後悔しない選択をする方法!!
翌日、俺は珍しく学校の始業時間に遅れることなく教室に着いた。それからまずは、一ノ瀬さんがどの人かを確認するため、二年C組の教室に向かった。教室の入り口から中を覗くと、俺に気づいた神無月が笑顔で近寄って来た。
「あれ!? 水無月じゃん! どうした、俺に何か用?」
「俺がお前に用があるわけないだろ」と言うと、神無月はショックを受けたのか、肩をガックリ落として落ち込んでしまった。それに構わず教室を見渡したが、生徒会長の姿が見当たらなかったので、仕方なく神無月に聞くことにした。
「なぁ、生徒会長はまだ来てないのか?」
「あぁ? 生徒会長? …何、生徒会長に用があるの?」神無月のテンションが低いままだった。
「まず俺の質問に答えろ」そう言うと、神無月は教室を見渡した。
「来ていると思うけど、教室にはいないな。生徒会室にでもいるんじゃないか?」
今まで得た情報で、一ノ瀬さんはいつも生徒会長と一緒にいるらしいから、すぐにわかると思っていたが、生徒会長がいないのなら仕方がない。次の休み時間に改めて確認しようと思って、教室に戻ろうとした時、女の子に声を掛けられた。
「あれ! 水無月くんじゃん! おはよー」声の方に視線を向けると、そこには芙蓉さんが立っていた。
「おはよう。そういえば芙蓉さんも二年C組でしたね!」
「おっ! あたしのこと覚えていてくれたんだ!」
「まぁ一応…」
「この前はありがとね! キミのおかげで英語のテストで最高点が取れたよ!」
「俺は別に何もしてないですよ。勉強を頑張ったのは芙蓉さんであって、その努力の結果が成果に結びついただけです。芙蓉さん自身の実力ですよ」
「そう言われると照れるなぁ」芙蓉さんは右手で後ろ頭を掻き、照れたポーズをしていた。隣で神無月が「え!? どういう関係!?」といった顔で首を横に振りながら、俺と芙蓉さんを交互に見ていたが、構わず無視した。
「ところで、うちのクラスに何か用でもあったの?」芙蓉さんが聞いてきたので、俺はちょうどいいと思って、一ノ瀬さんがどの人かを聞くことにした。
「一ノ瀬初雪さんっていう人を探しているんですけど、どの人ですか?」
「初雪ちゃん!? えーと、あの人だよ」
芙蓉さんは教室を見渡してから、窓際の一番前の席に座って外を眺めている女の子を指さした。外を向いているので顔は見えなかったが、ショートボブの髪型で、色はダークブラウンだった。特徴を覚えるため、まじまじと見ていると、芙蓉さんが声を掛けてきた。
「水無月くん、初雪ちゃんに何か用があるの?」
「いや、用はないですけど、どんな人か気になったので、見に来ただけです」
「え!? 気になるってどうして?」
「知る必要があると思ったからです」
そうすれば、生徒会長の相談に何か役立てることができるかもしれないからと思っていた。それを聞いた芙蓉さんと神無月はビックリしているようだった。
「水無月くん! 牡丹は何も言ってないの?」
「如月さん? 特に何も…」
どうしてここで如月さんの話が出てくるのか疑問に思ったが、あまり情報を伝えて生徒会長の件を漏らすといけないので、少し濁して答えた。
その時、「水無月!」と後ろから声が聞こえた。その声は聞き覚えのある俺の嫌いな人の声だったので、一回は無視をしたが、その後も「おい、水無月! 聞こえないのか」と後ろでうるさく吠えていたので仕方なく振り返った。そこには、予想通り俺の嫌いな数学の教師とその隣に生徒会長が立っていた。
「あ! 生徒会長、おはようございます!」俺は生徒会長だけを見てあいさつした。
「おはよう。水無月くん」
ただのあいさつだが、生徒会長の姿は凛として見えた。隣の奴もあいさつを待っている様子だったが、俺は無視して生徒会長と話を続けた。
「生徒会長は朝から生徒会のお仕事ですか?」
「えぇ、ちょっと先生と打ち合わせをしていたの」
「朝から大変ですね」
「そうでもないわ。もう慣れているから。そういうあなたも今日は珍しく遅刻しなかったのね」
「はい。ちょっと確認しておきたいことがあったので…」
「…そう」
俺と生徒会長が話をしていると「あ! 睦月ちゃん! 戻って来たんだ!」という声が聞こえて一人の女の子が小走りで近づいてきて、そのまま生徒会長に抱きついた。
その子に視線を向けると、一ノ瀬初雪さんだった。俺はようやく彼女の顔を見ることができた。目は大きく垂れ目でやさしそうなおっとりした感じだった。生徒会長は「初雪ちゃん! くっつきすぎ!」と拒否している素振りをしながらも、表情は最高に嬉しそうだった。これ、周りのみんなはいつもの光景を見るかのようにやさしい眼差しで見守っていた。もうこれ、みんな気づいているんじゃないかと思った。
「一ノ瀬さんですよね?」俺は話しかけた。
「そうだよ! あなたは、水無月くんだよね!」一ノ瀬さんは生徒会長に抱きついたまま俺の方を向いて答えてくれた。
「俺のこと知ってるんですね!」
「そりゃ知ってるよ! 学年主席だもんね! 中学までは睦月ちゃんが一番頭良いと思ってたけど、上には上がいるんだね! ……それにあなたも私のこと知ってるんだね!」
「まぁ、生徒会長と仲が良いということくらいしか知らないですけど…」
「そうだよー! 私と睦月ちゃんは親友なんだぞー!」
一ノ瀬さんは生徒会長にさらに顔を近づけて仲が良いアピールをした。さっきまでの生徒会長ならきっぱりと断りそうなことだと思ったが、一ノ瀬さん相手だとされるがまま全く抵抗しなくなっていた。それに、とても幸せそうな顔をしていた。
「あ! それと、この前はありがとね! 手伝ってくれて」
「ん? なんのことですか?」俺は一ノ瀬さんに突然感謝されたが、なんのことかわからなかったので、正直に尋ねた。
「ほら、この前、帰りに、私が自転車をドミノ倒しした時、立てるのを手伝ってくれたでしょ! あの時、お礼を言おうと思ったら、いつの間にかいなくなってたから。…顔を覚えてなかったから誰かわからなかったけど、その服装であなただと思ったんだけど、違った?」
「そういえばそんなことがあった気がします」
一ノ瀬さんにそう言われて、俺は数日前の帰る時に起こったことを思い出した。靴を履き替えて、駐輪場の横を歩いていた時に、ガシャン! という音が聞こえたので、音のした方に視線を送ると、一人の女の子が自転車をドミノ倒ししてしまったのが見えた。見てしまった以上、このまま帰ると気分が悪いので、手伝うことにした。相手が誰か知らなかったが、まさか一ノ瀬さんだったとは。
「やっぱり、水無月くんだったんだね! 良かったぁ。ちゃんとお礼言えて! これでスッキリしたよ!」
ここまで話してみて、一ノ瀬さんの印象は良かった。生徒会長と仲が良いということは見ただけでわかった。おそらく一ノ瀬さんも生徒会長のことが好きだろう。しかし、その好きが親友として好きなのか、それとも生徒会長と同じ好きなのか、わからなかった。
話している途中で予鈴が鳴ったので、俺は教室に戻ろうとしたところ、俺の肩を掴み、「んっ、ん!」と咳払いする人が一人いた。
「水無月! 俺にまだ、あいさつしてないぞ」
「あぁ、先生いたんですね! 気が付きませんでした!」肩を掴まれイラっとしたので、手を振り払って、煽るように言った。
「お前がこんな時間にいるのは珍しいな。しかも俺の教室の前で! どうした?」先生の表情からイライラしているのがわかった。それに明らかに煽り返しのような言い方だった。
「あ! C組は先生が担任でしたか! C組の生徒には同情します。こんな人が担任だと、さぞかし苦労が多いでしょうに…」
「なんだと?」
「あれ!? 自覚がないのですか? 自分は立場が上と調子乗って、生徒からあいさつされるのが当然と思い込み、自分からは決してあいさつしない。それで生徒がしなければ注意をする。こんな滑稽な人にあいさつする生徒なんていませんよ」
「お前!」
先生は怒りに満ちた表情になっていた。これ以上は不毛だと思っていた時、師走先生が奥から来ていたのが見えたので、あいさつをして一緒に教室に戻った。
放課後、俺と如月さんとベルさんは、各自調べたことを話し合った。相談に対してどう答えるかは、意見の多様性を失わないようにするため、あくまで情報の共有だけをした。しかしその日、結局生徒会長は相談に来なかった。おそらく生徒会の仕事が忙しかったのだろうと思ったが、一応完全下校時間まで待った。それでも来られなかったので、もしかしたら、しばらく期間が空いてしまうかもしれないと思ったが、その心配は杞憂に終わった。
翌日の放課後、生徒会長が部室にやって来た。霜月と神無月が退室してから、改めて生徒会長の相談を始めようとすると、生徒会長は昨日来られなかったことを真っ先に謝ってきた。俺たちの予想通り、昨日は生徒会の仕事で忙しくて、相談に来る余裕がなかったらしい。生徒会長は申し訳なさそうに何度も謝ってきたので、如月さんとベルさんが気にしないでと励ますと、少し落ち着いた。生徒会長は責任感が人一倍強いようだった。
生徒会長が落ち着きを取り戻すために、まずは如月さんとベルさんが雑談を始めた。今日の体育の時間にバレーボールをしていたらしく、如月さんとベルさんがペアになってアタックとレシーブの練習している時、ベルさんがよそ見をしていたらしく、そのせいで如月さんのアタックがベルさんの顔面にクリーンヒットしたらしい。
俺はその話を聞いて、ベルさんが頬を手当てしている理由がようやくわかった。体育が終わった後、ベルさんが頬を怪我しているようだったので心配して理由を聞いたが、なぜかその時理由を教えてくれなかった。生徒会長も真面目に心配しているようだったが、ベルさんは「大丈夫デス!」と元気アピールをしていた。
生徒会長が「どうしてよそ見をしていたの?」と尋ねると、ベルさんは「実は…」と真剣な表情をして畏まった感じになり「体育の先生のズボンの前が開いていることに気づいたので、そのことを教えようと目で訴えていたんデス!」と元気な声で言った。
それを聞いた生徒会長は、クスっと笑ってから、笑顔になっていた。どうやら如月さんとベルさんの作戦は成功し、先程の気まずい雰囲気はなくなった。
ちなみに、チャック全開の体育教師がどうなったかというと、ベルさんの必死の訴えも届かずに、結局最後まで全開だったらしい。
生徒会長も落ち着きを取り戻したので、早速本題に入ることにした。如月さんが先日の相談内容(生徒会長が一ノ瀬さんのことを好きということ、告白しようか迷っていること)をまとめて、生徒会長に確認すると、生徒会長は頷いて答えた。
「それで、私たちの意見を聞きたいということでいいですか?」如月さんが尋ねた。
「えぇ、どんな意見も聞く覚悟はできているわ」
生徒会長は、冷や汗をかいていた。表情や姿勢から緊張しているのがわかった。昨日は忙しくて来られなかったと言っていたが、もしかしたら、俺たちに考える時間を与えるためにあえて来なかったのかもしれないと思ったが、それか無意識に生徒会長自身が意見を聞くのを躊躇ったのかもしれないと思った。
「そこまで身構えなくても大丈夫ですよ。あくまで私たちは一意見を言うだけです。その後どうするかは、睦月さんが決めることです。明確な答えがある内容でもないので、睦月さんが納得できるように力になれたらと思います」
「えぇ、そうね。ありがとう」
如月さんのフォローを聞いて、硬くなっていた生徒会長の体の緊張が少し解けたように見えた。
「じゃあ私から」と如月さんが最初に意見を述べ始めた。
俺たちは事前に如月さん、ベルさん、俺の順で意見を言うように決めていた。
「もし私が…生徒会長と同じ立場だったら…告白すると思います」如月さんの意見を聞いた生徒会長の表情は少し和らいだ気がした。
「そう。…どうしてそう思うのかしら?」
「…告白しないで、自分の気持ちをずっと内に秘めたままだと辛いと思ったんです。ずっとモヤモヤした気持ちを持ったまま過ごすのは嫌だなぁって。時間が解決してくれるかもしれないけど、それを待つよりかは、告白した方が自分でも納得できるかなぁと。……振られて疎遠になるかもしれないけど、私は、自分の気持ちをはっきりと伝えたいと思いました」
「そう。ありがとう。参考になるわ」
如月さんは、生徒会長と目を合わせ、はっきりと自分の意見を言った。生徒会長も頷いて真剣に聞いていた。
「デハ、次はワタシの番デスね!」ベルさんが言った。
「お願いします」生徒会長はそう言って、ベルさんの方に体を向けた。
「ワタシは…ワタシだったら、告白しマス! それで、もし断られたとしても、ソエンになりたくない相手だったら、ならないようにしマス」
「疎遠にならないようにするって、どうするの?」生徒会長はベルさんに聞いた。
「ソエンって、要は関わりがなくなるってことデスよね? それならこっちから関わり続ければいいんデスよ!」
「そうだけど…それって相手に迷惑をかけないかしら」
「相手がどう思うかはワカリマセン。もし迷惑だとわかれば、やめればいいだけデス! 好きな人に迷惑をかけたくないデスからね! …それに……自分が関わり続けたいと思っているのに、相手が拒否をするなら、ソレはもう付き合う必要がないと思いマス」ベルさんの発言が思っていたよりも強かったことに、俺は少し驚いた。
「そっ、そうね」生徒会長も少し落ち込んだように見えた。
「少しキツイ言い方かもしれませんが、人間関係もずっと良好な関係が続くとは限りまセン。別れることもあれば、新しい出会いもあるんデス! そうやっていろんな人と出会うことで、人は成長できるんだと思いマス! だけど、わざわざ自分からソエンになる必要はありまセン。自分が好きで一緒にいたいと思うのなら、その気持ちに正直に行動すればいいとワタシは思いマス! その気持ちがホンモノなら、きっと相手も答えてくれるはずデス!」
ベルさんは合理的な意見を言いつつも、生徒会長の気持ちも考えて発言しているように感じた。生徒会長も同じように感じたのか、ベルさんの話を真剣な表情で聞き、先ほどの落ち込んだ様子がなくなっているようだった。
「ここまで二人の意見を聴いて、何か質問や意見はありませんか?」ここで一旦間を取ろうと思って、俺は生徒会長に質問した。生徒会長は「そっ、そうね!」と言って、少し考えてから「大丈夫。特にないわ」と答えた。
「じゃあ、最後は俺ですね」俺がそう言うと、生徒会長はゴクリと唾を飲み込んで、両手を膝の上に置いて、少し前傾姿勢になり話を聴くモードに入った。
「結論から言うと、俺がもし生徒会長と同じ立場だったら、告白します」
「そっ、そう! どうしてかしら?」俺の意見を聞いた生徒会長は肩の力が抜け、緊張が和らいだように見えた。
「理由は二人が言ったこととほとんど同じです。俺は選択に迷った時、可能な限りあり得る結果を予想して、よりリスクの少ない方や自分が納得するだろうと思うものを選ぶようにしています」
「結果の予想って…たとえば振られた後、疎遠になるってことかしら?」
「そうですね。それも一つの予想です。でも他の結果もあると思います。たとえば、さっきベルさんが言ったように振られたとしても、関わり続けることはできます。半分は相手、今回の場合は一ノ瀬さんの行動次第ですが、もう半分は生徒会長自身の行動です。それによって結果も変わります」
「そうね」
「それに、如月さんも言っていましたが、告白しなかったら自分の気持ちをずっと秘めたまま今後を過ごすことになります。それって結構辛いことだと思います。人は生きていると、今回みたいにどちらを選んでも後悔するかもしれない選択にぶつかる時が必ずありますが、そんな時俺は、やらない後悔より、やってからの後悔を選ぶようにしています! つまり告白するということです!」
「やらない後悔より…やってからの後悔…」生徒会長は呟いた。
「告白しなかったら、将来、あの時もし告白していたらどうなっていたんだろうっていう心残りがずっと付きまといます。普段は忘れているかもしれないけど、ふと思い出すことがあるかもしれません。それは嫌なんです。でも、告白したら、結果がどうなろうが自分では納得できると思うんです。たとえ振られたとしても、その時は辛いと思いますが、時間が経てば、あの時告白して良かったって納得しやすいはずです! それで疎遠になってしまったのなら、それは仕方のないことです。受け入れるしかないです。相手の行動や思考はコントロールできないですから。……ただ、俺の印象ですが、生徒会長と一ノ瀬さんはそんな風にならないと思いました」
「そうね。あなたの意見もごもっともだと思うわ」生徒会長は、俺の話を真剣な表情で聴いていた。ここで、俺は当初から気になっていたことを確認することにした。
「それに……生徒会長は自分がどうしたいのか、ここに来る前から答えは決まっていたんじゃないですか?」
「……? それって…どういう意味かしら?」生徒会長は俺の隣に座っている二人と同じように驚いた表情をして、質問で返してきた。
「生徒会長の相談内容は、告白するか、しないか、ですよね?」俺は改めて確認した。
「そうね」
「それで迷って、自分でもどうしていいかわからなくなって、相談に来たと?」
「そうよ」
「ということは、現状を変えたいからここに来たってことになると思うんです!」
「そうね」
「そう考えると、告白しないっていう選択肢はなくなると思うんです。なぜなら、現状と何も変わらないから」そう言うと、生徒会長は目を大きく開いて、俺が言いたいことに気づいたように見えた。「生徒会長がここに来たってことは、現状のままだと辛いから。これは、つまり自分の気持ちを打ち明けて、何かを変えたいと思っていることになりませんか?」と俺は続けて述べた。
「そっ、それは……」生徒会長は困惑しているようだった。
「それでも決心がつかないのは、おそらくリスクを恐れているからです! 一ノ瀬さんと今までの関係を壊したくないっていう気持ちが強いんです! ただそれは人として当たり前の感情なので、気にしなくていいです。それで告白しないという選択をしている人も多いですから。それに、周りの反応も気になると思います。学校は閉鎖的ですから、噂もすぐに広まりますからね。周りから変な風に思われたら、解消するのも面倒ですし。でも、もし本気で現状を変えたいと思うのなら、多少のリスクは付き物です」
「そうね…」
「今回は、俺たち三人とも告白するという意見だったので、告白しやすくなったと思いますが、もし三人とも告白しないという意見だったら、生徒会長はどう思いますか? 俺たちの意見に影響されて、告白しないですか? それとも無視して、告白しますか?」そう質問すると、生徒会長は考え始めたので俺は続けた。「最初に如月さんも言いましたが、今回の相談に明確な答えなんてありません。ということは、生徒会長が納得する選択をすればいいんです! 俺たちの意見も気にしなくていいです。自分で決めたことを信じて行動すればいいと俺は思います! 告白するしないどちらを選んでも、俺は応援します。俺たちができるのは、このくらいしかありません。あとは、生徒会長がどう行動するかです。それでもし、また困ったり、悩んだりしたら、俺たちはいつでも相談に乗ります」
ここまで話を聴いていた生徒会長は、急に立ち上がった。その姿は、普段目にしていた凛とした表情の生徒会長に戻っていた。どうやら決心がついたのだろうと思った。
「ありがとう。あなたたちに相談して良かったわ!」
「こちらこそ、ありがとうございました。なんか一方的に意見を言ってしまって、すみません。聞いていてキツくなかったですか?」如月さんが尋ねた。
「大丈夫よ! いろんな意見を聴けて良かったわ!」
「そうですか! それなら良かったです!」如月さんは笑顔になって安心したようだった。
「もう行くわね!」生徒会長はそう言って、入り口のドアまで歩いたところで振り返った。そして「もし、また悩んだら来てもいいかしら?」と少し恥ずかしそうな感じで確認をしてきた。如月さんが「もちろんです!」と答え、ベルさんが「いつでもいいデスよ!」と答えた。それを聞いた生徒会長は笑顔になり、「ありがとう」と言ってから部室を出て行った。
数日後の放課後、俺はいつも通り部室で本を読んでいた。みんなもいつも通り各々好きなことをして過ごしている時、ドアをノックする音が聞こえた。霜月が「どうぞ」と言うと、生徒会長が入って来た。霜月と神無月が退出しようとしたが、生徒会長がすぐに終わると言って引き留めた。生徒会長は事後報告に来たらしい。事情を知らない二人がいるので、詳細には語らなかったが、大体のことはわかった。
あの後、生徒会長は一ノ瀬さんに自分の気持ちを伝えたそうだ。結果的に一ノ瀬さんには振られたらしいが、親友として好きだからこれからも仲良くしたいとのことだそうだ。告白は失敗したが、自分で納得のいく行動をしたから、スッキリしたと言っていた。そして改めて「ありがとう」と感謝された。そして最後、ドアの前で振り返り「それと、これからは私のことを『睦月』と呼びなさい!」と俺の目を見て言い、出て行った。
その後、俺は買い物の用があったので、みんなより少し早く帰ることにした。靴を履き替えて、駐輪場の横を歩いていると「ありがとね、水無月くん」という声が後ろから聞こえた。振り返ると、一ノ瀬さんが立っていた。
「なんのことですか?」と俺は聞いた。睦月会長は、俺たちに相談したことを一ノ瀬さんには話していないと言っていたので、俺は知らない振りをした。
「睦月ちゃんの相談に乗ってくれたんでしょ?」そう言われたので、俺は首を傾げて知らないアピールを続けた。それを見て、一ノ瀬さんはさらに迫って来た。「知らない振りしても無駄だよ! 私、睦月ちゃんが相談部の部室に入るところ見ていたから」そう言われたので、流石に知らない振りを通すのは難しいと判断して認めることにした。
「俺は別に何もしてないですよ。ただ話を聴いて、意見を述べただけです。それに、如月さんとエイプリルさんもいましたし」
「そのおかけで、睦月ちゃんは元気になることができたんだよ! ……正直、私も睦月ちゃんが何か悩んでいるのはわかってたの。力になりたいから、相談に乗るよと言っても話してくれなかった。今思えば仕方のないことだと思うけど……、もっと他のやり方で睦月ちゃんを助けてあげられたかもしれないと思うの。でも、それがわからなくて、結局私は何もできなかった」
「俺も何もしてないです。睦月会長は自分で決めて行動したまでです。俺たちが相談に乗らなくても、あの人なら同じ決断をしたと思います。たまたま相談相手が俺たちだっただけです…。それに、その後のことは、当事者の睦月会長と一ノ瀬さん次第ですから、一ノ瀬さんはこれからですよ!」
「そうだね。睦月ちゃんが勇気を出して、言ってくれたんだから、私もそれにしっかりと向き合わないとね!」
「そうですね!」
「最初は戸惑ったけど、今では前よりも仲良くなれた気がするの! それもやっぱり水無月くんたちが相談に乗ってくれたおかげだよ!」
「それは、一ノ瀬さんと睦月会長の行動の結果です。二人が仲良くできているのは、お互いが常に相手に思いやりを持っているからです! もっと自分たちを褒めてもいいと思いますよ!」
「ふーん。水無月くんってそういうスタンスなんだ! 随分謙虚なんだね!」
「謙虚じゃないです。ただ事実を言っているだけです!」
「たしかに、私たちが仲良くできているのは、私たちの行動の結果かもしれないね。でも…その行動のきっかけをくれたのは水無月くんたちだよ!」
「そうかもしれません。でも、睦月会長なら俺たちが相談に乗らなくても、時間が経てば、同じ決断をしていたかもしれませんよ」
「そうだね。でも、それはわからないよね」
「そうですね」
ここで少し間が空いた後、一ノ瀬さんが沈黙を破った。
「でも、私と睦月ちゃんが水無月くんたちに感謝してるのは、本当だよ!」
「感謝されることをしたつもりはないんですけど、そう言うのなら、ありがたく受け取っておきます!」俺はそう言って、手をグーにして伸ばした腕を、自分の胸に当て、受け取ったというジェスチャーをした。
「また借りができちゃったね! これで二つ目!」
「俺、何か貸しましたか?」
「この前の自転車の件と今回の件だよ!」一ノ瀬さんは指で数えながら教えてくれた。
「それならもうお返しはもらいましたけど…」
「え!? 私、まだ何も返してないと思うけど…?」
「この前のことも今回のことも、「ありがとう」っていう感謝の言葉をもらったんだけど」
「え!? 水無月くん、それ本気で言ってるの?」一ノ瀬さんはポカーンとした表情をして聞いてきた。
「ん? 本気ですけど…。だって感謝されるのって嬉しくないですか?」
「いや、嬉しいけど…。え! 何? 水無月くんって聖人なの?」
「俺が聖人に見えますか?」俺が真面目な顔で言うと、一ノ瀬さんはツボに入ったのか、笑い始めた。俺は笑わすつもりはなかったのだが、最初に見た一ノ瀬さんの表情より今の方が明るくなっている気がしたので、安心した。それから、一ノ瀬さんは笑いながら、言葉を発した。
「水無月くんってやっぱり変な人だね! それに、思っていたよりもずっとやさしい」
「そうですか? 俺は普通にしてるだけですけど…」そう言いながらも、内心はやさしいと言われて少し照れてしまった。
「水無月くんってやっぱり面白いね! 知り合えて良かった。もし、水無月くんが何か困ったら、私と睦月ちゃんがいつでも力になるからね」
「それは心強いですね!」
「ごめんね。帰ってるところ呼び止めて」
「いえ」
「じゃあまたね」一ノ瀬さんはそう言って、手を振りながら校舎に戻って行った。
こうして、相談部は生徒会長とその親友を味方にすることに成功したのであった。
俺は帰り道、今回の件を振り返っていた。「好き」という言葉は抽象的だ。「好き」という言葉だけでは、どの程度好きなのかわからない。こと人間関係に関しては、特にそう思う。友達として好き、家族として好き、恋愛的に好きなど、同じ「好き」という言葉でも感覚は違う。中には人間として好きとかいう人もいるらしいが、何様なんだと思う。
今回の睦月会長は、この「好き」のすれ違いに悩んでいた。睦月会長は一ノ瀬さんのことが、恋愛的に好きで、一ノ瀬さんは睦月会長のことが親友として好きだった。この違いは男女問わず、誰でも経験することだろう。最初は友達と思っていたが、いつの間にか好きになっていたという話はよく聞く。実際、恋愛なんてものはほとんどがそうだ。たまに一目惚れをするという人がいるらしいが、それは性欲が高まっているだけで、恋愛とは少し違う。それは、相手を愛しているのではなく、ただヤリたいだけなのである。
俺自身、まだ人を恋愛的に好きになったことはない。いや、小学生の頃に一度、同級生の女の子を好きになりかけたことはある。しかし、好きと自分で自覚する前にその子が転校してしまったので、結局そのまま冷めてしまった。今思うとそんなに好きではなかったのかもしれない。それからは、ずっと本を読んだり勉強したりしているので、恋愛なんて考えることもほとんどなかった。もしかしたら、自分では気づいていないだけで、俺も性的マイノリティの可能性はある。他にも何冊か恋愛についての科学本を読んだが、自分が恋愛するなんて考えなかった。それにチンパンジーになりたくないとも思った。
人はなぜ恋愛をするのか、と問えば、生物学者は、種の保存と繁栄のために繰り込まれた本能、と答えるだろう。つまり子孫を残すためということだ。理屈ではそうかもしれないが、今回のように同性愛者には当てはまらない。それを理解せずに、社会全体が異性愛を常識と思い込むと、性的マイノリティの人は生きづらくなるだろう。その結果、LGBTQは生産性がない、と意味不明なことを言う政治家が出てくるのだ。その政治家を選んでいるのは国民ではあるが…。
今回の件で、恋愛は複雑だと改めて思った。一人ひとり違った恋愛観を持っており、社会的、文化的にも影響を受ける。大事なのは、社会がどうこうとか、周りがどうこう言うことではなく、自分と相手がどうしたいのかだと思う。お互いが相手を思いやって、切磋琢磨し、協力し合える関係を築ければ、どんな困難も乗り越えていけるのではないだろうか。
読んでいいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




