28.始まる
事態が再び動き始めたのは、さらに二ヶ月を経てからだった。
真夜中。
ほとんどが寝静まっている機関七課の施設中に、けたたましく警報が鳴り響く。
その警戒音に跳ね起きた全員が聞くのは、焦りの調子を含んだ館内放送だ。
『――緊急事態発生。機関七課一部施設にて超能力者による襲撃を確認。総員所定の位置にて戦闘配備せよ。繰り返す、緊急事態発生――』
放送と、警報と、激しく明滅する深紅の警戒色に後押しされるようにして、兵士たちは大急ぎで身支度を整え、それぞれの部隊へと急行する。相葉もまたその例外ではない。自室を飛び出し、訓練場へ走り始めたところで、同じくちょうど出てきたところらしい折笠と合流した。
「あ、相葉さん!」
相葉を見つけた折笠は、見るからに表情を明るくした。同じ通路を走り抜ける面々に、知った顔を見つけたことで安堵したようだ。けれども館内放送を聞いてすぐに再び曇らせる。
「超能力者による襲撃って……あいつら、こんな時間に襲撃なんて、卑怯極まりないですよね。それに、どうやって機関七課の施設を……」
眉間にしわを寄せて拳を握る折笠に、相葉は何も答えない。
知っていたからだ。
超能力者が機関七課施設の位置を特定していることも、遠からず襲撃があるはずであったことも。むしろ、ようやく来たか、くらいの気持ちですらある。
そして別段、卑怯だとも思わない。
機関七課が超能力者らに仕掛けている戦闘も、大して違いはないのだから。
「……初戦闘、なんだよな」
後輩というものをもったことがないため、半年近くともに訓練していてもまだ距離感に困っている相葉が話しかけると、今度は違う意味合いで折笠が顔を明るくした。
「はい! 初戦です!」
「そっか……頑張って」
言い方に窮してそういうと、折笠は一瞬きょとんとするとすぐに拳を握りしめ、「はい! 一匹残らず敵を殲滅します!」と意気込んだ。
そうではない。そういう意味で言ったのではないのだが、相葉は強いて訂正したりはしない。間違いなく超能力者を憎悪している折笠なら、いや折笠でなくても機関七課で戦う者なら誰しも、超能力者との戦闘において「頑張って生き残れ」などと言われて、激励だと思いはしないだろう。むしろ、臆したのかと指弾されるかもしれない。
だから、相葉はそれ以上は何も言わない。
唇を引き結んだまま、走る。




