帰れなくなった治癒師⑦
薄いピンクのくぼみの中。
ラスティネルは、着こなしを入念にチェックしていた。
よくわからないけど、旦那から送られてきた衣装だ。
かわいい。
両手を広げ、目を閉じて、全身緑色のカエルの着ぐるみを着た自分の姿を想像してみる。
背中にちょこんと生えている緑の羽。
フードをかぶったり、かぶらなかったり。
袖の長さをまくったり、たるみを調整したり。
足は少し長いかな?
一通り想像していたら、視界が突然真っ暗になった。
何度パチパチしても、どこまでも続く闇のカーテンに囲まれているようだ。
動きが止まる。
息を潜めて聞き耳を立て、辺りを見回すが、闇は少しも薄まらない。
壁を伝う手だけを頼りに、自分の部屋から共有スペースへと出た。
だが、そこもまた、光の一筋すら存在しない漆黒の闇――
そういえば、ミオンくんから黒いモヤがなくなると暗くなると聞いたことを思い出した。
もしそうなら、黒いモヤがなくなっていたら、帰れる!
一刻も早く外を確認したい。
共有スペースの壁際にある出口に向かって、歩き始めた時に足に何かが当たった。
「うーーーーーーんぅぅぅーーーーーー」
テーブルの脚に左足の小指を強打して、ラスティネルは悶絶した。
涙目で小指を押さえ、うずくまる。しばらく動けない。
じんじんする小指を握りながら、這いつくばって、外への出口に向かった。
地上へ出たが、久しぶりの光で目が慣れない――
ミオンくんが誰かと喋ってる……。
その声、聞き覚えがある……。
ラスティネルはまぶたが跳ね上がった。
そこにいたのは、ラスティネルの上司シーチェルダ。
そして奥には――当主のオミユシ。
あまりに近すぎる距離。
憧れと畏怖の対象を前に、ラスティネルの思考は真っ白に染まる。
「ラスティネル……。無事でよかった……。どうしたのだ、その……。その格好は」
シーチェルダの困惑した声が響く。
無理もない。ひさしぶりに見たラスティネルが奇妙なカエルの着ぐるみを着ているのだから。
「あ、これ、あの! 仕事の服を試着してみたんです!」
「仕事……? お前、いつの間に治癒師を辞めたのだ? どんな仕事だ?」
「違います! 違うんです!」
慌てて身振り手振りで否定しようとして、カエルの右足の甲を左足の裏で踏んでしまった。
シュパッ!!
「……!?」
「え……?」
着ぐるみの背中に付いていた緑の羽が、音もなく発射された。
オミユシの周りにいる三人は、オミユシを守ろうと立ちはだかろうとするも、緑の羽はすり抜けた。
その瞬間、三人の姿は薄くなって消えていく。
そして、緑の羽は獲物を捕らえる蛇のように、シーチェルダとオミユシの体を、それぞれしなやかにまとわりつき、一瞬でぐるぐる巻きにした。
「「?」」
二人は緑の太い紐のようなもので完全に拘束されていた。
オミユシは地面に両足を投げ出された状態で座りこみ、心なしか足を動かそうとしているように思われる。
シーチェルダは目をパチパチして、ラスティネルの方を見ている。
ラスティネルはあわあわするだけで何もできず、時間だけが流れる。
「ごめんなさい! そういうつもりじゃないんです!」
ラスティネルは必死に謝り倒す。
「これ……どうやって外すのかな……」
震える手でオミユシに巻き付いている紐をほどこうとするが、隙間なくがっちりしているのでどうにもならない。
「ミオンくん……。外し方、知らないよね?」
ラスティネルがすがるような視線を向けると、ミオンは無情にも首を横に振った。
「うん。知らない」




