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彼はまず、慣れた手つきで豆を挽き始めた。
「ところでブラッドリーさんは、誕生日いつですか?」
「僕は三月十日生まれですよ」
「三月十日ですね。では、その日に何か贈りましょう。あなたをこの世に送り出した、ご両親にも感謝の意を込めて」
「……ありがとうございます」
もしかしてサムさんは自覚していないだけで、その、まさかなのでは……いや、それこそ、まさかだ。警部補である彼が、自分の内面をわからないだなんて……。彼は、そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、コーヒー豆を挽き続けている。
僕は座っている以外、することもないので仕方なく部屋に視線をうつした。部屋はきれいな方だ。たぶん、前日に掃除したのだろう。普段は事件の捜査で帰れないはずだから。もしかしたら、この部屋は署が借りている寮みたいなもので、派遣された警察官の仮住まいなのかもしれない。あまり生活感を感じないから。
「さあ、挽き終わりました」
彼はそう言うと、ストーブのケトルを取り、フィルターを装着した漏斗(サイフォンの上部)にそのお湯を少し入れ、フラスコ(サイフォンの下部)に流して捨てる。次にカップ二杯分のお湯をケトルから注ぎ入れたフラスコを、火を点けたアルコールランプの上に置いた。
「あともう少しですよ」
「楽しみです」
続いてサムさんは、漏斗に挽いたコーヒー豆を入れ、少し斜め状にしてフラスコに差した。
「ええと、竹べら、竹べら……」
「それは何に使うんですか?」
「撹拌ですよ」
「ああ、なるほど」
「ブラッドリーさん。お願いして申し訳ないのですが、私は気泡が出るまでフラスコを見ていないといけないので、コーヒーカップをケトルのお湯で温めてもらえますか? カップはその棚にあります」
「はい。わかりました」
僕はサムさんが指差した棚からカップを二つ取り出し、ケトルのお湯を注いだ。
「カップを温めるのは、紅茶を淹れる場合と同じなんですね」
「そうなんですよ。ああ、気泡が出てきましたね」
彼はそう言うと、斜めに差していた漏斗をまっすぐに差し直した。すると、少しずつフラスコのお湯が漏斗に上がっていく。三分の一ほど上がったところで、サムさんは竹べらで抽出された液体を混ぜた。




