9.拿捕ビジネス始動
タキオン砲というヤバイお宝には劣るが、拿捕した宇宙船もかなりのお宝だ。
何より、宇宙で生きていけるというのが素晴らしい。
「「「こっちに住みたいにゃ!」」」
その宇宙船の中で猫耳幼児たちがダダをこねている。
海賊船の中にある豪華なソファーに抱きついて所有権を主張している子もいるし、絨毯の上を転がって遊んでいる子もいるし、酒瓶を積み木がわりに遊んでいる子もいる。
「わがまま言うならお尻ぺんぺんにゃ!」
叱っているキンは高そうな酒をラッパ飲みしているので説得力は皆無だ。
なお、海賊の死体は海賊船の一室にまとめて放り込んで幼児たちの目に触れないようにしているし、キンは一滴の血も流さずに仕留めるという離れ業を実行した。
「サルくん、意見!」
ベリル社長は混沌とした状況を自分の手で解決するのを諦めたらしい。
人を上手に利用するのは管理職の必須スキルなので、俺が腹を立てることはないんだが……。
「いや無理ですって。俺は下っ端サラリーマンの経験しかないんです。ヤバイ船に関わってそうな海賊船を安全に売る方法なんて知りませんよ」
俺は食料の材料が入ったカートリッジを見つけては、封がされているかを確認する。
体に悪い薬でも仕込まれていたら最悪だからな。
封がされているものに、今の日時と確認者である俺の名前を書いていく。
「でもサルくんが一番詳しいじゃん!」
「社長も皆さんも、少し経験を積めばすぐに俺を追い抜きますよ。……高速時の操縦以外は」
この感覚には助けられているが、この感覚がいつまで続くかは分からない。
俺の人権を買い戻した後は、他の地球人の人権を買い戻す前に貯蓄を優先すべきかもしれない。
「サルくんからの期待で責任が重い……。そういえばサルくん。サルくんならタキオン砲を使うリスクを重視すると思ってたんだけど」
「あー、それですか」
カートリッジの確認を終わらせた俺は、自分の肩を揉みながらベリル社長に振り返る。
「今の戦い方は急降下爆撃機のような……高確率で戦死する戦い方なんです。タキオン砲があれば安全に戦えます。それに」
俺は一旦口を閉じて心を落ち着かせる。
「普通の生体パーツに加工された地球人の中には俺のような奴もいるでしょう。その生体パーツが搭載された船と戦う場合、タキオン砲がないと戦いの土俵に乗ることもできないかもしれません」
知らない他人とはいえ同じ惑星の出身だ。
考えると憂鬱になるとはいえ、こうなる可能性もあるのだから上司であるベリルには伝える必要がある。
なお、土俵という地球ローカルどころか日本ローカルな単語を口にしているが、自動翻訳機は問題なく翻訳してくれていた。
「そっか。んー、だったらタキオン砲は使うべき……ううん、早いか遅いかはともかく、使うことになるよね?」
俺が頷くと、ベリルは何度も頷いてより深く考え始める。
「キン姉。ベリル号にタキオン砲を載せるための改修をしたいんだけど、キン姉でできる?」
「無茶言うなにゃ。にゃーは整備士としては見習い未満にゃ」
酒瓶を1本空にしたキンが、次の瓶に手を伸ばそうとして、ぎりぎりで我に返る。
こいつ、駄目猫耳ではあるが最低限きちんとはしている。
「お姉ちゃんは、できる人に心当たり、ある?」
『普通の改修なら心当たりはいくつかあるけど、超高級パーツが関わるなら信頼も信用もできないわ』
栗毛猫耳さんは猫の巣号に残っている。
全員が猫の巣号を留守にするわけにはいかないからな。
「……キン姉」
ベリルがキンを凝視する。
「整備技術、身につけて」
「簡単に言うなにゃ!」
「簡単じゃないって分かった上で言ってるの。タキオン砲は表に出せないし、タキオン砲をこっそり使うには技術者が必要。信頼できない技術者に任せたら、タキオン砲は奪われて大規模な海賊に狙われる。だったら、こうするしかないよ」
「に゛ゃぁ……」
キンが酒瓶に手を伸ばそうとする。
俺が合図を送ると、それまで遊んでいた猫耳幼児たちが中身入りの酒瓶を抱えて、EVA用のハッチへ駆けていく。
「お前ら裏切ったにゃ!?」
「キンさんならできると信頼されているんですよ。……酔っ払ったら無理とも思われているでしょうけど」
俺が声をかけると、キンはしょぼくれた表情で空の瓶の注ぎ口をペロペロ舐め始めるのだった。
☆
俺たちは目的地への航行を再開しなかった。
タキオン砲を手に入れて金がもっと必要になった今、やるべきことがある。
「生体パーツが広まる前に稼ぎましょう。今なら襲い放題です」
「ええ……? それでいいの、サルくん?」
「キンさんの教育費も、教育を受けたキンさんが使うための設備にも金がかかります。タキオン砲を使う以上、最終的には海賊にばれてしまう可能性が高いんです。今のうちに海賊から海賊しましょう」
俺の提案は、ベリルは悩んでいたが出資者たちには好評だった。
「狙うなら小さくて高額な品にすべきよ。船倉の残りスペースの問題もあるし、宝石や貴金属ならツテがあるから」
栗毛猫耳さんは、前歴が気になる発言をしている。
「いいですね。……そういえば社長。海賊は違法薬物とかも運ぶんでしょうか。戦利品の中にそんなのがあったらどうすればいいのでしょう」
「あっ」
ベリルの動きが停止する。
猫耳も尻尾も完全に止まっている。
「そういうのを売るコネはないわね」
栗毛猫耳さんは、くすりと笑って俺を見る。
「俺も違法薬物を売る気はないですよ。海賊に狙われそうなのに軍や警察にまで狙われたくないですし。ですがまあ、警察とかに提出して金一封でももらえるならもらいたいと思いまして」
「ふふっ、残念だけど汚職した職員に着服されたり星系政府が特定の海賊に繋がっていることもよくあるの。弱毒加工して調味料として使うくらいしか使い道はないと思うわよ?」
そこまで言った栗毛猫耳さんが、笑いの衝動に耐えられなくなって口を抑えた。
「サルくんってたまに異星人だよね」
復活したベリルが素直な感想を言う。
「実際異星人ですよ。っと、社長。反応がありました。速度は不明ですが向きはあっちです。場所はそこですね」
「了解! やっぱこの場所だとブラックマーケット行きの輸送便だよねー。手順は前回と同じでよろしく!」
にゅふふと笑ってゴーサインを出した社長と共に、俺は猫の巣号の通路を使ってベリル号へ移乗する。
それからの数日は、まさにボーナスゲームだった。
ボーナスゲームだから、やり過ぎてしまったんだ……。
☆
『こちらは銀河通商第7営業艦隊です。救助が必要ですか?』
久々に見た光翼人間が、背中の翼だけでなく表情にもうっすら困惑を浮かべている。
「サルー! そろそろやべーにゃ! いい加減積荷を捨てるにゃ!」
「サルさん。お菓子で宥めるのももう限界よ。あの子たち、そろそろ不満で爆発するわ」
いつも頼りになるふたりが追い詰められている。
海賊狩りに頑張りすぎた結果、戦利品を厳選したのに、船倉もそれ以外もいっぱいになってしまったんだ。
「救助は不要です。実はですね。拿捕した海賊船の積み荷の中に、地球の品がありまして。現在の地球の支配者はあなた方ですし、どうすべきかお尋ねした方が良いかなと思いまして」
『我々、銀河通商第7営業艦隊は、文化の保護を担当していません。用件はそれだけですか?』
光翼は微動だにしない。
『無駄な時間を使ってしまった』と、動かないことで意思表示しているようにも見える。
「……今から伝えるのは俺が言ったことではなく、海賊が言っていたことです。こいつを持っていた海賊が、銀河通商を出し抜いたと放言していました」
海賊襲撃時の録画データを無編集で送信する。
これで反応がないなら捨て値で売るか宇宙に捨てるだけだ。
地球の文明が健在なら貴重すぎて値段がつかない文化財も、今の俺たちには場所をとるだけの荷物だ。
『なるほど。情報提供に感謝します』
光翼人間の顔は完全な無表情に変わり、光翼が『ばさり』と一回り大きくなる。
とても荒々しい光が後ろから光翼人間を照らし、栗毛と金毛の猫耳が緊張して大人しくなる。
『プロパガンダは我々の主な業務ではありませんが、違法勢力に舐められるのは好ましくありません』
買い取り希望価格が送信されてくる。
「んんー?」
ベリル社長は、その桁の多さに受信装置の故障を疑っているようだ。
栗毛猫耳さんとキンは喜びに目を輝かせている。
俺は、近くに敵はいないのに、とてつもなく嫌な予感に襲われている。
『猿谷氏に依頼があります』
俺の名字を久しぶりに聞いた。
嫌な予感はますます強くなる。
今すぐ猫の巣号で逃走したい。
『依頼内容は、当該海賊の上部組織に対する攻撃です』
「ちょっと待ってよ! サルくんは僕の社員! 勝手にはさせないよ!」
勇気を出して主張してくれるベリル社長は、猫耳も尻尾も完全におびえてしまっている。
俺は、顔面がストレスで引きつりそうになるのを自覚しながら、精一杯平静な声を出す。
「社長。詳しい条件を聞いてからにしましょう。まさか今のベリル号と猫の巣号で、大規模海賊に殴り込めとは言わないでしょうし」
俺が言い終えるより前に、光翼人間の動きが不自然に停止した。
通信障害か、銀河通商が静止画に切り替えたのかと考えたのはほんの数秒だ。
光翼人間の表情は変わらないまま、背中の翼が『ぱたたたっ』と大慌てという感じで上下している。
こいつ、これが演技じゃないなら、肝心なことを言い忘れるうっかりさんかよ。
『はい。船の強化は我々が行います。猿谷氏の適性とこれまでの活動から判断して、成功率も生還確率も高いと判断しています』
光翼人間の話すスピードが通常の5割増しだ。
ベリルたち3人の猫耳から呆れた目を向けられても、光翼人間は、顔のポーカーフェイスは崩さなかった。
☆
改造されたベリル号は、相変わらずの戦闘機型だ。
大気圏で飛行機として飛べそうな形状の左右の翼に、それぞれ上下に大型のエンジンがついている。
大きく変わったのは本体下部で、本体より少し大きなタキオン砲がそのまま接続されている。
「社長。この星系にいる船、全部落としても本当に問題ないんですか?」
「うん! ベリル号も同じ扱いだから本当に気を付けてね」
外見的には無理矢理な改造の印象が強い新ベリル号だが、その戦闘力は以前とは桁違いだ。
4光秒前方にある哨戒船に念入りにタキオン粒子を浴びせる。
時間あたりの威力は低いが、超光速と減衰しにくさを兼ね備えた、攻撃される側にとっては悪魔のような攻撃だ。
「1隻撃破!」
ベリル社長がはしゃぐ。
銀河通商により改造されたベリル号は、1光秒先を捉えるセンサーを搭載している。
「星系内の船の動きに変化はありません。超光速移動にタキオン砲の組み合わせは反則ですね」
「それプラス、サルくんの組み合わせだね。これなら報酬満額いけちゃうかも!」
「社長。否定はしませんが今回のような賭けはやめてください。地球の絵画を売った金と、今回の前金を全額船の改造に注ぎ込むなんて……」
銀河通商がしてくれたのはタキオン砲の搭載と、タキオン砲の本来の持ち主に話を通すことまでだ。
ベリル号を限界まで……その分極端な俺専用セッティングにしたのは、会社とベリル社長の金だ。
「サルくんが撃墜されたら僕らは終わりだもん。だったら勝利に全ベットが正解でしょ」
ベリルは自然体で言う。
信頼の目を向けられて、俺の顔が少し熱を持ってしまう。
「それに、サルくんも自分のお金を猫の巣号の改造に使ったでしょ?」
「俺が死んでも生き残っても無駄にはなりませんからね。さて、そろそろブラックマーケットのVIPエリアです。……すごい数の反応だ」
「サルくん! 超高額賞金首がいっぱいだよ! それに……」
俺の近くの画面に以前見たことのある船が表示される。
自称地球防衛艦隊、唯一の船。
地球人を無防備な状態で海賊の前に放置した、外道の船だ。
「ついでにやっちゃいますか!」
俺の声は明るく、殺意に満ちていた。
◆ BERYL THE GREAT
船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4
◆ CAT'S NEST(1/1)
船体:2 / 跳躍:2 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:0
◆ CREW
ベリル |船長Lv1 [借金Lv4]
サル |操縦Lv3 [疲労Lv1]
栗毛猫耳|射撃Lv1 [事務Lv1]
キン |白兵Lv1 [??Lv1]
妹猫耳ズ|白兵Lv1 [未熟Lv3]
◆ King of the Earth
船体:3 / 跳躍:2 / 航続:3 / 装甲:3 / 居住:2 / 船倉:3 / 兵装:3




