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ぼくの人生相談 ぼくとママとねえちゃん。そしてしょうもないパパ  作者: 雨宮ルネ(吉田)


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1/14

発覚する 1


 ねえちゃんが妊娠した。どうすんだ、高校二年生。


 気づいたのはぼくだ。

 梅雨が明けたとたん始まった暴力的な暑さに、息を切らした塾帰り。今年の梅雨明けは例年よりちょっと早いらしい。夏休みまであとすこし。はやくエアコンの恩恵のあずかろうと家のドアを開けた。


「ただいま」あいさつは形式的。ドアを開けたら自然と口から出てくるもの。スニーカーを脱いで、どたどたと大股でリビングにむかった。ドアを開けると体中が一気に冷気に包まれた。リュックをおろすと、蒸し上がった背中がスースーする。

「はあー」

 しばらくエアコンの下で目を閉じた。


 ねえちゃんはふろ上がりで、バスタオルをターバンのように頭に巻いて、手にはモンスターエナジーを持っていた。

 それはいい。でもいくらふろ上りだからといって、その格好はいかがなものか。ノーブラのキャミソール。ショートパンツ。姉とはいえ、中三男子は目のやり場に困る。


 いや。

 そこじゃない。

 ぼくは動きを止めて、じっと見つめた。


 なんだ、その腹。

 ポッコリしてるよな。かなり。

「あっ」

 凝視したぼくの視線に気づいて、ねえちゃんはあわてて手で隠したが、もうおそい。


 その腹がなにを意味しているのかは中三男子だってわかる。目と口が自然とあいた。そして次の瞬間

「ママーッ!」

 思わず叫んだ。まだ声変りの兆しもないぼくの声は大声を出すと甲高い。

「啓太、だまれー!」

 ねえちゃんは、ぼくの口をふさごうと飛びかかって来た。

「うわっ」

 ぼくはとっさによけた。

 ガタン! ゴツッ!

 テーブルやイスにぶつかる。落としたモンスターエナジーが転がっていく。ふたを開ける前でよかった。


「だって!」

 ぼくは抵抗を試みた。

「だってじゃないっ!」

「ヤバいじゃんか、その腹! ママッ!」

 ぼくとねえちゃんはつかみ合いになった。

「なに騒いでるの」

 二階からママが降りてきた。たぶん洗濯物をたたんでいたんだ。


「ママッ! ねえちゃんが妊娠してる!」


「ダメ―!」


 ふたりの声が重なると、どっちがどっちだかわからない。

 ママはぽかんとした顔で突っ立っていた。じっとぼくの顔を見た後、視線をねえちゃんに移した。顔を見て、それから腹へ視線をおろす。

 かくすように腹を抱えたねえちゃんの両手を、ぼくが後ろからつかんで大きく開いた。ばんざいされるネコみたいに。 

 ポッコリとふくらんだおなかがあらわになった。

「ほら!」


 目って、ほんとにまん丸くなるんだな。ママの顔を見てそう思った。それからママは大きく息を吸い込んで両手で口を覆った。

 あんまり動かないから、そのまま石かなにかになってしまったのかと思った。ねえちゃんは観念したのかおとなしくなった。


「……な、なんで」

 ようやくママはそのひとことをしぼりだした。

「……えっと、ヤ、ヤッたから?」

 きまり悪そうにねえちゃんが言ったが、そういうことじゃないと思うぞ。

 っていうか、ヤッたんだ。ねえちゃん、処女じゃないんだ。それもショックだ。なんだよ、もう大人になったのかよ。


「……い、いつ」

 またもやしぼりだしたママのひとこと。

「ク、クリスマス?」

 おかしい。おかしい。動転したママの質問もおかしいが、答えるねえちゃんもおかしいぞ。

「そういうことじゃなくて!」

 ようやくママが我に返った。

「いつからなのよ! 何か月なの、そのおなか!」

「わ、わかんないよ」

「……わかんないって」

 ママはその場にがっくりとひざをついて座りこむと、そのまま顔を手で覆ってしまった。

 ねえちゃんの腕をはなしたぼくは、その手のやり場に困って宙ぶらりんに立ちつくす。


「最後に生理が来たのはいつなの」

 顔を上げたママはねえちゃんに聞いた。

「えっと。たぶん冬くらい?」

「冬って! 一月も三月も冬なのよ! ぜんぜん違うじゃない!」

 ママが声を荒げた。ねえちゃんの肩がビクッとはねた。

「う……。こ、今年は来ていないかな」

 はあ、とママがため息をついた。

「どうして生理の管理もできていないの」

「……だってぇ」

「だってじゃなくて! ちゃんと手帳につけておきなさいよ」

「……手帳なんか持ってないし」

「アプリでも! スケジュールの!」

「うぇ……」


 ママのあまりの剣幕に、ねえちゃんがめそめそしはじめた。それを見て、ママがまたため息をついた。

「じゃあ、もう七か月くらいじゃない」

 こういう話を、ぼくが聞いていてもいいんだろうか。でも今さら席を外すわけにもいかなくて非常にいたたまれない。

 ちゃらんぽらんなねえちゃんが、ちゃらんぽらんなマネをして妊娠した。

 ヤバい。かなり。

「……なんで、こんなになるまで、だまってたのよ」


 ねえちゃんが言えなかった気持はわからなくもない。ママがいろんなことで、いっぱいいっぱいだったのを知っているから。ママも余裕がなかったんだ。話しかけるのをためらうくらい。


 原因はパパだ。


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