30.健闘を祈る
超能力者による急襲と、岸田副長主導による決起には、先んじて不穏な情報を天城から聞かされた相葉だけでなく、筧にもまた何か思うところが生まれているようだったが、しかし出撃命令が出てしまっている以上、誰もが出撃しないわけにはいかない。
「――相葉、気を付けろ。何か不穏な空気がある」
筧は相葉に、そう耳打ちすることを忘れはしなかったが。
相葉もまた、わかっていた。
始まったのだ。
天城の言っていた、超能力者の過激派による襲撃。
この緊急事態において、総長である北山の姿がないのも気になる。この状況で私用で不在など、タイミングが悪すぎる。あるいは、都合がよすぎる。北山は機関七課の中でも慎重派であったと聞いている――強硬派の不穏な動きが、既に始まっていないとも限らない
「……いずれにせよ、出なければ始まらない、か」
既に全軍の士気は最高潮に高まっている。足音高く武器を取り、それぞれ任じられた輸送車に乗り込む。これが初陣となる綿池や折笠ですら、明らかに高揚した表情で銃身を握っていて、恐怖心はまるで見えない。それは他の兵士らも同様で、普段と変わらないように見えるのは相葉自身を除けば、常に冷静であり現状に危惧も抱いている筧と、いつでもマイペースで周囲に流されない久坂くらいのものだった。久坂に至っては完全に普段通り、鼻唄混じりに拳銃の点検をしている。
「――皆、準備はできているな」
輸送車が発進してすぐに、筧は一同を見回して言った。
「わかっているとは思うが、これが初陣の者もいる。だから改めて言っておくが……勘違いをするなよ」
噛んで含めるように、ゆっくりと筧は続ける。
「これは決して、一方的な狩りではない。戦争だ。自分たちが狩られる側でもあることを忘れるな。慢心すれば、何も為すことなく死ぬ。油断をするな。舐めてかかるな」
筧の言葉に、大きく頷いたのは折笠だ。
「勿論ですよ! 今まで奴らに殺されてきた仲間のためにも、油断なく、ひとりでも多く討ち取ります!」
「それが慢心だと言うのだ」
静かに、しかし強い視線で、筧は折笠を睨んだ。その鋭さに、思わず折笠は勢いを怯ませる。
「仇討ちを思っているのがこちらだけではないということを、忘れるんじゃない」
語調重く言う筧に、しかし折笠は困惑の表情を返すだけだ。
筧の言葉を、理解できていない。
そのことを察しているのだろう、筧はそれ以上の言葉を重ねなかった。ただ、再び全員を見渡す。
「仕掛けてきたということは、敵に勝算があるのか、追い詰められて打って出てきたかのどちらかだろう。いずれにせよ、激戦になることは間違いない。――健闘を祈る」




