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不死王の沈黙

偽薬の入った小瓶を懐にしまい、私は広場へと歩を進めた。

噴水を中心とした広場は、大道芸人や商人、そして家族づれで賑わっている。

その平和な空気を切り裂くように、無骨な金属音が近づいてきた。


「止まれ! そこを動くな!」


気づけば、抜き身の剣を手にした数人の衛兵に包囲されていた。

周囲の喧騒がスッと幕を引き、野次馬たちが遠巻きにこちらを伺っている。

私は足を止め、不思議な心地で彼らを見つめた。


「何か用かな」


「とぼけるな! 先ほど薬屋で偽の金貨を使っただろう。店主から通報があったのだ」


衛兵の一人が、傲慢な笑みを浮かべて言い放つ。

そして、私の顔のすぐ近くまで詰め寄り、声を潜めて囁いた。


「おい……穏便に済ませたいなら、今ここで残りの金貨をすべて出せ。そうすれば、見逃してやる」


彼は露骨に指を擦り合わせ、私の懐を視線でしゃぶるように求めた。

賄賂だ。金貨を渡せば、この茶番は今すぐ終わる。

だが、あいにく今の私に空気を読む義理はない。


「偽の金貨? いや、あれは正真正銘、本物の金貨だ」


「は?」


「鑑定が必要なら、いくらでも協力しよう」


私は至極真面目に答えた。

数百年を生きる私にとって、真実とは曲げようのない事実。それを否定するわけにはいかない。


衛兵の顔が、苛立ちで赤く染まっていく。

彼が欲しがっているのは真実の証明ではなく、口封じの金貨なのだ。

しかし、私は一点の曇りもない眼差しで彼を見つめ続けた。


「貴様、ナメているのか? これ以上の抵抗は許さんぞ!」


「抵抗? していないが」


「黙れ! おい、連れて行け! 偽金貨を使った罪で逮捕だ!」


背後に回った衛兵たちが、私の腕を荒々しくつかんだ。

一切の反論もせず、私はなすがままに捕縛される。

不死王の強大な力をもってすれば、この街の衛兵など一瞬で塵に変えることができるだろう。

だが、そんなことはいつでもできる。もう少しこのアトラクションを楽しんでみようではないか。


(一歩ずつ歩いて牢まで行くのは、少し面倒だが……)


連行される私の背中を見送る衛兵たちは、せしめた金貨の使い道でも想像しているのだろうか。

だが、私から彼らに言うべきことは何もない。

何が正しく、何が愚かなのか。それを説いてやる義理もなければ、導いてやる慈悲もない。


ただ、こうして理不尽に縛り上げられ、暗い牢獄へと引きずられていく。

私は、自ら進んで闇の奥へと足を踏み入れた。



◇◇◇



地下の拷問室に足を踏み入れる。

そこにあるのは、肌にまとわりつくような不快な湿り気と、冷え切った静寂だけだった。


私は頑丈な椅子に縛り付けられ、ボロボロになった紫のローブを剥ぎ取られていた。


「おい、その串焼き、いつまで大事そうに持ってんだ?」


三人の拷問官たちが、私を取り囲んで下卑た笑いを浮かべている。

彼らは今、一つの賭けに興じていた。私がいつ、この串焼きを地面に落とすか――



突然、若い拷問官が痺れを切らし、ムチで串焼きを床に叩き落とした。


「おい!何やってんだ!それは反則だろ!」


古参の拷問官がムチを振るった若い拷問官を一瞥すると、再び冷ややかな笑みを浮かべた。


「まあいい。よし、誰が最初にこいつの悲鳴を上げさせるか、これで競おうじゃねえか」


これからの拷問が楽しみで仕方がない淀んだ目が、暗がりに並ぶ。

黒い装束に身を包んだ拷問官が、炉で真っ赤に熱した鉄棒を手に取った。


「吐くなら今のうちだぞ。まあ、吐いたところで止めねえがな!」


ジィィ、と嫌な音がして、熱せられた鉄が私の脇腹に押し当てられた。

肉が焼ける匂い。普通の人間なら、声を出さずにはいられないだろう。

しかし、今の私にとって痛みは遠い昔に忘却した概念に過ぎない。


「おい、どうした? 声を出せよ。もっと熱いのがいいか?」


黒い装束の拷問官は焦ったように、二度、三度と鉄棒を押し当てる。

だが、私の口から声は出ない。表情一つ変えず、私はただ、暗い天井を眺めていた。


「ジューーー」という音がするたびに、拷問官たちの顔から余裕が消えていく。

何度繰り返しても無反応。私の平然とした態度に、場に冷気が走り始めた。


「おい、こいつ。本当に人間か……?」


一人が、震える声で漏らした。

彼らが信じている「痛みを与えれば屈する」という法則が、目の前の男には一切通用しない。

だが、拷問官たちはその事実を受け入れようとしなかった。子供がおもちゃに飽きたように、その場をそそくさと去って行ってしまった。


私は拷問官たちを一瞥することもなく、ただ床に転がり踏みつけられた串焼きを見つめていた。

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