26.筧・小姫
釈放初日に宣告されていた通り、相葉は筧にすぐに呼び出された。
何かといえば当然、訓練である。
「次のために、訓練を怠るな、相葉」
ただでさえ厳しい通常訓練から一時間も待たずして相葉を呼び出した筧は、はっきりとそう言った。
向き合って木刀を互いに構え、数メートルの間合いをもちながら、筧は言う。
「死んでもいいかもしれない、などと考えれば、まず先にお前が死ぬ。絶対に生き残ることを己に命じろ。それこそ――味方を盾にしてでも、自分だけは生き残ろうとあがけ」
味方を盾にしてでも。それは、久坂の戦い方だろう。
味方を、殺してでも。そこまでしてでも生き残るべきか。
「生きろ」
筧は言った。
「他の者の分まで生きろとは言わん。死ねば終わりだ。その者の人生を誰かが引き継ぐことなどできない。死んだ長島は終わったんだ。それ以上のことを考えるな。だが忘れるな。長島は死んで、そしてお前は生き延びているということを――」
ふっと筧が身を沈めた。眼前で動かれているのに、どういうわけか反応が一拍遅れる。その一瞬の間に、筧はまっすぐに相葉の懐へ滑り込んできた。
「誰にも情を持つな。味方にも、敵にもだ。敵を何と認識するもお前の自由だ。化け物と思うとも、人間だと思うとも構わないさ。だが、何と思うとも情だけはかけるな。引き金を引く指が鈍くなれば、お前が死ぬのだから」
木刀を握る筧の腕が、わずかに動いた――ようにしか、見えなかった。
相葉の手に痛みが走ってから、筧に木刀を叩き落とされたのだと理解する。そして、ひたりと首元に木刀が添えられていた。真剣であれば、軽く引くだけで相葉の首が飛ぶ。
思わず生唾を呑み込んだ相葉に、ふっと力を抜いて筧は木刀を降ろした。
「――まあ、気負い過ぎてもよくないか。深く悩むなよ。久坂くらい能天気でもどうかとは思うが、少しあいつを見習った方がいいかもしれないな、お前は」
「……筧さんは」
ぽつりと言った相葉に、ん、と筧は振り返る。その筧に、相葉は訥々と言った。
「ずっと、そういう思いで、生きてきたんですか」
相葉の問いに、一瞬だけ、筧は視線を落とした。けれどもすぐにまた相葉を見据えて、ふっと笑う。
「そうだよ」
その笑みは、いつも凛々しい筧にしては珍しく、どこか弱々しさというか、疲れのようなものを漂わせていた。
「私は、ずっとこうやって生きてきた――初めて人を殺してから、どうして生きているのかもわからなくなるくらいに、ずっと」




