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「輩……! スチュワート先輩……!」
「……え? ああ……ごめんね。えっと、どうかした? ジョージ君」
「広告チラシを新聞に挟むの終わりました!」
「早かったね。ご苦労様」
「はい! ありがとうございます!」
「おい、どうかしたのか? ブラッドリー。お前また、上の空でチラシ挟んでたな」
ハッサンが怪訝な表情を浮かべつつ、頬杖をついて言った。
「ちょっと疲れてるのかな。心配ありがとう。ハッサン。あ、そう言えばジョージ君。ベスがすごく喜んでたよ。あの化粧品」
「本当ですか!? それは良かったです! その化粧品なんですけど、『もし購入したいのであれば半額でお譲りします』と父が伝えといてくれって言ってました」
「本当に? ベスが喜ぶよ。トマスさんにお礼を言わないとね」
僕はジョージ君に言った。
海から流れてくる風は髪を静かに揺らす。
灯台の最上階から見上げる空はとても近く、腕を伸ばせば届きそうな気さえする。
あの時のように狂おしい夏が過ぎ去っていくのを感じながら、空を掴むように腕を伸ばした。
夏は心に深く根づく郷愁を掻き立てる。空は決して移ろいゆくことはないけれど、自分の心は随分と変わってしまったように思う。
いま思えば、懐かしい日々。
そして、二度と戻らない日々。
想いを束ねて深い海へ落とすように、自分の腕を下ろした。
*
メディカルスクールを後にしようとした僕がファイルを持ち上げたとき、中から封筒が落ちた。……また、誰かが挟んだのだろう。次は同性、異性どっちだろうと思いつつ、裏返して名前を確認すると、アイラ・デイヴィスとあった。ああ……時々、僕を遠くから見ている女性だ。
ファイルを一旦おいて、僕は手紙を真半分に破く。正直なところ、ある一点を除いて他人の思い、愛、絆というものには産まれつき至って興味がない。異性や同性との交接にもだ。そんなものに何の価値がある? 所詮は本能に騙されているだけだ。けれど、その本能が発する感情がないと他人は前に進めない。ただ、それだけのことだ。だが、多かれ少なかれ、その善し悪しは除くとして、人間の歴史を左右するのも、それだ。僕は破いた手紙を添え付けのゴミ箱に捨てた。
いま僕の頭を支配するのは、フォールリバーの住民を恐怖に陥れる犯人だけだ。
僕は何があっても、兄さんだけは守りたい。たとえ、父さんと母さん、他の人間を犠牲にしても……。




