海の彼方へ
風車の村を出てから三日。
林帆とヨルを乗せた帆船は、順調に西へ進んでいた。風の剣が風を操り、船はまるで生きているかのように波を滑る。
「この調子なら、あと二日ほどで水の神殿のある島に着くはずだ」
村長からもらった航海図を見ながら、林帆が呟く。ヨルは船首に座り、潮風を浴びて気持ちよさそうだ。
「海って、こんなに広いんだね」
「ああ。この世界にはまだまだ知らない場所がたくさんある」
その時、遠くの海面に何かが浮かんでいるのが見えた。黒い影。ゆっくりと近づいてくる。
「あれは…」
近づくにつれて、それは巨大な魚の背びれだとわかった。体長は十メートル以上。ゆったりと泳いでいる。
「海竜だ。この世界の海の主。普段はおとなしいが、刺激すると危ない」
老怪の声が警戒を促す。
林帆は風の剣を握りしめ、船の方向を微調整した。海竜に近づかないように。
しかし、海竜は船の方へ向きを変えた。ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。
「なぜだ?」
「お前の剣の力に反応しているのかもしれない」
林帆は剣を鞘に収め、力を抑えた。すると海竜は少し迷ったように泳ぎを止め、やがて深みへ消えていった。
「あぶなかった…」
「優しい力を持っているからこそ、時には使わないことも必要だ」
その夜、海は鏡のように静かだった。月明かりが波間に揺れる。
突然、ヨルが小さな島を見つけた。
「あそこ、何か光ってる!」
確かに、島の中央からかすかな青い光が立ち昇っている。
「あれは…水の力の光だ」
林帆は船を島に向けた。
上陸すると、そこは真っ白な砂浜と、緑豊かな森。中央には小さな泉。その水が青く光っている。
泉のそばに、一振りの短剣が刺さっていた。柄には波の意匠。
「水の剣…!」
林帆が手を伸ばすと、短剣が震え、水の光を放った。彼の掌に収まった瞬間、周囲の空気がしっとりと潤む。
「これで二つ目だ。風と水…あと火と土が残っている」
彼は水の剣を腰に差し、ヨルと共に船へ戻った。
「次はどこへ?」
「南の火の山。そこに火の神殿があるはずだ」
帆を上げ、船は南へ向かった。
月明かりの下、二本の剣がかすかに輝いている。
旅はまだ続く。




