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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【エピローグ】 青い児鬼の周りの人々
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児鬼は想い、ここに立つ

これにて『幼児編』終了でございます。

 ここ最近、ディムオウグの領域は騒がしい。

 それは、約一年を通して立て続けに起きた様々な技術革新や新兵器、新たな領域の獲得などを要因としたものを含めれば目新しい変化では無かったが、今回の喧騒には他には無い明らかな方向性があった。

 その方向性とは、『住人のほとんどが浮かれている』というものである。

 とはいえ、その原因は大規模な収穫に合わせた祭りというわけでも無い。

 では原因は何なのかと言えば、答えは実に簡単だ。約十日後、次の月へと暦が移るのをもって、ディムオウグ家の末息子、セイリュウ・セイル・ディムオウグが五歳の節目年を迎えるのである。


 節目年とは、地球で言えば七五三と似たようなものだ。

 この世界の男子も、女子と比べれば幼児期の死亡率は非常に高い。単に貧富の差から来る栄養不良を除いても、原因不明の突然死という形で男子はかなり死亡するのである。元々性別を持つ生命において、男という形態は女から派性した劣化形態であるという説がある。その発生要因は諸説あるので省略するが、そんな説がこの世界でも常識なのか、とにかく、死にやすい男子が無事に年を重ねれた事を祝おうという慣習が生まれ、五歳、十歳、そして成人となる十五歳の計三回を大々的に祝うことが、男児を得た家庭で行われる行事なのである。


 だがセイルは、ここディムオウグを領主とする、ディムオウグの名を冠する領地の中心的な存在だ。とても家庭内でささやかにという慣習が通るわけもなく、中央領界と留まらず全領域に渡っての祭りへと暴動に近い盛り上りとなったのである。

 その背景には、初子になかなか恵まれなかった末に漸く身籠られた後妻、マリシアへの祝福や、四歳になって間も無くに死にかけたセイル自身への安堵なども含まれる。緘口令の敷かれたドラゴン関係の騒動は除外しても、結構領民を不安たらしめていたこの一年なのであった。


「……セイルさま、なんにゃか、すっごく御幸せちょーですね」

「うん、ここまで皆に御祝いされるってのも初めてだし……」


 早朝、場所はセイルの部屋。その寝室である。

 大人でも数人が余裕で寝られる豪勢なベッドには部屋の主であるセイルと、先日、自称御忍びでヴィーツィック領よりやって来た婚約者、ピンキィの姿があった。寝所を共にはしているが別に婚前交渉という意味ではない。というか、例え寿命の長いエルフとはいえ、外見どおりの年齢であるピンキィには未だそんな知識や欲求などは欠片も無い。

 単に、子供の意識での範疇で『好きになったセイルのそばに居たい』という、その希望を叶えるために、セイルと同じベッドで寝ているだけなのである。


「……なにより雁字搦めの肉布団……もとい、母上の抱き枕……、訂正、過剰な愛情の拘束からの解放がこんなに清々しいなんて。自由っていいよね、ピンキィ」

「えうえう~、はえ?」


 ピンキィの御忍び来訪には一応お題目もあった。それはセイルの節目年をヴィーツィック領主代行として祝うというものだ。本来は祝いの月に合わせた訪問の予定であり、せいぜい祭りとして行われる予定日の二週間も前に到着すれば良いスケジュールとなる。

 だが、実行されたスケジュールは軽く一ヶ月を越えるほどに前倒しされた。その理由は、敢えて上げる必要もなかろう。

 そしてピンキィの希望が優先された結果、セイルはようやく、とうとう三ヶ月目に突入かという過保護拘束から逃れホコリを被りかけた自分のベッドへと帰還出来たのである。


 それから約一ヶ月。内容的にはある意味同衾相手がエルフ幼女に代わっただけだが、例えピンキィに全裸就寝の習慣があろうが、例え毎晩、ピンキィによる健全系寝技拘束に襲われようとも、性的要素が皆無な分、そのあたりに苦心する事無く安眠を得られるセイルには至福といっていい環境と断言出来る日々なのである。

 毎朝、その幸せを噛みしめれるほどに。

 こんな朝のかけあいも、話す内容に違いはあれ、毎日のようになされている。

 姿は無くとも影から仕える家臣一同、自業自得とはいえ、どんだけ妙なトラウマを負ったのかと、裏でひっそり涙する有り様である。


「お早うございます、御二方。湯浴みの準備が出来ております。どうぞ此方に」


 そんな内心を(おくび)にも出さず、控えの間から専属メイドのヒノが来る。その背後にはピンキィの専属となるアンも続き、二人は暫く離れて朝の仕度をすることとなるのである。

 朝食前の軽い準備とはいえ、やはり男と女では手間にかかる時間は違う。早々に仕度を終えたセイルは朝食をピンキィに合わせる意味で自室へと戻って来た。

 父や母とはそもそも別なので問題は無い。セイルが拘束されていた頃は別として、両親は親である前に領主なのである。そちらの仕事を優先するは当然であり、最近は時間刻みの予定に追われるウルとは二ヶ月以上も顔を合わせていないのだ。

 そしてようやくセイルを解放した母、マリシアも似たような状況だった。青鬼人ではなく、西欧人系を思わせる系統の人族であるマリシアは、ディムオウグ領内において魔術に関する部門を統括している。約一年前に発覚した担当人員のトラブルを再発させないための処置である。責任を一次的に権力の頂点に置き、専門家イコール最高責任者という放任気質を取りやめたのだ。

 もちろん、単なるお飾りとならないようマリシア自身も魔術関連の知識を得た。元々貴族とは、その手の技能に秀でているからこそ支配者を名乗れるのである。特に常時最前線を謳う気質のディムオウグ領に嫁いだマリシアは、魔術教師として来たコルメットには及ばないものの幾つかの実戦投入可能な魔術を習得していた。故に素人というわけでも無いのである。

 実際、殻徒関連の魔術や機材には充分な管理能力を発揮し、女性特有の繊細さで更に改良をする域にまでなっている。

 セイルに与えられた壁級殻徒(ウォーラー)・リトルブルーは、配された魔術系技術において、ある意味マリシア渾身の作といっても過言ではなかったのである。


 閑話休題。


 かれこれ一ヶ月。ピンキィによって得られたこの状況は、セイルに新たな行動の流れを与えた。

 ピンキィの湯浴みは一時間近くはかかる。烏の行水に近いセイルに比べれば、その待ち時間はセイルが得られる貴重な個人の時間だ。

 それを理解する有能な家臣達は、監視は止めずとも部屋からは居なくなる。


「……」


 湯浴みで火照るセイルの肌からは、まだ薄っすらと湯気が立ち上る。身に纏うのは子供サイズのバスローヴのみ、着替えはピンキィの準備が終わるのに合わせる。

 前合わせのバスローヴは、生地やデザインは違うが作りは和服、浴衣に近い。

 特に今、セイルがするように帯の左脇へと右手をまわす所作をとれば、観る者が観れば居合の構えとも取れる様相である。


「……っ!」


 無言の気合いで右腕を振る。左から頭上へ、そして頭上から真っ直ぐ下へと振り下ろし、握り拳とした手首は自らの心臓の高さへ。

 ただ無手による抜刀の型は、腕を腰から振る段階で無手では無くなっていた。微かな光の塵が振る手首に纏わりつき、それはやがて剣の形へと纏まる。

 右手のみの正眼の構えとなる時には、まだ幼児のセイルに合わせた長さの直剣となり、剥き出しの剣身からは青いオーラを放っていた。


 変化はそれだけでは無い。

 既にセイルの全身には、剣と同じ素材で作られた全身甲冑が存在している。兜のみはサークレットと鉢金を合わせたような簡易な形となっているが、剥き出しの髪の毛一本一本まで、防護の加護が行き渡っているのをセイルは自覚していた。


 この姿は、もうセイルにとって馴染み深い氷結の武具が展開した状態である。剣や鎧に冠された銘は無いが、炎熱のドラゴンと相対しても何一つ欠けもしない、攻防一対の最強武装である。

 本来は、セイルが成人を迎えるまでは封印されるはずだった武具である。生命の危機には自動的に顕現するという設定がなされてはいたが、それが今、明らかにセイル意思で起動しているのは、それを設定したドラゴン、マリーンの想定には存在しない事実だ。

 誤動作では無い。その証拠に、封印の印であるセイルの額の呪紋は武具が起動した時を示す紋様へと変化している。

 それはつまり、セイル自身が、マリーンの設定したセイルの成人という設定をクリアしているという証拠なのである。


「……やっぱり、判断要素は魔力かなあ……」


 ドラゴンが成人の判断に使う基準は、はっきり言えば人族には謎の一言だ。

 この世界に生きる生命の種族は多彩だ。中には完全に理解不能の生理機能で行動する種族も居る。それら全てに、そもそも成人という概念が存在するのかも疑問にしか思えないのである。


 ただし、この世界では保有し活用する魔力の量で強弱が決まるというのは、嫌という程実感したセイルだ。

 ならばドラゴンの判断の根底に、魔力があるのも当然だろうと推測したのである。


「思えば、色々行動の幅が広がったのも領界を得てからだもんなあ」


 領界の支配者の資格をとり、極自然に広大な大地を変化させれる意識を得たセイルには、その力の振るいようが魔力によるものという感覚には結びついていなかった。

 単に、どこまでも自由に出来る事が出来る。という確信があり、それをそのまま成しただけなのだから。


 それを改めて自覚してみると、勝手気ままに発動していた過剰な能力の大半をある程度意識的に使えるようになったのは、あの温泉砦を構築して以降に集中していると理解出来た。


「……だから、アレも出来たって事なのかな?」


 自らの言葉に連想した事は、その思い描く様をそのまま形へと化したらしい。

 剣を持つ腕は変貌していた。視界も変わった。懐かしくもある今の背丈よりは遥かに高い身長からの視界だ。

 二度目の感触。しかしかつて、二十年以上を過ごしたセイルの青涼としての姿。

 鏡があれば、朝の髭剃りで何度も見ていた自分の顔も確認出来たろう。


 そして空気が変わった。


「やばっ……いけど、ん。今回は大人しいね」


 魔力の高い者にはバレている変化だろう。だがその変化がどういう物か、具体的な事を知覚できるのは、せいぜい二人のドラゴンだけと確信出来る。


「こんな感じなら誤魔化せそうだから……、まあ、いいか」


 セイルが青涼へと変身したと同時に、このディムオウグ領中央領界には大きな感情が満ち溢れていた。『歓喜』という感情が。

 この感情はあの時と同じ。青涼がこの世界に現れた時に現れ、そして意識を根こそぎ塗り潰された『たった独り(イスト)からの溢れる感情』だ。

 うっかりと。それを再び体感するまで忘れていた現象だったが、今回は気絶させられるほどの強烈な圧力は無い。そして現在の領内は、元々セイルを祝う祭りの感情にも満ちている。

 これならば、多少この感情にあてられても浮かれ過ぎて暴れて騒ぐ程度には治まるだろう。だろうといいなあ……、で納得するセイルだった。


 そして、ふと。

 再び自分の変化を感じてみれば、もう元の青い児鬼へと姿が戻っているのを時間するセイル。今回は前よりかなりアヤフヤな感覚のままであり、今さっきまでハッキリしていた意識自体にもの凄い疲労感が上書きされている。正直、立っているのも辛いくらいに。


「これもやっぱり、魔力がどうこうって感じなんだろうなあ……」


 たまらずベッドに寝そべりつつ自問するセイル。実際に体験するのは初めてだが、これが魔力切れの症状なんだろうくらいは想像出来る。

 それが何故今かとも想像すれば、結論はやはり、セイルの保有する魔力の総量なのだろうへと行きついた。


「とりあえず、変身には最低二つの領界を支配しないと……って感じだね」


 現在セイルが支配する領界の数は一つ。そのくらいしか前回との差異が無い以上、仮定でもそう考えておく。単に前世の姿になるだけでその魔力消費とは、なんと燃費が悪いのかと呆れるセイルだ。


 変身の終わりと共に消えたイストの意識に、一応トラブルの要素も鎮火したと安心するが、そこで思い出したのは、イストが発したと思うある言葉だ。


『青涼くんだ!』


 まだ大人になりきれないような少女の声だった。聞き覚えがある声だったと思う。聞き覚えのある、言葉まわしだったとも思う。しかし、前世の何処で聞いたかと問われれば答えれない。記憶の何処に埋もれているかも判別出来ない、気分が嫌な感触に染められる感覚だった。


「んー……。んんんー……。気持ち悪い」


 湯浴みで寝汗を流した代わりに今度は変な脂汗をかいたように感じるが、幸い実際に汗はだしていない。また風呂に戻らなくていいのに安心しつつ、この時、セイルの中で漠然とした目標が生まれた。


「もっと魔力を得よう。それで一応、このモヤモヤが消えるような気がするから」


 もう一度領界の支配を得れるようにするか、もしくは他の方法か。そのあたりの具体性あるものではない。今習っている学習の一環でも、魔力を強化する方向性はあったとも思い出したので、まあ手段は色々あるだろうくらいの決心だ。

 ただ、その障害だけは明確に。それこそ脳内に精密な映像と音声付きで再現出来る。


「……それには先ず、母上をナントカシナイト……」


 決意早々、『俺達の闘いはコレカラダ!?』的な果ての無い高みの坂をよじ登る自分の姿を連想してしまうセイルである。


 ちなみに、セイルが節目年の祭りの主役を終えた後の予定は特に無い。それは言うならば、再び、母マリシアの(かいな)の中に逆戻りという意味に他ならない。


 さて、セイルが無事その決心を成し得れるかは、今はまだ(イスト)のみ知る事でしかないのかもしれない。




さて、次章は少し大人になったセイル君となりますが、それをこのお話しの続きとして出すか、別の投稿小説として展開するかは未定です。


ちょっと身辺整理とかも含めての雑用もあり、ハッキリ出来ないのがなあ…。

てなところで、ではでわ。


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