第四話 境内ランダム生成と、天へ伸びたラピュタ菜
パパン家・境内
今日も地面が“何か”を生み出す音がしている。
パパン(スコップで土をいじりながら)
「境内?あれ完全にランダムだよ。
妙見様のとこに供えられたのが勝手に生えてきてるのかな……
知らんけど。」
※知らんけど、で済む問題ではない
「他にも神刀とか大判小判とか砂金がテキトーに生えてくる」
※テキトーに。
浅利(神刀を丁寧に布で包みながら)
「供え物に罪はありませんからね。
ありがたくいただきましょう。」
欲のなさが逆に怖い
沖田・土方(畑道にスコップ持って集合)
「パパンとこの敷地の土を
少しだけ畑に撒いたら──ラピュタが生えてきたにゃ」
土方
「野菜が天まで生えすぎて、
筋張って美味しくなかったからナシにゃ。」
※空へ伸びた巨大野菜、もはや怪獣
周作(青空を見上げながら震える)
「あれを切り落とすの、本当に苦労しました……
根が深くて、僕らじゃ到底無理で……」
※太刀が折れ、定吉のハンマーが曲がった
定吉(こめかみ押さえながら)
「──で、あの地獄仕事よ」
A・B(当時を思い出して深いため息)
「んで、ギルド/古龍観測所の俺らが仕事中に呼ばれてな……」
A「根っこからねこそぎ切り倒したが──」
B「異常値すぎて報告に苦労したわ。
“ラピュタ成分:天界級”とか意味不明だろ。」
※報告書の“備考”欄に「知らんけど」って書いたやつがいる
【境内ランダム生成・最近の成果物】
神刀 ×9
第五百三十九話 境内ランダム生成と、天へ伸びたラピュタ菜
千葉家の境内は、今朝も地面のどこかで「ぼこ」と音を立てた。
その音はもう、この家では生活音の一種だった。鶏が鳴く、味噌汁が湯気を立てる、刀の鍔鳴りがちりんと鳴る、そして地面が何かを産む。風物詩である。誰も振り返らない。
パパンは桜の木の下で、スコップを片手に土をいじっていた。銀白の髪を朝風に揺らしながら、何か白く光るものを掘り出している。掘り出して、土を払って、にこっと笑って、社務所の縁側に置いた。それを四回繰り返した。縁側にはすでに大判小判と神刀の柄頭と、用途不明の砂金がバケツに二つ、並んでいた。
「境内? あれ完全にランダムだよ」
パパンは振り返って、参拝に来た浅利に向かってのんびり言った。
「妙見様のところに供えられたのが、勝手に生えてきてるのかな……知らんけど」
「知らんけどで済む規模ではないですね」
「他にも、神刀とか大判小判とか、砂金がテキトーに生えてくる」
「テキトーに、で済ませないでください」
浅利は紺の着物の袖をたくし上げて、縁側に置かれた神刀の一本を手に取った。柄に巻かれた組紐の色を確認し、刃文を一瞥し、それから持参していた晒し布で丁寧に包み始めた。手つきは医者というより、骨董商に近かった。
「供え物に罪はありませんからね。ありがたくいただきましょう」
「浅利、欲のなさが逆に怖いよ」
「欲がないわけではありません。神具は神具として正しく扱うだけです」
「正しく扱うってのが、布で包んで自分の薬棚に並べることなの?」
「神具は乾燥した暗所で保管します」
「薬と一緒の棚で?」
「薬と神具に上下はありません」
「君のその論理、絶対どこかで誰かを敵に回すよ」
パパンは桃を齧りながら境内をぐるりと見回した。本殿の脇に牛タンの木が一本生えていた。樹皮が普通の木で、葉が普通の葉で、実だけが牛タンだった。先週からそこにある。誰も触らない。触らないと熟す。熟すと自然に落ちる。落ちたら拾って漬けて焼く。今朝の朝食に出ていた。
仙桃が四つ、社の屋根の隅で熟れていた。誰が植えた覚えもない。摘もうと思って梯子をかけると、なぜか一段足りない高さに移動する。本人たちにそのつもりがあるのかどうかは不明だった。
縁側の奥には、龍機兵の残骸が一片だけ転がっていた。なぜ生えたのかは誰にもわからない。パパンは「知らんけど」と言って、社務所の物置に放り込んだ。物置の奥には、すでに同じものが三片あった。
⸻
その境内の話を聞きつけて、沖田と土方が畑道からスコップを担いでやってきた。沖田は王冠の帽子を傾けて、しっぽを左右にぱたぱた振りながら、開口一番に叫んだ。
「パパーン! 大変にゃ!」
「おはよう、沖田。今日は何が大変なの」
「畑がにゃ」
「畑が?」
「ラピュタが生えたにゃ」
パパンが桃を持ったまま固まった。
「もう一度言って」
「ラピュタが生えたにゃ」
「ラピュタって、あの、空に浮かぶ城の」
「天空の城にゃ」
「うちの境内、城まで作るのか」
「違うにゃ。生えたのはパパンとこじゃないにゃ」
沖田の隣で、土方が静かに琥珀色の目を細めて補足した。土方の声は低く、沖田の弾みを抑える役回りに今日も徹していた。
「パパンの敷地の土を、ほんの少しだけ畑に撒いたにゃ」
「ほんの少し?」
「桶一杯にゃ」
「沖田、それは少しじゃないよ」
「少しだったにゃ。畑に対しては少しにゃ」
「畑に対しても、たぶん多いと思うよ」
土方が前足の肉球で額を押さえた。
「結果、にゃーたちの畑から、野菜が天まで伸びたにゃ」
「天まで」
「上空三百メートル級にゃ」
「三百メートル?」
「沖田が下から見上げて、首が痛くなって帰ってきたにゃ」
「土方も帰ってきたにゃ」
「にゃーは諦めが早いにゃ」
「諦めの問題なのか、それ」
パパンは桃を齧り直しながら、空を見上げた。沖田と土方の畑は浅利ん家の隣で、ここからは見えない。だが、天気のいい日にはそちらの空にだけ、不自然な縦縞が見えた気がしないでもなかった。誰も指摘しないので、誰も見ないことにしていた。
土方が琥珀色の目を細めて、結論だけ言った。
「野菜が天まで生えすぎて、筋張って美味しくなかったからナシにゃ」
「ナシって、君ら」
「ナシにゃ。にゃーたちはあの方針を破棄したにゃ」
「あの巨大野菜、どうしたの」
「切ったにゃ」
「君らが?」
「切れなかったにゃ。だから周作と定吉に頼んだにゃ」
⸻
その瞬間、社務所の縁側の奥から、青白い顔をした周作と定吉がのそのそ出てきた。両肩がぐったりしている。周作は太刀の鞘を一本担いでいたが、刀身は中で半分に折れていた。定吉はハンマーの柄だけを杖にして歩いていた。柄の先には、曲がりに曲がったハンマーの頭がぶら下がっていた。
「周作、定吉、どうしたの、その武具」
「父上」
周作が震える声で空を見上げた。
「あれを切り落とすの、本当に苦労しました」
「あれ、って」
「ラピュタ菜です」
「うん」
「根が深くて、僕らじゃ到底無理で」
「うん」
「太刀が折れました」
「うん」
「定吉のハンマーも曲がりました」
定吉がこめかみを押さえて、深く息を吐いた。
「──で、あの地獄仕事よ」
「定吉、やつれた声出すね」
「兄上の太刀、僕の代わりに折れてくれた感じです」
「それは美談じゃないよ。普通に消耗品の話だよ」
「消耗品にしては感情移入しすぎました」
「君ら、本当に兄弟だね」
⸻
その背後から、いつもの足音が二つ、境内に入ってきた。Aは隊服の袖をまくっていて、Bは肩に手ぬぐいをかけていた。二人とも顔に疲労が乗っていた。観測所と古龍観測所の制服姿で、片方の靴底にだけ妙な葉っぱの繊維がこびりついていた。
Aが鳥居をくぐる前に、長く息を吐いた。
「んで、ギルド/古龍観測所の俺らが、仕事中に呼ばれてな」
「A、B、お疲れ様」
「お疲れじゃねぇんだよ。お前らんとこの畑、報告書の様式に収まらねぇんだよ」
Bが社務所の柱に手をついて、だるそうに肩を回した。
「根っこからねこそぎ切り倒したが──」
「んで?」
「異常値すぎて報告に苦労したわ。ラピュタ成分・天界級、とか書く欄ねぇんだよ報告書に」
「A、その『ラピュタ成分・天界級』って、誰の命名ですか」
「観測所の同僚だ。あいつ命名センスが地獄でな」
「報告書の備考欄に『知らんけど』って書いたやつがいる」
「えっ、それ受理されたんですか」
「されるかよ。突き返された」
「再提出は」
「『天界級・暫定値』に書き換えて出した」
「通ったんですか」
「通った」
「ギルド、ガバガバですね」
「天界級って書かれて受理しないわけにいかねぇだろ。受理しなかったらこっちが嘘つきだ」
「論理が雑です」
「現場は雑じゃないと回らねぇんだよ」
⸻
パパンは縁側に腰を下ろして、桃の三個目に手を伸ばした。沖田と土方が並んで石段に座り、周作と定吉が縁側にぐったり寄りかかり、AとBが鳥居の影で水を飲んだ。浅利は神刀を布で包み終わり、それを社務所の棚に丁寧に並べていた。並べる手つきは、相変わらず神具と薬の区別をしていなかった。
パパンが指を折って数え始めた。
「えっと、最近の収穫、まとめておこうか」
「まとめないでください」
「神刀、九本」
「九本に増えてますね」
「先週六本だったのに」
「三本生えました」
「大判、十二枚」
「十二枚」
「小判、大量」
「大量、で済ませないでください」
「砂金、バケツに二つ」
「単位がバケツです」
「牛タンの木、本殿の脇に一本」
「あれ、何の樹種なんでしょうね」
「知らんけど」
「父上」
「仙桃、四個」
「あれ、毎年四個ですよね」
「妙見様のお気に入りの数なんじゃないかな、知らんけど」
「父上」
「ラピュタ菜、上空三百メートル級」
「もうやめましょうそれ」
「あと、たまに龍機兵の残骸」
「父上、それは深く考えましょう」
「考えてもわからないんだよ」
「考えてください、それは」
⸻
浅利が社務所の奥から戻ってきて、縁側に腰を下ろした。神刀の油の匂いが、ふっと混じった。
「パパン」
「うん」
「神刀、九本のうち二本は、刃文が同じです」
「ペアか」
「同じ刀工の作です。署名はありませんが、地金の鉄の癖が一致します」
「すごいね、君、見てわかるんだ」
「鉄を扱う家系の出身ですから」
「あ、そうだったね」
「同じ刀工の作が二本同時に生えたということは──供えた人物が二振りまとめて納めた、ということです」
「ふーん」
「問題は、その人物が今、どこにいるのかという話です」
「妙見様が知ってるよ」
「妙見様、おそらく覚えていません」
「うちの妙見様、記憶力よくないからね」
「神様の記憶力に文句を言うのは、たぶん神主の仕事ではありません」
「うちの神主、僕だよ」
「だから言っています」
「浅利、ときどき辛辣だね」
「神具の管理は辛辣にやらないと務まりません」
⸻
沖田が石段の上で、ふと耳をぴんと立てた。
「ねぇパパン」
「うん」
「龍機兵の残骸、増えてないにゃ?」
「増えてるよ」
「先週、二片だったにゃ」
「今、三片」
「いつ増えたにゃ」
「昨日の夜中、ぼこって音がした」
「パパン、見に行ったにゃ?」
「行った」
「で?」
「生えてた」
「それだけにゃ?」
「それだけ」
「パパン、それは深く考えるべきだと思うにゃ」
「沖田まで言うか」
「にゃーは賢いにゃ」
「沖田が賢いって言うときは、たぶん本当に賢いから怖いんだよ」
「怖がっていいにゃ」
土方が琥珀色の目を細めて、低く言った。
「沖田、その話、深掘りはやめておくにゃ」
「土方、なぜにゃ」
「掘ると、たぶん次の話が一個増えるにゃ」
「……土方、お前、賢いにゃ」
「にゃーは副長にゃ」
⸻
Aが鳥居の影から声をかけた。
「で、パパン」
「うん」
「来週、また呼ばれる予定があるんだが」
「予定?」
「うちの観測所、お前んとこの境内に定期巡回ルート組んだぞ」
「えっ、なんで」
「上が決めた。『千葉家境内、未確認生成物・週一回観測』」
「週一回」
「現場の俺とBが交代で来る」
「業務にされたか」
「業務だ。報酬出る。お前のとこ、税金で観測対象になった」
「観測対象」
「公的な扱いだ。誇れ」
「誇れない。むしろ恥ずかしいよ」
「俺らも恥ずかしい。ラピュタ成分・天界級、を書類に書く仕事だぞ」
「Aの今後の出世、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
「Bは」
「俺もだ。むしろ降格を覚悟してる」
Bが手ぬぐいで顔を拭いて、ぼそりと言った。
「降格しても、たぶん次の配属先、ここの境内だぞ」
「B、それ昇格でも降格でもなくない?」
「同じ場所だな」
「もう諦めましょうよ」
「諦めた」
⸻
周作が縁側の柱にもたれかかったまま、空を見上げた。雲ひとつない朝の空に、隣の畑の方角だけ、わずかに縦縞の影があった気がした。気のせいかもしれなかった。気のせいだと思いたかった。
「父上」
「うん」
「もう土、撒かないでくださいって、沖田たちに言ってください」
「もう撒かないにゃ」
沖田が即答した。
「絶対にゃ」
「絶対?」
「絶対にゃ。にゃーたち、二度と土は撒かないにゃ」
「土方も?」
「にゃーは最初から反対してたにゃ」
「あ、そうだったね」
「沖田が勝手に撒いたにゃ」
「土方、それは、にゃーが、悪かったにゃ」
「珍しく素直にゃ」
「だって周作の太刀が折れたにゃ。にゃー、責任を感じてるにゃ」
「沖田、責任の感じ方が、たまに正しいにゃ」
「たまに、ってなんにゃ」
「いつもは正しくないにゃ」
「土方、それはひどいにゃ」
⸻
定吉が曲がったハンマーの頭を撫でながら、ぽつりと言った。
「兄上」
「うん」
「武具屋、二日連続で叩き起こすことになりますね」
「昨日と合わせて?」
「はい」
「武具屋のおっちゃん、今度こそ僕らの顔見て泣くと思います」
「泣かれるね」
「泣かせる気はないんですけどね」
「結果として泣かせてる」
「世界を泣かせる兄弟、千葉家」
「父上、そういう異名はやめてください」
⸻
ブルファンゴが境内の鳥居の外から、低い声で唸った。境内には入らない。神域に入ると、なんとなく落ち着かないらしかった。
「おい」
「ブルファンゴ、おはようございます」
「ラピュタ菜、根の方、どこにある」
「畑の地下です」
「掘り出して、寝床にしていいか」
「ブルファンゴ、それ、根っこ何メートルあると思ってますか」
「知らん」
「知らんけど、で寝床にしないでください」
「畑の地下、湿っててちょうどいいんだ」
「あなたの寝床基準、いつも一貫して湿度ですね」
「猪は湿度だ」
「猪は湿度、でまとめないでください」
⸻
パパンが桃の種を懐紙に包んで、ふっと笑った。
「いやー、今日もうちの境内、平和だね」
「父上、今日の話のどこが平和ですか」
「ラピュタを切り倒した話と、龍機兵の残骸が三つ目になった話と、観測所が定期巡回を組んだ話だよ」
「うん、ぜんぶ平和じゃないですね」
「でも誰も死んでない」
「父上、その基準でいいんですか」
「うちの基準だと、それで平和なんだよ」
「父上の基準、世界の平均から遠いです」
「遠くていいんだ。うちは千葉家だから」
⸻
その瞬間、社務所の床下で、ぼこ、と低い音がした。
全員の視線が、足元に集まった。
誰も動かなかった。
パパンが桃の種をぽいと懐紙ごと懐に入れて、にこっと笑った。
「次、何が生えるかな」
「父上、次は本当に深く考えてください」
「考えるよ」
「考えてくださいって言ったら、考える、って答えるの、やめてください」
「考えるって言ったよ」
「考えてないですよね今」
「考えてるよ。次、何が生えるかなって」
「それは考えてるんじゃなくて、楽しんでるんですよ父上」
「同じだよ、僕の中では」
「父上の中だけです」
ぼこ、ぼこ、と床下の音が二回続いた。
誰も動かなかった。
沖田が石段の上で耳をぴんと立て、土方が琥珀色の目を細め、ブルファンゴが鳥居の外で鼻を鳴らし、AとBが目線だけ交わし、浅利が神刀の包みをぽんと一度撫で、周作と定吉が同時に深い息を吐き、パパンだけが、桃の四個目に手を伸ばした。
千葉家の境内は、今朝も平常運転だった。
大判 ×12
小判 ×大量
砂金 ×バケツ2
牛タン(樹木から生えるタイプ)
仙桃 ×4
ラピュタ菜(上空300m級)
たまに“龍機兵の残骸”
※なぜ




