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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第二章 ギルドという組織

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20話 レイアとマルスの帝国との因縁


「さて、事件その二と行きますか。次はレイアも出てくるぞ」


 いざ後半の話が始まるかと思えば、そこでまた少し違う話になるが今回は先程の脱線とは違い明確に必要な話である為、グランは真剣な表情で問いかける。


「その前に、こっちも前提となる知識がいる。特級遺物を見つけた後の処理はどうしていると思う?」

「破壊してんじゃねぇの?」

「それが出来りゃ苦労はしねぇ。ってそういやジュナス、お前壊したとか言ってたな!? どうやりやがった!?」

「知るかよ!? 気付いたら砕けてただけだっての!」

「あーこいつが理屈なんか知る訳ねぇか……」


 グランは真面目に話そうとしていたら、ジュナスのやらかした事を思い出しつい糾弾してしまっていた。後でじっくり聞くつもりでいたが、予定が狂い乱暴に頭を掻いている。そしてある意味予想通りで予定通りの答えにそれ以上聞くことを諦めた。

 ため息をつき、気を取り直しながら話を再開する。


「とにかくだ、壊せない上に下手に使わせる訳にもいかないからな。特級遺物は一つ毎にギルドに一つとランダムに選んだ加盟国の中の要人から三人の代表者を選定しそれぞれに一つずつ、合計四つの鍵を使い封じてある。あ、場所はもちろん誰が鍵を持ってるかも機密事項な。てか、俺も全部は知らねぇし……」


 本部の上層部ならまだしも、あくまで支部の長でしかないグランには全てを教えられているという訳ではないらしい。全ての鍵の一つはギルドが所有する事になっているのがギルドの組織としての重要さと強大さを示している点だろう。

 そしてようやく二つ目の本題へと進んでいく。


「で、起きたのが二つ目の事件だ。何処から漏れたのか未だに分かっていないんだが、五年前に鍵の一つの強奪未遂が起きた。犯人の目星自体はついているんだが、証拠が無い上に自国内での内政問題だとしてギルドは手が出せないでいる」

「……それってもしかして」

「ハルアードの予想通りだと思うぜ。その相手はカームルド帝国だ」


 内政問題でギルドの介入を拒む国など、今の時代にはカームルド帝国しか存在しない。五年前の政変により何もかもがおかしくなったあの国以外には……。

 各国の上層部にはかなり限定はされているが、情報開示がされている。皇帝が強権を振るえば、自国内に存在している鍵の所有者を炙り出す事自体は可能だろう。ギルドと他の国の目を一切気にしないのであればだが。

 多国間に跨り強大な権力を有するギルドには政治不介入という原則が定められている。その為、確たる証拠もなく内政問題だと言い張られればギルドに手を出す術はない。たとえどれだけ怪しいと分かっていても。


「そして鍵を持っていたのはアルバート・アルステイン。元帝国騎士団の団長様で、レイアの父親で、マルスの親友だった男だ。アルバートは皇帝の命令に背いて鍵を守ろうとした為に、皇帝への反逆という名目で殺されたんだよ。一家丸ごと全員な」

「……そういう事かよ」

「クソったれが! あいつら、姐さんの家族まで……」


 告げられたその名を聞き、事情を理解したハルアードとジュナスは憤っていた。ジュナスは表情は伺えないが、ハルアードは怖い表情で暗い影を落としている。

 レイアが関係している話とは聞いていてある程度は覚悟していたが、レイアの父親が特級遺物を奪う為だけに粛清として殺された等とは思いもよらなかった。そして他の家族すら皆殺しにされていたとは気分の悪い話であった。

 そしてギルドが手を出せない理由もよく分かった。帝国制の国では皇帝が絶対的な権力を持つ。理由が何であれ、反逆として処分したと言い張られれ内政干渉を禁止としているギルドには何も出来はしない。


「アルバートは自身の身の危険を察知して、レイアを同年代のメイド見習いと共に鍵を託して、逃がす事にしたらしい。お前たちも知っている人物を経由してマルスに娘とそのお付の保護を依頼していたらしくてな。皮肉なもんだが、あの時に関しちゃギルドは頼りに出来ないと思われたんだろうな」

「知ってる人って誰?」

「……おい、ハル坊。ちょっと殺気抑えろや。ここには敵はいねぇぞ」

「……今のは俺が悪かったよ。だけど、ハル坊は止めろ」


 苛立ちが混ざっているのだろうか、些かキツめの声でハルアードが問い詰めるような口調になっていた。そして非常に珍しくジュナスがハルアードを宥め、ハルアードは一気に膨れ上がった苛立ちを抑えていく。

 そのハルアードの様子にグランは気を害した様子もなく、落ち着くのを待ってから答えを返す。


「お前らの拠点になってる孤児院の院長のカールだよ。あいつ今じゃすっかり愛妻家だが、元は変貌する前の帝国の斥候部隊にいて、怪我で引退した後は凄腕の情報屋になってたんだぜ?」

「あのおっさん、そんな素性だったのかよ!」

「道理で、俺の稽古をしっかり見てもらえる筈だよ……」

「ついでに言えば、今はギルドお抱えの情報官だ。他言はすんなよ?」


 ミーグレイス連邦は冒険者を生業としている者が多いため、悲しい話ではあるが両親が冒険者で依頼中に命を落とし孤児になる者も決して少なくはない。その為、国とギルドの共同出資により他の国よりも多く孤児院が設立されている。

 孤児院出身の者が冒険者になる事も多い為、一定以上のランクの冒険者に拠点として施設の一部を貸し与える代わりに子供達に生きていく術や冒険者としての厳しさを教えるという契約を行っている孤児院も数多くある。孤児院によっては冒険者だけでなく駆け出しの職人やらまだ自分の店を持てない商人等と契約する場合もあり、多種多様となっている。


 そしてハルアード達四人はギルバート孤児院と言う名の孤児院にお世話になっている。その院長がカール・ギルバートであり、マルスと旧知の仲だ。

 元冒険者で引退したのだろうと思っていたハルアードとジュナスはカールのまさかの経歴に驚いていた。しかもまだ現役でギルドの情報官をしていたと言うのだからさらに驚きの内容である。


 グランはハルアード達の驚く様子を見つつも、話を続けていく。


「それでまぁ親友の窮地を聞いたマルスはグレヴィティア共和国のお偉いさんたちの制止を無視して、カールと共に帝国へと乗り込んで、二人の少女を助けた訳だ。だが、それが問題にならない訳がないのが当然で、マルスはカームルド帝国と事を構えるのを渋ったグレヴィティア共和国はマルスを国家反逆で指名手配。マルスは居場所を失って、暫くは逃亡生活してたってことだ」

「……随分とざっくりと要点だけを纏めるのだな?」

「ん? じっくり細かく知ってる事を大袈裟に脚色しながら話した方がいいか? 例えばーー」

「いや、構わん! 要点が伝わればそれで良い!」

「「……」」


 あまりにも大雑把な纏め方に不満はあったものの、細かく語られるのも嫌なようでマルスは慌てて自分の発言を取り消していた。細かく聞いてみたい気もしていたハルアードとジュナスだが、何か必死なマルスの声に自重しておく事に決めた。なんとなく後が怖い気がしたからではない。


「とにかく、マルスとカールが満身創痍で女の子二人を抱えて、転移のペンダントでここに飛び込んできた時は焦ったもんだぜ。マルスにもカールにもあの時は転移のペンダントは渡してねぇってのにな」

「え? それじゃ誰のを?」

「アルバートさんが持ってたやつだよ」


 ハルアードの質問にエレインが答える。まるで見ていたかのように断言するその言葉に違和感を覚える。ハルアードはレイアとエレインは幼馴染と聞いていた。そこが何か引っかかる。

 そんな悩むハルアードの反応はお構いなしに、マルスが悔しそうな声で当時の状況を伝えていく。


「……アルバートの死に際にな、帝国を出ろという伝言を託されてな。『これを私が死んでから持っていけ』と、奴は自ら……」

「……マルス、お前の責任じゃねぇ。あんまり気に病むな」

「だが!」

「転移のペンダントの性質を考えたらそれが最善手だったんだ。アルバートが国境まで行けていれば一番良かったが、既に致命傷だったらしいじゃねぇか」


「……ごめん、こんなこと聞ける空気じゃないのは分かってるんだけど、話が見えない」

「……いや、気にするな。取り乱した私の方が悪かった」


 いまいち意味の掴めないハルアードが問いかける。転移のペンダントがどのような物かよく分かっていない為、理解が追いつかないでいた。


「あーまず、転移のペンダントの説明がいるか。転移のペンダントの本来の名前は『監視者の瞳』っていう遺物でな、こっちの像が本体なんだよ」

「それってどういう事?」


 グランは椅子から立ち上がり、部屋の隅にある女性の像に手を置きながらそう告げた。


「要するに、これは転移が主目的の遺物じゃない。逃亡者捕縛用の遺物なんだよ。だから、追跡登録をされた転移のペンダントを身から外せば、拘束して魔力を根こそぎ奪い取り、像のある場所へと強制的に転移させる。そういう性質だから登録済みの転移のペンダントを他者に渡す為には元の登録者が死ぬか、本体の方で解除するしかないんだよ」

「……そっか、だからアルバートって人は自分で自分を……。でも、国境ってのは?」

「国境で何処の支部にある像に飛ばされるかが決まってるんだよ。帝国内で使えば、帝国内の一番近いギルドの支部に飛ばされる。反逆者を引き渡せと言われちゃ大使館じゃないギルドじゃ庇えないんだよ、同じ国内だとな」


 そう言うグランの顔にも悔しさが滲み出ていた。強大な権力を持つギルドではあるが、何でも自由に出来る訳ではなく制約は存在する。そしてその制約のせいで助けられない事態がある事が悔しいのだろう。


「だがな、アルバートのおっさんには俺も恩義があってな。最善手を取った上に、マルスとカールが二人の少女を連れてきた事で打つ手が出来た。他国の内政には干渉出来ないが、ギルドの加盟者なら話は別なんだよ。かなーりバレるとヤバい手を使ったがな」

「……グランさんも無茶するよね」

「帝国のクソったれなやり方に俺も腹が立ったんだよ! ともかく、俺はカールの手も借りて、助けてきた少女二人分の孤児院登録を時期を誤魔化してでっち上げて、その上でギルドの冒険者登録をしてウチの身内に仕立て上げて、知らぬ存ぜぬで通したからな」

「それって偽造なんじゃ……」

「だからバレるとヤバいって言ってんだろ。絶対に黙ってろよ? 一応な、特例処理としてこういう処理自体は状況次第で許可は下りるんだが、隠す相手が帝国だからそういう意味でヤバいんだ。まぁ隠してるものは違ってもやってる事は連中と同じなのが気に入らないがな」


 なるほど、とりあえず納得するハルアード。カールとの関係性も思った以上に深いものである事も理解出来た。

 内政問題で遺物絡みではないと主張するカームルド帝国と、ギルドの保護する孤児で反逆者なぞ知らないと主張するギルド。確かにやっている事は似ているのであろう。

 ただし、先程からジュナスは静かではあるが、話についてこれているかが若干怪しい。


「ただなぁ、ほんとなら二人とも全く別の偽名にしときたかったんだが……」

「そこは納得させたでしょう? 名前を捨てる気は無いって」

「そうそう、私もレイちゃんも名前を捨てる気はないんですよ」

「わーってるよ、お前らの望み通りにしたじゃねぇか」


 レイアとエレインの二人の苦情の目に晒され、思わず慌てるグラン。その様子を不思議そうに眺めるハルアードに言い忘れていた事を追加する。


「あ、ちなみにレイアと一緒に助けられた少女って、そこのエレインな。ちなみに元メイド」

「はーい、元メイドでーす!」

「あ、なるほど、そういう事か」


 先程から微妙に引っかかっていたレイアとエレインの関係があっさりと打ち明けられた。元お嬢様と元メイドは今は幼馴染の親友という訳であった。


「ちなみにマルスについてはカームルド帝国には顔は割れてない。苦労したのはグレヴィティア共和国との調整の方だったな。指名手配を撤回させるのは骨が折れたっての。連中が研究馬鹿で助かったけどな」

「え? 研究馬鹿で助かったってどういう事?」

「あぁ、マルスが指名手配された理由な、帝国に勝手に乗り込んだからじゃねぇんだよ。助けに行くために勝手に貴重な素材を持ち出した事で指名手配してたんだよ」

「……え?」

「……あそこはそういう国なんだよ。だからギルドの方で損害を保証するって条件で指名手配は撤回させた。流石に国外追放までは無理だったがな」


 まだマルス以外は行ったことのないグレヴィティア共和国の妙な話になんとも言えない微妙な気分になるのであった。


 そしてグランが話が過去話が終わった事を宣言する。


「とりあえず、ざっとこんなもんだ」

「それでレイアさんの託された鍵って、レイアさんが今も持ってるの?」

「ごめん、ハルアード。それは内緒にさせて頂戴。誰に対しても他言無用っていうのが託された時の約束なのよ」

「そっか、わかったよ」


 追求されたくないと素直に答えるレイアに対してハルアードは大人しく引き下がった。誰しも人に言えない事、言いたくない事はあるものだ。


「あー話し終わったか?」

「……ジュナス、途中から黙ったままだったけど、ちゃんと理解出来たのか?」

「微妙だなー。でもこれだけは分かったぞ、帝国の連中は今も昔もクズだらけって事だろ」

「……まぁそれだけでも分かってれば良いのかな」

「あと、カールのおっさんがすげぇって事は分かった」


 正しくは昔というよりが五年前からではあるが、かなり雑だがあまり間違っていないジュナスの認識に少し呆れながら訂正するのも諦めた。どうせ言うだけ無駄だろうからだ。



「それでだ、ハルアード」

「なに? って、おっとっと」


 グランに呼ばれてそちらを向くと、何かを投げるつけられる。慌てて受け止め、渡された物を見ると転移のペンダントであった。


「お前の分だ、肌身離さず装備しとけ。使用制限は普段は決して外さない事。無条件で許される例外は今回みたいな身に危険が及び、それが情報流出に繋がる可能性がある場合のみだ。それ以外での緊急転移は本部で審議にかけられることになっている」

「俺も着けるんですか?」

「当たり前だ! 機密処理を受けた者には全員持たせることになってんだよ。安全保障の面からも情報漏洩防止の面からもな」


 色々と本来は知ることのない機密事項を教えられたため、グランに有無を言わさずに強引に装備させられる。ただし、身の安全を守る為でもあり万が一の逃走手段としても使える為、ハルアードは拒む理由もなく受け入れる。そもそもこれがあったからこそ、生き残れたのである、文句を言う方が駄目だろう。


「使い方は多分分かってるだろうが、念の為言っておくぞ。転移のペンダントを身から離せばいい。そうすれば今いる国の最寄りのギルド支部の支部長室に飛ばされる。誰かに触れていたら巻き込むから注意しろよ。っていうか、そうだ、何でハルアードお前ピンピンしてるんだよ? これ、本来は逃走防止の捕縛用だから無力化の為に転移させた全員から根こそぎ魔力奪うんだぞ?」


 そこで気になっていた事を思う出したのかグランが乗り出して聞いてくる。だが、答えを知っている者はそこには居なかった。


「あーこの馬鹿の身体の魔力、異常に多すぎるのが原因かな? 未だに自己強化魔術掛かりっぱなしだしさ。マルスさん、自己強化魔術の解き方知らない?」

「おい、ちょっと待て、どんな魔力してんだよ!?」

「……普通は魔力が先に尽きて勝手に効力が切れるんだがな。すまんが私も知らないな」


 しれっととんでもない事を口走るハルアード。自爆特攻や、窮地を打開する為の短期決戦でしか使わない自己強化魔術の常用などする事はなく、どれだけ魔力が多くてもすぐに食い潰してしまう為に解除手段というものは基本的に必要となる事はない。

 それ故に誰も解除方法を知らず、そのままにせざるを得なかった。

 




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