薬の効能
「あの子に近寄れば、あなたも潰すわよ」
冷淡に、王様気分の彼女は言う。
場所はいつものところだった。
1-1の教室。僕らの教室だ。
「なんで、そんなことするの?」
両手を後ろで女子に抑えられながら、僕は尋ねる。こんな拘束も解けないのがボクの力だ。
「面白くないからよ。主に、私達が」
因みに、後ろにいるうちの一人は、マイだったりする。女子も惚れるっていうのは本当みたいだ。操り人形のように与えられた命令をこなすだけみたいだけれど。
時雨は、部屋の外で待機中。
「学校から生徒数減らしてるのも君だね?」
「だから何? お説教でもするつもり?」
僕の言葉に、顔を歪める。自分が何をしているかは分かっているらしい。
そして、何も思っていない。
「最低だね」
「ふん」
机に足をかけて座っていた彼女は立ち上がり、僕の前までツカツカと歩いてくる。
そのまま流れる動作で、僕の顔を殴りつけた。
頬に強烈な痛みが走り、視界がぐらつく。
「あなた、自分の立場を分かってないんじゃない? 今すぐ殺すことだってできるのよ? 事件なんて、簡単にお金で揉み消せるし」
スカートのポケットから、果物ナイフを取り出す。
「殺せるの?」
「三人くらい殺したわ」
そう言って僕の喉に刃先を突き付け、口の端を上げる。
「ふふふ、あなたはどんなふうに鳴くのかしら? 『助けて』『やめてくれ』それとも、何も言わないの?」
僕は無言で、彼女の瞳を見た。
狂気に染まっているように感じた。
……でもまあ、困った時は助けてでもなんでも叫んで、時雨に助けてもらえばいい。もう少し、様子を見てみよう。
「無言……か。私の一番嫌いなパターンね。何か言いなさいよ、言わなきゃ殺すわよ?」
最後だけ語調を強めて、ナイフを僕の目の前にチラつかせる。
「一番上で目立ってる君が、なんでこんなことするの?」
「はぁ? さっきも言ったじゃない、気に入らないからよ」
「それだけ?」
「えぇ、それだけよ」
「本当に?」
彼女は短く舌打ちすると、もう一度僕の頬を殴りつけた。
「……あなた、面白くないわね」
長い髪を、艶やかな指で掻き上げる。
「そうかい、奇遇だね。僕も同じ気持ちだ」
そんな彼女を僕は煽る。だがそれ以上、彼女は感情的にはならなかった。
表情では、そう見えなかった。
「……あなた、私をコケにするのが好きみたいね」
「別に、僕は感想を言ってるだけだよ。それとも、面白いって言って欲しいの? 変わってるね」
僕が鼻で笑っても、何の反応も示さない。
「いいわ、そこまで殺して欲しいのなら、お望み通りにしてあげるわ」
その瞬間。
お腹に、何かが突き刺さった、肉を裂く嫌な感触を覚えた。




