5話 遺跡探索開始
少し場所を移動して、ようやく遺跡の前へとやってきた四人。捕縛した帝国兵は、目に付きにくい木陰に放置してきた。あれらの処置は後回しである。
森の木々に隠れて全貌が見えていなかった遺跡が、近くまで来てようやく見渡せるようになった。古びた石造りの平屋の建物で外壁は蔦に覆われている。パッと見ではただの廃墟のようにしか見えないが、発見者も初めは遺跡だとは気付かず、ただの廃墟として休憩に使えそうだと思い中に入ったとの情報だ。
遺跡だと気付いたのは、ただの偶然であったらしい。発見者の自宅が街中に遺る古代の遺跡の物件だという事が、主に気付けた理由だ。備え付けの設備が自宅にある古代の遺物のそれと同じであったのだ。
辺鄙な所にあるただの古代の一軒家か、はたまた何か特殊な用途の建物なのか、本格的に学者が調査に乗り出す必要があるものかどうかを調査するのが今回の依頼であった。
調査を始める為に、四人は遺跡の中へと入っていく。ざっと見て回るが特にこれと言って珍しい物でもない、街中にもある古代の遺跡の物件を整備もせずに放置したような感じであった。
「そんなに広くはないのね」
「下手したら、ただの一軒家なんでしょ?」
「俺の勘だと、ただの家じゃねぇよ、ここ」
「バカジュナスの勘は妙に当たるから、気に入らないなぁ……」
「うるせぇよ、ハル坊!」
「まぁそう言うな、ハルアード。実際にこういう民家風の遺跡に希少な遺物が隠されていたという場合も数件の報告はある。っと、やはり何かあるな」
建物内をあちらこちら見渡しながら、何かないかと探しているとマルスが何かを見つけたようだ。
元々は食事用と思われる朽ちて崩れたテーブルの残骸を覗き込みながら、床を念入りに調べていく。テーブルの残骸を退かしながら調べていくと、マルスの視線の先に割と丈夫そうな棚に行き着く。かなり古いだろうに、しっかりとした棚は朽ちずにその場に佇んでいた。
「ジュナス、そちらの棚を動かしてみてくれ」
「おうよ、任せとけ」
マルスに言われるがままにジュナスが棚を邪魔にならない位置へと移動させる。そして棚に隠されていた床の部分には取っ手があり、床が持ち上がるようになっていた。
「これは、地下室かしら?」
「まだ、ただの食料庫という可能性もあるがな。入り口を棚で塞ぐとは使い勝手は悪そうではあるが……」
「とりあえず開けるぜ?」
ジュナスが扉を開け、地下への階段が姿を表す。地下は暗闇に閉ざされていて内部の様子を窺い知ることが出来なかった。
「行くしかないな。何があるか分からんから、詠唱での術式でいくぞ」
魔術には術式が必要となるが、術式には二種類の方法が存在する。一つは魔紙や地面等に術式を書く方式、もう一つは詠唱による術式の構築である。それぞれに一長一短があり、術式を書く場合には術式を書く手間が必要になり、一度魔術を発動すれば効果時間は魔術毎に決まっている。一方、詠唱による術式構築は詠唱こそ必要になるが、魔石に魔力を流しつつければ魔力を止めるまで効果が持続し続ける。ただし、この詠唱による術式は魔力を使用し続ける為、魔力量の少ない人間には絶望的に向いていない。
効果時間がどれだけ必要になるかわからない今回においては大量の魔力量の持つマルスには、詠唱の方が用途に適していた。
マルスは左手に杖を持ち、右手で杖に埋め込まれた赤い火の魔石に触れ、詠唱を唱える。
「”火の導きにより我らの道を照らす道標となれ”、『フレアライト』」
詠唱を終えたと同時にマルスの前方に明るい光を放つ火の玉が出現した。これでマルスが魔石に魔力を流すのを止めるまでは灯りを確保する事が出来る。灯りに照らされ、ようやく見えるようになった地下への階段は道幅は狭く、一人ずつ通るのがぎりぎりであろう。
「んじゃ、俺が先頭に行くよ。俺、レイアさん、マルスさん、ジュナスの順番でいい?」
「しゃーねぇな、今回は従ってやるよ」
「確かに対応力のあるハルアードが適任ね。でも、気を付けてよ?」
「分かってるって。マルスさん、もうちょい前の方に灯り移動してもらっていい?」
「このくらいか?」
「うん、そんなとこだね。じゃ、行くよ」
「あぁ」「おう」「えぇ」
ハルアードの号令に従って、地下への階段を降り始める一同。
彼らの中では、活動する場所によって役割分担が決められている。対外的なリーダーは最年長で知名度の高いマルスとなっているが、実情は異なっている。
屋外での行動は視野が広く目の良い弓術士のレイアの担当。屋内で何らかの危険性がある場合は臨機応変に動け、索敵能力も高いハルアードの担当。戦闘行為の可能性が非常に低い場合の探索行為の際には知識に長けるマルスが先導することになっている。
各々が最も効率よく動けるように司令役は状況により変動させることによって得意分野を生かしている。ただし、勘で動き、指示することも苦手なジュナスは除外されている。一度任せた時には酷いことになったので、二度と任せないと暗黙の了解となっていた。
階段はそこそこ長く、かなりの深く降りた頃にようやく階段の終点へと辿り着く。
「かなり深いわね。これはひょっとすると……」
「ひょっとも何も、これは当たりだな」
階段を降りきった場所は小さな部屋であり、朽ちた木材製の棚らしき物がいくつか見受けられ軽く見た程度では物置部屋のようにも見える。その奥に見える、明らかに不釣り合いな金属製だと思われる重厚な扉を除いてではあるが。
「……開けてみるよ?」
扉の前に四人が集まり、ハルアードは他の三人が頷くのを確認してから扉を押し開ける。鍵はかかっていなかったのかなんの抵抗もなく、スムーズに開いた。罠の類も無いようで、少し気が抜けた。
開かれた扉の先には何の素材で出来ているのかよく分からないが飾り気のない白い色を基調とした通路が奥へと続いていた。その様子を見たマルスが息を呑み、少し考え込む。
「なにか妙な感じの通路ね? これ、材質は何かしら?」
「……レイア。済まないが、上に戻って見張りを頼めないか?」
「それは良いけど、いきなりどうしたのよ?」
「この遺跡、普通の物とは何かが違う。帝国の情報源と本隊の動向が気になってな」
「ギルドの依頼が情報源じゃないの? ここの依頼票って大雑把な地域と遺跡調査についてって記載されてたし、あの情報って全ギルドでの公開情報だよね?」
マルスのそんな言葉を聞き、ハルアードが疑問を抱く。先遣隊と思われる帝国兵の弱さからしてもそこまで重大な事だとは思えずにいた。
「私もそう思っていたんだがな。この内部を見て少し疑念が出てきた」
「でも、守護者はどうするの? 未調査の古代の遺跡なら確実にいるでしょう?」
「だからこそだ。万が一にも、守護者と帝国兵との挟撃なんて事態は避けたいからな」
「……確かにそうね、私は上に戻って見張りをしてるわ。帝国の本隊が見えたら呼びに来るから、すぐにでも引き上げれるように気にしながら調査をお願いね」
「あぁ、任せたぞ」
「探索に必要な物はここに置いていくわ。それは、後はよろしく!」
マルスの疑念を受け止め、レイアが見張りの為に戻る事が決まる。鞄から発掘用道具と松明を取り出し火を付ける。そして探索用道具を置いて、来た道を引き返して上へと戻っていった。




