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水滸前伝  作者: 橋邑 鴻
第七回  宋時雨 雷母の心火に狼狽し 妖道士 術もて東渓村に仇なすこと
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閑話休題「銭や、銭ぃ~」

宋代の「お金」について色々と書いています。この小説や『水滸伝』を読む際の参考に、というよりはざっくりとイメージしていただければ幸いです。あくまで宋代についての事なので、年代の違う小説などでは、同じ単位でも全く価値が違うかもしれません。

色々な資料を参考に可能な限り正確な記述を心掛けましたが、仮に誤りがあっても「所詮は素人が書いたモンだしなぁ」と(ry

 雷横(以下「雷」):よっしゃ、臨時収入もあった事だし、宋哥兒(宋江)に迷惑掛けっ放しって訳にもいかねえし、ここは一発、大勝負に出て、せめて哥兒には貰った分だけでも返してやるか!


 宋江(以下「宋」):何処に行くって?


 雷:うぉっ、哥兒!あー、いやほら、アレだ…ほら…


 宋:はぁ…あれだけこっ(ぴど)く怒られて、よくもまあそんな気になったもんだ。ホント、小哥(雷横)は懲りないな。


 雷:てかよ、何で俺らが呼ばれたんだ?テーマが「金」なら、商家に生まれた髯面(朱仝)の方が適任じゃねえか。


 宋:「金」だからこそだろ?小哥は適任だよ。


 雷:…??


 宋:自覚ナシか、いよいよだな…しかしまあ、小哥の言う事にも一理ある。何なら代わってもらうか?


 雷:おっ、マジか!?ありがてえ。いや、ちょっと用事が出来ちまってよ。この穴埋めはいつか──


 宋:何で小哥が代わるんだ!?俺が朱小哥(朱仝)と代わろうかって言ってるんだよ!


 雷:おん?汚ねえぞ、哥兒!逃げようってのかよ!?


 宋:どの口が言ってる!?


 雷:あー、まあいいや、とっとと終わらせようぜ。早くしねえと賭場…ゲフン、あー、いや…そう、店が閉まっちまうからよ。


 宋:小哥、丸聞こえだよ…



(もん) ((せん))】


 雷:こんなもん説明されるまでもねえよ。


 宋:小哥に説明する為のコーナーじゃないんだよ。宋代の通貨は銅銭が主流だが、要するに「文」は銅銭の単位だな。現代の日本で言う「円」のようなものだ。


 雷:いや、だから…説明するまでもねえじゃねえか。


 宋:「銭」は元々質量、つまり重さの単位で、後で出てくる「両」の1/10(1両=10銭)を表してる。古代の貨幣には重さが刻印されてたらしく、そこから通貨の単位として銭が用いられるようになったみたいだが、宋代には既に重さの刻印がなくなり、貨幣の単位として銭を用いる意味合いが薄くなった。そこで、銭に代わって文が用いられるようになっていったらしい。


 雷:つっても「銭」の字そのものに、そもそも「貨幣」や「お金」の意味があるからなぁ。まあ、重さの単位としても使われるが、通貨の単位として公式にゃ使われなくなっても、通称っつーか、文と同じ意味合いでも使われたりもしてるわな。


 宋:日本の硬貨にも何種類かあるように、宋代にも額面の違う銅銭が数種類あったようだ。それを「当○銭」と呼んだ、とする資料もあったな。例えば「当5銭」と言えば「5文銅貨(5文銭)」という事だが、流通量で言えば「1文銭」が圧倒的だったようだ。


 雷:一番高額なのは「当10銭」か。


 宋:資料で見た限りはな。『水滸伝』の中にそれらしい記述を探すと、第12回に『二十文當(当)三銭』という描写がある。ただ、恐らくこの「三銭」は「3文銭」じゃなく「重さ3銭(3/10両)の銅貨」という意図だと思われる。


 雷:何でよ?


 宋:3文銭を何枚集めても20文にはならんじゃないか。そのすぐ後に『(それを)ひと纏めにして』とあって、その「当三銭」が1枚(20文銭)じゃない事も分かるから、つまり「20文分の(何枚かの)3銭銅貨」という事だな。


 雷:ああ、なるほど。


 宋:さて、当時の「1文」が現代の日本円にしてどのくらいの価値なのかと言うと、およそ数十円程度じゃないかと思われる。当時、庶民一人の一日の食費が大体20~50文、食費以外も含めると、ひと月で1,500~2,000文程度の生活費が必要だったようだ。外食は庶民的な屋台の一品や、酒家(居酒屋)の一皿が大体10~30文程度だったようだが、もちろん食事もピンからキリまであるから、高い店で食べれば一食で1,000文以上もしたらしい。そこら辺を加味して現代の価値と照らし合わせると、1文=40~50円ってトコじゃないか?一日の食費が800~2,500円、ひと月の生活費が6~10万円、外食が一品400~1,500円、高級料理がウン万円から下手するとウン十万円って感じで、当たらずとも遠からずだと思うが。


 雷:何で高級料理だけ具体的な数字じゃねえんだよ…こっちの作者は(たけ)えメシなんか食った事もねえから、書きようがねえってか?


 宋:小哥、止めとけ。そうズケズケと本当の事を…あ、いや、ゲフン…そ、それと、酒について書かれてる当時の資料もあるな。それによると、開封(かいほう)の有名な酒店で売られてる酒が一本70~80文と書かれてて、それをどうも高いと感じてるような節があるんだが…まあ書いた人間の主観もあるし、一本がどのくらいの量なのかも分からんし、酒だって当然ピンからキリまであったろうから、それがピンからキリの、どの辺りに当て嵌まるのかまではちょっと分からんな。


 雷:そらまあそうだわな。



(はく)短陌(たんはく)(又は省陌(しょうはく))】


 宋:当時の慣習に短陌というのがあってな。1文銭はもちろんバラでも使えるんだが、大量に持ち歩くと嵩張るし、高価な買い物なんかすると支払うのも一苦労だろ?そこで1文銭の中央には穴が開いてた(1文銭以外の銅貨にも穴は開いてたと思われる)から、そこに紐を通して束を作り、一束を100文として使ってた──と書くと、短陌が1文銭固有の慣習のように聞こえるが、1文銭以外の銅貨については、短陌の慣習があったかどうか、残念ながら不明だ。


 雷:「不明」なら何も好き好んで講釈なんぞ垂れなきゃいいじゃねえか…


 宋:何しろ短陌について書かれた資料の中に、1文銭以外の銅貨について触れてる物がなくてなぁ。なので、基本的にここでの話は1文銭を例に書かれてる。


 雷:てか、短陌ってのは、つまり長銭(ちょうせん)の事だろ?


 宋:何で「100文を一束にして使ってた」んじゃなくて「一束を100文として使ってた」のかと言うと、古くは貨幣100枚を一束として、それを「陌」と呼んでたようだが、いつの頃からか100枚に満たない一束も陌、つまり貨幣100枚として扱われるようになったからだ。枚数が少ないんだから当然、一束は正規の陌より短い。そこで正規の陌に対して「短陌」、或いは「省陌」などと呼ばれてる。そもそも宋代には正規の陌自体が使われなくなり、一般的に「1陌」といえば「短陌一束」を指したようだ。逆に「陌=短陌」が定着した事で、正規の陌を「調陌」、或いは「丁陌」と呼んで区別した、とする資料もあったな。「長銭」というのは古い呼び名で、宋代の頃まで使われてたかどうかも、まあ不明って事で。


 雷:あんま好きじゃねえんだよな、長銭は。何しろ使い勝手が(わり)ぃじゃねえか。


 宋:まあ、俺らのような一般庶民にとっては、な。給料なんかを短陌で貰って、それを短陌のまま使えば、もちろん100文として使えるが、束をバラしちまうと実際の枚数分の価値しか持たなくなるからなぁ。


 雷:さっきの話じゃねえが、日用の細々したモンなんて、大概100文もしねえからな。腐るモンじゃねえってんなら、纏め買いでもすりゃあ、まだ長銭の出番もあるが、生モンだとそうもいかねえし。


 宋:短陌の起源ははっきりしないが、宋代について話すと、当時は銅銭の需要に対して生産能力が足りず、供給が追い付いてなかったようだ。対外貿易なんかで銅銭の流出もあったようだし。


 雷:流出?外国に銭を持ち逃げされたって事か?


 宋:いやいや、そうじゃない。商人なり何なりが外国から商品を輸入すれば、その代金を銅銭で払ったりするだろ?逆に宋から輸出すれば、またその銅銭が帰ってくる事もあったろうが、そのバランスが取れてなかったって事さ。まあ、そうして他国で宋銭が流通するようになると、他国でも宋銭の需要が高まり、銅銭そのものを密輸出するような輩も現れたようだが。


 雷:ああ、そういう…って、だからそういう話は、あの髯面にでもさせときゃ良かったんだよ。何なら今からでも遅かぁ──


 宋:いや、遅いわ…ま、一口に言えば銅銭の数が足りなかった、って事だ。とまあ、ここまでは史実についてのざっくりした話だが、じゃあ『水滸伝』はどうかと言うと、銅銭を使って何かを買ったりしてる場面は殆ど描かれてないな。


 雷:はあっ!?さっきの『二十文當三銭』ってのは何だったんだよ?


 宋:あれも別に何かを買ったり売ったりした訳じゃない。


 雷:んーじゃあ、いつまでもウダウダ説明してねえで、とっとと先に進もうぜ。


 宋:これは予備知識だよ。この後の説明で文やら短陌やらを使うからな。文はともかく、短陌はあまり馴染みのない言葉なんだから、予め説明しといた方が後で何かと説明の手間が省けて楽だろ?あ、そうそう、ついでの話をするとな──


 雷:人の話を聞いてねえのか!? とっとと・先に・進もうぜっ!!


 宋:まあまあ。この陌や短陌の文化は海外にも広まって、日本じゃそれこそ長銭なんて呼ばれてたそうだ。腰に長銭をぶら下げた岡っ引きが、悪人に銭を投げ付けて取っ捕まえる時代劇なんかもあるぞ?


 雷:岡っ引き?


 宋:こっちで言う巡捕都頭か、その手下くらいかな。


 雷:んーだ、そのふてぇ野郎はっ!?こっちゃあ年がら年中ピィピィしてるっつーのに!


 宋:ピィピィしてるんじゃないか…っていうか、小哥が年がら年中ピィピィしてるのは、別に誰の所為でもないだろ。


 雷:ったく、何処の成金だソイツぁ。アレか?どうせ家じゃ札束浮かべたバスタブに浸かって、両手に女を侍らせながら「いやー、ちょっと前までこんな生活考えられなかったっすわーww全部この幸運の石的なアレのお陰っす!マジ人生とか、チョー楽勝なんすけどーwwww」的な写真撮ってるような奴だろ?


 宋:急にメタいなっ!?!?時代劇の話だって言っただろ。



(かん)


 宋:『水滸伝』でよく見られるのはこの「貫」だな。単に「貫」と言っても色々な意味があるが、通貨に関して言えば、一義的には1,000文の事だ。


 雷:「一義的には」?


 宋:元々は貨幣1,000枚を指して貫としたのが始まりのようだが、宋代には短陌の慣習があったからな。1貫の品を買うのに、バラで1文銭1,000枚払うなんて不便極まりないから、通常は短陌が使われたと思うが、そう考えれば1貫は10陌(短陌十束)だ。とはいえ、短陌は「100文の価値」ではあっても、実際は「1文銭100枚」じゃない。だから貫も1,000文()()ではあるが、実際に1文銭1,000枚を指すとは限らない。


 雷:なーるへそ。


 宋:宋代には実数で何枚の1文銭を1陌(100文相当)として扱うか、用途によって細かに定められてたようで、公的用途なら77枚、生鮮食品(魚、肉、野菜など)の売買は72枚、貴金属(金や銀など)売買で74枚、本なんかは56枚だったと資料にあるな。


 雷:いや、何で短陌の話してんだよ。貫の話は何処いった?


 宋:ああ、すまんすまん。さて『水滸伝』じゃ、そういった日常の買い物とかじゃなく、主に犯罪者や盗賊の手配をした時なんかの懸賞金として、この貫が登場する。頻繁にお目に掛かるのは「3,000貫」かな。


 雷:こっちの作者も最初の内ぁ「3,000貫かぁ」なんて簡単に考えてたらしいが、よくよく考えてみりゃ、ただ貰うだけでも一苦労だわな。


 宋:当時の1文銭は1枚がおよそ3~4gだったようだが、単純に3,000貫といえば3,000,000文の事だからな。短陌で下賜されるにしても、公的レートで1陌77枚として3,000貫で30,000陌、つまり1文銭の実数にして2,310,000枚だ。1枚3gとしても6,930,000gで7t弱、4gで計算すれば9t超だぞ?衙門まで取りに来いって言われても困るが、家に持って来られても、まず置き場を考えるとこから始めなきゃならんレベルだな。


 雷:作者の1文=40~50円って推測が正しけりゃ、現代の日本円に換算して陌のままで1.2~1.5億円、バラしたって9,000万~1億円くらいにはなるって訳か…ケッ、たかが賊の手配一つに豪勢なこった。ちったぁ俺の給料に回してもらいてえもんだ。


 宋:まあ、仮に実際の宋代で賊に懸賞金が懸けられてたんだとしても、運搬や保管の事を考えれば、後で出てくる「銀」で支払われたと思うがな。或いは10文銭で支払われたとすれば、枚数は1/10になるが…


 雷:その分、一枚あたりの重さが変わりゃあ、重量が1/10になるとは限らねえわな。さっきの話じゃねえが、三銭銅貨なら結局は1t前後にはなっちまうし。


 宋:他には『水滸伝』で描かれてるシーンとして、とある武官が「剣を買ってくれ」と持ち掛けられて1,000貫で買う場面がある。しかも、即金でだ。


 雷:即金!?1,000貫っていやあ…あーっと…


 宋:現代の日本円にして4,000~5,000万ってトコか。但し、こっちはちゃんと「1,000貫相当の銀で払った」と記述があるがな。


 雷:4,000~5,000万!?!?そんだけ持ってりゃ、どんくれえ勝負出来ると──あ、あーいや、何だ、ほら…


 宋:あっ、大媽(おば)(林明智)さん。こんにちは。


 雷:ぅうえっ!?いやっ、今のは別にそういう意味じゃ…(キョロキョロ)…いねえじゃねえかっ!!


 宋:ププ…すまん、見間違えた。あと『水滸伝』で有名なところだと、朝廷の中枢で権勢を揮う舅(妻の父)のお陰でその地位に就いた(という設定の)とある府の高官が、お礼というか賄賂というか、まあ名目上は誕生祝いを贈る場面があるんだが、その贈り物が「10万貫相当」とあるな。


 雷:10万貫だぁ!?たかが誕生祝いで、よくもそんだけの金を搔き集めやがったな!?


 宋:まあ、中身は「金銀財宝」とあるから、あくまで10万貫「相当」って話だが、逆に銅銭じゃないとなると純粋に100,00…1億文って事だからな。現代の価値にすれば40~50億円相当ってところか。ちなみに、その前年にも誕生祝いとして同程度の贈り物をしたらしいんだが、そっちは道中で賊に奪われた、という事になってるな。


 雷:マジかよ!?どうせアレコレ難癖付けて、府の住人から(むし)り取ったんだろうから、その高官の懐は大して痛くも痒くもねえんだろうが…住人にゃ(わり)ぃが、そんな金がありゃあ、それこそバスタブに財宝並べて人生楽勝wwなんだがなぁ。


 宋:いやぁ、小哥には無理だな。


 雷:何でだよ!?


 宋:博打が死ぬほど好きなクセに、死ぬほどヘタクソだからだよ。



(ぎん)(銀子(ぎんす))、(りょう)


 宋:「銭」のところでも言ったが「両」ってのは質量、つまり重さの単位だな。「1両=10銭」は変わらなかったようだが、時代によって1両の重さは様々のようで、宋代で言えば1両はおよそ37gというのが通説のようだ。ちなみに、銅銭の単位に「銭」は使われなくなってたものの、実際の銅銭(1文銭)が1枚3~4gだったっていうのも、およそ「1両=10銭」に則ってるな。


 雷:って事ぁ、俺が貰った銀10両は、大体370gって事か。


 宋:そういう事だ。『水滸伝』の中で圧倒的にお目に掛かれるのが、何かの対価を払ったり、旅立つ相手に餞別を贈ったりする際に、銀を用いてるシーンだな。史実においての宋代じゃ、通貨としての銀(銀貨)を使ってたのは大規模な商家ぐらいなもので、一般にはまだそれほど普及してなかったようだが、それが何故『水滸伝』で頻繁にお目に掛かるのかと言えば、その後の元や明の時代になって、徐々に普及してった銀(銀貨、或いは銀錠)での売買が、まず『水滸伝』の元となったエピソードなんかに描かれ、それがそのまま『水滸伝』に取り入れられたからじゃないかと思われる。


 雷:ちなみに、銀子の「子」は特に意味を持たねえっつーか、名詞を表す時なんかに名詞や形容詞的な言葉にくっつける習慣があるってだけだ。四郎(宋清)の綽名(あだな)「鉄扇子」は正にいい例だな。


 宋:日本で馴染みのある言葉だと「椅()」や「帽()」なんかもその例だな。


 雷:「椅」も「帽」も、それだけで「(背凭(せもた)れのある)椅子」「帽子」の意味があって、そこに「子」が付いたからって、特に意味が変わる訳でもねえんだが。


 宋:さて「両」の話に戻ると、日本じゃ時代劇なんかで小判の単位に両が用いられてるからか、どうも「銀10両」って見ると「銀の小判10枚」を思い浮かべがちなんだが、当然の事ながら『水滸伝』での10両はそんなイメージじゃないな。


 雷:まあ「(10両分の)銀の塊」って感じか。


 宋:そうだな。で、質量としては確かに「1両=10銭」だが、価値としては言うまでもなく「銀1両=10文」なんて事はない。


 雷:そらそうだろ。「銀1両=10文」じゃ、10両なんてたかだか100文、4,000~5,000円にしかならねえじゃねえか。


 宋:…貰うだけ貰っといて、よくそんな言い方が出来るな?


 雷:いや、そういうこっちゃねーけどさ。お袋だってその程度であんなに怒鳴り散らしたりゃしねえよ。


 宋:そうなんですか、大媽(おば)さん?


 雷:うへっ!?いや、別に文句があるって訳じゃ…(キョロキョロ)…だから、いねえじゃねえかっ!!


 宋:ん、すまん。宋代でも年代によって価値の上下はあったようだが、大まかに見て、およそ「銀1両=銭1貫(1,000文)」ぐらいだったようだ。


 雷:ったく…つまり、銀10両は大体40~50万円ってトコか。さすが哥兒だな。よっ、太っ腹!


 宋:全く、調子のいい…しかしまあ、そう考えれば旅の餞別に銀を贈るのも納得だ。銀で10両なら370g程度だが、1文銭で贈ったら10貫、単純に1貫=1,000文で計算すれば30~40kgになる。


 雷:どんな苦行だソレ。餞別ってかもう嫌がらせだろ。


 宋:銀に関して『水滸伝』で見る表現としては、他にも「小粒銀」というのがあるな。


 雷:正確な意味はともかくとして、要は「1両に満たねえ銀」とか「正確な重さが分かんねえ銀」を纏めてそう呼んでる、ってイメージじゃねえか?


 宋:恐らくな。あとは時折「(銀)1錠」ってのが出てくる。「錠」は「枚」や「個」に相当するが、基本的に「銀1錠」という表現は殆どされてない。その「1枚」なり「1個」なりが、どれくらいの重さなのか分からなきゃ、価値が伝わらんからな。日本で「小遣いに紙幣1枚を渡した」なんて表現が使われないのと同じだ。だから、例えば「10両分の銀1錠」とか、そういった表現だな。



(きん)


 雷:これこそ説明するまでもねえだろ。


 宋:ま、確かにな。言わずもがなの黄金だ。


 雷:よし、じゃあ終わるか。


 宋:折角だから最後まで聞いてけ。『水滸伝』じゃ中盤以降に、それも通貨というよりは賄賂というか、贈り物としてよく使われてるな。


 雷:ったく、どいつもこいつも好きだな「贈り物」が!受け取る方も受け取る方だが、金で物事を解決しようなんて性根の腐った奴の顔を、とっくり見てみてえモンだぜ。


 宋:あー、うん、まあ…うん。


 雷:…?で?


 宋:物語の中じゃ100両だの500両だの、凄いのになると1,000両の金塊をポンと出したりもしてるな。当時の金1両は大体、銀10両と同じくらいの価値だったらしいから、金1,000両なら銀で10,000両、銅銭なら10,000,000文、1文=40~50円で計算すれば日本円で4~5億円って事になるか。


 雷:へぇへぇ、景気のいいこった。


 宋:とはいえ、これはまあ象徴というか、要するに「大金」って事だな。具体的な考察するのもちょっとアホらしいというか。


 雷:何でよ?


 宋:考えてもみろ。「1両=10銭」「金1両=銀10両」だぞ?たかが1文銭10枚分の重さの金が10貫、10,000文の価値があるんだ。物語じゃ延棒の形で渡されたりもしてるが、何処で使うんだそれを。


 雷:あー、そりゃまあそうか。


 宋:現代みたいに銀行がある訳じゃなし、口座にブチ込むだけブチ込んで、後はキャッシュレスで楽々ショッピング、なんて時代じゃないんだから。普段から大金を扱ってる商人とか、贅沢三昧の成金とかならまだしも、庶民が持ってても使い道──というか、まず使う場所に困るだろ。


 雷:そうか?俺なら別にいくらでも賭場で…あ、あー、いやほら、と、とにかくコレで終わりだな?俺はちょっと用があっから、先に──


 宋:あ、大媽(おば)さん…


 雷:おいおい、もう三回目だぞ?いくら何でも、さすがにそう何回も──


 林明智(以下「林」):へぇ~、ずいぶんと楽しそうな話をしてるじゃないのさ。あたしも混ぜてもらおうかしらねぇ?


 雷:うえっ!?おふk…母ちゃん!?


 林:で?アンタ今から何処へ行くって!?


 雷:いやっ、あー、それはだから、ほら…


 宋:…はぁ。

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