5.あの夜①
魔王討伐のため王都を離れて二週間ほど経ったある日。突然、予期せぬ魔物大量発生に晒された。
無限に湧いてくる魔物。幸い、中レベル程度の魔物しか出なかった。それでも朝から晩まで戦い続ければ、メンバーの心身は消耗した。
「あ〜腹減ったけどもう動けねえ〜!」
ようやく終わった、とイケメンチャラ剣士がその場に寝そべると皆共感しそれに続き、飯の準備を放棄してそのまま気絶したように眠った。
リヒトは起きていた。
上体を起こし、手元を見つめて瞬きもせず固まっていた。
見慣れない様子に気づいたマナカはリヒトの隣に移動した。
「寝ないの?」
「眠れない」
リヒトは深刻そうな声でそう呟いた後、ぽつりぽつりと唐突な自分語りを始めた。
自分は金持ちの家に生まれて過保護に育てられてきた。入社前に一度でいいから親の力を借りずに稼いでみたくて、コンビニバイトを強行した。大金の絡んだ世界を甘く見ていた。守られて愛されて平和ボケしていたことに、死んでから気づいた。と。
「謝りたい。俺のせいで死なせてごめん。痛くて苦しい思いをさせてごめん。巻き込んで、ごめん」
許してほしいわけじゃない。と付け加えて、リヒトは土下座した。
マナカは(だいたい思ってた通りだな)と黙って聞いていた。
普段から、全てを手に入れている強者特有のものを感じていた。
愛され受け入れられるのは当然という自信。
与えたものは返ってくると信じられる自信。
自分がした決断に迷わない自信。
マナカが欲しくて仕方なかったものを生まれつき持っている幸運の持ち主。
羨ましいという嫉妬心すら湧かないほど、マナカからは遠い存在だった。
マナカは毒親育ちだった。愛されたくて努力したが、努力は愛と関係なく、全ては親の気分次第だった。
そして貧乏だった。仲間に入るために求められる役割を引き受けた。必要とされて嬉しかった。……切り捨てられた時にようやく、本物じゃなかったのだと知らしめられる。
上げては落とされる運ゲー。
与えたものは返ってこない。
繰り返すたび傷つくのを分かっていても繰り返した。
自分が傷ついているからこそ、人に求められたら、人の役に立てたら、その傷を癒せるように思えて。
だから、続きのリヒトの言葉には少なからず救われた。
「ありがとう。あの日、俺を救おうとしてくれて。」
与えたものが少しだけ返ってきたな、と。
しかし、ありがとう。と言われたくらいで、全ての負の感情を塗り替えることはできない。
自分の命を犠牲にしたのにあいつは死んだ。
あいつの巻き添えでこの世界に召喚された。
この世界でも私は「要らない子」。
全ての元凶のあいつは「要る子」。
聖女の才能があると判明した時、期待をされて嬉しかった。聖女としてしっかりやろう!と思った。
神聖力の扱いは簡単なものではなかった。
教えてくれる人もいない。テキストがあるわけでもない。出発の日は決まっている。
不気味な黒い靄に足を踏み入れて、一か八か試す。実践でしか習得できないものだった。
それでも期待されているから頑張れた。
よくこの短期間で習得したな!すごいな!頑張ったな!
……そう誰かが言ってくれる未来を見て。
出立式で、そんなものは幻想だと打ち砕かれる。
「勘」で幸運へ導く勇者を、みんなが慕い、頼っていた。
あほらし。
勘って!
そんなものに、私の努力は負けるのかよ!!!
私の努力を一番に讃えて欲しかったのは、他でもない、あんただったのに。




