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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第一章 解き放たれたもの

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4話 雑魚兵の撃破


 誰も意識していない間に準備を終わらせたマルスは、二枚の魔紙を手に疑問を発する。 


「しかし、レイア。警笛の阻害は必要性は分かるが、こっちは必要か?」

「念の為よ、念の為。逃げられて本隊に増援呼ばれたらたまらないからね」


 ジュナスとハルアードが喧嘩をしている間にマルスが二枚の魔紙に書いた術式は二種類。一つは風で幕を作り、遮音性を高める結界魔術。もう一つは効果は単純に、土の壁を生成するというだけの魔術。


 マルスは土壁の必要性を問い、レイアは気を取り直して、自身の持つ鞄の中から大きめな弓を取り出しながら答える。明らかに鞄より大きなサイズの物だが、誰も当たり前の事のように気にも止めない。



 魔術とは、魔石と呼ばれる自然界の魔力の結晶体を媒介として魔術の設計図となる術式を作り、自身の持つ魔力にそれに流し込む事で発動する現象の事を示す。

 魔力には大別して基本的に四つの属性があり、火、水、風、土が存在し、それぞれに対応する魔石が存在する。火の魔術を使いたければ、火の魔石を用いて術式を書き、そこに術者の持つ魔力を流し込む事で魔術が完成する。

 即座に使用するのであれば術式を書くのは何処でも問題はないが、事前に用意するのであれば魔紙と呼ばれる専用の紙を使用する。ただし魔術を発動するまでの術式保持時間は長くはなく一時間も経てば、書かれた術式は霧散して消えてしまう。


 そしてそれは現代の魔術での話。


 今は滅んだ名も残っていない古代の文明、その残滓である遺跡とそこに残された『古代の遺物』。それらは失伝したかつての技術、『魔法』を現代に遺す物。

 現代では不可能とされる魔術の術式の保存と何度にも渡る再利用を可能とするオーバーテクノロジーの塊。分かっている事は魔術に似通ってはいるが何か違う原理で動いている事、魔術よりも強力な事、魔力さえあれば現代人でも使えると言う事くらいである。


 古代の遺物は個人で所持し、使用する事そのものは禁止はされていない。だがギルドに対して、所有者登録は義務付けられていた。また国家に対しても、保持する古代の遺物の情報公開が慣例化されており、秘匿する事は許されていない。

 所持の禁止がされていないのは、単純に数が多すぎて回収が不可能であり、また生活に根差してもいるからである。

 現代では原理も分からず製作する事も出来ないが、数多くの遺物が発見されており現代でも使用できる物が多い。人里離れた遺跡も数多くあるが、遺跡自体は街の中でも当たり前のように存在で居住地として購入する事も可能となっている。むしろ建物自体は古いが、備え付けられた古代の『魔法』を内包する遺物は利便性が高く、人気物件として高騰していたりする。


 そこまで一般的に魔法が普及していたと思われる古代の文明が、多くの痕跡を遺しながらも名が遺らず滅んだ理由は最大の謎と言われている。




 レイアの念の為という説明に納得がいったのか、マルスが何時でもすぐに取り出せる位置に土壁の術式を書いた魔紙を仕舞う。


「それもそうか。それでは、奴らが本隊を呼ぶ前に手早く事を済ませるとしよう」

「そうね。マルスの魔術の展開が終わり次第、速攻仕掛けるわよ。いつまでも睨み合ってないでさっさと準備しなさい!」

「わかったよ」「了解、姐さん!」


 レイアの号令を受け、睨み合いを続けていたジュナスとハルアードが意識を切り替える。無駄に緊迫感だけは磨いていたので、警戒対象を切り替えるだけだったが……。

 ハルアードは腰に差していた短剣を抜き放ち、ジュナスは素手で適当にそれっぽい構えをとる。レイアもその手に弓を持つが最低限必要な矢どころか、弓の弦もない。

 レイアの持つ遺物『併せの魔弓』は普通の矢を必要とせず、代わりに弓に埋め込められた四つの基本属性の魔石を消費して魔法の矢を生み出すものである。その矢の効果は、使う魔石によって異なってくる。そしてまた弦も同様である。


「さて、行くぞ! 『サイレント・エア』」


 マルスが地面に置いた、先ほど作った術式の書かれた魔紙に手を当て、魔力を流し込む。魔術の発動に伴い、術式は形を失い大気へと還っていくと共に、明らかに自然の物とは違う不自然な風の流れが遺跡の周辺に向かって発生する。

 発動した魔術は風を操り、空気の層を作ることで、音の響きを阻害するもの。元々は以前うるさかった近所の騒音に堪りかねて作ったただの騒音対策魔術。何が役に立つかは、その時が来ないとわからない。


「次は私ね、よっと!」


 レイアがそう言いながら弓を構え魔力を流す。先ずは弦の用意、火の魔石を使い赤く光る弦を生成。次に水の魔石を使い青く光る矢が出現。弓に必要な物は全て揃い、引き絞り、矢を放つ。青い矢が赤き光を纏いながら飛び出していく。

 二つの魔石を併せて使う事から『併せの魔弓』。効果は組み合わせによって大きく異なり、今回の効果はもうすぐ目の前に現れる。

 狙いはこの丘から見える帝国兵三人のど真ん中の地面。地面に矢が突き刺さった瞬間、矢を中心に一気に霧が広がった。


 突然の光る矢の襲来と、濃い霧の発生に帝国兵達は狼狽した様子である。そのような姿も一気に広がる霧によって見えなくなる。


「いくぞ、ハル坊!」

「だから、それやめろって言ってんだ!」


 霧が広がり始めるのを確認した後、言い争いをしながらジュナスとハルアードが丘から駆け下りていく。二人はあっという間に危なげなく駆けていき、霧の中へと突入する。


「敵襲! 敵襲だ! 警笛を鳴ら」


「もう遅いよ」


 部隊長が突然の霧と駆けてくる足音に気付き部下に指示を出そうとするが、その判断はすでに遅かった。ハルアードに即座に意識を刈り取られ、部隊長は意識を失った。その間にも何らかの打撃音や、悲鳴が数人分が響きわたるが、遮音の魔術の効果で森中に響き渡ることはなかった。


 特にこれといった苦戦はなくハルアードの短剣の能力も、ジュナスの馬鹿力も本領を見せることもなく、あっという間に帝国兵の無力化が終了してしまった。

 レイアの放った魔法矢の効果が切れて霧が薄れるのを待つほうが長かったくらいだ。



「二人とも、お疲れ様。これ使って捕縛しといてちょうだい!」

「はいよ、姐さん! それにしてもこいつら弱すぎ」

「一般兵はこんなもんだって。遺物持ちがいなくてよかったよ」


 戦闘が終わったのを確認してから丘の上からレイアとマルスが降りてくる。

 その間にジュナスとハルアードはレイアが投げ渡してきた縄で帝国兵を縛り上げながら装備を確認して剥ぎ取っていく。その場にいた帝国兵は部隊長と一般兵の四人。予測通りの人数であった。


「いつも思うが、お前たちどうやってあの霧の中で敵を的確に見抜いている?」

「そりゃ索敵も鍛えられてたし……」

「え? 勘でわからねぇか?」


「……やはり私には真似は出来んな」


 ハルアードはあくまでも技術、かつて死に物狂いで身に着けた技である。それと違い、ジュナスは単なる本能的な勘によるものであった。どちらも一朝一夕で身に着けられるものではない。可能性はあるのはハルアードの技であろうが、マルスは自身には不向きと判断している。マルスの場合は、自作の索敵用魔術を作ったほうが早そうではあるが、近接戦闘は苦手であるため一切参考にならなかった。



 とりあえず捕縛の完了した帝国兵の見下ろしながら、少し悩ましげにレイアが告げる。


「一応捕縛にはしたけれど、今の帝国って捕虜協定はどうなってるのかしら?」

「ギルドを介したあれか。帝国自体には相手にされない可能性はあるだろうが、ミーグレイス連邦にとっては領土侵犯だ。ギルドに引き渡せば多少の報奨金も出るだろう。後の事はギルドに任せれば良い。あそこはそういう組織でもある」

「要するに丸投げっと。でもレイアさん、この人数連れ帰るのしんどくない?」

「正直な所、面倒なのよね……あぁ、でも臨時収入は惜しい!」

「姐さん、俺は連れて行くのは反対っすよ。確か、こういう時って殺しても罰則もなかったっすよね?」

「……それはそうだけど、あーもう、とりあえず後回しよ! 時間はそんなにないんだった!」



 僅かに殺気を出し始めたジュナスを見てこれ以上の話し合いは泥沼化して、物騒な内容になりそうだと判断したレイアは話を打ち切る。実際の所、本隊がここに来るまでがタイムリミットである為、時間の余裕がないのは間違いない。


 そして本来の目的はここからであり、気を引き締めて行く必要がある。目的地はまだ発見されたばかりの未調査の遺跡。本番はここからである。





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