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霊群の杜  作者: 柘植 芳年
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ハダカヌユー

沖縄の空は青い。

そう思うのはもう何度目だろうか。拠点があるので宿泊費を気にする必要はないが、蓮と縁ちゃんをこれ以上休学させていいのかどうかが猛烈に気に掛かりはじめている。そろそろ帰らなければ。しかし。

「こいつ、どうしようかなぁ…」

ホームセンターでリードを買った。餌は基本的には何でも食べるらしく、適当に買ったフードをカリカリしている。

あれから何度か、琉球犬を連れて交番へ向かった。しかし「交番に行くぞ」と決心して家を出ると、奇妙な目に遭うのだ。絶対に一本道だった筈の場所で道に迷ったり、どう見てもウワーグワーマジムンと思われる豚に執拗においまわされたり、霧に覆われたり。何とか交番に辿り着いても警官が警邏に出ていて帰ってこない。それが昨日。そんな事に一日を費やしたので、中高コンビから抗議を食らった。

「もーいいじゃん!遊びに行こうよ!犬は一旦置いてさー!」

「そうですよ!もう飼ったらいいじゃないっすか!一人暮らし寂しいでしょ!?」

「簡単に言うなよお前⋯生き物を飼うってな色々責任が生じるんだよ。親の庇護を受けてる一介の学生がな」

「一介の学生!?拝み屋稼業の!?」

⋯こいつは何かというと拝み屋稼業のことを持ち出してくる。俺の本意じゃないし、普通の就職が出来るならそうしたいと今でも思っているのに。

「⋯⋯いいのか、学校とか。そろそろ帰らないと」

もう帰ろう。道すがら交番を探し、事情を話して犬は空港スタッフにでも預けよう。

「んん、学校には『民俗学のフィールドワークです!』って言ってあるから。授業は録画して貰ったのを見てるし、なんかそれっぽい事書いてレポートにして提出すれば全然余裕」

―――時代、か。

「俺は朝ブリッジしながら『すみません、熱が、ごほ、下がらなくて』って電話するから大丈夫です!塾はオンラインもいけるシステムだし!⋯学校の授業?受験の役に立ちます?」

なんか毎朝ブリッジしながらボソボソ喋ってやがると思ったら。

「てか、観光地みたいな所しか行ってないけどレポートのネタあるんすか?」

「⋯⋯行った場所はね。行った面子のお陰でネタは盛り沢山だよ?」

ちら、と流し見されたが気が付かないフリをする。

「まぁ、決定的に『勉強してきたなぁ⋯』って唸らせる場所には行けてないかぁ⋯学校へのカムフラージュとしては戦跡とか行ったほうがいいかなぁ」

「アブチラガマとか?大丈夫ですかこの面子で行って」

ちら、と流し見された。お前もか。

「くっくっく⋯兄さんがご本人にご登場願おうか?」

「それが嫌だって言ってるんだけど!?」



「じゃ、御嶽とかどうっすか?」



蓮がポチポチ弄っていた携帯をかざした。

『世界文化遺産 斎場御嶽』というページが表示されている。厳かな岩肌が、その向こう側に広がる神秘的な森をフレームのように切り取っている⋯いわゆる『巧み』な写真だ。⋯うん、巧みな写真だ。

「沖縄の信仰的な核心ですよ!神聖な場所だからヤバいのは居ないでしょ?聖地ですよ聖地」

「いいじゃん!レポート捗る!」

「へぇ⋯聖地ねぇ」

くっくっく、と喉を鳴らして奉が笑った。

「入場チケット買って立ち入る聖地ねぇ⋯世知辛いねぇ、くっくっく」

観光地じゃねぇか。

「いいの!整備されてない山の中の聖地なんか逆に怖くて行きたくないよ!」

レポートの為に行くんだから!とブツブツ呟きながら縁ちゃんは寝室の襖をぴしゃりと閉めてしまった。⋯一番いい寝具が敷かれた部屋は完全に縁ちゃんの個室となっている。

「今開けたらボコボコにする!」

襖の向こうから声がした。⋯ああ、着替えるのだな。

「⋯⋯ま、それは本当です。整備されてないガチの御嶽は、入れたもんじゃないっすよ」

襖の隙間をじっとりと眺めていた蓮が、ふいと踵を返して伸びをしながら雑魚寝部屋へと戻って行った。




「おかしい、ですねぇ⋯」

助手席でGoogleマップの画面を開きながら、蓮が呟いた。奉は既に爆睡モードに入っている。⋯心底、興味がないのだろう。『一応、次の自宅候補の内見がてらについて行くとするかねぇ』などと不遜な事を言っていたが、本当はもう沖縄に住む気はないのだろう。

「Googleマップでは、もうこの辺は駐車場のはずなんだけど」

一旦車を停めてみる。行き逢う車を見なくなって随分経っているのだ。⋯念の為。

「ほら、現在地ここ。駐車場ですよね?」

マップ上の俺は、駐車場に車を入れてホッと一息している⋯しかし。改めて窓の外を眺めると。

「⋯⋯⋯道、だな」

「くっくっく⋯またこのパターンかい」

目を閉じたまま、奉が肩を震わせて笑った。

「⋯⋯何でかな、俺だけのせいとは思えない」

フロントガラスがふわり、と曇った。⋯おかしい。結露が見られるということは、外気との差が大きくなっているということだ。フロントガラスを撫でると、水滴が指先を濡らした。

「どういうことだ。⋯外が、寒い?」

ドアを開けて外に出てみる。⋯肌が粟立つほど冷える。10月とはいえここは沖縄だ。この気温は有り得ないだろう。

「わっ寒っ!」

縁ちゃんがドアから身を乗り出した途端、シュッと車の中に引っ込んでしまった。

「⋯トランクに上着入ってるから」

念の為持ってきておいたカーディガンを貸す。蓮も何か言いたげにチラチラ見てくるが、気が付かないふりをする。カーディガンは1枚しか持っていないのだ。

「奉、どういう状況だ」

適当に丸められ、座席に転がされていた羽織を広げて袖を通しながら、奉が肩を竦めた。

「⋯⋯ここは斎場御嶽で、合ってるよ」

「んんー、全然写真と違うんだけど?」

不安げに周囲を見渡す縁ちゃんを一瞥して、奉は羽織の前を掻き合わせた。

「ただ、そうだな⋯『裏側』に入り込んだ⋯とでも言うのかねぇ」

⋯⋯裏側?

「ゲームとかやるだろ」

「なぜゲームの話になる」

「たまにバグで、背景グラフィックの裏側に迷い込むことないか」

「⋯⋯あぁ」

出られなくなって完全に積んで涙を呑んでやむを得ずリセットするやつか⋯てことはおい。

「俺たち戻れるのか!?」

「問題ないよ。『あちら』は俺らを歓迎していない」

歩いてりゃそのうち追い出されるだろ⋯実に面倒そうに呟き、気だるげに林道に沿って歩き始めた⋯が、程なく足を止めた。

「おいおい⋯どうなってんだ、先客がいるねぇ」

少しだけ開けた林の広場に、黒いワンピースの少女が座り込んでいる。顔は、ここからでは見えない。⋯話し声が聞こえる。


「⋯⋯そうなの」

「ふふ、お腹すいたのね」

「分からないな。ごめん、もう一度いいかな?」


―――なんだろう。とても、厭な感じがする。

浜辺に打ち上げられた海獣が腐り始めた時に嗅ぐような匂いがツンと鼻をついた。匂いは少女が座っている辺りから漂ってきているような⋯勘でしかないが、彼女が『良くないもの』と話している気がする。


「君、ちょっと⋯」


思わず、声をかけてしまった。少女は弾かれたように振り返り、目を見開いて俺たちから逃げるように後退った。

「誰!?」

「⋯⋯⋯あ」

「⋯⋯⋯あ!」

俺と彼女、同時に声を上げた。⋯無理もない。俺たちは互いを知っている。


「下僕!なんでアンタがここにいるわけ!?」


俺はそっと一礼して、その場を立ち去ろうとした。⋯が、がしっと肩を掴まれた。

「なに立ち去ろうとしてんのよ。偶然にも!幸運にも!アンタが崇拝してやまないこの音羽様との邂逅を果たしたんでしょう?滂沱の涙を流して崇めてもよくってよ?」

⋯迂闊だった。何故俺は遠目に彼女が顔見知りのゴスロリ占い師だと気が付かなかったのだろう。そっと蓮と縁ちゃんの方を伺う。⋯そっと、遠巻きに俺を見ている。近所でキジバトでも見つけたような顔で。俺が変な知り合いに絡まれる光景はこいつらにとってはキジバト程度のレア度なのだ。

「⋯⋯なんか、お邪魔しました。ごゆっくり」

再び一例して立ち去ろうとするが、がっしり掴まれた手が離れない。

「⋯⋯アンタも、呼ばれて来たのよね?」

やむを得ず、振り返って先程音羽が居たあたりに目を凝らす。⋯少しだけ開けた林の中の空き地に、4~5体程の黒いもやのような『何か』が渦巻いていた。人⋯にしてはおかしい。うまくは言えないが⋯何かが足りない。⋯魂とか、心とかそういう目に見えないものではない。明らかに見えるはずの何かが、見えていない。そして⋯俺は腐った死体の匂いを嗅いだことがない。だが⋯薄められてはいるが、死臭を連想させる不吉な匂いがする。とても、厭な感覚が全身を押し包む。⋯ダメだ、帰りたい。

「⋯⋯呼ばれてないです。迷い込んだだけです。早急に立ち去ります」

「なにそれ、感じ悪!」

「んん、どうしたの結貴くん。それ、対応よくないよ」

見かねた縁ちゃんが割って入ってきた。

「え誰その子!⋯おい、下僕」

「違う。そういうのじゃない。妹だ、奉の」

⋯⋯バカンス中に女子大生にドスの利いた声で『おい下僕』と言われた。

「えっ⋯奉さん?」

突如声のトーンが高くなり、前髪を指先でいじり始めた。

「どちらに⋯いらっしゃるの?」

⋯⋯気怠げにスマホをいじる奉を指差すと、音羽は『ひゅっ』と過呼吸のような音を漏らしてくるりと後ろを向いてしまった。

「⋯呼ぶ?」

「ダメ!⋯どっどうしてこんな時に限って⋯今日メイクも適当だし前髪もいけてないし⋯」

意外とピュアか。

「そっそれに今日は集中したいの⋯精霊との語らいに!」

「精霊⋯」

改めて広場に目を凝らす。⋯妖怪、などという言葉はなるべく使いたくはないが⋯。

「金城さん、言いたくないけど⋯これ、関わらない方がいい」

pこれは精霊などというピュアな存在じゃない。なんというかこう⋯もっと「混ざりもの」の多い、不純物マシマシの『汚物』だ。

一瞬、顔を顰めて反論しかけたが、ぐっと息を呑んで耐えてくれた。⋯半年前ならヒステリックに噛み付かれたに違いない。下僕呼ばわりの裏側にチラリと垣間見える、おちょこの裏側程度の信頼感。

「⋯⋯一応、下僕の讒言を聞いておいてあげるわ、ヤブ蚊の嘆きに耳を傾けるくらいの寛大な心持ちでね」

「ヤブ蚊っすか⋯」

怒ってはいるんだな。そして下手こいたら潰す気満々だな。

「あの⋯金城さんには、どう見えている?」

「どうって⋯私には!その⋯!」



「気配しか分からない、というところかねぇ」



その声に弾かれたように音羽が振り向いた。黒い羽織が薮を撫でて衣擦れの音を立てている。⋯薮に入るのも怠いと言いたげに俺たちから距離を置いていた奉が、いつの間にか俺の背後まで近づいていた。

「え、あ⋯奉さん⋯」

「⋯⋯やってくれたねぇ。いい感じに観光地化された御嶽で妹の宿題をすませてさっさと帰るつもりだったというのに。こいつらに知恵をつけたのは、アンタかい?」

「知恵⋯⋯?」

音羽は目線を巡らせて、心当たりをさぐり始めた。

「⋯人を求めている、ていう感じがしたわ。聖なる存在に近づきたいから近くに留まっているけど、どうしても近づけない。なんていうか⋯聖なる場所に行きたい。でもお腹が空いて⋯近づけない。人間に会いたい」

そう言って視線を広場に戻し、少し愛おしげに眺める。

「この子達がいる場所には、少し緩めの結界があることに気がついたの。人によっては、一時的にでも越えられないこともないくらいの。私も、偶然越えた。そこでこの子達に会った」

でも入れ知恵なんてしてない⋯はず、と呟いて音羽は顔を伏せた。奉は口の端を釣り上げ、肩を震わせて笑った。

「おいおいおい⋯腹が減ったのかよ。困ったねぇ」



―――また、人間を食らいたいのかい?



「なっ!?」

弾かれたように音羽が顔を上げた。

「そんな子たちじゃなくて!⋯さっきだって、私にとても懐いて⋯!」

「食いたいけど、食えないんだよ」

そう言って奉は広場を一瞥した。

「あんた、姿は見えてないよな。⋯俺の目にはな、同族の血に塗れた、頭のない異形が久しぶりの生き餌に夢中で群がっているように見えたよ⋯口もないのにねぇ」

くっくっく⋯と薄く笑って奉は踵を返した。

「居たければ居ればいいよ。この結界は確かに、緩い。内からも外からもな。⋯俺たちにとってはねぇ」

さくさくと歩き出した奉を、全員が追った。

やがて、斎場御嶽の少し俗っぽい入場口が見えてきた。⋯先程迷い込んだ広場の方が余程、『御嶽』を感じた。



「ずっと昔のことだ。縄文時代ですらなかった、人が裸で過ごしていた時代⋯」

助手席に乗り込んだ奉が、ぼそりと語り始めた。

「裸で?年がら年中?」

「沖縄ならいけんだろ、南国みたいなものだから」

頭の中をポリネシアダンスやマサイ族が過ぎった。⋯まぁ、なくはないか。

「⋯干ばつや飢饉が何度となくこの地を襲った」

「だろうな」

何処も似たようなものだろうが、当時から台風銀座だったであろう沖縄の惨状は壮絶なものだったろう。

「何ら解決手段を持たない、食料の貯蓄も難しい気候⋯まぁ、死に直面するわな。その結果彼らが選んだ手段が」



共食い、だったんだよねぇ。⋯奉は事もなげに呟いた。



「俺聞いたことあります!日本史の先生が話してました!貝塚で人骨見つかることあるんですよね!」

「日本史の手塚か⋯」

あいつ雑談始まると止まらなくなるんだよな⋯俺も聞いたことがある。

「いえ、日本史は高橋です!」

あ、転勤したんだ。

「大抵の文化圏では人肉食の記憶は大なり小なりぼかされているんだが、何故か沖縄は隠す気がない。むしろ怪異として残してしまっている⋯面白いねぇ」

「ぼかされている⋯?」

「そうだねぇ⋯例えば『賀茂旧記』に記される葵祭の由来を聞いたことあるか」

「⋯⋯いや」

知らん。聞いたこともない。

「欽明天皇の頃だから⋯6世紀くらいかねぇ。異常気象で作物が実らず、占いにより『賀茂大神の祟りである』と

の結果を得て、馬に鈴を掛け、人は猪の頭を被り、駆競をしたところ、風雨がおさまり作物が実るようになった、という伝承がある」

「なんだそりゃ」

どうして作物が実らないからと馬に鈴つけて猪被った人間と競わせようとしたのか。昔の人が考えることは意味がわからん。⋯窓の外をぼんやり眺めて、奉が呟いた。

「おかしいよねぇ、整合性がないよねぇ。⋯だから後世の人間たちはこう考えるんよ。『不作で飢えた民は、猪の頭を被せた人間を狩り、これは猪である、と言い聞かせて屠り、肉を食らったのではないか』と」



―――しっくり来てしまった。



「人肉を食らったことが公に知れると処刑された⋯となっているが、見て見ぬふりをしていたんだろうねぇ。お互い」

タブー視されていたことは確かなんだろうな。

「沖縄ではちがうんすか?」

「沖縄では⋯そうだねぇ。公然と行われていた時代があるんだろうね、恐らく。ハダカヌユーという名前の怪異にされているということは、文明が興る前の彼らの行いはある意味、仕方が無いことと認識されているんだろう。全ては時代のせい、というわけだ」

「文明が発達してからは普通にタブー視されたんです?」

「そりゃそうだろ。⋯構造的に、慢性的な飢饉からは逃れられなかったから、人枡田(トゥングダ)のようなガチの人減らしは結構あったけどねぇ」

与那国島の有名な「間引き」制度だ。島中の人間が集められ、決まった時間に田んぼに入りきれなかった者を処刑した、というやつか。⋯うろ覚えだが。

「もっとも飢饉というより、薩摩藩に課せられた過酷な人頭税を少しでも減らす為という背景もあるが⋯食い物がないから人を減らすという選択肢が、本土より露骨に存在したってのは確かだ」

つまり、人減らしや人肉食に対するタブー感は、本土より緩かった可能性はある。⋯構造的に。

「日本史の高橋がソテツ地獄の話してましたよ!人肉食べない努力はしてたんじゃないかと!」

「キリがねぇよ⋯ハダカヌユーの話にもどるぞ」

蓮の脱線を強引に打ち切って、奉が続けた。

「人が人の肉を食うと、肉に宿っていた『マブイ』を取り込むことになる。するとな」


マブイが、穢れるんだよねぇ。そう呟いて奉は口の端を吊り上げた。


「人のマブイが混ざりあうことで穢れる。食えば食うほど穢れていく。⋯穢れたマブイは、ニライカナイに受け入れて貰うことが出来なくなる」

「⋯⋯でも!あの子達は聖なる場所に集っているでしょう?穢れたものならどうして?」

「帰りたいんだろ、ニライカナイに」

帰れないことは分かっているだろうに⋯それでも惹かれて仕方ないのだろう。

「帰る方法は、ないんすか?」

「ないよ。⋯自我を薄めていってその地の精霊にでもなるのがいいんだろうねぇ⋯だが、気がついてしまった個体がいる。それがそっちのゴスロリにまとわりついていた連中だよ」

「わ、私に!?」

「考えてみろ。共食いをした者が共食いをした者を取り込み、穢れが凝縮していった存在だ。穢れを薄めるには、どうすればいい?」

「⋯⋯どうすれば?」

すっと指を立てて、奉が後部座席を振り返った。

「カルピスで考えてみろ。めちゃくちゃ濃いめに作ってしまったカルピスを薄めるにはどうすればいい?」

音羽がドギマギしたように身動ぎをして、やがて小声で答えた。

「み、水を入れるわね、普通」

にやり、と奉が笑った。

「然り。マブイの穢れを薄めるには、穢れなきマブイを取り込めばいい⋯彼らはそう思いついてしまったんだろう」

さぁ、と音羽の顔色が青ざめた。

「わ、私は食べられるところだったの!?」

「くっくっく⋯そこが皮肉なところでねぇ。やつら」


口が、ないんだよ。


「⋯⋯⋯え」

「共食いの祟りじゃねぇの?ないんだよ、口が。正確には頭がない。⋯くっくっく⋯見ものだったよ。あんたにすがりつきながら口のあったあたりを震わせて怨嗟の呻きをあげる。喉だけでくぐもった声をねぇ⋯くっくっく、暫くは気をつけることだ。あんたは一旦、奴らに情をかけてしまった。⋯厄介だよ、何千年もただ飢え続けた『モノ』に見込まれるってのはねぇ」

奉が言い終わるや否や、音羽は隣に座っていた縁ちゃんの肩をガシッと掴んだ。

「えっ何!?」

「わ、私じつは占い師なのよねぇ!タロット占いとか興味ない!?」

「へぇ、結貴くん、面白い知り合いいるじゃん!」

「男の中に女が一人って心細くない!?私が合流してあげてよくってよ!?」

「⋯確かに、ありかも!」



琉球犬に加えて、占い師も合流した。

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