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「なるほど」
「はい! つまり、その儀式に失敗すると瞬時にアメミット(貪り食うもの)が心臓を食べてしまいますので、死者の楽園に復活することができなくなってしまうということなんです。これらに照らし合わせてみるのであれば、遺体に心臓がないということは……」
「失敗したか、被害者本人が復活しないのを望んでいるとか……かな?」
「かもしれないし、そうではないかもしれないですね。犯人が何を考えているかなんて、誰にもわかりませんから」
そう、ジョージ君は言った。僕が頷きながら柱時計を見ると八時を過ぎていた。
「確かに判断材料が少ないというのは否めませんが……。犯人はもしかしたら、遺体を遺棄しないのではなく、遺棄したくないのかもしれませんね。子供のように。そうでなければ、遺棄できない状態にあるか……」
「え? 子供のように?」
「はい。子供はまだ精神が未成熟なために、一度手に入れたものは手放したがらない傾向にあるんです。スチュワートさん」
「そんな考えがあるんだ」
「ええ。そして、人はそれを執着と呼ぶんです」
ジョシュア君はそういうと窓の外に視線を移した。
「あの、じゃあご馳走さまでした」
僕は〈ロレッタ〉と箔押しされ、蔓薔薇の装飾が描かれた紙袋を受け取って言った。辺りには控えめだが、化粧品のいい匂いが漂う。
「いえ。是非また来て下さいね」
「はい。ありがとうございます。じゃジョージ君、また明日ね」
「はい! 明日もよろしくお願いします!」
返事を聞いてから僕は門へと向かって歩き出した。門の横には、先程の三頭の犬がきちっと座っていた。
*
人は失踪していくのに、遺体が見つからないことに街の者は戦々恐々としている。もしかしたら次は、自分が狙われるのではないか……? 朝、自転車で走っているとき、その恐怖に慄いている住人の姿が見て取れた。もちろん、この仕事場でもだ。
僕は秘かに、そんな状態に一種の高揚感を覚えた。このまま人がいなくなり続けて、そのまま見つからなかったら街の者はどう思うだろう? 街はどうなるんだろう? ってね……。




