表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水滸前伝  作者: 橋邑 鴻
第三回  燕錦虎 金陵に鬱々と愉しまず 李柳蝉 丘陵に怙恃を祀ること
35/139

閑話休題「城」

『三國志』などの中国系歴史SLGをプレイされた事がある方にはイメージしてもらい易い…てか今さらな話ですが、地名に関する根本的な表現についての内容なので御一読いただけたら幸いです。

中国の小説やゲームなどに縁のない方は、御一読いただけると他の中国系古典小説などを読む際の参考にしていただけるかもしれません。

相変わらずメタ(以下略)

 石仲(以下「仲」):燕小哥(燕順)は、無事に青州に戻ったかねぇ。


 石平(以下「平」):クソっ。お前ら汚ねえぞ、人が寝込んでる時に…。


 仲:兄さんが飲み過ぎるから悪いんでしょ?


 平:小哥と飲む酒は美味いんだよ!


 仲:はいはい、小哥の所為にしない。


 平:てか、何で俺が呼ばれてんだ?


 仲:小哥が忙しいからでしょ?頼まれた以上はしっかりやらないと。


 平:おう、頑張れ!


 仲:普通、そこは「任せろ!」じゃないの?最初から丸投げする気マンマンだね…


 平:おう、頑張れ!


 仲:はぁ…じゃあ頑張ろうかな。


 平:しかし「城」ってなぁ何ともまた今更な話題だな。


 仲:まあね。けど、現代の日本じゃ「城ブーム」的なものが来てて、結構注目されてるみたいだよ。


 平:おん?中国(こっち)の城がか?


 仲:いや、日本の城だけど?


 平:アホか!そもそも専門家でもねえ作者の講釈なんざ、誰も聞きゃあしねえだろ。作者が調べられる程度の事ぁ読者だってとっくに御存知だよ。


 仲:まあ、そうかもしれないけど一応ね。まず、第三回で出てきた「府城」っていうのは、要するに「府の城」って事だね。舞台が「建康府」だから「建康府の城」って事で「府城」。


 平:…おい、馬鹿にしてんのか?そんなもん見りゃ分かるわ!


 仲:古代から中世くらいの中国では…メンドいから宋代の呼称で書くけど、大体「府、州」とその下の「県」くらいまでは、いわゆる城壁を持った「城」があってね。当然、州の城なら「州城」、県の城なら「県城」ってなる訳だね。まあ、府州の治所にあたる県は府州の城と共用ではあるんだけど。


 平:よし、終わりだな。他に話す事もあるめえ。


 仲:いや、あるよ!?そもそもね、日本と中国では城の在り方っていうのかな、考え方が違うんだよ。


 平:在り方ぁ?城は城だろ?


 仲:元々、中国で「城」って言ったら、敵の侵入を防ぐ「防壁」の事でしょ?


 平:おう、そうだよ?んなもん「(万里の)長城」を見りゃ分かんじゃねえか。


 仲:そうそう。あれこそ北方の騎馬民族の侵攻を防ぐ為に築かれた、正しく「城」だよね。そこから転じて「城」が「防壁に囲まれた内側の領域」も意味するようになった訳だけどさ。


 平:それを意味すんじゃねえなら、他に何を意味すんだよ。


 仲:日本での「城」はそうじゃなくて、何て言うのかなぁ…砦というか、建物の事なんだよ。大阪城とか姫路城とか、某夢の国にあるナンチャラレラ城みたくドーンとそびえ立ってる、ね。もちろん「砦」なんだから敵の侵入を防ぐ為に堀があって、城壁があって、通行用の城門もあるんだけど、それらは「城という建物」を守る為の物であって、あくまでも城に付随している「城の一部」なんだよ。


 平:そのナンチャラレラ城ってのが何を指すのかピンと来ねえが…建物ってなぁ何だ、こっちで言う衙門(役所)の事か?


 仲:んー、ちょっと違うかな。日本の城の歴史をここで長々と説明はしないけど…要するにその領地の繁栄と、領主の財力や権力の象徴みたいなもんかねぇ。


 平:もうちょっと具体的な説明はねえのか…。


 仲:まあ、とにかく日本での「城」は「防壁」や「防壁の内側」っていうイメージじゃないって事。さっき現代の日本で城ブームが来てるって話をしたでしょ?テレビで特集されたりして色んな日本の城が紹介されるけど、真っ先に映し出されるのはデーンと構える建物であって、城壁から紹介されるなんて事はまずないからね。


 平:はいはい、そりゃ分かったがよ。文化も歴史も違うんだから、そういう事もあんだろ?


 仲:日本の城は建物であって、その建物を守るために城壁がある訳でしょ?でもって、その城は領地の象徴なんだから、当然それにあやかって民が集まり、町が出来るよね?ところが、そうした町や村は城壁の外に出来ていくんだよ。日本には「城下町」って言葉があるくらいだからね。城壁は「城を守る物」であって「町を守る物」じゃないんだ。


 平:おん?んなもん野戦で負けて敵が城まで押し寄せたら、農村も町も荒らし回されて終いじゃねえか。城だけ残ったってしょうがねえだろうが。


 仲:その戦いだけ見ればね。でも、勝った方が新たにその城を得るんだから、長い目で見れば城下が荒廃して苦労するのは勝った方でしょ?


 平:おぉ、まあそう言われりゃあな。


 仲:って、ここで話したいのはそういう事じゃなくてさ。中国の城は防壁の事であって防壁の内側の事でしょ?農村なんかは土地の関係上、防壁の外にある場合が多いけど、内側には衙門があって、兵が駐屯して、住民が住んでて、町があるじゃない。


 平:当たり前じゃねえか。町を守る為に防壁が築かれんだから。


 仲:言ってみれば中国での「城」は「都市そのもの」だよね。役所も町も全て城壁の内側にあって、住民も基本的には城内に住んでるんだから。


 平:まあ、城外に住んでんのは農民や、旅人相手に商売してる居酒屋や宿の連中くらいだな。


 仲:つまり、そういう事だよ。


 平:分かんねえよ、どういう事だよ!突然、諦めんじゃねえよ!


 仲:いや、だから…「城は都市そのもの」なんだから、つまり「都市は城そのもの」なんだよ。


 平:はあ??


 仲:第三回の中でさ、殊更に「府城」って言葉が出てきたと思わない?


 平:おぉ、何かやたら強調されてんなとは思ったが。


 仲:『水滸伝』の中で「府城」とか「州城」って言葉が使われない訳じゃないけど、この小説では敢えて使ってるから頻繁に出てくるんだよ。例えばさ、わざわざ「建康府の府城」なんて書き方しなくったって、ただ「建康府」と書けば済む訳じゃない?「都市は城そのもの」なんだから「建康府」と言えば、それは「建康府の役所や町が入ってる城」の事なんだから。


 平:まあ、そうだな…ああ、なるほどな。日本じゃ城は建物であって都市じゃねえ。都市の名称は「その都市の領地」を意味するんであって「その都市の城」って考え方がねえ訳だ。城と町が別モンなんだから、そりゃあ「城下町」って言葉も生まれるわな。


 仲:そういう事。もちろん『水滸伝』の中で、都市の名称が「その都市の領地」を表す意味で絶対に使われてない、って訳じゃないけど、読み手側も単に地名だけの表記があれば、まず思い浮かべるのはその「城」の方であって、少なくとも日本みたいに地名が都市の領地「のみ」を意味する訳じゃないって事だね。「大阪城」とか「姫路城」っていう言い方もそれを表してるでしょ?中国では「建康府の城」を表す為に「建康府」とも「建康府城」とも表記するけど、日本では「大阪の城」を表す為に「大阪」とは絶対に言わないから。


 平:確かに「城」の概念そのものが丸っきり違うわな。しかし、そう考えると難儀な話だ。城と地名がはっきり分かれてる日本の表記の方が、読んでて意味は伝わりやすいか?


 仲:凄いじゃない、兄さん。


 平:…?何が?


 仲:「概念」なんて言葉、知ってたんだ。


 平:てめえ…張り倒すぞ、この野郎。


 仲:冗談、冗談。実はこの小説の作者も、まだ中国の古典小説を読み慣れてない頃によく勘違いしてたみたいだよ?例えば「建康府に入った」って記述のあと、いきなり城内の描写に移って「ん?府州の境を越えて建康府の領地に入ったんじゃなかったの?いつの間に城内に入ったん?」っていう経験があったみたいでね。


 平:ま、そんなもん言われるまでもなく「建康府に入った」って記述があった時点で「建康府の(役所が入ってる)城に入った」って意味だわな。


 仲:そこら辺を踏まえた上で、この小説では地名を指しているのか城を指しているのかを区別出来るように、敢えて「大阪」と「大阪城」的な日本風に書き分けてるみたいね。俺が最初に言った「府州や県くらいまでは城があった」って書き方も、そういう事なんだと思うけど…。


 平:確かにな。別に町ン中に「城」って建物が在る訳じゃねえし。「府州や県は城だった」の方が、表現としては合ってるか。


 仲:そういう事に馴染みがある人から見ればね。でも「城が建物」って感覚で読むと「府州や県=城」っておかしな表現でしょ?もうちょっと詳しく「府州や県は防壁に囲まれた城と呼べる形態だった」って書いたところで、結局は城に対する考え方が違うと意味がよく分からないじゃない。それならいっそ、って事で「城があった」に落ち着いたみたいだけど…ただ、それも良し悪しだと思うんだ。


 平:逆に、馴染みのある人にとっちゃ…って話だろ?


 仲:そうだね。これも第三回の話で…メンドいからそのままコピペするけど「清風鎮っていう、青州領でも南の方にある(まち)が(神箭将軍の)任地って聞いたからさぁ。それならこっちに戻るには丁度、帰り道になるじゃん?んーじゃあ、寄ってみんのもアリかなと思ってぇ、清風鎮で最後に一泊してから青州を出たって訳さぁ」っていう台詞も、何て言うかもう…


 平:全くだ。お前にゃ死ぬほど似合わねえ口調だな。


 仲:…分かってると思うけどさ。そういう事を言ってるんじゃないよ?


 平:冗談に決まってんだろ!なんつーか…回りくどいっつーか、説明臭いっつーか。そもそも「清風鎮っていう、青州領でも南の方にある(まち)が」なんてのは、単に「青州の南にある清風鎮が」って書きゃあ済む話だわな。


 仲:『水滸伝』に限らず、中国の古典小説を読み慣れた人からすれば、こんな回りくどい書き方されなくたって、単に「青州」とあればそれは「青州城=青州の役所が入る城=治所」の事なんだから、兄さんの言った形で「青州治所から見て南にある清風鎮」っていう意味だって分かるじゃない?


 平:それを「地名は都市の領域を表す」って日本的な感覚で読むと…まあ「青州領の中でも南の方にある」って解釈も出来なかねえが「青州領の南」、つまり「青州に南接する別の府州にある清風鎮」って解釈する事も出来る訳だ。


 仲:実は、俺達が登場する前の第二回でも、清風鎮についてわざわざ「清風鎮は青州の治所・益都(えきと)県から南東に50~60kmの位置にある」って書き方してて──


 平:はあ!?何だよ、じゃあそん時に説明しときゃあ、ここでこんな面倒臭え事する必要なんかなかったんじゃねえか。


 仲:その時も単に「清風鎮は青州から南東に~」って書き方にしようか迷ったらしいんだけどね。その時は一応の理由として、青州の治所は「益都(えきと)県」って言うんですよ、って紹介も兼ねてこの表現に落ち着いたみたいよ?


 平:てか、一度ちゃんと説明してんなら「青州の南にある清風鎮」で十分通じるだろうが。作者の致命的な読解力に読者サマを付き合わせてんじゃねーよ!


 仲:でも、そうすると表現が変わっちゃうでしょ?一度そういう表現をした以上、それに合わせるっていうのと、後はさっきも言ったように、地名の表記が領地の事なのか都市を表してるのかはっきりさせる意味で、敢えてこういう表現で統一する事になったみたいね。


 平:馴染みのある人にとっちゃ、違和感以外の何物でもねえだろうがな。それに「清風鎮で一泊して青州を出た」ってのも全く以ておかしな話だ。これじゃまるで清風鎮が青州城内にあるみてえじゃねえか。


 仲:そうだね。今の台詞の最後に出てくる「青州」は「青州領」の意味で、つまり「清風鎮は青州領内にあるんですよ」って事を強調したかったんだろうけど…中国古典小説の原作はもちろん、その日本語訳でもこんな書き方をしてるのは恐らく他にないよ。はっきり言って雰囲気ぶち壊しだね。


 平:お前の言う、良し悪しの「悪し」って事か。だが、その表現で続けるんだろ?


 仲:たぶんね。もう、その表現を二回使っちゃったし。


 平:しかしなぁ…いくら地名を「領地」の意味で統一するにしたって「青州」と「青州城」くらいならまだしも「青州に入った」「青州を出た」ってのは、ちょっと日本的な表現に寄せすぎじゃねえか?理由は分かったが、そんなのが頻繁に出てきたら、却って原作ファンを混乱させちまうぞ?


 仲:んー、まあそういう時は「青州との州境に着いた」とか「青州との州境を越えた」みたいな表現も併せて使ってくんじゃないかな。こういう表現は『水滸伝』の方でも使われてるけど、単に「青州に着いた」「青州に入った」だと「青州城に到着した」「青州城に入城した」ってイメージが強すぎるから、こっちの小説とは逆に「青州城に入ったんじゃありませんよ」って、敢えて強調してるんだろうね。


 平:あー、まあそれなら…。


 仲:でも、それはそれで日本の感覚だと、逆に「…ん?」って感じだと思うけどね。どっかの都市に向かって…例えば日本の東京都と神奈川県は多摩川が境になってるけど、県境を越えた事を比喩的に「多摩川を越えた」って表現する事はあっても、そうでもなければ、わざわざ「県境を越えた」なんて言わないから。「神奈川に入った」とか「東京に入った」って言えば済むんだし。


 平:あちらを立てればこちらが立たず、か。


 仲:兄さんが言ったように中国と日本では文化が違うから、どちらかの習慣に合わせれば、もう一方に違和感を持たれてしまうのはしょうがないと思うんだ。そういった違和感を承知の上で、やっぱり日本語で書かれた日本向けの小説だから、日本的な感覚で書いた方が良いんじゃないかって結論らしいね。


 平:何かどっかで聞いた台詞だが…まあ、悩ましいとこだな。


 仲:単にこの回だけの事なら注釈なんかで説明すれば済む話だけど、地名の表記なんてそれこそ全編に亘って出てくる訳で、さすがに毎回注釈を入れる訳にもいかないでしょ?読み慣れてる人にとっては違和感があるだろうけど、お叱りを受けるのも覚悟の上でそう決めたみたいよ。


 平:なるほどな。ま、良いんじゃねえの?作者がそう決めたんなら、責任取んのも作者なんだし。ところで話は変わるが、県より小さな鎮や集落なんかはどうすんだ?それこそ小哥が戻った清風鎮は自衛の為に木柵で周囲を囲ってるようだが、表現としてはやっぱ「城」か?


 仲:まず、実際に当時の中国で県より小規模な町、「鎮」とか「荘」と呼ばれる集落に「城壁」と呼んでも違和感がないような防壁が築かれていたかどうかは不明だね。ただ、例えば湖なり川なりに面して集落を形成して、反対側には風防も兼ねた目隠しの林を作って、っていう工夫がなされた町はあったみたい。でも、それをもってその集落を「城」と呼べるかっていうと…たぶん呼べないよね。まあ「城壁」とまではいかなくても、木の柵なんかで囲ったような町くらいはあったかもしれないけど。


 平:まあ、木の柵を「壁」って言われてもな…。


 仲:『水滸伝』の作中では、県より小規模ながらも、馬や武器を揃えて一種の武装勢力のように扱われてる集落がいくつか登場するんだけど、その集落を囲う防壁が「城牆(じょうしょう)」と表現されてる場面があるよ。「牆」は「壁」とか「塀」の事だから、要するに「城壁」って事だね。


 平:そう表現されてるって事は…。


 仲:そ。その防壁が石積みである事も説明があるし、集落をぐるっと取り囲んでる事もちゃんと記述があるよ。そもそも「城」自体が「防壁」を意味する訳だし、その集落の備えの堅さを「銅牆鉄壁(どうしょうてっぺき)」と表現してるくらいだから、集落自体を「城」と表現してる場面はないようだけど、防壁が「城牆」と表現されてても違和感は少ないよね。


 平:「銅牆鉄壁」ね。「金城湯池(きんじょうとうち)」とも言うが。


 仲:兄さん…!


 平:…何となく想像はつくが、今度は何だ?


 仲:「金城湯池」なんて言葉まで知ってるなんて…。


 平:よし、頬を出せ。一発ブン殴る!


 仲:うわぁ!待って待って、ゴメンって!ゲフン…えーっと、ちなみに「銅牆鉄壁」っていうのは、直訳すれば「銅の(へい)と鉄の壁」って意味だけど、いわゆる日本で言う四字熟語みたいなもので、要は物の例えだね。堅苦しい言い方をすれば「極めて堅牢な物」とか、そこから転じて「防御が固く、難攻不落の城」って意味だけど、まあ平たく言えば「カッチカチがエグすぎんよ、コレぇー!」って感じかな。


 平:うるせえ、知ってるわ!


 仲:はいはい。さて、じゃあこの「水滸前伝」ではどうなのかっていう話だけど、都市を「城」と表現したり、都市を囲う防壁を「城壁」と表現するのは県以上の規模で、県より小規模な町や集落については、防衛用の柵や土塁が築かれていても「城壁」とは呼称せず、そこに門があっても「城門」とは呼称されないと思うよ。さっきの例でも「石造りの防壁」みたいな感じになるんじゃないかな。つまり、県より小規模な集落を「城」とは表現しない、って事だね。コレも日本のイメージに沿った形かな。


 平:よし、解決したな。今度こそ、もう書く事はあるめえ。


 仲:んー、まあ「城」については一通り書けたと思うけど…。


 平:大体「青州」だろうが「青州城」だろうが、その程度の表現の違いで小説の価値が下がるようじゃ、こっちの作者の底が知れるってモンだ。もうちょっと、本家『水滸伝』の文章の素晴らしさを見習えよ。さて、引き上げるか。


 仲:そんなの無理に決まってるじゃない。相手は中国の通俗小説史上、最高峰とも言われてる作品だよ?こっちの作者が敵う訳ないでしょ…って、そんなに帰りたいの?


 平:こちとら身体ン中の酒がとっくに抜けちまってんだよ!


 仲:そんな兄さんに申し訳ないんだけど、最後に一つ「治所」について…。


 平:ここのテーマは「城」だろうが!余計なモンまでブッ込んでくんじゃねえ!


 仲:はいはい、じゃあ短くね。本編の「後書き」にもあったように「治所」っていうのはその行政区分の役所が置かれてる都市の事で、「水滸前伝」で主に登場するのは州の治所、日本語で言えば「州都」って事になるのかな。現代の日本で例えると都道府県庁所在地に相当するんだけど…。


 平:それ以上、何を書く事があるってんだ。


 仲:青州の治所は益都県、ここ建康府の治所は上元(じょうげん)県って事になってるけど、実はコレちょっと史実とは違うんだよね。


 平:そりゃそうだろうが。史実じゃこの時期、ここは「江寧府」って呼ばれてたんだから。


 仲:うん、そうなんだけど、そういう事じゃなくってね。実は当時、州の治所は二県置かれてた可能性があって、少なくとも江寧府には江寧県と上元県の二県が治所として置かれてたんだ。


 平:ほー。


 仲:元々は江寧県が先に置かれ、色々な名称の変遷があった後に上元県に改称されたらしいんだけど、この物語の100年ほど前に、付近を流れる川を境にして北に上元県、南に再び江寧県が置かれて以降、清朝までずっと二県がこの地の治所とされてたみたいね。


 平:「少なくとも江寧府は」ってのは?


 仲:当時の地名や府州の配置が描かれた資料を見ると、治所のところにはその府州名と県名が記されてるんだ。それはたぶん「府州の役所」と「県の役所」が置かれてた事を表してると思うんだけど、江寧府には「江寧府」「江寧」「上元」と三つの地名が書かれてるのに、例えば青州には「青州」と「益都」しか書かれてないんだよ。


 平:つまり、全ての府州に二つの治所が置かれていたか、江寧府だけが特にそうだったのか、調べてみたが分からなかった、と。


 仲:そういう事。でも、その府州が舞台になる度に前回はこっちの県が治所、今回はこっちの県が治所ってしてもしょうがないしさ。特に江寧府と江寧県みたいに、府州名と県名が同じだと紛らわしいでしょ?この小説の中では建康府の名称を使ってるけど、単に「建康」って書く場合もあるんだし。なんで、この小説の中では基本的に府州の名称とは別の名称の県を治所としてるみたいね。



 ──スパーンっ!!



 仲:痛っ!!


 平:どーでもいいわっ!!さっきも言ったろうが。歴史の教科書作ってんじゃねえんだから、作者がそう決めたんならそれで良いんだよ!んーな細けえ事をわざわざ講釈垂れんでも、読む方だっていちいち調べたりゃしねーわ。


 仲:()ったいな、もー。そこまで重要じゃないと思ったから、本編を使わずこっちを使ったんじゃないか…えーっと、という訳で拙い説明でしたが、引き続き本編の方もよろしくお願い致します。


 平:よっしゃ、飲むぞー!


 仲:兄さん、ほどほどにね…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ