表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水眼の村  作者: ヒオウギ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

第8話:水に還る声

 すべてが終わった翌朝。

 寒水村は、まるで夢から覚めたように静かだった。




 封印の儀から一晩が明けた。

 祠に満ちていた水は跡形もなく消え、残っていたはずの鏡も鈴も注連縄も、すべて姿を消していた。




 まるで“最初からなかった”みたいに。

 けれど、俺の中には確かな感触が残っていた。


 葵の声も、写しの記憶も、自分が“自分”を選んだ感覚も。




 だから、俺はこの祠に一礼して、背を向けた。




 ***




 祖母は、帰った俺の顔を見るなり泣き出した。




「……ごめんね。全部、教えてあげられなくて」




 その手は震えていたが、あたたかかった。

 俺が水神の封印を成したことを、祖母は何も聞かずに理解してくれた。




「昔ね、おばあちゃんの姉が、“あの祠で消えた”の。

 だから、この家はずっと“封印の家系”として見られてて……。

 あなたを村に呼んだのは、私だったの」




 そう言って祖母は泣き笑いした。




「本当に、ごめんね。でも、ありがとう」




 俺はただ、黙って頷いた。


 いまなら言える。

 あの写しの俺が言っていたこと、すべてを。


 たとえ弱さがあっても、逃げ出したくなっても。

 自分で、自分を選び続けること。

 それが、生きるってことなんだと。




 ***




 帰りのバスは、空っぽだった。

 窓の外に、夏がぼやけて流れていく。




 俺は車窓から祠のある山のほうを振り返った。




 そのときだった。

 バスの窓に、一瞬だけ“誰か”の姿が映った気がした。


 白いワンピース。長い黒髪。

 微笑んで、静かに手を振っていた。




 それは、“写し”なんかじゃない。

 俺が知っている――本物の“葵”だった。




 バスは坂を下り、景色の中に村が溶けていく。




 夏が終わる。




 でも、“水の中”に映ったものは、決して消えない。

 それは、選ばれたものだけが見ることのできる記憶。




 そしてたぶん――


 誰かの中にも、今も静かに揺れているのかもしれない。




 水が、何かを映すたびに。




 終


この物語は、「水」というテーマから始まりました。

何の変哲もない水――だけど、どこか不気味で、すべてを映してしまう存在。


“自分自身”と向き合うことの怖さ、弱さ、そしてそこから一歩踏み出す勇気。

翔真という少年が「本物の自分を選ぶ」までの、ひと夏の物語を読んでくださってありがとうございました。


あなたの心にも、もし“写し”があるなら――

そっと、水に映してみてください。

きっと、その奥には、“本当のあなた”が微笑んでいます。


2025年・夏

――ヒオウギ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ