、形状を変化させたため、その機能に、大きな変化が生じたのでは無いか、というものだった。

 モルモットを入れたケージがなかなか出てこない時、二つある「空の門」がそれぞれ別々の空間に繋がったのかと雫は思ったのだ。しかし、「空の門」から出てきた朔が過去の人物だと知った時、同じ「時の線」か、別の「時の線」の過去から来たと、考えたと言う。

 同じ「時の線」か、別の「時の線」か、どっちなのかは、『空の穴』の巫術書での、朔の反応で決まったのだと。

「違う『時の線』と繋がっていたら、この入り口の「空の門」は、さらに別の「時の線」に繋がっているかも知れぬ」

 そうならば、朔は元の時代には戻れない。

 もし、戻った朔が巫術書に「空の穴」の事を書かなければ、そこは別の「時の線」、もし、時が書き変わるとすれば、書き変わるのは、未来だけでなく、過去も書き代わり、朔は元の「時の線」には戻れない。

 玄雨神社本社の「空の門」が過去からの出口なら、米国の分社の「空の門」は、過去への入り口となるはず。

 そう雫は推理したのだった。

「だけどさ。本当に戻ったかどうか、確かめようが無いわよね」

 「空の門」をくぐって、過去に行って確かめるのは危険過ぎる。戻るための「空の門」は、この時代にしか無いのだから。

「ちょっと残念だけど、雫の言う通り『空の門』は閉じる事にするわ」

 雫は頷いた。

「『神隠し』で出口の『空の門』に飛ばされた。これが今回の事の真相だと、思う。閉じておかねば、また、『神隠し』に有った人が飛ばされてくる可能性が高い。『空の門』が閉じていれば、せいぜい、同じ時代の別の場所に飛ばされるだけだろう」

 話す二人の後ろで、アリスのサーバント達が、手際よく「空の門」を維持する装置を解体していく。

 その様子を純は眺めている内に、純はうとうとし始めた。

「純、眠い所済まない。後一度だけ、『空の穴』で日本へ戻ろう。あまり長く離れると、霊脈が切れる」

 雫のその言葉に、純ははっと目を覚ました。

 寝てなんていられない。絶対、雫さんを日本に連れ帰らなくっちゃ。

 純は気合いを入れると、今日最後の「空の穴」を現すと、雫と共に日本の玄雨神社に戻った。


■宝物殿


「ありました! 雫さん!」

 宝物殿を探す純は、「ご神体」と書かれた木箱を見つけ、共に探す雫に声をかけたのだ。

「こっちも見つけたぞ。純。実験に使った、モルモットのケージだ」

 二人が日本に戻った後、純は疲れ切って、丸一日寝てしまった。

 雫は純が起きるのを待って、朔がご神体の銅鏡を仕舞ったという宝物殿を共に探したのだった。

 雫は、巫術書には興味があったが、宝物殿には、全く興味を示さなかったものだから、宝物殿の中は、おそらく数百年前と変わっていない。

 二人は防塵マスクにゴーグルを着け、使い捨ての繋ぎの服を着て、探し物をした。

 目的の品を見つけると、服を着替え、顔を洗ってさっぱりした後、やはり二人は舞い舞台に集った。

 アリスも純の「目合わせ」の術とリンクでこの集まりに参加している。

 純がケージをアリスに見せた。

「間違いないわね。ケージに刻印されているシリアル番号が、実験のものと一致したわ」

 つまり、米国側の「空の門」は、やはり過去に繋がっていたのだ。

 これで、朔が無事、過去に戻った事が証明された。

 おそらく、朔は過去に戻ると、見慣れぬ鉄の檻を見つけ、雫達が送り込んだものだろうと、あたりをつけ、人目に触れぬよう、ご神体と共に宝物殿にしまい込んだのだろう。

 雫は、「ご神体」と書かれた木箱を開けた。

 油紙に包まれた丸い形のものが入っていた。中を検めると、銅鏡、ご神体だった。

 雫が箱を見ると、丁度ご神体のあった下に、油紙に包まれたものが目に入ってきた。

 その油紙を広げると、中から、一枚の書きつけと一冊の書が出てきた。


■過去からの手紙


 娘たちへ。

 とその書きつけには書かれた文章は始まっていた。

 「朔お祖母様からの、文だ」

 雫は読み上げた。


 娘たちへ。

 宴の事、真に楽しかった。改めて礼を言う。

 無事、元の時に戻れた事を、伝えたく、この文を認め、ご神体と共に宝物殿に仕舞う。

 おそらく、私が空の門を抜けた後、雫はこれを見つけようとすると思った故。

 戻った折り、鼠の入った奇妙な檻を見つけた。

 これも、其方たちがこちらに送った物であろうと思い、鼠は逃がし、これも宝物殿に仕舞う事とする。

 先に書いた通り、無事、元の時に戻れた。

 心から礼を言う。

 それと、神隠しに遭った訳も知れた。

 ご神体には、数多の霊脈が封じられており、我の迂闊な払いで、それが溢れ、神隠しが起こったのじゃと。

 それ故、ご神体が割れたものと判った。

 ご神体に霊脈を封じた事を書いた書を、この文と共に入れる故、読まれるが良い。

 それと、ご坊の事。

 あれから、龍源ご坊を探したが、やはり見つからぬ。

 ただ、ご坊の事を知る方から、ご坊の出家前の家の名は分かった故、それを記す。

 東雲(しののめ)

 この文が娘たちに読まれる事を願う。

 朔


 雫は書き付けとともに油紙に仕舞われていた書の表題を見た。純も見る。

 そこには、「霊脈枯れたる地に赴く時の用意」、と書かれていた。

 ご神体は、携帯用霊脈運搬器具だったのだ。

『それ、すっごい技術だよ! その銅鏡のサイズで、ある意味、運命の分岐点を発生させるくらいの霊脈を詰め込んでいたんだから!』

 アリスの興奮したリンクの声が聞こえてきた。

 確かに凄い技に違いない。

 この巫術書は、後からゆっくりと読む事にしよう。

 雫はそう思うと、入っていたもの一式を元通り、「ご神体」と書かれた箱に仕舞った。

『どうしたの?雫ぅ』

 なんとなく、雫の様子が違うのに気がついたアリスが声をかけた。

 純も気がついた。

 雫は「ご神体」とかかれた箱を胸に抱えると、こう答えた。

「朔お祖母様が、無事帰れたと知って、嬉しいだけだ」

 それを聞くと、アリスが言った。

『あんなに自信まんまんだったのに、内心、ホントは不安だったのね、雫ぅ』

 うるさいぞ、アリス!という声が聞こえると、純は思った。

 が、雫はそうは言わなかった。

「ああ、心配だった。何しろ、調べる方法は無いし、事前に試す事もできない」

 アリスもあの時、そうだっただろう?

 と雫は言った。

『ちぇ、その通りよ。でも、こっちのは充分にチェックしたし、テストもしたけどね』

 それでも、一発勝負、本番は一度きり、というのは不安になる。

 何の話しだろう、と純は思った。

 何となく、自分に関係ある話しだと、感じた。

「それ、もしかして、ボクの『昇格の儀』の時の事ですか?」

 雫はにっと笑うと、そうだ、と答えた。

「あの時、泣きそうだったんだぞ、アリスのやつ。『純くん。絶対上手く行くからね』って言いながら、ガタガタ震えてた」

 少し怒ったアリスの声がリンク経由で聞こえてきた。

『雫〜!! わざわざ蒸し返し、というかバラさなくたって良いじゃない!」

 しかし雫は動じない。

「ふん。最近、アリスはセリス使って、随分いろいろ()ってくれたでは無いか。これは、そのお返しだ。リンク越しなら、セリスの破壊力も発揮出来まい!」

 リンク越しにアリスの余裕が伝わってきた。

『ふ〜ん、言ってくれるわね、雫ぅ。その読み、いかに甘いか、思い知らせてあげるから』

 そう言うと、セリスの声が聞こえてきた。

『雫師匠。ウチのママがご迷惑、おかけしてます。セリスが代わりに謝ります。ほら、ママもあんまり我が侭しないでね』

 純は、こらえ切れなくなって、プッと吹き出した。

 雫とアリスが肉声とリンクの声で同時に言った。

「何がおかしい!純」

「何がおかしいの! 純くん!」

 純はとうとう笑い出してしまって、笑って出た涙を拭いながら言った。

「だ、だって、それって、セリスちゃんが一番最強って、事じゃないですか〜」

 プッと、今度は雫が噴き出した。

「確かにそうだ。セリスが最強だ」

 そう言うと、雫は笑い出した。

 う〜、と唸って、我慢していたアリスもとうとう笑い出した。

 セリスの笑い声もリンクで届く。

 三柱、四人の笑い声が、リンクと玄雨神社、舞い舞台に響き渡った。


 純は、ボク女神になって良かった、と思った。

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