插翅虎
「宋時雨」
造語。宋江の綽名「及時雨」から。『水滸伝』作中でも(そう頻繁にではありませんが)宋江を指す言葉として「時雨」が用いられています。
「心火」
激しい怒り。憤り。
まだ夜も明け切らない内から騒々しく宋家を訪ねた男の正体が分かり、宋江は右手で顔を覆って呆れ、宋清は両手を腰に当ててやれやれといった顔を浮かべている。
「おお?何だよ二人共、その顔は。折角こうして訪ねて来たってのによぅ。大体、哥兒が──」
「雷小哥(※1)、周りを見てみろ。まだ東の空が白んできてもないぞ?こんな時間に約束もなく訪いを受ければ、そりゃ誰だってこんな顔になる。それにどうした、そんなベロベロになるまで飲んで…」
宋江から「小哥」と親しげに呼び掛けられた男は、真っ直ぐ立っているのも覚束ない様子でフラフラと身体を揺らし、何が楽しいのかうっすらと笑みを浮かべ、これぞ正に絵に描いたような酔っ払いといった様相である。
身なりはどうかと言えば、背は宋江よりも頭一つ高く、丁度花栄と並んで立てば同じほどであろうか。がっしりとした体形に真新しい巡捕都頭(※2)の官服を纏い、赤茶けた顔に、顎には右から左まで、びっしりと鬚(顎ひげ)を生やしている。
と、途端に男は口をへの字に歪めると、
「どうしたもこうしたもあるかってんだ!今日から巡捕都頭として勤めにゃあならんから、その前に哥兒を誘って飲もうと思ってたのによぅ。下宿に行ってみりゃ…影も、形も…」
「あー、悪かった悪かった。小哥にも一言、声を掛けとけば良かったな。それと今、体調を崩して寝込んでる者がいるから、そんな大きな声を…どうした小哥、急に黙って?」
突如、喚き散らし始めた男は、鬱憤を吐き終えもしない内から眉間に皺を寄せて黙りこくり、代わりに込み上げてくる何かを必死に飲み込んでいる。
「おい、小哥まさか…待てっ!!こんな所で撒き散らすんじゃない!四郎(宋清)、すぐ小哥を厠に連れてってやれっ!!」
「ええ~っ!?俺がぁ~!?!?」
「俺はこの後、勤めに出るんだよ!汚されたら面倒だろうが!」
「もう、しょうがないなぁ。ほら、雷哥兒…うっわ、酒クサっ!!あーもう、そんな事言ってらんない!ほら、早くこっち来て!」
尚も見えない何かと必死に闘う男を、強引に屋敷に連れ込む宋清を見送った宋江は、大きく一つ溜め息を零し、男の乗騎を繋ぐため厩舎に引き連れて行った。
果たして、宋清の命運やいかにww
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「全く…困ったモンだ、あの男にも」
客間に花栄が寝ているため、取りあえず宋清の部屋に男を寝かしつけた宋江が、やれやれといった感じで居間に顔を出す。
「あのさ、兄さん。ちょっと言いたい事があるんだけど」
「何だ?」
「俺が勤めに出てないからって、汚されても面倒じゃないって事はないんだからね!?」
「いつまでも過ぎた事を言ってんじゃないよ。良かったじゃないか、間に合って」
ホント良かったね、四郎ww
「あとさ、何で俺の部屋なの?兄さんを訪ねて来たんだから、兄さんの部屋で寝てもらえばいいんじゃない?」
「全くお前は細かい事をグズグズグズグズと…」
「細かくはないでしょ!?」
「大丈夫だって。暫く横になってれば、すぐに落ち着くよ」
「じゃあ、もし大丈夫じゃなかったら今晩、部屋を換えてもらうからね?」
「しっかし、今日はまたいつにも増して酷かったなぁ」
「無視!?!?」
「どうかしたのか?何やら騒々しかったが…」
騒ぎを聞きつけて目を覚ました宋忠も居間に顔を出し、二人が揃って説明すると、宋忠はただ苦笑を洩らすばかり。
「しょうがないな、雷小哥も。まあ、何事もなく済んで良かった」
「ええ、ホントに。小哥も酔い潰れてる事ですし、しょうがないので、俺もあともう一日休んで──」
「兄さん…大郎(花栄)が青州に帰っちゃうよ?」
「う…それは困る。しかし、小哥も放っとけんしなぁ」
「一緒に衙門(役所)へ行けばいいじゃない。今日からお勤めだって言ってたし」
「何?本当か、四郎」
「うん。さっき本人から聞いた」
「それはいかんな。勤めの初日から休んだとあっては、小哥の面目も立たんだろう。三郎(宋江)、付き添って連れて行ってやれ」
「いや、あの状態で勤めに出る方が余程──」
「小哥をお前が休む為の言い訳に使うんじゃない。とにかく日が昇る頃には起こしてやれ」
「…はい」
項垂れる宋江を尻目にクスクスと笑いを嚙み殺す宋清であったが、それからどれほどの間もなく空が白み始めてきた。
食事の支度が整うと宋江は男を起こしに行き、ほどなく男と連れ立って居間に戻ってくる。
男の名を横、即ち姓名を雷横という。
朴刀の腕前もさる事ながら、拳脚(拳法)の技も達人の域にあるこの雷横という男は、元々鄆城県の城内で鍛冶を生業としていたのだが、歩兵巡捕都頭に空きが出たのを機に、周囲から武芸の腕を見込まれて推薦を受け、知県に登用されるに至った。
周囲の者達が彼を「插翅虎」と綽名するのは、偏に拳脚によって鍛え上げられた両足から生み出される、その跳躍力に起因している。
県城の東には二つの村を隔てる渓谷があるのだが、何しろ雷横は幅が7~8mくらいの場所でも平気で飛び越えてしまう。それを物怖じせずに飛び越えようとする度胸も凄いが、やはりその尋常でない脚力の方に世間の耳目が集まってしまうのは致し方ないところだ。
「插」は「挿」の事であって、当然「挿す、差し込む」を意味しており、「翅」は言うまでもなく「羽、翼」の事であるから、「插翅虎」とは正しく「翼を挿された(付けられた)=翼を持つ虎」の意である。
「おっ、これは太公(※3)。いやあ、朝からお騒がせして申し訳ない」
「何、構わんよ」
「哥兒、少しは酔いが覚めましたか?」
「おお、四郎。すまんすまん。迷惑を掛けたな」
出す物を出してスッキリしたのか、まるで何事もなかったかのように呵呵と笑う雷横に、三人はもう苦笑を返すしかない。
宋江と雷横の付き合いは長く、従って宋忠や宋清と雷横の付き合いも、ただの顔馴染みとは到底呼べないほどに親しいものがある。こうして食卓を囲んだ事も一度や二度ではなく、三人共に雷横の気質は百も承知といったところだ。
「しかし、小哥よ…いや、そういえば今日から巡捕都頭としてお上に仕えるのだったな。これからは雷都頭と呼んだ方がいいかな?」
「はは、どっちでも構わないっすよ。太公の呼び易い方で呼んで下さい」
「そうか。しかし、いざ初日というのにその有り様は、さすがに感心せんな」
「いや、これはお恥ずかしい」
恐れ入る雷横の前には三人と同じ食事が並び、加えて酔い覚ましにと作男が羹(スープ)を運んでくるが、雷横のお目当ての品がない。
「宋哥兒。馳走になりながら催促するようで何だが、いつも出してくれるアレを…」
「あのなぁ。ついさっきまでベロベロに酔い潰れてたのは何処の誰だ!?」
「いや、こんなのは迎え酒を入れりゃあ、すぐに治っちまうから。せめて一杯だけでも…」
「はぁ、しょうがないな全く。食事を摂ったらすぐに発つんだし、道中、馬にも乗るんだから…一杯だけだぞ?」
「さすが哥兒。話が分かるねぇ」
「本当に一杯だけだからな!?」
「分かってるって。そうだ、哥兒も一緒に飲るか?」
「飲らん!」
呆れながら作男に酒を持ってくるよう命じる宋江の横で、雷横は早、上機嫌である。
「で?今日から衙門に勤めるというに、何でまたそこまで正体を無くすほど飲んだんだ?」
「あー…いや、最近宋哥兒と飲んでねえ事もあったし、衙門に勤めるようになったら、それこそ心置きなく飲む事もそうそう出来なくなっちまうかなと思いましてね。で、その前に一度、心ゆくまで飲みてえなぁと思って下宿を訪ねたんすよ。ところが、下宿先には影も形もありゃしねえし、衙門を訪ねてみりゃあ、もう何日も勤めを休んでるときた。何処へ行っちまったのか、と戻って来んのを待ち侘びてる内に、いよいよお勤めの日になっちまって。それでまあ、あー…一人でヤケ酒を呷ってたら、ちょっと加減を間違えたって訳で」
「『ちょっと間違えた』って感じじゃなかったですよ?俺なんかより全然酒が強いのに、一体どんだけ飲んだんですか…」
「悪かったって、四郎」
宋忠の問いを気まずげに答える雷横に、宋清は再び苦笑を洩らす。しかし、雷横が僅かに言い澱んだ部分を、宋江は聞き逃さなかった。
ほどなくして作男が運んできた酒を、雷横は満面の笑みで喉に迎え入れながら、
「しかし、哥兒は何でまた急に勤めを休み始めたんよ?」
「ん?衙門で聞いたんじゃなかったのか?体調が思わしくなかったんだよ」
「全然、元気そうじゃねえか。大体、体調を崩して仕事を切り上げたって割にゃあ、その足で昼間っから茶店で宴会してたんだろ?」
「あ…何だ五郎(給仕)の奴、喋っちまったのか」
「いや、五郎もそうだがよ。『帰り掛けの押司(宋江)に酒を振る舞ってもらった』って奴が、あっちにもこっちにもいたぞ?」
「あ…」
そらまあそうだ。仮病で仕事をバックレておきながら、その勤め先の目と鼻の先で呑んだくれてたんだから、そりゃあバレるに決まってるww
やるにしたって、もうちょっと気を遣いなさいよ。
「んだよ、水臭えなぁ…」
「あー、いや、すまん。色々と事情があったんだが、何しろ突然の事で話す機会がなかったんだ。別に隠そうと思ってた訳じゃ無いんだが──」
「俺も呼んでくれりゃあ良かったじゃねえか」
「…そっちかよ」
「で?連れが一人居たって話だったが、その連れと何か関係があんのか?」
「好漢は好漢を識る」とはよく言ったもので、御多聞に洩れず、この雷横も天下の好漢と交わりを持つ事を好む。それ自体は大いに結構な話であるが、同時に雷横には偏屈というか我が強いというか、ともかく性格にやや難があって、それが宋江を躊躇わせている。
「あー…実は今、弟が来ていてな」
「弟?」とオウム返しした雷横は、チラと宋清に視線を送って礑と思い当たった。
普段から宋江は「青州には自慢の義弟がいる」と吹聴しており、雷横もその話を何度聞かされたか分からない。そしてその度に、雷横は「機会があれば是非合わせてくれ」とせがんだものだ。
「そりゃあもしかして、いつも哥兒が自慢げに話してた清風鎮の『小李広』殿の事か?」
「ああ」
「チッ、気に入らねえな。大方、勤めを休んでたのも、久方ぶりに会った『小李広』殿をもてなしてたからなんだろうが…それならそうと、最初っからそう言やあいいだろ?体調もへったくれもねえじゃねえか」
「あー、いや、それはまあそうなんだが…」
「…まあ、いいや。出掛けにちょっと挨拶だけでもさせてくれよ」
鼻白んだ表情で、雷横は飲み止しの酒を一気に呷る。一方の宋江は「案の定か」と言わんばかりに、げんなりとした表情を浮かべた。
「いや、今日は無理だ」
「何でだよ!俺が散々会いたがってたのは知ってんじゃねえか。俺みてえなのにゃ会わせらんねえってか!?」
「そんな事は一言も言ってないだろ。まだ夜も明け切ってない、こんな時間に──」
「別にそろそろ起きてもいい頃合いじゃねえか。てか、いくら親しいからって、哥兒が勤めに出んのを見送りもしねえで高鼾かよ。義弟なら寧ろ見送んのが筋だろうが。何なら俺が叩き起こしてやるか!?」
「止めろって!そういうんじゃないんだ」
宋江だって花栄を紹介するのは吝かでない。
ただ、雷横は口よりも先に身体が動いてしまうような直情的な性格だけでなく、思い込みが激しく、一度こうと決めたら周りが見えなくなってしまうところがあった。
数年ぶりの再会を水入らずで満喫したいところへ、花栄の来済(※4)を雷横に伝えてしまえば「会いたい」と言い出すのは分かり切っていて、長い付き合いの宋江だってそんな事は百も承知であるし、その上ここ数日は当の花栄が体調を崩し、ようやく昨日になって身体を起こせるようになったばかりだ。
かれこれ10日は水入らずを満喫し、こうして雷横が訪ねてきてしまった以上、あえて隠しておく理由もないのだから、花栄がそんな状態でさえなければ、むしろ自慢の弟をこれでもかとひけらかしてやりたいくらいなのだが、さすがに今がその時でない事くらいは宋江にだって分かる。
それで今に至るまで花栄の事を伏せていたのだ。
まあ『同声は相応じ、同気は相求める』(※5)とも言うし、相手の都合を考えない性格に関しては右に出る者のない宋江が何を言ってるのか、という話ではあるのだが。
「とにかく小哥、もうちょっと声を落としてくれ」
「あん?」
「雷哥兒、ちょっと落ち着いて。さっき表で兄さんが言ってたでしょ?体調が悪くて寝込んでる人がいるって。それが大郎…『小李広』の事だよ」
「んん?言ってたか、そんな事…?」
四郎よ。雷都頭はその時それどころじゃなかったんだよ。察しろし。
「元々、兄さんと俺と三人で東渓村を訪ねようと思ってたんだけど、それも行けなくなったくらいでさ。今はまだ臥せっててゆっくり休ませてあげたいから、会うのは体調が戻るまで待ってよ」
「東渓村?ああ、晁保正(村の顔役、村長)んトコか」
「左様。まあそんな訳でな、時間も時間じゃし、今日のところは諦めてくれんか?今暫くはここに滞在すると言っとるでな」
「あー…まあ、太公がそう仰るなら。しかし、大丈夫なんすか?宋家村から東渓村なんて身体に無理が掛かるような距離でもないっすけど、それを諦めなきゃなんねえって…」
「何、旅の疲れが一時的に出ただけだ。数日休めばすぐに良くなる。とにかく、賢弟(花栄)の具合が戻ったら、ちゃんと小哥にも紹介するから」
三人掛かりで寄ってたかって宥め賺され、渋々機嫌を直した雷横であったが、そうこうする内に空はいよいよ明るさを増し、二人は慌ただしく出立の支度を整えると、騎上の人となって門前に並び立つ。
「じゃ、太公。お騒がせしました」
「何、気にするな。まだ酒も完全には抜けとらんだろうから、道中気を付けてな」
「四郎。しっかり賢弟の看病をしろよ?」
「うん、分かってるよ」
「帰ってきたら賢弟に、お前の看病ぶりを事細かに確認するからな?」
「分かったってば!兄さんも久しぶりの仕事なんだから、ちゃんと溜まった仕事を片付けてきてよ?」
「お前に言われんでも分かってる…いや、最近は賊も出てないし、俺が衙門に顔を出したところで大した仕事もあるまい。やはりあと何日かは──」
「何をここまできて往生際の悪い事を言っとるか。雷都頭、手を煩わせて申し訳ないがの、三郎をきっちり衙門まで送り届けてやってくれ」
「ハッ!!承りました」
いたずらっぽい笑みを浮かべて殊更大仰な拱手で応えた雷横に対し、宋江は恨めしげな視線を送ると、
「小哥、何もそんな張り切って承らなくていい。そこで一緒になって駄々を捏ねてくれれば、或いは父上の気が変わったかも知れんのに…」
「何、言ってんだ。俺がここへ来たのは哥兒に会う為で、勤めを休む為じゃねえよ。大体、初日から休むくらいなら、端から巡捕都頭への推薦なんぞ断ってらぁな」
「はぁ…」
「あはは、最初は雷哥兒のお供として兄さんが付いてくって話だったのに、いつの間にか立場が逆になっちゃったねー」
「うるさいぞ、四郎。とにかくお前は賢弟の世話を──」
「はいはい、話が一周しちゃったね。この調子じゃ永遠にここを動きそうにないから…雷哥兒、宜しくお願いしますね」
「おう、任せとけ。ほれ、行こうぜ哥兒。いつまでもグズグズ言ってねえでさ」
「はぁ…」
馬首を返す雷横に、宋江が深い溜め息と共に続く。
遠ざかっていく背を見送る二人は、やれやれといった様子で宋江に勝るとも劣らない溜め息を零しつつ、二騎が視界から消えたところで屋敷に入っていった。
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「しかし、いくら遥々青州から義弟が訪ねて来たからって、10日も勤めを休むかね」
街道で轡を並べる二人は、他愛もない会話を交わす。
「そうか?普通するだろ、それくらい」
「…俺と哥兒じゃ『普通』の定義がだいぶ違うな。哥兒が情に厚いのは知ってたが、まさかここまでとはねぇ」
「誰か遠方から訪ねてくれば、小哥だって同じ事をするさ」
「ま、それ以前にそもそも俺にゃあ、遠いトコをわざわざ訪ねてくれる、知り合いの心当たり自体がねえんだが」
「それはそうと…小哥、俺に何か頼みがあるんじゃないのか?」
「んん?あー…」
じっとりとした視線を投げ掛けた宋江と一瞬視線を交わした雷横は、すぐに気まずそうに正面を向き直す。
「頼みならさっき言ったろ?体調が戻ったら、ちゃんと『小李広』殿と会わせてくれって」
「そうか。それならそれで一向に俺は構わんが…いいんだな?それで」
「あー…いや、良かねえ。よく分かったな」
「分かるに決まってるだろう。どれだけ付き合いが長いと思ってるんだ?」
バレてーらww
※1「小哥」
親しい年下の男性に対する呼称。単独で用いれば「ニイちゃん」や「アンちゃん」のような意味合いでしょうが、ここでは日本語での「○○さん」や「○○君」の「さん」や「君」のようなものです。
※2「巡捕都頭」
盗賊などの捕縛に当たる役人。現代の警察官。
※3「太公」
他人の父親に対する敬称。或いは単に年配の男性に対する敬称。この場合は前者。また、自分の父や祖父を指して使う事もある。
※4「来済」
済州へ来る事。
※5「同声は相応じ、同気は相求める」
『易経(乾 文言)』。原文は『同聲相應、同氣相求』(「聲」「應」「氣」はそれぞれ「声」「応」「気」の旧字)。訓読は本文の通り。「万物は同類に応じる(類は友を呼ぶ)」の意。『荘子』や『史記』などにも似たような記述がある。ちなみに『水滸伝』作中で虎が登場する場面では、お約束のように『雲生従龍、風生従虎(龍は雲を生じ、虎は風を生じる)』と語られるが、この一節も『水流濕、火就燥、雲從龍、風從虎(以下略。水は湿に流れ、火は燥きに就き、雲は龍に従い、風は虎に従い)』と続くように、中国では古来より「龍には雲、虎には風」と相場が決まっている。




