25.何を思い、何を信じる
翌日、相葉が復帰した訓練場でも、顔ぶれを見れば一目でその入れ替わりの激しさがわかった。
半数、どころでなく、ほとんどが、知らない顔になっていた。
しかし誰もそのことには触れない。
一度の作戦における生存率の低さは、誰もが知ってはいたはずだ。だから、誰も何も言わないのか。
辛くも生き残ったわずかな者たちは、思っているかもしれない。
次は自分かもしれない――と。
そんな思いを抱きながら定刻通りに起床し、午後遅くまで訓練し、定刻通りに就寝する。
ただ、それだけの毎日だ。
その日々の中で、相葉は同じ訓練班の面々に、それとなく訊いてみたりしていた。
機関七課に所属することになる以前の話は、基本的に聞かないのが暗黙の了解だ。だから相葉も、その辺りのことは触れない。
確認したいのは、彼らの超能力者に対する認識だ。
「そりゃあ勿論、ぶっ殺すだけの相手だ」
綿池は、拳を握り青筋を立ててそう言った。激情を深く込めた低い声音で。
「ゴキブリみたいなもんさ。殺しても殺しても湧いてくる――だから片っ端から潰す。あいつらのせいで、俺のいた部隊は――」
口をつぐんだ綿池に、相葉はそれ以上のことは問わなかった。
「あいつらは、やっぱり化け物ですよ」
いつも気弱そうな折笠にしては珍しく、はっきりと彼はそう言った。
「人の皮を被った化け物です。宇宙人なんですかね。あんな凶悪な力を持って、罪もない人たちを、まるでゲームか何かみたいに……絶対に許せません。僕はあいつらを絶対に絶滅させます」
綿池や折笠だけではない。訊いてみた他の兵士たちも概ね似たり寄ったりの反応だった。筧や久坂のような認識を持っているような人間は、ひとりもいなかった。――その方が、正しくはあるのだ。こんな狂った空間では。
殺さなければ殺されるという世界では。
どれほどの憤りを持っても、死ぬときは死ぬ。次の作戦を生き延びられる可能性は、酷く低い――今のところ、次の任務が発令されるという噂は聞かないが。だからこそ、この束の間の平穏に、少なくとも訓練兵らは全体的に緩みを禁じ得なかった。ましてや、被害規模は大きけれど先の任務では大勝していて、それから間もないのだ。熟練兵たちの間でも、「次も大丈夫だろう」というような楽観が生まれている。
しかし、この平穏に、どうしても相葉は馴染めなかった。
ここに、平穏など在り得ない、と。
なぜならここは、地獄なのだ。穏やかになろうはずがない――そんな相葉を、筧や久坂ならやはり「変わっている」と評するのだろうが、相葉の抱いている危惧は決して、相葉の性格によるだけのものではない。
――超能力者たちの組織、その過激派が、機関七課への襲撃を計画している。
――機関七課上層部で、強硬派に不穏な動きがある。
いずれも、天城・遥風からもたらされた情報だ。
天城・遥風。超能力者。
言わば機関七課の敵であり、根絶するべき存在。ましてや天城は、その超能力者を統括している者のひとりであるという。
そんな人間の言うことを、信じるのか。
相葉は、信じようと思っている。少なくとも、疑いはしない。
御礼だと、天城は言った。白井を人として看取ってくれた相葉への、せめてもの御礼であると。
近く必ず起こるであろうその混乱に乗じて、相葉だけでも逃げ出し、生き延びろと。
天城は、確かに超能力者だ。その能力の一端は、既に相葉も目にし、聞き、感じている。
けれどそれ以前に、人間だ。
人間だから信じるというわけではない。むしろ、人間であればこそ、信用ならないということもあるだろう――けれど、相葉は信じる。
天城・遥風という人間を、信じる。
ひとりの仲間の死を悼み、涙することのできる天城・遥風を。
少なからず言葉を交わし、名を知り、そして自らの手で殺しても、長島に対して一滴の涙も流すことのできなかった、相葉は。
そして、だからこそ、天城の言葉を信じるからこそ――この現状の平穏を、受け入れられない。
より一層、訓練に身を入れる。
できるだけ身体を鍛えて、来るべき戦乱に備えるために。
――そのときが、来たとして。
超能力者と、機関七課。凄絶になるに違いない両者の戦いの中で、自分が本当に逃げるのか、それともどうするのか、その答えも出せないままに。




