18.貴女は彼らを何と思う
拘留されて三日目。相葉の独房に筧が訪ねてきた。
「やあ――気分はどうかな。これは差し入れだ。かなりの安物で悪いが」
ことん、と鉄格子の隙間から炭酸飲料のボトルを差し込む。それを受け取って、相葉は頭を下げた。
まだ三日しか入っていないのに、随分久し振りにペットボトルを見た気がする。開けて、一口飲み、噎せた。
「おいおい、そう焦るな」
筧に苦笑まじりに言われながら、今度は慎重にそれを飲む。
糖分も、炭酸の弾けるような刺激も、随分久し振りだ。
半分ほど一気に飲んで、ようやく相葉が落ち着くのを見計らって、筧は口を開いた。
「――長島のこと、気にしてるか」
筧の問いに、相葉はボトルを傾ける手を止めた。沈黙し、応とも否とも答えない。
相葉が答えないと予想していたのか、筧はすぐに先を続けた。
「それでいい」
周囲には響かないよう、抑えた声で筧は言う。
「全く気にするなとは言わない。だが決して深く悩むな。久坂からも聞いただろうが、誰にでも何度となくあることだ。久坂だってこの部屋に入れられたことはある」
「……筧さんは、あるんですか」
ぼそっと言われた問いに、筧は首を振る。
「いや、私はない――私は銃を使わないからな。誤射することはない」
それも、そうか。長刀では間合いを詰めなければならないし、筧ほどの腕前ともなれば、敵味方の判別くらい造作もないだろう。
ふふ、と筧は小さく笑った。
「今日はそれだけ言いに来たんだがな……ついでに訊いておこうか。どうだった? 初めての戦場は。初陣であんな大規模な制圧戦になるとは、お前もつくづく運がないが……よく生き残った」
そう、生き残ることはできたのだ。自分は今、生き残っている。それが全てだ。
そして、初めての戦場で、何を思ったのかといえば。
「……敵も」
小さく、言う。
「敵も人間なんだなって、そう思いました」
思い出すのは、戦場で出会った白井という少女のことだ。
敵であり、討伐するべき超能力者であり。
そして、目の前で死んでいった少女。
化け物でも狂人でも何でもなく、あくまでも人らしく、死んでいった。
それが、相葉が先の戦闘で得た記憶。
あまりにも強烈な記憶だった。
だが、それを聞いた筧は笑みを消し、唇を引き締めると素早く周囲を確認し、鉄格子に顔を寄せてきた。
「お前は、あの戦場で何を見た」
今までよりさらに潜めた声で、相葉に言う。
「……会ったのか。超能力者の、誰かに」
問いに、相葉は俯いたまま頷いた。そうか、と筧は応じ、顔を引かずに言う。
「そのことは、絶対に誰にも言うな。忘れるのが一番いい。敵に情を寄せるようになってしまっては、お前の死期が早まるだけだ」
強く、噛んで含めるように言って、ようやく筧は顔を離した。その口調には、不思議と重みがあった。
……もしかしたら。
筧自身、似たような経験があるのかもしれない。ただでさえ全班の中で最も長く戦っており、長刀という得物で戦う筧だ。銃器を使うよりも遥かに敵に接近している。
けれど、それを直に訊くことは、憚られる。
「それじゃあ、私はもう行く。お前の拘留は長くない。じきに出されるだろう。そうしたら、また訓練だ。次の任務も生き延びるためにな」
「――筧さん」
言い残して立ち去ろうとする筧に、思わず相葉は声をかけた。ん、と振り返る筧に、しかし相葉は言葉に詰まる。
超能力者と話したことがあるのか、と訊くことは、できない。
だが、
「筧さんは、彼らを何だと思っていますか」
超能力者は、無差別に、盲目的に撲滅するべき化け物ですか。
暗に問われたその意味も解したのだろう。わずかな沈黙の後、筧はまた背を向ける。
答えはないのか、と思ったところで、立ち去り際に言葉が流れてきた。
「私は、敵しか斬ったことはない」
徐々に声が遠ざかる。だが、確かにはっきりと聞こえた。
「――私の敵は、人間だけだ」




