21話 遺物登録と特別昇格試験
ジュナスの肉体の異常な馬鹿容量の魔力に呆れ果て、とりあえず自己強化魔術の解除は諦めた一行は次の話へと移る。具体的には今後、ハルアード達がどういう風に動けばいいかという話である。
「あとはマルスとジュナスの対応だが、マルスとハルアード二人は人の姿が無いから失踪扱いにするぞ」
「……なんか釈然としない」
「仕方ないだろう。素直に身体が入れ替わりましただの、武器や防具に変わってましただのと言える筈もない」
どこか納得のいかない様子のハルアードと、仕方ないではっきりと割り切っているマルスであった。
「一応、名義自体はジュナスにしとくが、中身がハルアードってのが厄介だな……」
「厄介とか言われてるぜ、ハル坊!」
「……ハル坊は止めろと何度言えば分かるんだろうね、この馬鹿は!」
何を理由に厄介だと言われているのかを全く考えずにハルアードのせいにするジュナス。グランを始めとして、レイアやエレインからも呆れたような眼差しを向けられるが、本人はまるで気付かない。
「……馬鹿の中身が馬鹿でなくなったから厄介だと言っているんだがな?」
「へ? どゆこと?」
「中身が別者だって丸わかりって言われてんだよ!」
「んなもん、ハル坊が俺の真似でもすりゃいいだろ。あーでも真似られるのもなんか嫌だよな」
簡単そうに好き勝手な事を言うジュナスを見て、ハルアードの苛立ちが露骨に顔に現れてくる。今にも籠手に向かって破壊行動に移りそうな雰囲気である。
「……ねぇ、グランさん、マルスさん、『意思ある武具』に有効な拷問方法とかって知らない?」
「あ、それは私も知りたいわね」
「おい、ハルアード、レイア、流石にそれはーー」
「よし、それは俺の方で情報を当たってみよう。必要なのはジュナスに対してのみだけじゃねぇんだろ?」
「……まぁ、そうね。誰かさんは研究にのめり込むと話も聞こえてなかったりするから……」
ハルアードの怒りに端を発した物騒な話はレイアが話に乗ったことにより、マルスを巻き込む形で形を成す事が約束される。暴走しがちな仲間を抑える手段はレイアにとっては必須である為、仕方の無いことだろう。自業自得とも言う。
「あーともかくだ、ハルアードにジュナスの真似をさせるのは酷だろうから、ジュナスが普通の人間なら死ぬような衝撃を頭に受けて記憶喪失、そして性格まで変わって馬鹿じゃなくなったって事にするぞ」
「ちょっと無理がない? 馬鹿は死んでも治らないって言うよ?」
「無茶なのは承知の上だが、特級遺物の効果で入れ替わってますって言うよりはマシだ。それに記憶喪失と性格豹変に関しては一級遺物での事故で前例がない訳でもない」
「そんな前例あるのね。精神干渉系の遺物かしら?」
「まぁ、そんなとこだ。機密事項って訳でもないが、個人情報ではあるからこれ以上は勘弁な」
一級遺物は有用ではあるが、その分取り扱いを間違えると取り返しがつかなくなる事もある。ただし、これは一級遺物に限った話ではなく、遺物でなくても魔術でも普通の武器でも取り扱いを間違えると危ないのは変わりない。
ランクによる遺物の所有制限と登録は、ギルドが現存する遺物の管理の側面ももちろんあるが、所有者の適正利用が可能かどうかの免許のような役割を果たしている。
「んで大剣マルスと籠手ジュナスは『意思ある武具』として遺物登録な。エレイン、登録用紙をくれ」
「はーい、準備してますよー」
「やっぱり道具扱いか、しゃーないか」
「こちらの処置も仕方のないものだろう」
「名前になんか希望あるか? 無いなら勝手に付けるが」
エレインに手渡された遺物の所持登録申請の用紙を手に、あっさりと状況を受け入れたジュナスとマルスへ希望を尋ねる。そして、少し考えた後にジュナスが声を上げる。
「なら、俺はグレートスーパースペシャ」
「ジュナスはそうだな、『警告の声手』ってとこにしとくか」
「ってあれ!? 無視!?」
ジュナスの馬鹿げた案は最後まで聞かれる事はなく、グランに問答無用で速攻却下された。そして即興で決めた名前を申請用紙に記入していく。
遺物の命名権は基本的に発見者に委ねられているが、あまりに不適切だと判断されればこういう事もある。ジュナスのように馬鹿げた名前を出す人間もそうは居ないが。
グランとしては今回は人が武具に変わるという特殊な事例ではあるが、表に出せない情報である以上は既存の枠に当て嵌められる所は既存のルールを適応させる腹積もりでいた。
「マルスはどうだ?」
「ふむ、そうだな。『万化の魔刃』とでもしてもらおうか」
「お、『千変の刃』がパワーアップしたような感じだな」
マルスはジュナスと違いまともな名前を付けていた。マルスに統合された『千変の刃』の名を継承しつつ、まだどれだけ扱えるものか検証が全く足りていないが魔法の発動も可能となったマルスには似合う名前かもしれない。
グランはマルスの要望どおりの名を申請用紙に記入していく。他の必要事項はこれまでの会話の合間にエレインが記入してくれていた為、これで書類は完成した。本来ならば、形式上は持ち主として登録するハルアードが全て記入すべきではあるが、色々と特殊事情なためその辺りは厳密に守る気も無いようだ。
極端な話、偽造と言われても仕方のない出鱈目な情報が多分に含まれているのでその程度は気にしても仕方がないのである。
「状況が状況だから本当ならタダって事にしてやりたいが、一応登録料は払って貰うぞ?」
「げっ!? 金取るのかよ!」
「表面上は公式な処理すんだから仕方ねぇだろ。帳簿誤魔化すのも、支部長の俺が特別扱いでポケットマネーで出すのも出来ないんだよ」
「お金に関しては融通効かないからねぇ、ウチの組織って……」
エレインが愚痴のように言うが、組織の腐敗防止のため個人的な都合による金銭の供与には厳しいだけであり、ケチな訳ではなく孤児院やギルド加盟者に対する不当な扱いや、救済手段としての援助はキチンと行われている。
「まぁ管理費用だと思ってくれ。一級遺物が一個につき金貨一枚だから、金貨二枚な」
「今までも遺物の登録で払ってるからそれ自体には文句はないけど、なんか釈然しない……」
「だったら、特級遺物と遺跡の破損分を払うか?」
「いえ、払いますとも! あ……」
どこか不満げなハルアードは脅すようなグランの言葉に慌てて即座に金貨を取り出そうとするが自身の財布がない事に気付く。ジュナスがお金をどう持ち歩いているのかよく知らないので即座に取り出せなかった。
「エレ、これ代金ね」
「はいはい、レイちゃん、毎度ありー」
どうするかハルアードが困っている間にレイアが自身のカバンから金貨を二枚取り出してエレインに手渡していた。ここで即金で払えなくても後払いも可能ではあるのだが、その事は忘れられていた。
貨幣については銅貨、銀貨、金貨、大金貨と四種類あり、銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で大金貨一枚となっている。
そして必要な書類と手続きが終わった為、話は次の段階へと移る。
「それでだ、ハルアードにはBランク昇格の特別試験を受けてもらう。『意思ある武具』は問答無用で一級遺物指定されているからな」
「一級遺物の所持認定はBランク以上が条件だったよね。でも俺まだDランクだけど、Cランク飛ばしてもいいの?」
「だから特別試験なんだよ。Cランク以下が一級遺物を手に入れて自分で使いたい時の一回限りの特別試験だ。不合格なら遺物はギルド預かりになる。没収する訳じゃねぇからそこは勘違いするなよ。あとこっちは一回限りだから無料な」
グランの言うとおり、今回ジュナスとマルスを『意思ある武具』として登録する以上はその所持の条件を満たす必要がある。
ハルアードは元の身体でも、今のジュナスの身体でもどちらもDランクであるため今のままでは条件を満たしていない。ジュナスとして扱われる以上、ジュナスのランクをBランクに上げる必要があるが通常だと即座に上げれるものではない。
あまり多い事例ではないがCランク以下の者が一級遺物を手に入れる事もある。昔はそのまま発見者の物として認定していた。しかし、他の冒険者に因縁をつけられたり、扱いきれずに暴発事故を起こしたり、強大な力に溺れて好き勝手に暴れるようになったり、最悪の場合では奪う為に殺されたりと様々な問題が発生した為に所持に規制をかけることになった。
その代わりとして、規制しただけでは不満も出てくる為、特例措置として入手した直後に一回限りの限定で現在のランクは関係なく一気にBランクへと昇格を認める特別試験が受けれるようになった。しかし、本来の手順ではランクが届いていない者が受ける性質上、実力が足りていないが故に難易度はかなり高めではある。
「だったらさっさとやって終わらせようぜ」
「随分と簡単に言ってくれるね? まぁAランク相手にも一応戦えたし、ジュナスの身体ならなんとかなるか」
気軽に言うジュナスと余裕がありそうなハルアードは、既にやる気になっているようだ。
「あーやる気になっているところ悪いがな、やるのは早くても明日だからな?」
「「なんで!?」」
ハルアードとジュナスのやる気はその日の内には全くの無意味なものとなったのだった。




