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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第一章 解き放たれたもの

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6話 遺跡の守護者との戦い

ちょびっとだけ今までより長め。中ボス戦です。


 重厚な扉を抜け、通路へと三人が足を踏み入れ全員が扉を通り過ぎたあと、突如として大きな音を立て扉が閉まる。


「おわっ!? いきなり閉まるなよ、びっくりするわ!」

「そんなんでビビるなよ、馬鹿ジュナス。このくらいは想定内だろ」

「二人とも、警戒しろ! 来るぞ!」


 灯りのない暗闇の通路の奥からカン、カンと金属音を響かせながら何かがやってくる足音が聞こえてくる。その足音の主はマルスの照らす灯りの届く範囲にはなく、その姿はまだ見えていない。

 三人はそれぞれに警戒態勢を取るが、せいぜい三人並べれば良い方な広さの通路では三人同時に戦うには狭いかもしれない。また、マルスは灯りの魔術を発動中であるため即座に他の魔術を使う事は出来ないでいる。ハルアードは腰から引き抜いた短剣を手に、方針を伝える。


「マルスさん、ジュナス、今回は俺が指示出すよ? いい?」

「どうせ俺には出来んし、いいぜ」

「私にもこの状況は不向きだな。任せるぞ」

「了解っと。とりあえず敵の様子を伺わないと対処方法が決まらないから、マルスさんはそのまま灯りの維持! ここの守護者はどんな種類だ?」


 そうやって指示を出していると、足音の主が姿を表した。その姿を見た三人は思わず顔を顰める。

 シルエットだけで見るならば、それは人型をしているが妙に手足が長い。そして、顔に相当する部分にも、腕も足も、全身の表面がツルツルと光沢を放つ金属に覆われていて、何処にも繋ぎ目らしきものも見当たらなかった。


「……なに、こいつ? 見たことも聞いたこともないタイプ?」

「殴るとちょっと痛そうだな、おい」

「……やはりここの守護者はこれなのか……だとすると……」

「マルスさん? あの妙な守護者の事っ」


 そう悠長に話をさせてはくれないのか、金属の守護者が一番前にいたハルアードに向けて殴りかかるが、右手に構えた短剣に左手を添えながらその攻撃を受け流す。ハルアードの心境としては受け止めて威力の確認をしたいところだが、小柄なハルアードにはそれをするのは向いていない事は自覚しているため、攻撃を逸らすことを重視する。


「何かっ、知ってっ、るの? っておい!」


 何度も繰り返される金属の守護者の攻撃をハルアードは全て短剣を使い受け流しながらマルスに問いかける。敵の攻撃に注意を割いていたため、突然背後から服を掴んできたジュナスの行動に対処が遅れた。


「ちょっと時間稼いでてやるから聞いてこい!」

「ちょ、投げんなよ!」


 情報を聞くのは大切で必要だろうが、攻撃を受けている最中に服を掴んで投げ飛ばす馬鹿が何処にいる。それはここにいた。そして金属の守護者と殴り合いを繰り広げ始めていた。

 防御という概念を持たないのか、急所に当たりそうな攻撃は軽々と避け、それ以外は全く避ける素振りを見せないジュナスだった。だが、ダメージを負った気配はまるでない。


 一方、マルスの手前に投げられたハルアードは相変わらずの馬鹿げたジュナスの戦いを横目に見つつ、再度マルスへと問いかける。


「あれのこと、何か知ってるの?」

「……あぁ、半端な攻撃は一切効かず、凶悪な威力の近接攻撃を繰り返すと聞いていたが……」


 決定的なダメージこそ与えられていないが、金属の守護者に時折バランスを崩させる一撃を入れ、自身はダメージを全然負っていないジュナスを見て、少し気が遠くなるマルスであった。


「……いつも思うけど、なんであいつあんなに頑丈なの?」

「……私にもわからん。いや、今はそれはいい。守護者の対処法だ」

「対処法があるの?」

「伝聞ではあるがな。守護者の表面はおそらく見たとおり金属だ。火の魔術で表面を熱したあとに水の魔術で冷ませば亀裂が入り脆くなるとのことだ。それでも相当な強度があり、核の魔石を壊すのは骨が折れるそうだがな」

「そんなの効くなんて意外だね」

「言うのは簡単だが、実際に行うとなると簡単ではないぞ? 高位の魔術師と魔石を破壊するだけのパワーが必要となる」


 思っていたより単純な手段に思わずハルアードの本音がこぼれ落ちるが、マルスの言う通り実際のところ簡単な話ではない。ある程度以上の規模の魔術を二連発出来る魔術師も多くはないし、多少脆くなって攻撃が通りやすくなるだけで即座に無力化出来る訳でもない。


「とりあえず分かったよ。あと一つだけ、魔石の位置はどこ?」

「人間で言うところの心臓の部分だ。……聞いていたものと全く同じ物であればな」


 最後の言葉が少し気になるが必要な情報を聞き終えたハルアードは頭の中で作戦を立てる。弱体化させるのはマルスに任せるので問題ないが、いかに早く魔石を破壊するか、そこが問題だった。

 大筋の作戦を思いついた後、指示を出し始める。実際通じるかはやってみなければ分からないが、やらなければ先には進まない。


「了解っと。それじゃ、合図したら俺たちを巻き込まない範囲で火と水の魔術をお願い。その後は俺たちの方でやるからさ」

「あぁ、分かった。だが、灯りはどうする? 暗闇如きで術式を書き間違える事はないが、発動した魔術に巻き込まない自信はないぞ?」

「俺が灯りを用意するから、魔紙一枚と筆借りるよ。すぐ用意するから少し待って」


 魔力が多い訳ではないどころか、むしろ少ない部類に入るハルアードであるが、決して魔術が使えない訳ではない。マルスの荷物から道具を借りると、マルスほど早くはないが手早く魔紙に火の魔石を埋め込まれた筆で術式を書く。詠唱術式は燃費が悪く、魔力の少ないハルアードには徹底的に不向きであるため、魔術を使う時は魔紙を使う。そもそも魔術を使う事そのものがあまり無いが。


「よし、発動するよ。『フレアライト』」


 その言葉と共に魔力を流し込まれた術式の魔術が発動する。マルスの同じ魔術と見比べると若干小振りで灯りの光量が弱いが、実用に支障はない範囲だった。

 新たな灯りが出現したのを確認したマルスは灯りの魔術の発動を止め、二枚の魔紙と二本の魔石筆を取り出し、すぐに術式の準備に入った。


「ジュナス! マルスさんの準備が出来次第、魔術二連発行くから巻き込まれるなよ! 合図したら即座に退避!」

「おうよ!」


「よし、準備出来たぞ」


 マルスの素早い準備の完了を聞き、作戦が決行される。ハルアードは短剣を正面に構えながら合図を出す。


「ジュナス、退避! マルスさん、一発目発動!」

「っ!」


「『プロミネンス』!」


 合図を聞き、ジュナスは即座に金属の守護者を蹴りで怯ませ後ろへ大きく退く。

 ジュナスの退避を確認したマルスは火の魔術を発動する。『プロミネンス』は対象の足元から上る巨大な火柱で金属の守護者を呑み込んでいく。それ程効果時間も長くなく、すぐに火柱は消えてしまう。

 だが、熱されたせいか多少の煙を上げつつも、魔術そのものは大して効いていないのか金属の守護者は健在であった。


「全然効いてねぇじゃねぇか!」

「二連発って言っただろ! その後もあるから力溜めて準備しとけよ!」

「あ、そういや言ってたな、悪ぃ。ってまだこっち来んじゃねぇよっと!」


「ふざけてないで二発目いくぞ! 『アクアスフィア』!」


 マルスの二発目を待たずに三人の元へ突っ込んでくる金属の守護者をジュナスが飛び蹴りで元の場所へと押し返す。

 ジュナスにはこういう所があるからレイアの指示等は大雑把になっているのである。指示自体は仲の悪いハルアードのものであっても聞いてはいるのだが、時々聞き逃していたり、忘れていたりと困ったものである。その反面、突発的な自体にも勘で対処してしまうので下手な指示はメリットが少なかったりする。


 二発目に発動した『アクアスフィア』は単純に言えば水が球状になっただけのもの。使い方次第ではあるが単体ではそれほど破壊力を持っていないが、今回の目的は破壊力ではなく冷やす事である。

 金属の守護者や『アクアスフィア』により水に覆われ、急速に温度が下げられていく。時間が経つに連れて光沢は失われていき、所々がひび割れる。『アクアスフィア』の効果が切れる頃には随分と古びたような金属の様相になっていた。

 だが、軋むような音をさせながらではあるが、動きそのものには大した弱体化の影響は見られない。


「思った以上に弱体化はしないんだね。さてと、これで駄目だときっついだろうなぁ……」


 そうボヤきながらハルアードは短剣を逆手に持ち替え、突撃体勢を整える。


「ジュナス、次の指示で力いっぱいぶん殴れ。場所はその時に!」

「そういう分かりやすい指示は好きだぜ、ハル坊!」

「だから、それ止めろって言ってんだよ! あぁ、もう!」


 魔術発動のために離していた距離を埋めるように襲い掛かってくる金属の守護者を向かい打つように、ハルアードは勢いよく走り出す。

 襲いかかる金属の守護者の腕を今回は短剣を使わずに全身で勢いを殺さない様にぎりぎりで躱し、カウンター気味にタックルをするような体勢で守護者の懐へと飛び込んでいく。ハルアードの攻撃は逆手に持った短剣で勢いと全体重を乗せた刺突。狙うは守護者の核である魔石のある心臓部。


 ガキィっと金属同士がぶつかり合う音が響き、ハルアードの短剣が僅かに金属の守護者の身に刺さっていた。だが、それまでだ。金属の守護者に心があるのならば、してやったりとほくそ笑むところかもしれない。


「やっぱり俺の力と体格じゃこんなとこが限界かな。まぁ、想定内だけどね」


 そう言いながら、懐に潜り込んだハルアードは少し距離をとる。その手にあるのは、短剣ではなく長倉。そして槍の穂先は金属の守護者に刺さっていた。

 その場所は先程、短剣を刺したところである。ハルアードは槍の角度を調整してから手放して、左側へと身を避け、そして仕留めるための最後の指示を出す。


「ジュナス、槍の石突をぶん殴れ!」

「おうよ!」


 背後で力を溜めていたジュナスが一足飛びにハルアードの槍の前まで移動し、全力の拳で槍を殴り飛ばした。

 槍の穂先の刺さっていた金属の守護者の身体はその衝撃に耐えきれず、槍は核の魔石へと到達し、そして魔石を砕ききったのであった。


 槍が突き刺さったまま倒れた金属の守護者が砂のように崩れていく。核である魔石を砕いた事で機能維持が不可能になったのであろう。


「あーあれで倒せて良かったー」

「槍を殴るの、地味に痛かったんだがよ」

「仕方ないだろ、長期戦が出来るなら他にも方法あったと思うけど、すぐに倒すなら最大火力で急所一点狙いが早いんだから……」


 ハルアードとジュナスがそうボヤきながらが、槍を回収する。ハルアードが槍を持つと、その姿が変わっていき短剣へと変わっていた。いや戻っていたと言うのが正しいか。

 ハルアードの持つ短剣型の遺物『千変の刃』の内包する魔法は単純なものであり、短剣の形状を他の武器へと変化させるというものである。時に、短剣であり、片手剣であり、槍であり、斧でありとその姿は千変万化であり、故に『千変の刃』と呼ばれる。


「さて、遺跡の守護者は倒したが、休憩は必要か?」

「これくらいなら大丈夫だね」

「俺も問題ねーよ」


 マルスが弱体化の手段を知っていたため、それほど体力も魔力も消耗することなく撃破出来た為、休憩は必要ないと申告する。情報がなければ大きく消耗を強いられる長期戦になっただろうが、結果としては比較的楽勝の部類であった。

 そして、一時の戦いの終わりを締めくくる様にハルアードの発動した灯りの魔術の効果が切れ、暗闇に包まれる。

 

「”火の導きにより我らの道を照らす道標となれ”、『フレアライト』」


 本日二度目のマルスの詠唱による灯りの魔術の発動によって再び暗い遺跡の内部が照らされる。


「それでは奥に進むぞ」


 前哨戦を終えて、三人は本格的な遺跡の探索を開始した。





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