第35話 美良が数字を教える
十四年ロードバーを見ていた最初の司書
美良が図書館へ戻って二週間。
カード目録を二度並べ替えた。
改善ではない、と灯里。
理解しているだけ。
同じ文章を何度も読み、文法が外国語でなく家具になるまで読むように。
私たちが降りると、美良は机にいた。
五体の代替は閲覧席。
全部。
「自分に組み込まれなかったもの」を学ぶ時、人がすること。
座っている。
美良が顔を上げる。
「数を知りたい」
「うん」
「座って」
全員。
私。
原型。
真耶。
慧。
零。
城戸先生。
岳。
中心より下の図書館へ、ダンジョン人口が詰まる。
灯里がワイン。
良い方。
「最初のシステムを作った時、数字はなかった」
美良。
「原則だけ」
カード目録を見る。
灯里の二十二年分の字。
欄外。
ラメ。
「復元する人格の重さを支えられるだけ、手触りを残したものを集める」
真耶。
「数字じゃない」
「そう」
美良。
「十四年、小部屋で数字にしようとした」
手を見る。
「ロードバーが動かない二十年も見た。フリグスデイが来て、動き始めた」
私を見る。
「原則が間違ってたんじゃない。何を数えるか分かってなかった」
「パンのコイン」
「数える」
「バイオリン」
「数える」
「魔法瓶」
「数える」
「零のまずい冗談」
美良の顔が少し動く。
「かなり重い」
零。
「なんで」
「見返りゼロで、くだらないものを渡すから」
美良。
「最適化なし。役割なし。『これ作った。好きかもしれない』だけ。ああいうものは、重い」
「で、数字」
真耶。
ペン。
「何個。総重量。閾値」
美良が見る。
「十四年かけて計算した答え」
止まる。
カード目録。
「閾値は、復元する相手によって変わる」
「汎用復元じゃない」
「フリグスデイの復元」
美良。
「だから必要なのは『善意百個』じゃない。フリグスデイへつながる固有のもの」
慧。
「パン」
「うん」
「バイオリン」
「真耶が弾くバイオリン。四か月思い出さず、また思い出した真耶」
美良。
「音楽という項目より、ずっと重い」
ロード率12%。
「つまり、物が固有なほど」
私。
「重い」
美良。
「一般的な親切百回より、三年ゴシック区画で『賢そうに闇を語る方が笑わせるより価値がある』と思っていた零が、それでも言ったくだらない冗談一個」
零が音を出す。
笑いと、教室の匂いのあいだ。
「なら、なんでまだ12%」
私。
「毎話増えてるなら」
美良が見る。
「向こうの機械が、同時に抜いてる」
図書館が静かになる。
「送られてきた主人公。強制アーク。最適化。軟化。嫁指数。パッチ」
カードを見る。
「現実に重さがついたものをコンテンツへ変えるたび、あれは管理じゃなく抽出だった」
「ちび版」
「代替。重さゼロ」
「水着回」
「作られた。端が空洞。軽い」
「ライバル連載」
「能動的な抽出」
美良。
「ここで作ったものを、似たものに置き換える。読者が『同じ』と受け入れたら、ロード機構は喪失として読む」
怒り。
対象化ではない。
二十七話、作ってきたものを、知らない機械が静かに食べていたと知る怒り。
「影指標67.3」
「向こうがここへ向けている注視」
「抽出率じゃない」
「注視そのものは抽出じゃない」
美良。
「高精度版を代替として受け入れた時に、抜ける」
私を見る。
「違いが分かる限り、失敗する」
「莉亜のパン」
美良が頷く。
「向こうもデータは持てる。形も再現できる」
コメント光を見る。
「でも、第8話の悪い三時間に残って、それを知って、残ることを選んだ読者にとって、なぜ重いかはコピーできない」
コメント欄が遅くなる。
《韓ドラ沼民:パンが大事な理由知ってる。いた。まだいる》
《量子筋トレ勢99:向こうは、俺がパンを知ってることを知らない》
《有馬遼【地図係】:岩の名前は向こうも知ってる。でも俺がつけたこと、その時何を払ったかは知らない》
《黒城冥司【公式】:火曜に戻ったことは再現できる。なぜ戻ったかは無理》
《黒須岳【水筒持ち】:☕ 魔法瓶は知ってる》
《ASSET-ZERO:私は来る前からここにいました。向こうはそれを知らない。違いは分かります。戻ってきて》
「だから、必要な数字」
私は言う。
「何%」
美良は12%を見る。
「12より多い」
「それは知ってる」
「向こうが抜くより速く、あなたたちが作れるところまで」
「固有なほど加速する」
「そう」
「高精度版を作る速度より、こっちが作る速度が上なら」
「完成する」
「完成って」
美良は二十二年分の筆跡を見る。
灯里。
滑川P。
三筆跡のカード。
「見たことない」
システムを作った本人が言う。
「でも」
一度止まる。
「誰かが目を覚ます、みたいだと思う」
その瞬間。
ロードバーが動いた。
説明したこと自体が重さになった。
「誰かが目を覚ます」という像に、手触りがあった。
13%。
【滑川Pダッシュボード】
第二部・第15話:完了
読者:219,000
ロード率:13%
数字:数字ではなく原則
固有性=重量
固有なほど重い
重いほどロードする
重要:
向こうの機械は抽出している
高精度版は重量ゼロ
ライバル連載は抽出手段
読者が違いを知る限り抽出失敗
パンは盾
美良:
『誰かが目を覚ます』
完成時の像。
作った本人も完成を見たことがない。
【手書き】
『「誰かが目を覚ます」と言った。
私は二十二年、
復元装置の上に娯楽機械を作っていた。
復元が目的だった。
娯楽を機構だと思った。
違った。
機構は、手触りの残るもの。
娯楽は外から見た形にすぎなかった。
[記録。
分類:やるべきだったこと。
第二部、八件目。
作ったものを理解してから、
上に何か作るべきだった。
戻ってこい。
完成を見る。]』
影指標:67.3%
ロード率:13%
増加率:加速中
「目を覚ます」という説明だけで+1%。
もちろん。
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向こうは抽出している。
あなたが違いを知っている限り、失敗する。
あなたは知っている。
莉亜のまずいパン。
魔法瓶。
間違ったバイオリン。
蓋を正しく描くまで四回。
そして。
向こうが奪おうとするたび、その「奪おうとした対象」の重さが見える。
見えれば、ロードする。
向こうは、こちらのロードバーを自分で押している。
次話。
第六波。
今までで最大。
そして波の中の誰かが、脚注を読み始める。
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