ラスティネル回収
「ここにおったか」
雨の中。
不死王は丸椅子に座り、ベランダに所狭しと並べられた鉢植えの薬草たちを眺めていた。
その手にはコップが握られている。
「雰囲気だけだ」
婆さんはベランダの入り口から顔を出すだけで、外には出ようとしない。
空模様を見上げる。
周囲は快晴にもかかわらず、漆黒の巨城だけ強烈な雨が降っていた。
「伝言が来ておるぞ」
「うむ」
不死王は立ちあがると丸椅子を持って、入口へと向かった。
入口の前で一度足を止めた。
ずぶ濡れだった不死王のローブ。しみ込んでいた水分がスッと消えた。
丸椅子に付いていた水滴も同じく消えている。
部屋の中に入ると、右手の壁に掛けられた連絡板を眺める。
ミオンからの伝言だった。
『ラスティネルが戦っています』
「何と戦ってるんだ?」
「レヌンの次はラスティネルかい」
婆さんが面白そうに背伸びして連絡板を見つめる。
その時。
さらに文字が浮かび上がって行く。
『ラスティネルが勝ちました』
「治癒師の嬢ちゃんじゃなかったのかい?」
「うむ……危ないから大包丁は取り上げたんだが……」
「何と戦ったか、楽しみだねぇ……」
不死王は棚の前まで歩くと、引き出しを開けた。
考え込む――
そして、その中から指先大の水晶が縁にいくつかついた丸く薄い髪留めのようなアクセサリーを取り出した。
婆さんは不死王の机に座り、さきほどまで不死王が持っていたコップに口を付けた。
薄い黄緑の液体から、ほのかに茶葉が香る。
その薄味と冷たさに少し顔をゆがめると、コップを机の上に置き、ひょいと下りた。
「すまない。包帯を頼む」
「ぁぃょ」
◇◇◇
不死王はミオンのそばに立っていた。
遠くからラスティネルと捕らえられた二人を見つめ、つぶやく。
「国が落ち着いたら、話を聞こうかと思っていたんだが……やりおったか……」
目線の先には無数の爆発跡があった。崖に近づくほど、地面のえぐられ方が激しい。
「旦那。ごめん……」
「……うむ。ヴェルカトスと先に帰っておれ」
不死王はそう言うと、ミオンの頭を軽く掴み、その手だけを高速で左右に2回動かした。
その直後にはラスティネルの隣に立っていた――
「正直に言いなさい。レヌンはどこ?」
頭まで全身、カエルの着ぐるみのラスティネル。
隣に立つ不死王の存在に気づいていない。
緑のヒモでぐるぐる巻きにされた二人の女性への尋問に夢中だった。
黒髪の女は鋭い目つきでラスティネルを見上げるだけで何もしゃべらない。
もう一人の少し小さい茶色の髪の女は目を閉じたまま、じっとしている。
しばらく待ったが、一向に気づく様子がない。
声を掛けることにした。
「ラスティネル」
「……」
「ラスティネル」
カエルの面がグイッと不死王を凝視する。
「彼女たちは居場所は知らない。あきらめろ」
「だったら、旦那が教えて」
「うむ」
「教えて!」
「うむ」
「教えて!」
「帰るぞ」
「旦那!」
不死王は近くにあった浮き輪をラスティネルに持たせようとするが、受け取ろうとしない。
二人の女に視線を向け、一息つく。
「二人はこのままでいい。聞きたいことがある」
黒髪の女の鋭い目線がラスティネルから不死王へと変わった。
茶色の髪の女も目を開け、不死王の姿を横目で見る。
そして、不死王は一定の距離を取ろうとするラスティネルを先回りすると、その肩に触れ、消えた。
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【あトがき】
王国の東、神聖国との境にある湖の手前にある地下のドーム。
ラスティネルは療養中のレヌンの近くにいたところを不死王にむりやり帰らされていた。
立ち去ろうとする不死王の背中に向かって叫んだ。
ラスティネル 「旦那!」
不死王はその声に応えることなく、ミオンの部屋に入っていくが、まだミオンは帰っていない。
ふと振り返ると、そこには不死王をきつく見上げるラスティネルの顔があった。
不死王 「ダメだ」
ラスティネルは表情を変えない。
不死王 「今度から、ここを離れる時は連絡板に書いて許可をもらうように」
不死王 「もし約束を破ったら、国境警備はクビだ」
それを聞いたラスティネルがなぜか徐々に笑顔になる。
不死王 「この国での治癒師としてもクビだぞ。約束も守れないのは失格だろ?」
ラスティネルはハッと口を開けたまま、しばらく動けなかった。
レヌンの首を一度切り落とし、欠損治療するという計画が限りなく遠のいたからだ。




