あの子は死んじゃった
No.4 「あの子は死んじゃった」
二人は闇に包まれた街の中を歩いていた。道の端に間を開けて並んでいる街灯が寂しげな夜の街に佇んでいる二人を導いていた。その光に照らし出されている彼女の横顔はどことなく寂しそうに見えた。そして、彼女の家に着くと、彼女は庭へと続く格子門を開けた。その音を聴きつけたクリーム色の子犬が小屋から勢いよく飛び出してきて、彼女の帰りを待ち詫びていたように吠えたてた。彼女はその子犬を優しく叱りつけると、コートのポケットに手を突っ込んでいる彼に微笑みかけた。
「カワイイでしょ、あの子」
彼は小さな尻尾をせわしなく振っている子犬を見つめていた。
「うん、でも、あいつは?」
「えっ?」
「ラッキーだよ。ひょっとして、もう……」
彼女は彼女を待ち構えている子犬に視線を送った。
「うん、あの子は、死んじゃった」
「いつ?」
「去年」
「そうか」
彼の白い吐息が冷たい空気に触れて、散った。
「なあ、あのチビ、触らせてもらってもいいか?」
彼女は頷いて、彼を庭へ通した。彼は子犬の前で屈むと、あどけない吠え声をあげながら飛びかかってくる子犬を受け止めた。
「こいつの名前は?」
「ハッピーっていうの。ちなみに男の子ね」
「そうか、お前はハッピーっていうのか。どれ……あっ、このヤロウ!」
彼が子犬を抱き上げると、子犬は彼の顔をしつこく舐めまわした。彼は子犬の舌をうまく避けながら、まだ生え揃ったばかりの柔らかな毛を撫でた。
「元気があり余ってるみたいだな」
彼女は膝に手を置いて屈みこみ、一人と一匹の様子を楽しげに覗きこんでいた。
彼はひとしきり子犬とじゃれ合うと、まだ構ってもらいたそうにすり寄ってくる子犬を引き離して芝生の上に置いた。
「さてと、そろそろ帰るよ」
「うん、送ってくれて、ありがとう。今日は楽しかった」
「それじゃ、またな」
「また、いっしょに遊んでくれる?」
「暇があったらな」
「わかった、またね」
彼女は子犬を抱きかかえて門の前まで見送りに出た。彼が道の角を折れる前に彼女の家を振り返ると、まだ門の前にいた彼女が小さく手を振った。