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手術室

 俺が四つん這いになって部屋を出ると、リザリィのゴスロリのスカートが目の前に広がっていた。

 スカートの内側にふわふわの裏地がついていて、下着が見えないのはいいが、前が全く見えない。


「リザリィ、早く行ってくれ」


「ちょ、ちょっと待って、スカートで四つん這いは難しいのよ」


 確かに来る時も、リザリィは少し遅れて入って来た。

 あれはこのふわふわのスカートでは、なかなか前に進めなかったかららしい。


 ある程度進むと、なんとか中腰で立てるぐらいの高さになり、時間はかかったが元の部屋にもどってきた。


「ふう……結構疲れるわね……」


「通路がまともじゃないから、疲れるね」


「はぁ……さ、次はどっち? あっち?」


「うん、その通路に入って」


 マネキンのある部屋から、右側の通路に入ると、今度はどんどん縦長になっていき、横歩きをしないと進めなくなった。

 天井は高くなるのに、横幅は狭くなり、壁と壁の間の隙間を歩いている様な状態になった後に、ようやく扉につく。


 扉を押すと、今度はばったりと床上に倒れてしまうという無茶苦茶な作りだった。

 倒れている扉を踏みつけながら部屋に入ると、そこは手術室だった。


 部屋の真ん中には手術台があり、おびただしい量の血がしたたり、肉片が散らばっていた。

 手術をしたというよりも、なにかの生き物をバラバラにした様な形跡だった。


 手術台の横には生体情報モニターがあり、ピッ、ピッ、という音に同期して緑色のグラフが脈拍の状態を表示していた。


「あら、このオヤジって101のオヤジじゃなかった?」


 リザリィが手術台の上を見ながらそう言ったが、俺には何も見えない。


「誰か居るの? 俺には何も見えないんだけど」


「拷問台の上にオヤジが捕まってるわよ。手枷足枷はめられてるわ」


「拷問台? 俺には手術室に見えるんだけど……」


 ベッドの手前にはコードのついた押しボタンが乗っている。

 ナースコールする時に使うボタンだが、果たして手術室でナースコールなんてするものだろうか?


 押したらどうなるのだろう、という好奇心から、スイッチを押してみると、ピロリン、ピロリン、という電子音が聞こえた。


「ひぃぃぃっ!! 何か落ちてきたわよ!」


「えっ? な、何が落ちてきたの? 見えないよ」


「大きなヒルみたいな虫みたいな生き物よ、オヤジに噛みついて食べてるわよ」


「ええ、マジで!?」


 誰も乗っていない手術台がガタガタと震え、宙に血が吹き出し、肉片が飛び散る。

 見えない何かがそこにいるのだろう。


 生体モニターがビーッビーッという警告音を鳴らし、オレンジ色のランプが点滅を始める。

 脈拍のグラフが乱れ、人工呼吸器がバフッ、バフッと乱れた動作を起こしていた。


 そして数秒後にはモニターはフラットラインになり、警告音はビーという連続音を鳴らし続け、監視していた患者が死んだ事を告げていた。


「ま……グロイのは見慣れてるから、エログロよりはマシだけど……見事に骨と脳味噌だけになっちゃったわね……」


 からん、と乾いた音がして、手術台の上に赤い球体が現れ、血の海の中にころころと転がる。

 恐る恐る、その球体を手に取ってみると、黒い球体と同じく、精密な電子回路が中に詰まっている球体だった。


「その脳味噌、持っていくの?」


「脳味噌!? この機械の球体?」


「リザリィには脳味噌に見えるわ。さっきは、黒い心臓を取ってたわよね?」


「心臓? これの事?」


 俺がポケットから黒い球体を取り出し、血まみれの赤い球体と並べてみせると、リザリィは小さく頷いた。


「どこかで使うんでしょうね。あー、生きたまま人が食われる所見ちゃったわ。今のが真結ちゃんだったら大変だったわね」


「そ、そうか、その可能性もあるのか」


「大丈夫、ないわよ、ただのたとえ話。賓客を殺しはしないわ。あのオヤジはもうこっちに捕らわれてたんでしょ。だからただのパーティの道具よ」


「今頃、主催者は笑ってるんじゃない? そうやって、死や生を弄ぶのよ」


 まともな物は何一つ無い。全てが狂っている。そこに住む生物も、考え方も。

 それがこの狂気界という世界らしかった。


 元の部屋に戻ると、マネキンの形が変わっていた。

 両手を掌を上に向けて左右に差し出し、物を乗せられるようになっている。


 おそらく、手に入れたこの二つの球体を乗せるのだろう。

 左に黒、右に赤の球体を乗せると、マネキンはしっかりとそれらをつかみ、自分の身体に近づけた。


 赤の球体を胸の中へと押し込むと、画面に心臓のエコー図が写り、脈打っている状態を見せられた。

 次に黒の球体を画面の中へ押し込むと、脳味噌のホログラフが表示され、くるくると回転した後、ノイズ混じりの白黒画像になって、目が画面一杯に映し出された。


 左右におどおどと視線を彷徨わせていた目から涙が溢れ、何度も瞬きをすると、チャンネルが様々な番組に変わる。


 日本のチャンネルではない、どこかの国の放送。

 外国のドラマ。人が撃たれるシーン。

 戦争のニュース。爆発する街。戦車の上に乗って笑う兵隊達。


 最後にチャンネルは裏野ハイツを写して止まる。

 その一室、201号室のお婆さんの部屋から出火し、扉を開けて中から火に包まれた人が出てきた。


 画面はその人を大きく映し出す。

 201のお婆さんが背中に火が点いたのを消そうとして、悲鳴をあげながらよたよたと二階の廊下をさまよっていた。


「きゃあ! こっち来ないで! 火が移るでしょ!」


 リザリィがそう言って、あわてて後ろへとさがる。

 画面の中で燃えていたお婆さんの火が、マネキンの身体にも燃え移り、お婆さんが写っている頭部のテレビを両手で抱えながらもだえ苦しみ始めた。


 近くに居たらその火が俺にも燃え移りそうだったので、リザリィと共に後ろへと逃げだし、絵の中から202号室へと飛び出した。



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