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一戦終わったそのあとは

 実際、愛機〈マルドゥック〉の主兵装である〈ATH〉はいわゆる『初見殺し』の気がある装備だ。当たれば即消滅。『ひるみ』で動作をキャンセルされないように装甲を分厚くしてあるのだ。ウケる層が大分狭まりそうなほどにマッシブ――筋肉質に思えるほど分厚い装甲を持った機体。全ては必殺技の一撃で決めることに特化した愛機。

 これでも、なかなか気に入っているのだ。なんでだろうな? やはり、若葉と暮らし始めた頃からの付き合いだからだろうか? つまりは、もう二年近くにもなるということだ。

 多くの機体が眠るデータの海にしか存在しない0と1の集合体であっても、自分の愛機であることに変わりはない。

 白と藍色のボディは、思えば昔大好きだったロボットに倣ったカラーリングだった。三つ子の魂百までとはよくいったものだ。


 この間の一件以来の対人戦に少しだけ緊張。負ければ失うものは存外多い。

 それに、彼女のねらいがなんなのかはまだわかっていない。


『〈スターリースカイ〉、出る!』

 スターリースカイ……星空、か。SFっぽい名前で、しかも女性的。とても良い名前だ。

 黒い機体に、金色のアクセントが光る。渋いカラーリングなはずなのに派手に思えるのだから不思議だな。

「……通信ありかよ」

 今気づいたけれど、通信が開かれていた。ふつう本気の対人戦では切っちゃうんだけどな。

 その性質上、アンドロイドへの指示は音声が主になる。通信をやるってことは、手札をオープンにしてやるカードゲームみたいなもので、戦略性もなにもなくなる。

『真剣勝負ってほどのものでもないでしょ?』

「まあ、そうかもな」

 ……彼女が良いというのならそうしよう。今、主導権は間違いなく彼女にある。

「巡、出撃しないと!」

「ああ――〈マルドゥック〉、今日は勝つぞ!」

「各計器、チェックするまでもなくオールグリーンです!」

 緩やかな加速をしながら、マルドゥックは暗い滑走路のようなところを抜け、桜並木が彩る街へと飛んでいく。スラスターの噴射にあわせ、桜が散っていく。

 人気が高いこのステージか。良いかもな、なかなか。


『その機体、一撃必殺タイプと見た!』

「おまえ、実は廃人だろ! 友達の影響とか嘘をつくな!」

『きっかけは友達よ、きっかけはね!』

 敵機は女性のそれにしては珍しく、こちら異常に筋肉質な機体だった。

 なんだか、いやな予感がするぞ。なんだ、後ろに備えられた大口径っぽいビームライフルは――。

「巡、シールドを出しますか!?」

「間に合わない! ……ATHの準備にはいれ!」

 敵機はビームライフルを構える。動作がのろいのは、おそらく多くのポテンシャルをビームライフルに裂かれているからなのだろう。動作の機敏さまで犠牲にしているのだから――絢音の機体以上に、異常なバランスだ。

 ARROWの機体は必ず一長一短になる。長所がビームライフル、短所がそれ以外……といったところだろうか。


 ATHの凄まじい光があたりを吹き飛ばす。直後敵機の閃光が桜並木を焼いていく。レールガンか何かのたぐいだろうか――一瞬遅れればお陀仏だろうに。チャージ時間はこちらより幾分長い。その分、威力は段違いなのだろう。まさか自分のそれ以上の攻撃力を持つ兵装を見ることになるとは思わなかったな。

 桜並木が一瞬で火の海だぞ、畜生。

『あれ、リザルト画面が出ない――』

 あのやろう、勝ったと思ってやがる――。

 初見殺し兵器のレールガンで襲って来やがったか。危うかった。

 ATHで『地盤ごと』吹き飛ばしていなければ直撃を食らっていたところだろう。にしても、端から見たら落とし穴にはまっている今の姿は、情けないことこの上ないな。

 ARROWは無駄にディテールにこだわるゲームだ。『地下』だってしっかり用意されているのだ。

「なるほど、巡はさすがに頭が柔らかいですね」

「代わりATHを封じられた。もうああはいかない」

「では、どうします」

「力で、ごり押しだ!」

「了解!」

 予備動作はこちらのほうが少ないわけだから、こちらが先に技を発動させられれば勝利は確定。

 いわゆる『相性が悪い』とはこのことだな!

「いくぞ、〈マルドゥック〉!」

 急上昇する愛機をとらえようと、〈スターリースカイ〉は更に攻撃を繰り返してくる。ギリギリあたり判定のないところをかすめながら、穴の中を脱出する。

「外付けブースターがやられました!」

「畜生……が、向こうだって鈍重なはずだ!」

 接近戦ならばこちらに分ある!

 敵機の射程は『ほぼ無限』と思って間違いがなさそうだ。ならば、至近距離でも遠距離でもあまり変わらないだろう。

 おまけ程度についているビームライフルで牽制してみる。装甲にはじかれてしまった。

『残念、ビーム兵器は効かないよ!』

「……俺の武装はATH以外はビーム兵器しかないんだがな」

「巡、やっぱり〈マルドゥック〉ってピンキリすぎますよね」

「それは言わない、約束だ!」

 フットペダルを思い切り踏み込む。Gに体が揺られる。外付けの使い捨てブースターが破壊されてしまった今、少々速度は心許ない。

「第三波、きます!」

「若葉、揺れるぞ!」

「わかっています!」

 スラスターの出力を上げ、無理矢理気味の横旋回。ゲームの筐体がこれでもかと言うほど揺れ、画面にはアクロバットを決める自機が俯瞰気味に写される。つい一秒前自分がいたところが吹き飛ばされた。低空飛行していたせいか、地面がまさしく焼け野原にされてしまったぞ、おい。最近俺の相手規格外ばかりだな。走馬燈が見えたぞ。

「っつう――」

 唸りながらもマニュピレイターをしっかりと握る。被我の距離、500……射程圏内!

『残念! 射程はわかってるからね!』

 敵機が補助ブースターをふかし、急速で後退する――ブースターが少ないこちらよりは向こうの方が速い!

『さあ、覚悟を決めて!』

「こっちの台詞だ! 若葉、ATH関連以外の武装を全部パージする準備をしろ。重荷は下ろす」

「了解――武装、パージ、いつでもOKです!」

『悪足掻きね――!』

 敵機が予備動作に入る。急加速し、敵機との距離を500に持ち込み、マニュピレイターを押し込む。

「武装をパージ! 〈ATH〉だ!」

「相打ち覚悟です!」

「お願い若葉、フラグをたてないで!」


 

 桜の機をつぶしてしまいながら、背中のホールドポイントに保持していたビームライフルとビームサーベルがパージされる。

 敵機が巨大なライフルを構える。そして、それを目前のこちらに向けた。


「まさか、こんなところで『あの設定』が役に立つとはな」

「ですね、巡」


 直後、二つの武器が爆発する。相手に技術を渡さないために、パージすると爆発するようになっている――というマニアックな武器設定が今、ここで生きる!

 パージから爆発につながる流れは様式美だ!

 手榴弾か何かのように使われた武器は、〈スターリースカイ〉のライフルを弾き飛ばした。それで良い。ねらい通りだ。

『な、なにそれ! そんな使い方あり!?』

「二年の付き合いをなめるなああああああ!」


 腕を前にかざし、愛機〈マルドゥック〉は美しい桜並木と敵機を全て吹き飛ばした。









「なによあの技!」

「なんだよあのライフル!」

 筐体を出るなり、『ちーちゃん』が食ってかかってくるが、こちらだって一言いわねば気が済まない気分だ。あんなピンキリ機体があってたまるか!

「まあまあ、巡。ここにいるの全員ピンキリ機体の使い手なんですから、文句を言っても始まりませんよ?」

「そうそう。自虐にもならないね、これ」

 ちーちゃんのアンドロイド――デイブレイク社第六世代の一機〈ピア〉が答える。名前を聞きそびれてしまったが、そんなの後で良いよな。勝負はきっと、これっきりじゃないのだから。

 思えば、若葉の名前だって教えていないのだから。

「でも、マスターの恥ずかしい朗読、聞いてみたかったかも知れません」

「そこまで言うならお前がやれば良いだろ」

「そうですか? 枕元で情感たっぷり朗読しますよ? なんたってファンですから」

「……ごめんやっぱりやめて」

 リクライニングシートでくつろいでいた絢音が、くすりとわらった。

「もう、ちーちゃんも、人が悪いんだから。あそこまでやりこんでるなら、言ってくれれば良かったのに」

「ごめんね――ま、勝負に負けたし、ていうかそもそも元からだけど、私は今回の一件のことはもう気にしないからね。あとは、絢音に許して貰うだけ……って、そう簡単にはいかないよね」

「言うまでもないよ。暴走したのは私なんだから」

 絢音はにっこりと笑った。

 その笑顔は、何年も前に見たものと被って見えた。


「マスター、楽しそうですね」

「そうかもな」

「珍しく素直なんですから」

 あれだよ。運動した後はすっきりした気分になるだろう。そういうものだ。

「若葉、帰ろうか」

「ゲームルームの予約の方は?」

「すまないがキャンセルだ。この時期ならすぐに代わりの客も現れてくれるさ

 少々適当すぎるかもしれぬが、無駄にすっきりとしている今、到底続けてプレイする気にはなれない。

「あ、巡――」

「ちーちゃんとやら、また勝負ができると良いな。絢音もな」

「次こそ勝つ!」

「…………うん。また明日」

 気合いをいれるちーちゃんと、静かに微笑む絢音。彼女ららしくもないおしとやかな振る舞いが、なぜか心を揺さぶった。これはいったいなんなんだろうな。

 懸念が一つ減れば、また一つ新たな懸念が生まれる。人間とは、なんてままならない生き物なのだろう。

 ――そんな愚かな俺を、若葉は何もかもお見通しという様子で見ているのだった。


 この数週間で、確実に何かが変わった。

 なぜか、そんなことを今更実感した。

 そして、今度はそう簡単には変わらないのだ。


「そうだな。また明日」


 そういえることが隠しようもないほどに嬉しかった。

 きっと俺は、相当嬉しそうに笑っていたと思う。


 一段落ついて、次回が最終回予定です。ボーナストラックくらいの感覚なので、そうストーリーは動きませんが。

 最初から最後まで『ピンキリ』な機体ばかりでしたが、楽しんでいただけたでしょうか?

 他のシリーズではまともなロボも(たまに)出しているのでそっちも是非是非どうぞ。



 では、次回でおしまいとなりますが、是非最後までおつきあいください。

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