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水滸前伝  作者: 橋邑 鴻
第九回  小将軍 神臂もて妖邪を排し 宋保義 宿魔の性を萌芽せしこと
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当たっちゃった

 激昂し、思わず声を荒げた花栄は、しかし、すぐにその問いが無意味なものであると悟る。


 男からどんな答えが返ってきたとしても、たとえそれが謝罪の意であったとしても、それこそ『鴉声(あせい)(烏の鳴き声)』も同然で信ずるには値しない。


 と──


「ごめんなさいっ!!」


 花栄が全く予想だにしていなかった方向から全身全霊の謝罪が飛んだ。

 花栄の剣幕とあまりの怒声に、屋敷の奥から生欠伸と共に現れた男は、訳も分からないまま「ヒュバッ!!」と音がせんばかりに腰を直角に曲げ、


「え、えと、何か怒らせちゃったんならゴメンね?けど、思い当たる節が全然ないし、一応ホラ、謝るには謝ってみたけどさ、それたぶん俺の所為じゃないんじゃないかなー、なぁんて思ったりして…」


 へらへらと愛想笑いを浮かべながら、男──宋清は恐る恐る顔を上げる。


 大丈夫だよ、四郎。別にお前のせいでも、お前が悪い訳でもない。


「…って、ええぇぇーっ!!!?ちょっと大郎(花栄)、何して──」

「来るなっ!!」


 意味の分からぬ光景に遭遇し、思わず一歩、二歩と歩み寄った宋清を、花栄は視線も向けず、声だけで制す。


 尋常ならざる花栄の様子に、その視線を追って宋清が庭を見遣(みや)れば、


「兄さん、と…昨夜の…!?」

「四郎、宋哥(宋江)が見えない位置まで下がれ」

「え?でも…」

「いいから!」

「わ、分かった」


 或いは宋清から話し掛けさせれば、宋江も正気を取り戻すのではないか、と一瞬脳裏をよぎった花栄であったが、すぐにその考えを捨てた。



【ただでさえ宋哥を質に取られた今、万が一ここで四郎まで相手の術に囚われてしまっては、俺一人の手に負えなくなる。

 相手は視線だけで対象を操れるやもしれん男だ。用心するに越した事はない】



 慌てて(きびす)を返した宋清は、庭から死角となる位置まで下がって恐る恐る花栄に声を掛ける。


「えっと、何から聞いたもんか…大郎、まずコレどゆコト?」

「昨夜、俺が言った通りだ」

「昨夜?…?…え?もしかして、悪い方に予感が当たっちゃった?」


 花栄は尚、視線を返さず、ただ僅かに肯首する。


「えぇ~…えーっと、困ったな。マジでコレどうしよう。ねえ大郎、俺どうすればいい?」

「四郎、落ち着け」

「落ち着けって言われても…」

「ここは俺が何とかするから、お前は戻って義父上(ちちうえ)(宋忠)や家の者を庭に近付かせないようにしろ」

「あ、ああ、そっか、そうだね。俺が居たって役に立たないし…っていうか、俺みたいな役立たずが大郎の視界に入る事すら烏滸がましい──」

「そんな事を言ってるんじゃないが、お前がそう思いたいなら別にそれでいい」

「ひどい…もうちょっとキッパリ否定してくれても良くない?」


 四郎よ。小将軍は今、お前の軽口なんかに付き合ってる場合じゃないんだよ。察しろし。


 まあ、宋清の名誉のために一言付け加えるとすれば、さすがに朝っぱらからこんな事態に遭遇するとは思ってもみなかったろうから、テンパってそこまで気が回らなくても仕方がないと言えば仕方がない──事も無くはない、って事にしておいてやらん事もない。


「いいか、俺が呼びに行くまで、何があっても絶対に(ここ)へは近付くな。もし…万が一あの男が、先にお前達の前に姿を現すような事があれば…その時はお前が義父上や家の者を守って県城に向かい、絶対にあの男を逃すなと衙門(がもん)(役所)へ訴え出ろ」

「…!?それって…そんな縁起でもない──」

「……」


 花栄はただ沈黙を返す。


 この状況を経て、宋江でもなく、花栄でもなく、宋清が皆を率いるという行為の意味するところは、考えるまでもなく明白だ。

 さすがにそれくらいは宋清でも分かる。


「そ、そしたらさ…えーっと、あっ、じゃ、じゃあ、今から衙門に行って捕り方を連れてくるからさ──」

「止めておけ。余計な事はするな」

「でもっ…」

「四郎、屋敷の外に仲間が潜んでる可能性もあるんだ。使いに出した者が捕らわれたり、(まか)り間違って命を落としでもしたらどうする?」

「あ…そ、そっか…えーっと、じゃ、じゃあ…」


 花栄の脳裏には、未だいつぞやの会話がはっきりと残っている。



【この男には城外まで同道したという「弟子」がいる。


 無論それとて、今となっては「鴉声(あせい)」として一笑に付してもいい。

 しかし、戯れ程度に俺が放った「薄情な弟子」という言葉に、不快も露に言葉を返したくらいだ。弟子の存在自体は間違いなかろう。


 その弟子の所在が今は分からん。それほど手塩に掛けながら、夜露に濡らしてまで、こんな早朝から野外に潜ませとくとも思えんが、所在が分からん以上は用心するしかない】



「心配するな、四郎。さっきのは万が一の話だ。そう言ったろう。すぐに終わらせる」

「…本当だね?」


 震える声で、宋清は聞く。


「10人、20人に襲われても平気でしょ?」と宋清に問われれば、何の躊躇いもなく受け入れる花栄だ。その花栄が「縁起でもない事を言うな」と咎められ、ただ沈黙のみを返したのだから、その意味もまた明白である。


『それも()むなし』


 その覚悟と、いつになく険しい花栄の表情を目の当たりにすれば、投げ掛けられた楽観的な言葉に不安を抱いたとしても、宋清は責められまい。


「ああ。俺を信じて今は言う通りにしろ」

「…分かった。大郎が『信じろ』って言ったんだからね。絶対に裏切るなよ?」

「ああ、分かってるよ」


 微かに表情を緩めた花栄の返事に、宋清も軽い笑みで応じて屋敷の奥へ消えた。


「今のは押司(宋江)の弟御ですな。互いに信を寄せ合い、何とも睦まじい事だ」


 男の言葉に花栄の面には一瞬で険しさが戻り、


「俺が誰と親しく付き合おうと貴様には関係ない」

「是非、そう願いたいものですな」

「何?」

「貴方様は役人として顔も広うございましょう?どうも手前はこの醜悪な人相の所為か、謂れのない疑いを掛けられる事が多うございましてな。そんな折の為に、是非とも貴方様から『この男は関係ない』と一筆賜れば有り難いが」

「チッ、下らん屁理屈を…だが、敢えて付き合ってやる。人の心根はその人相にこそ最もよく現れると言う。貴様が己の人相を評して醜悪とするのなら、それは己が心根の醜悪なるを認めたに過ぎん」

「左様で。しかし、困りましたな。手前にも都合があります故、そうそう押司に(かま)けてばかりもおれません。このままゆるりと貴方様がお疲れになるのを待つ、というのもどうも…」

「ならば諦めて降れ。大人しく宋哥への術を解くのなら、その後に衙門へ引き渡してやる」

「これはとんだお戯れを。他人の言を鵜呑みにする愚かしさを説いた手前に、それを信じろと?弓を引き、押司の陰から手前が飛び出すのを、今や遅しと待ち構えておられながら…『九泉(黄泉の国、あの世)の下に送ってやる』の誤りでは?」


 もちろんその通りだ。

 せめて花栄が術の一端を解き明かす前に男が降っていたのなら、まだその身柄を司直の手に委ねるという気も起きたろう。が、そんな段階はとうに過ぎている。

 今さらどんな命乞いをされようと、情けを掛けるつもりは更々ない。


「…貴方様はいつぞや、こう申されましたな。『誰を信じ、どの道を進み、何に命を懸けるかは己が決める』と」

「それが何だ」

「その時、申し上げたでしょう?手前は貴方様の身を案じておるのですよ。貴方様が信じるべきでない者を信じ、進むべきでない道を進み、懸けるべき価値もないものに命を懸け、以て無為にその命を散らしてしまうのではないか、と」

「俺の生き方を貴様にとやかく言われる筋合いはない」

「貴方様はまだお若い。今こそこの国の有り様を、目を逸らさずに御覧になるべきだ。都鄙(とひ)(※1)に蔓延(はびこ)贓官汚胥(ぞうかんおり)は、権を(たの)んだ横征暴斂(おうせいぼうれん)(※2)で天下の財を(わたくし)し、朝廷の牛耳を執る(※3)貪得無厭(たんうむえん)(※4)の有象無象は、昏君(こんくん)(今上帝・徽宗を指す)を前にひたすら綺麗事と遁辞(とんじ)(※5)を並べ、虚言と自賛で己を飾るばかりで、民の窮状など一顧だにする事もない。国家に仕え、その禄を食む貴方様は『尽忠』こそを美徳とする生を、今日まで送られてきたのでしょうが、では、そんな貴方様が命を燃やして国家に尽くしたとて、一体この国は、国を動かす為政者達は、その赤心にどれだけ報いると言うのか」

「ほざけ。貴様がどれほどこの国の有り様に憤り、怨みを抱いてるかは知らんが、それを晴らす為に俺の力を利用したい、使えないのは惜しいという、ただそれだけの事であろう?為政者の言葉を『綺麗事』と断じるのであれば、己の腹に燻る私怨を、さも大義であるかのように装う、貴様の一言一句こそが綺麗事以外の何物でもないわ!」


 花栄は胸を撫で下ろす。


 男の言葉が全く胸に響かない。


 民の窮状は花栄の耳にも届く。

 花石綱を初め、そんな噂は宋の全土に満ち溢れている。


 いや、噂だけではない。

「逼上山」(※6)という言葉があって「切羽詰まった状況に追い詰められ、否応なしに罪を犯した者が、行く宛てもなく山に逃げ込み、山賊に身を(やつ)す」といった意味だが、清風鎮(せいふうちん)を発つ際に花栄が直接その目で見た光景は、正しく官の横暴により「(せま)られて山に上がった」典型的な例に他ならない。


 それが分かった上で尚、花栄の心は男の言葉に揺らがない。


 花栄とて、もし抜き差しならない状況に追い込まれれば、どんな行動に出るか分からない。

 やむを得ず罪を犯してしまうのかもしれないし、場合によっては、それで人を殺めてしまう事もあるのかもしれない。或いは謂れのない罪を着せられれば、山野に潜んで身を守り、賊に落ちぶれた自らの不遇を嘆いて国を恨むのかもしれない。


 結局のところ、切羽詰まった時の心境は、切羽詰まってみなければ分からないものだが、少なくとも今、この男からそんな悲壮感は微塵も感じられない。あるのはただ、この国が憎い、国を動かす者が妬ましいという感情だけだ。

 しかし、神仙たる存在ならいざ知らず、人が国を治める以上、その民が一片の不満も抱かないなどという事は絶対にあり得ないのだから、己の境遇に不満を持つ者の愚痴に付き合って「そんな国は滅ぼしてしまえ」では、天下は未来永劫定まらない。


 それ以上に、花栄は男の性根が気に入らない。


 朝廷を恨み、国を倒すと言うくらいなのだから、男には男なりの憤りがあって、切っ掛けがあるのだろう。それは花栄にも分かる。

 であるならば、それを己の口でそのまま語ればいいのだ。


 男はそれをしない。


 実のところ、男がそんな思いを抱くに至った経緯には、さしたる理由などないのではないか、とさえ花栄は思う。

 男にとってそれがどれほど譲れない事であっても──それこそ、この宋という国に対して怨み骨髄に達する、何かしらの出来事が過去にあったのだとしても、その怒りには傍からの理解も賛同も得られない。そして、男もそれが分かっている。

 つまり今、男には語るべき主張がなく、他に語るべき事がないからこそ、殊更に「民の窮状」などと聞こえのいい「綺麗事」を持ち出し、自らの正義を振りかざしているのだ──と。


 流浪の旅に出た鄭家村(ていかそん)の面々の言葉であれば、花栄だってまだ聞く気も起きよう。それで「では、この国を倒してしまおうか」では些か飛躍が過ぎるが、話の内容によっては心が動かされる事もあるだろうし、その苦境を思えば、密かに支援の手を差し伸べる事も(やぶさ)かではない。

 それは迫害を受け、虐げられた当人の口から語られるからだ。


 本心を語りもせず、自らは表に立つ事もなく、ただ並べ立てた綺麗事で他者を煽り、国を乱そうとする男の性根が、花栄は堪らなく気に入らない。


 しかし、同じ言葉が宋江の口から発せられていたとしたらどうか。

 同じように「そんなものは綺麗事だ」と断じ、キッパリとその言葉を拒絶できていたか。


 昨日までであれば、疑いの余地なくそれができた。

「宋江の言葉を拒絶し、考えを否定できた」と花栄は自信を持って言える。


 だが、先ほどのやり取りを振り返るまでもなく、今の宋江が発する言葉には魔力じみた妖しげな何かがある。

 昨日までできていた事を今日、自信を持って「出来る」と断言できないところに、花栄は空恐ろしさを覚えつつ、男にとって早すぎた自らの起床に、心の底から胸を撫で下ろす。


「どうせ命を乞うなら清々と乞え。上辺だけを繕い、如何にも己一人が天下を憂い、万民を慮ってると言わんばかりな貴様の詭弁は、いちいち癇に障る」

「だから貴方様は若いと言うのだ。手前がどう言おうと、それを聞くに堪えんと貴方様が耳を塞ごうと、万民が塗炭の苦しみに喘ぎ、天下に怨嗟が満ち満ちる現実は紛れもなくある」

「黙れ。いい加減、貴様の屁理屈も聞き飽きた」


 ふーっ、と宋江の背後から諦観の溜め息が洩れ、


「どうやら、貴方様と手前の考えは永劫、交わらぬようですな」

「願ってもない。不義不忠の塊に服を着せたような貴様など、見るも目の穢れ。そんな貴様と同類に扱われようとは、想像するだに虫唾が走る」

「しかし、押司は手前の考えに(いた)く感銘を受けられたようだ。それほど手前が気に入らぬとあらば、今すぐその引き絞った右手を離し、押司もろとも、この世から消し去られるが良い」


 無論、花栄にそんなつもりは更々ない。


 たぶんない…


 ないといいな…


 いや、ないったらない。


 残念なが…ゲフン、そもそもそんな事をする必要がない。

 案の定、虚ろな視線を宙に彷徨わせたまま、宋江が花栄から離れるように後ろへ足を踏み出し、つまりは男が宋江の身体を盾にしたまま、後ろへと下がり始めた。



【思った通りだ。


 このまま膠着が長引けば、宋哥は報せもなく勤めを休む事になる。

 知県の許しを貰ってたようだから、昨日までならそれも不審がられる事はなかったろう。

 だが、今日は違う。宋哥は昨日一度、勤めに出た。


 俺が奴と出会ったのはもう10日以上も前の事だが、宋哥が衙門に顔を出さなくなったのも、正にその日だ。宋哥に取り入る隙を狙ってたとすれば、奴も当然、宋哥がここ10日ほど勤めを休んでた事を知ってる。そして10日もあれば、多少なりとも宋哥の身辺や人となりは調べた筈だ。


 奴が昨日までこの屋敷に乗り込んでこなかった理由は分からんが、それは今、大した問題じゃない。

 重要なのは「宋哥が衙門で人望を集めてる」という事だ。


 表向きは体調を崩して長々と勤めを休んでた以上、調子が戻り、また普段通り勤めに出る事になったと、宋哥も周りに伝えた筈だ。その舌の根も乾かぬ内から勤めを、それも無断で休んだとなれば、宋哥を案じ、様子を見に来ようと思う者がいてもおかしくはない。


 奴はそれを恐れてる。


 仮に仲間を表に潜ませてるとしても、この屋敷から出て助けを求める者を阻むのとは訳が違い、衙門の者が訪れようとするのを無理には阻めん。そこで万が一、(いさか)いにでもなれば、お上を敵に回す事にもなる。


 奴がまだ他の地でも何かを企んでるのだとすれば、なるべく秘密裏に事を運びたいだろうから、その内、何かしらの行動を起こすだろうと思ってたが…やはり】



 いつ宋江の陰から男の身体が覗いてもいいよう、弓の照準を宋江に合わせつつ、花栄がチラと二人の背後を見遣れば、庭を囲う板塀に寄り添うよう、枝擦(えだず)れも(かまびす)しい(くぬぎ)(そび)え立つ。

 どれだけ長い歳月をこの庭で過ごしてきたものか、優に二人を隠せるほどの胴回りを持っている。



【今は俺に訴えさせる為か、宋哥の面を俺に向けて背に隠れているが、あの椚まで辿り着いてしまえばその必要もない。

 宋哥の腹に隠れ、完全に宋哥を操ってから俺を襲わせ、弓を射させないようにする事も出来れば、そこで塀を乗り越えるなり、或いは塀を壊して己一人が外へ逃げ、宋哥を盾として置く事も出来る】



 花栄の目測で椚までは十歩ほど。「百歩も離れた相手の兜の房を射抜く」とさえ讃えられる花栄の腕なら、狙いを外す事はない。

 風は強いが、板塀に囲まれた庭の中はそれほどでもない。


 花栄には確信がある。

 すぐにも男()()を射抜く一瞬が訪れる、と。


 しかし、それはそれでまた新たな不安も生まれる。


 花栄曰く「思考の汚染された」宋江は、果たしてどうなってしまうのか。

 仮に今、男の息の根を止めたとして、果たして宋江の思考は元に戻るのか。

 そしてまた仮に、宋江の思考が汚染されたままになったとして、その宋江を花栄はこれまでと同じように受け入れ、慕う事ができるのか。


 今の花栄には「分からない」としか言いようがない。


 それでも、自らの放つ一矢が宋江を救えると信じ、強いて襲いくる不安に目を背け、花栄は弓の狙いを宋江の眉間から外した。

※1「都鄙」

都会も田舎も。全土。全国。

※2「横征暴斂」

中国の成語。「横」は「横暴、理不尽」、「暴」は「残忍、凶悪」、「征」と「斂」は同義で「(税や金品などを)取り立てる、徴収する」。全て繋げると「苛烈で情け容赦のない租税の取り立て」の意。

※3「牛耳を執る」

『春秋左氏伝(定公八年)』。原文は『衛人請執牛耳』。訓読は『衛人(えいひと)牛耳(ぎゅうじ)()ることを()う』。当時、諸侯が盟約を結ぶ際に、牛の耳を裂いて血をすする慣習がありました。そこで盟主となる人が初めに牛耳を取った事から、転じて「集団のリーダーとなる、主導権を握る」という意味の言葉となった訳ですが…これをいつから「牛耳る」と表現するようになったのか、謂れも含めて不明なんですが、要するに「タピオカミルクティーを飲む=タピる」「ディスリスペクトする=ディスる」とかと同じシステムという事で宜しいんでしょうか?

※4「貪得無厭」

中国の成語。「厭」は「満足する」「飽きる」。「どれだけ貪っても満足する事がない=強欲、貪婪」。

※5「遁辞」

言い逃れや責任逃れの言葉。

※6「逼上山」

中国の成語、諺ですが、実際は「逼上()山」。『水滸伝』作中では、梁山(梁山泊)に集った好漢の多くが、悪辣な官吏によって陥れられたり、(あえて固有名詞は出しませんが)とある人物の策略にハメられたりして、切羽詰まった挙げ句に罪を犯し「(本人の意思に反し)(せま)られて梁山に上がる(逃げ込む)」ため、そこから「追い詰められて仕方なく行動する」といった物の例えとして「逼上梁山」という言葉が用いられるようになったみたいです。『水滸伝』から生まれた(と思しい)言葉を『水滸伝』よりも前の物語に使うのはいかがなものかという事で、ちょっと小細工をしました。

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