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「でも僕が言っているのは単なる状況証拠です。間と間をつないでるだけの。物的証拠はないし。それでは失礼します」

 僕はハンチング帽を左手で軽く頭から上げ、走り去った。





 僕が目を覚ましてから世界が――とは言っても狭い世界だが、それが昨日と違って一変していることに気づいたのは、テーブルに置かれた朝刊に目をやった時だった。

 慣れてはいるけど、何気ない日常はとたんに非日常へと移項していくものだなと僕はまたまた息を漏らした。新聞の一面には、ストリートの張り紙のデイビッド・フィンチャーが郊外の草原で見つかったという見出し。もちろん、遺体でだ。しかも、その遺体には心臓がなかったとのことだ。

(……心臓、ね)

 僕はアクビをして新聞をテーブルに置き、紅茶を一口飲んだ。

「あなた。今日は仕事の帰りにジャガイモを買って来てね」

「わかったよ。ベス」

「お願いね。あら、ソプラノだわ」

 ベスの視線の先を見ると、姿を消していた飼い猫が窓際にいる。白いボテっとした体を窓枠にスリスリさせながら、オス猫とは思えないほどの高い声でニャオンと鳴いた。




 ストリートへ出ると、やはりそこは小さな街だ。そこいらが事件のことでもちきり。人ゴミを通りすぎるたびに僕の耳へ、たくさんの声が入ってくる。

 そんな雑踏の中、僕はソーニー、スコットランド地方で起きたソーニーの一族事件を思い出した。ソーニーはただ食料にするためだけに、人間を襲っていた。洞窟はさしずめ人間精肉工場で、彼らから奪った金品はすべて洞窟の奥に積み上げられていた。それはただ単純に、金品から足がつくことを恐れたためだけど

 彼らは本能が求めるまま、合理的に人肉を加工し、食べていただけ。でも今回なくなったのは心臓。

 ……なぜ犯人は、心臓だけを抜き取ったのだろうか?




 新聞配達所に着くと、そこは第二のメイン・ストリートと化してはいたが、ハッサンを始め、みんなの話題には五年前にイングランドで起きたジャック・ザ・リッパーの事件が引き合いに出されていた。

 ……だよね。三世紀前に起きた事件より、五年前の有名な事件を出してくるのは当たり前だよね。僕は心の中でそう思った。

「おはよう」

 僕はボソボソとした声で言った。

「ブラッド! お前見たか!? 今朝の新聞を!」

 ハッサンは鬼気迫る表情で新聞の一面をパンパンと叩きながら言った。

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