第六日
『さあ郷土さん、決着つけましょっか』
『とりあえず先に進みませんか?』
『はあ?』
『はい超ごめんなさい。先に進ませていただけますでしょうか』
『別にいいですよ。続きはまた、後で』
『では、まいりましょう。あ、弁護士を呼んでおいてくださいますか、出来るだけ弁の立つ人を』
1:24
神はまた言われた、「地は生き物を種類にしたがっていだせ。家畜と、這うものと、地の獣とを種類にしたがっていだせ」。そのようになった。
『では郷土さん、最期が近づいておりますので、集大成となるような、ラストスパートで解説をお願いします』
『どことなく不穏な言い回しですね』
『さあ、最期へ向けて、解説を。辞世の句として記録してまいりますので』
『そのようにならないことを祈るばかりです。さあ、第六日は、陸地に動物達が増えていくわけなんですね』
『家畜と、這うものなんて、誰かを指して言っているようにも思えます。まるで地に郷土さんが増えたみたいで不愉快ですね』
『今の、録りましたか?』
『録ったと思いますが、たぶん、不思議と消えてしまうでしょうね』
1:25
神は地の獣を種類にしたがい、家畜を種類にしたがい、また地に這うすべての物を種類にしたがって造られた。神は見て、良しとされた。
『さあ、ワンサイドゲームの様相にもめげず、頑張って解説してまいりたいと思います』
『はい、仕事してください』
『この節でも、また前節に声で指示を出した神様が自らの手でその動物達を造っちゃうんですね』
『あら、本当ですね。しかも前節の最期は、そのようになった、とありますから、ここは植物のときのように、二倍だったりするのでしょうか』
『そうですね、もうそれでいいですよね』
『解説してください。それしか存在意義ないんですから』
『最初と比べて、変わりましたよね』
『何がですか』
『世界と、貴方です』
『きしょっ』
『……サイトという、知恵の実を貪り食ったあたりから、急激に悪魔的になっていきましたよね』
『そんな前からではないでしょう、たった今さっきです』
『悪魔化は認めるのですね』
1:26
神はまた言われた、「われわれのかたちに、われわれにかたどって人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう」。
『あ、人が造られました! あれ、そっかでも、確か最初の人間って、アダムとイブじゃありませんでしたっけ……』
『アダムとイブも後ほど、この創世記の第二章で登場しちゃうんですが、厳密に言いますと、彼らは最初の人間なのではなく、最初の失楽園者たちなんですね。その子孫が、私たち人類なのです』
『えっと……では、今この節で作られた人たちは、どういった人たちなのでしょう』
『知らない人たちですね。本当の人間第一号がその中に居るはずなんですが、ある種、その他大勢、みたいな扱いです』
『今現代の人間との違いは』
『基本、ないでしょう。ただ、もうめちゃくちゃプレーンな状態です。あと、だからこそと言うべきか、かなり神に近い存在ですね』
『え、それはすごいですね』
『まず、神々の姿に似せて造られている時点で、並々ならぬ思い入れを感じますよね。そうですね、飾り棚が壁一面を覆い、そこにフィギュアが満載されている様子をイメージしてみてください』
『何をおっしゃってるんですか』
『他の動物たち、すなわち、他の家具•家電をいかに失ったとしても、このフィギュアたちだけは誰にも指一本触れさせないぞ、手袋なしでは、ってな具合のパッションですよね』
『とりあえず、溺愛ということですか』
『いや、溺愛じゃないんです。一種の崇拝です』
『え、神様が、人間をですか』
『まあ、それはさすがに、かなわないとは思いますし、ええ、人間はフィギュアにはね、もう及ばないですよね、全然』
『何のお話をなさっているのか、わかりませんが』
1:27
神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された。
『ここで再度、人の創造について語られているようですが』
『ええ、神のかたちに創造し、男と女とに創造された、とね』
『神にも男女はあったのですね』
『まあぶっちゃけ、ここまでの神はGodなわけなんですが、しばらく後にですね、主という名称の神様が出てくるというか、そちらに移行していくんですよね』
『え、そうなんですか』
『ええ、たぶんそうでした。ヤハウェというのは、確か何かの宗教では唯一絶対の神という位置づけですから、この節とは明らかに矛盾するんですね。ヤハウェのコピーならば、人の性も単一になるはずです。ですのでですね、ここまでの神は、少なくとも、ヤハウェとは別の神だ、見るのが自然なんですね』
『そうなんですか』
『ちなみにヤハウェは、後に預言者モーセに十戒を授けたりして、とにかく人々に約束を与えるタイプなんですね。ですが今この節の神ときたら、人に全ての生き物を治めさせる勢いですからね、まあ、かなり人間びいきですよね。たぶん、むしろ人間だとは思いますね』
『あの、真面目にお願いします』
1:28
神は彼らを祝福して言われた、「生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ」。
『もう大盤振る舞いですよね。人に、これまで造ってきた世界の全部を任せちゃってますからね。ものすごい遅刻でパーティー会場に入ったのに、その途端ビンゴ大会の商品を何もかも全て貰っちゃった、みたいなことですよね』
『それはすごいですね』
『もちろん料理も酒もですよ。もう、ものすごいことになっています。奇声を上げて喜びましょう』
『太っちゃいそうですね』
1:29
神はまた言われた、「わたしは全地のおもてにある種をもつすべての草と、種のある実を結ぶすべての木とをあなたがたに与える。これはあなたがたの食物となるであろう。
『わあ、すごいですね、まだ神様は人に与えていきますよ』
『ええ。この節は、まあ単に、思ってるより野菜を多く摂れよ、というアドバイスですね』
『そうなんですか。なんでしょう、郷土さん、急にクライマックス感をしぼませていらっしゃいますが』
『まあこの節は、それだけですからね』
『え、それだけなんですか』
『ところで知ってますか、植物には、痛覚がないんですよ。良かったですよね』
『何がですか』
1:30
また地のすべての獣、空のすべての鳥、地を這うすべてのもの、すなわち命あるものには、食物としてすべての青草を与える」。そのようになった。
『あ、良かった、神様は他の生き物たちにも与えてくださいました』
『たかが青草だけですけどね』
『そんな言いかた……』
『明らかに嫌がらせですよね。なんの罰ゲームなのでしょう、不思議ですね』
『もっと不思議なことが、いくらでもあると思いますが』
1:31
神が造ったすべての物を見られたところ、それは、はなはだ良かった。夕となり、また朝となった。第六日である。
『さあ郷土さん、ついにこの節をもって第一章は終わりですね』
『ええ、最後に神様もご満悦です。はなはだ良かったですね』
『では、まとめとして、全体的な解説を。よろしくお願いします』
『別にいらないとは思いますが、まあ、仕方ないですね、サクッとクリスピーにやっちゃいますか』
『黙って従ってください』
『貴方のベテランな本性には逆らえません、はいやります。ええっとですね、まず第一日に天と地を造り、光を点灯させましたね』
『はい、その解説を当初は、第零日の出来事っぽく言いやがってましたが、まあいいでしょう。そうですね』
『はい。第二日に空でしたっけ、で、第三日にあれです、海とか、陸ですよね。でまあ、四日に、そう、あれだ、陸地をサラダバーにしたわけですよね』
『どういう覚え方をしていらっしゃるのでしょうか』
『で、第五日ですよね、貴方が悪魔だと知ったのは』
『さすがです、そんなに早く神様に会いたいんですね』
『いいえ、死んでも会いたくありません』
『え、何を言ったかご自身でおわかりになっていますか?』
『第五日、動物たちがごっそり生まれました。そして第六日、人間たちが支配者として重役出勤いたします。これがすなわち、第三十章にもわたる創世記の、第一章なのでありますね』
『えっ! 三十章もあるのですか。第一章だけで世界が造られたのに』
『そうなんですよ。やっぱり人が生まれると、その後はどうしてもこじれていって長くなりますよね。ちなみに今後、どういう話が展開されていくかといいますと、まず第二章ではアダムとイブが登場しますね』
『それは聞きました』
『あとはそのうち、ノアの洪水ですとか、アベルとカイン兄弟による人類初の殺人が、しごくあっさりと描かれたりします』
『聖書に殺人が出てくる時点で、すごいと思います』
『あとはですね、いろんな人がどんどん代を重ねていって、増えて広がっていく感じですね。あとこれはアダムからの遺伝か知りませんが、みんな恐ろしく長生きなんですね。八百歳とか余裕で生きてます』
『え、本当ですか』
『本当なんですよ。でもですね、例えば翻訳などによるミスがある可能性を忘れてはいけませんよ。残っているモーセの彫刻では、しばしば頭に巻角があるらしいのですが、これは、モーセの顔が輝いていた、という文章を、モーセの頭に角があった、と伝え広めてしまったことにより起こった、大変なフィギュア騒動なんですね』
『フィギュアが、どうかしたんですか』
『さあ、お伝えしてまいりました第一章、神様によるテラフォーミングですね、大変ダイナミックなお話でした。皆様、お楽しみいただけましたでしょうか』
『あの、そういったまとめは、わたくしがやりますので』
『それでは最期に、私から、この言葉をお送りします』
『やめてください、変な勢いで終わらせるのだけは』
『おお、我が神よ』
『はい勝手に召されてください。さて、お送りしてまいりました創世記第一章、福音ならぬ副音声、このあたりで、失礼させていただきます。ありがとうございました』
『次はHeavensでお逢いしましょう』
『はあ? お前はヘルに行け』
『私、ヘルニア持ちなんですよ、その痛むこと、ヘルにも近い(ニア)、これぞまさしくヘルニアですね』
『という、辞世の句をいただきました、解説は、故郷土学でした。さようなら』
おわり