10.感想戦
感想戦(この忌まわしい事件の真相は……?)
M「それでは、ただ今より感想戦を行わせていただきます。
まず本日の参加者の役職を公開しますね。
人狼は、チイさん、グレイさん、アイリスさんのご三人、
狂人は、クイーンさん、リョウタさん、シノさんのご三人でした。
――以上六名が人狼側です。
続いて、祈祷師が、アメンボさん、エリカさんのお二人、
牧師はドロシーさんが一人、村人はヒミコさんの一人だけで、
霊能者がボスさんとフォックスさんのお二人です。
――以上六名が村人側でした。
そして、ピイスケさんが妖狐でした。
それでは、皆さん、ご自由に感想をおっしゃってください」
最初の発言者は、やはりエリカだった。
E「えーと、ピイスケさんが妖狐だったの? じゃあ、アメンボさんは嘘をいったことになるのよね。もうなにがなんだかさっぱりわかんないわ」
A「五日目昼の会議では、僕とエリカさんが吊るされる最有力候補でしたよね。生き残るためにも、あの嘘はやむを得ませんでした」
アメンボが弁明した。
E「あなた、あの時どこまでわかっていたの?」
A「では、説明させていただきましょう。
僕の職業は祈祷師です。したがって、四日目夜に僕の目の前で亡くなったリョウタさんの死因は自殺です。したがって彼は狂人であることになります。
そして同じ夜に、夏の間ではチイさんが死亡しました。同居人はエリカさん――、あなたでしたよね」
E「そうよ、それがどうかしたの?」
A「以上の事実から、チイさんとアイリスさんが狼で、エリカさんが祈祷師だと断言できるのです!」
アメンボのいうとおりなのだ。私が五日目夕刻に気づいた重大な事実とは、『生き残った四人は、つまりアメンボ、ピイスケ、シノと私の四人は、私が人狼であることを知っている』、ということだった。
A「人狼は全部で三人です。それでは、五日目の昼の時点で人狼でないと推論できる人物を、これから順番にあげていきましょう」
アメンボの語り口はまるで名探偵エルキュール・ポワロのようだった。
A「まず、ピイスケさんです。彼の初日の同居人はボスさんとリョウタさん。二日目の同居人はシノさん、三日目の同居人は僕でした。そして四日目はシノさんとアイリスさんとの三人部屋です。さらに、ピイスケさんは四日間とも同居人から死者を出していません」
E「ちょっと待ってよ。それだけでは、まだ人狼の嫌疑からピイスケさんをはずせないわ。四日間のうち一日はパスをして、残りの三日は仲間の二人の狼といっしょに泊まったか、あるいは妖狐に噛みついていればいいんだから」
A「そうです。しかしどちらにしろ、ピイスケさんは狼同士で夜を共にしているはずです。つまり、もしピイスケさんが狼であるならば、彼と同居した人物の誰かは狼でなければなりません。
そこでまず、初日に同居したボスさんとリョウタ君とピイスケさんの三人全てが狼である可能性から吟味してみます。狼は全部で三人ですから、このほかの人は人狼ではありません。したがって、二日目以降の三日間でピイスケさんは狼と同居していないことになり、パス一つだけでは過ごせないので矛盾します。よって、この可能性はあり得ません。
次に、四日目に同居されたシノさんとアイリスさんとピイスケさんの三人が狼である可能性ですが、ピイスケさんは二日目にシノさんと同居しているのでその日のパスは消費していないはずです。しかし、初日と三日目は人狼とは同居していないことになり、僕とリョウタ君とボスさんのいずれかが妖狐でなければ、ピイスケさんはパスを二回することとなり餓死してしまいます。故に、僕かリョウタ君かボスさんのいずれかが妖狐であり、なおかつピイスケさんはその妖狐に噛みついています。しかしこの時アイリスさんも狼ですが、彼女は初日と三日目にチイさんと泊まっています。チイさんが狼だとすると狼が四人になって矛盾するので、チイさんは狼ではありません。つまり、狼であるはずのアイリスさんがパスを二回していることになり、この可能性は矛盾をきたします。すなわち、シノさん、アイリスさん、ピイスケさんの三狼説も破綻です。
結局、ピイスケさんが初日と四日目に宿泊した三人部屋のメンバー全てが人狼だったという同部屋三狼説は、いずれも破綻しています。
次に、ピイスケさんが初日と四日目の三人部屋のいずれかでパスを一回行って、もう一方の三人部屋では同居していた妖狐に噛みついたという場合を仮定してみます。その時にはもうパスが残されていないから、必然的に二日目と三日目の同居人が狼でなければならなくなります。すなわち、シノさんと僕の両方が狼であることになります。しかし、そうすると今度は、僕の初日から三日目までの同居人に死者が出ていないので矛盾します。なぜならば、妖狐はすでにピイスケさんに噛まれているので、僕が初日と二日目の両方でパスをしてしまうからです」
アメンボの推理は理路整然としていた。私たちは固唾を呑んでその説明に聞き入った。
A「以上でピイスケさんが狼でないことが証明されました。そしてこの証明は参加者全員が推論できることも忘れてはなりません」
C「参加者全員が推論できる、というのがすごいですね」
チイが感心していた。
A「そうですね。僕にしてみれば、四日目の同居人のリョウタ君が狂人であることはすぐにわかりますし、僕が狼でないことも知っています。当然、ピイスケさんが狼ではないことはわかります。でも先ほど僕がした推理は、参加者の誰もが導ける結論でもあるのです。
さらにピイスケさんが狼でないという事実を使えば、シノさんが狼でないことも証明できます。ではシノさんが狼であると仮定してみましょう。ご存知のとおり、シノさんは二日目と四日目にピイスケさんといっしょに泊まっています。ピイスケさんは狼ではありませんから、シノさんが二日目と四日目でパスをしないためにはピイスケさんが妖狐でなければ矛盾してしまいます。しかし、たとえピイスケさんが妖狐であってもピイスケさんは死んでいませんから、二日目と四日目のいずれかでシノさんはパスを必ず消費しているはずです。するとシノさんはそれ以外の日にパスができないので、初日の同居人であるヒミコさんとフォックスさんのお二人が狼でなければなりません」
G「その際に、なにか矛盾が生じますか?」
グレイが興味深げに訊ねた。
A「はい、シノさんの三日目の同居人はヒミコさんとグレイさんです。そして、ヒミコさんが死亡しました。でも推論ではヒミコさんは狼でなければならない」
G「問題ないでしょ。私が祈祷師であればいいのだから。実際は違いましたけどね……」
I「あっ、そうか。ヒミコさんがグレイさんにかえりうちで殺されたのだったら、シノさんはパスをしていることになるんだ!」
思わず私は声を出していた。
A「そのとおり。つまり、シノさんは三日目の宿泊でパスをしないためには、ヒミコさんをかえりうちにしたグレイさんを襲って殺していなければならない。グレイさんが生き残ったということは、すなわち、シノさんが狼でないことを意味します」
I「すごいー。これで、ピイスケさんとシノさんの二人が狼でないことが証明できちゃった」
私は歓声をあげた。
C「わくわくしちゃいます」
チイも喜んで聞き入っている。
A「さあ、四日目の夜に生き残っていた七名のうちで、ピイスケさんとシノさんのお二人が人狼ではないことを証明いたしました。しかしゲームは継続されているので、残りの五人、すなわち僕、リョウタ君、エリカさん、チイさん、アイリスさんの中に少なくとも一人は人狼がいることになります。それでは次に、僕が狼でないことを証明いたしましょう」
C「客観的に証明するのですね」
A「はい、もちろん僕は自分が狼でないことは知っています。でも、ここで主張したいのは僕以外の人でも、僕が狼でない事実を論理的に導けることです。
それでは、僕が狼であると仮定してみます。皆さんご存知のとおり、初日から三日目までは僕の同居人から死者が出ていません。そして、四日目に僕と同居したリョウタ君が死んでいます。僕が人狼ならば、初日から三日目までのいずれかで仲間の人狼と同居することでパスを消費しないようにする必要があります。すると、三つの可能性が出てきます。まず、初日の同居人エリカさんと僕が狼である可能性と、二日目の同居人のリョウタ君と僕が狼である可能性、そして三日目の同居人のピイスケさんと僕が狼であるという可能性です。
しかし僕とリョウタ君が狼だという可能性は、四日目の宿泊で僕とリョウタ君が再び同居した際にリョウタ君が死んだことが説明できません。したがって、この可能性は除外できます」
E「そうね、アメンボさんとリョウタ君の人狼ペアはあり得ないのね」
エリカが頷いた。
A「さらに、ピイスケさんが狼でないことも証明されているので、僕とピイスケさんが狼だという可能性も否定されます。
したがって僕が狼であるためには、エリカさんが狼でなければなりません。でも、この場合でも僕は二日目と三日目の両方でパスはできないので、必然的にどちらかの日はパスを消費していて、もう一方の日は妖狐に噛みついて飢えをしのいでいることになります。そうなると今度はエリカさんの二日目と三日目の同居人から死者が出ていないので、エリカさんがパスを二回していることになり矛盾します。妖狐は僕が噛みついてしまったので、エリカさんが妖狐を利用することはできないからです。
つまり、これで僕が狼である全ての可能性が否定されたので、僕は狼ではありません」
F「ちょっと待ってください。アメンボさんとエリカさんのお二人の人狼説ですが、今の説明ではまだ水が漏れていますよ」
突然、フォックスが口を挟んだ。
F「アメンボさんは初日に人狼のエリカさんと宿泊してパスの消費はなし。二日目のリョウタ君と三日目のピイスケさんとの宿泊では、どちらかで妖狐に噛みつき、もう一方の日にはパスをしている。そして四日目にはリョウタ君を噛み殺した。一方、人狼のエリカさんですが、初日は狼同士の宿泊なのでパスは消費しません。エリカさんは、二日目と四日目にチイさんと同居していますが、四日目にチイさんが死亡しました。このことから、チイさんは狼でないことがわかります。さらにチイさんは妖狐でもないから、エリカさんは二日目にパスを消費していることになります。ここまではいいですよね」
フォックスがアメンボに確認した。
A「はい、そのとおりです」
F「私が指摘したいのは、エリカさんの三日目の同居人であるリョウタ君が三人目の狼である可能性をまだ潰していないということです。
つまり、リョウタ君が狼であれば、エリカさんは三日目にパスの消費をしなくてすみますからね」
A「おおっ、ご指摘ありがとうございます。僕とエリカさんの人狼説を否定するためには、リョウタ君が三人目の狼である可能性も潰さなくてはなりませんね。もちろんこの可能性は簡単に排除できます。
四日目にリョウタ君が僕と同居して死んだことが、僕とリョウタ君の双方が人狼であることを否定するからです。したがって、僕とエリカさん、リョウタ君の三狼説も排除されますから、僕は狼ではありません」
アメンボはさらりと説明した。
I「アメンボさん、すごーい。これで三人も除外しちゃったよー」
C「感動しちゃいましたぁ」
私とチイは手を取りあって、はしゃいでいた。
A「ははは……、ありがとうございます。じゃあ次は、エリカさんを人狼の嫌疑からはずしましょう。
では例のごとく、エリカさんが人狼であると仮定してみます。エリカさんは二日目と四日目にチイさんと同居しました。そして、チイさんは四日目に死亡しています。以上のことから、チイさんとエリカさんが同時に狼である可能性はあり得ません。よって、エリカさんが狼という仮定の下ではチイさんは狼でないことになります。
先ほどの証明で僕も狼ではありませんから、エリカさんは初日の僕と二日目のチイさんのどちらかの宿泊でパスを一つ消費していなければなりません。さらに、僕かチイさんのどちらかが妖狐であり、エリカさんに噛みつかれていることになります。そして、三日目のエリカさんの同居人であるリョウタ君が狼でないとエリカさんのパスが二回となり矛盾しますから、リョウタ君は狼であります。
しかしリョウタ君は、初日にピイスケさんと、二日目に私と同居しています。妖狐はすでに噛まれており、なおかつピイスケさんと僕は狼でないことが証明されていますから、今度はリョウタ君がパスを二回消費していることになり矛盾です。よってエリカさんも狼ではありません」
I「きゃー、アメンボさん、素敵ですぅ」
C「あいちゃん、そろそろ私たちが責められる番ですよ……」
A「ここまで来ると、リョウタ君が狼でないことを証明するのは簡単です。リョウタ君が初日と二日目と三日目に同居したピイスケさんと僕とエリカさんはいずれも狼でないことが証明されているので、リョウタ君はパスを少なくとも二回消費することになり矛盾するからです」
I「ということは……?」
C「はい、あいちゃん。
つまり……、私たちが人狼だってことが証明されちゃいました」
A「そのとおり。五日目の朝の時点で、全ての参加者が辿りつける結論は、『チイさんとアイリスさんが共に人狼である』という事実です!」
I「そんなあ、チイちゃんと私のどっちか単独狼ってこともあるでしょう?」
往生際悪く、私は反論してみた。
C「あいちゃん、単独狼説はちょっと無理があるかも……。
私の宿泊相手が、初日と三日目があいちゃんで、二日目と四日目がエリカさんなの」
チイはすっかり観念していた。
A「そうです。チイさんとアイリスさんは初日と三日目に同居していて、しかもお二人ともご健在でした。
つまり、お二人のうちでお一人だけが狼であると仮定すると、相方は妖狐でなければならなくなり、さらにその狼は一回しかできないパスを使い果たしていることになります。ということは、チイさんが一人だけ狼であるとすると、二日目のエリカさん(彼女は人狼ではありません)との同居が説明できなくなるし、アイリスさんが一人だけ狼だとすると、四日目の宿泊が説明できません」
C「あっさり、証明されちゃいましたね」
I「いいのよ、チイちゃん。二人で仲良く狼してきたんだから、ばれちゃったけど悔いはないわ」
私はガンといい張った。
G「あのお、私も仲間だったですよね……」
うらめしそうにグレイが呟いた。
P「つまり、五日目の朝の時点で、生き残った俺たち五人全員は次の二つの事実を知っていたということですね。
一つは、生き残りの人狼がアイリスさんただ一人であること。
もう一つは、エリカさんが能力を失った祈祷師であること」
ピイスケが確認してきた。
A「うーん、皆さんが理性的であれば辿りつける事実なのですが……」
アメンボはちらっとエリカに目を向けた。
E「私……? そんな所まで、わかるわけないじゃない」
エリカは両手のひらを広げていった。
P「まあ、エリカさんを除いて、ほかの四人は知っていたということですね」
E「ちょっと、待ってよ。じゃあ、その日の投票でなんで私が吊るされちゃったの?」
S「ふふふ、めいめいの利害が錯綜したみたいですね」
シノが気味悪く笑った。
G「そうですよ。五日目の投票の時、皆さん一人一人は一体なにを考えていたのですか?」
グレイが真面目な顔で訊いてきた。
A「じゃあ、投票した順番に当時の思惑を語っていただきましょうか。まずは、シノさんからお願いします」
S「はい、私は狂人です。人狼チームの勝利を目指しています。
もちろん、アイリスさんがただ一人の人狼の生き残りであり、彼女が死んでしまえば私たちが敗北することも知っていました。前の晩に死者を出された方はアメンボさんとエリカさんでしたから、当然アイリスさんを守るために、私はエリカさんかアメンボさんに投票することになります」
E「だから私に投票したのね。
じゃあ、次は? ピイスケさんね」
P「はい。俺は妖狐です。勝利のためには、アイリスさんを殺すか、村人側を全滅させるかの選択肢がありました。ところが、シノさんの正体で悩みました。恐らく狂人であろうとは推測できましたが、村人側である可能性もありました。そこで、エリカさんを吊るして村人側を減らすよりも、手っ取り早くアイリスさんを消すほうがよいと判断して、アイリスさんに投票しました」
A「正しい推論だ思います」
E「私の番ね。ひょっとして私がミスをしちゃったのかしら……?
祈祷師の私にはチイさんが狼だってことがわかるから、当然アイリスさんが狼であることもわかったわ。アメンボさんが妖狐を殺したといったから、あとは人狼を消せば私たちの勝利よね。だからアイリスさんに投票したのよ」
A「僕の判断ミスだったかもしれませんね。
僕はアイリスさんに罠をかけたのです。僕は祈祷師でした。だから、アイリスさんが僕のことを霊能者だと思いこんで、僕を消しにかかることをひそかに期待したのです」
アメンボがポツリと呟いた。
I「恐ろしい策略ですね……」
A「僕は五日目の投票でアイリスさんを吊るすチャンスはあったのに、実際は吊るすことができませんでした。
とういのは、アイリスさんを吊るせば人狼が絶えますからその時点でゲームが修了しますが、もしシノさんとピイスケさんのどちらかが妖狐だったら、僕たち村人側も同時に敗北を帰するのです。
直感ですが僕はお二人のどちらかが妖狐である可能性は高いと感じました」
I「だから、エリカさんに投票されたのですね」
私はチラッとアメンボの顔を見た。
E「待ってよ、だったら自分にでも投票しておけば決選投票になったじゃない? なんで、わざわざ私に投票したのよ」
エリカは怒っていた。
A「そうですね。リスクはありますが、それもありましたね。
とにかく、僕はアイリスさんには投票したくなかった。かといって、シノさん、ピイスケさんに投票してはあまりにも不自然で、これでは仕かけた罠も簡単にばれてしまうでしょう。
そこで僕はあえて票を割るという形で、エリカさんに投票する選択を取りました」
I「結果的には、ピイスケさんが妖狐として生き残っていたから、それは正しい選択だったわけですね」
E「じゃあ、最後の質問よ。アイリスさん――。
あなた五日目の部屋割りの時になぜピイスケさんを選んだの? 結果的に上手く勝利を収めたわけだけど……」
エリカが私につっかかってきた。
I「はい、あの時私が知っていたことは、私が最後の人狼であること。エリカさんが祈祷師であったこと。そして、もう一つ……。私が最後の人狼であることをみなさんが承知していたであろう、ということです!」
E「確かに私もあなたが人狼だと確信していたけどね」
I「では、五日目の投票を思い出してみましょう。最初の投票者はシノさんでした。彼女はエリカさんに投票しました。そして次の投票者であるピイスケさんは私に投票しました。その瞬間、私は混乱しました。ピイスケさんの私への投票は全く予想外だったからです」
私はピイスケをのぞきこんだ。
P「俺が妖狐であることに気づかなければ、俺の行動は予想できないでしょうね」
ピイスケはあっさりといった。
I「次にエリカさんですが、エリカさんは自分の命を助けたいから私への投票は当然です。
そして、アメンボさんです。アメンボさんがお昼の会議で述べられた霊能者であるというコメントが真実ならば、妖狐はすでに死んでいるので、私を吊るせば村人側の勝利が確定します。
ところが、アメンボさんは私ではなくてエリカさんに投票しました。なぜでしょうか?」
S「アメンボさんの霊能者だというコメントが嘘ということですね」
シノがあっさりと指摘した。
I「はい。そのとおりです。そこで私はもう一度考え直してみました。
アメンボさんは霊能者ではない!
では、アメンボさんは狂人なの? だったら四日目に同居したリョウタさんの死因は自殺だったといえばいい。わざわざ自分が霊能者だとコメントしてなんの得があるのでしょうか?」
P「確かにリスクだらけだ。
なにしろ妖狐の俺には、アメンボさんが嘘をついたことがわかっちゃうし、霊能者であると宣言すれば、初日の夏の間で起こった事件をみんなに説明しなければならなくなる。その時、ドロシーさんとグレイさんのどちらが人狼なのかをうっかり間違えて説明すれば、肝心のアイリスさんにも嘘がばれてしまう……」
S「でも、アメンボさんには確信があったんですよね。ドロシーさんが牧師で、グレイさんが狼だという」
A「いろいろな証言を総合すると、なんとなくですけど確信はありましたね」
アメンボがボソッと答えた。
I「私は考えました。自分が霊能者だと偽って得をする職業は、祈祷師か妖狐しか考えられません。
ただ、アメンボさんが妖狐だったら、五日目の投票で私を吊るして一人勝ちです。なのに、彼は私を吊るさなかった。
つまり、アメンボさんの正体は祈祷師です!
そして、妖狐は恐らくまだ生きている。それはピイスケさんかシノさんのどちらかです。
私がまずしなければならないことは、妖狐をあばき出すことだったのです」
P「アメンボさんの嘘が逆手に取られてしまったわけですね」
I「私はシノさんとピイスケさんのどちらが妖狐であるかをもう一度考えてみました。そこで集団暴力投票でのお二人の行動に着目してみました」
P「なにか出ましたか?」
I「はい。はっきりと……。まずシノさんですが、彼女の投票からは妖狐らしさがなにも感じられませんでした」
G「ちょっと待ってください。シノさんは四日目の投票で私を吊るし上げる決定打を放っていますよ」
I「グレイさん。よく思い出してください。シノさんがグレイさんに投票した理由は、自分が生き残るためです。極めて自然な行為です。
そしてその直後のピイスケさんのグレイさんへの投票こそが、グレイさんを吊るし上げた決定打です!」
G「なるほど……。いわれてみればそうですね」
グレイは納得した。
I「ピイスケさんの投票にはかなり癖があります。
三日目、四日目の投票ではいずれも吊るし上げの決定打を放っています。そして、五日目の投票では最後の人狼である私を吊るそうとしています。
投票で常に人を減らしたがるのは、第三勢力である妖狐の典型的な特徴だと思います」
P「俺の投票に癖があったって?」
ピイスケはうろたえていた。
I「以上から導かれる結論は、アメンボさんが祈祷師、シノさんは恐らく狂人、そしてピイスケさん――、あなたが妖狐だということです!
運よく私は五日目の部屋割りで指名権を得ます。私が指名すべき人物は誰でしょうか?
アメンボさんを指名して同居すれば、パスができない私はアメンボさんを襲うしかありません。それではかえりうちでアメンボさんに殺されてしまいます。したがって、アメンボさんの指名はできません。
次にシノさんですが、彼女と私が同居すれば私はシノさんを襲うしかできないので、味方のシノさんを殺してしまいます。そうなれば、私がゲームで勝利することは絶望となります。なぜならば、集団暴力投票でピイスケさんを吊るせても、そのあとでアメンボさんと同居してかえりうちされてしまうし、集団暴力投票でアメンボさんを吊るせば、その瞬間に村人が全滅して妖狐のピイスケさんが一人勝ちとなるからです。
故に、私が五日目の夜に同居できる人物はただ一人――それはピイスケさんです!」
A「まさにとどめの一撃ですね。今のアイリスさんのコメントは」
アメンボが感心した。
P「くくくっ……、どうやらあなたを見くびってしまったようですね」
ピイスケが急に笑い出した。
B「アイリスさんが聡明な女性だっていうことは、前回のゲームに参加していない人にはちょっとわからないでしょうな」
ボスが得意げにいった。
G「天然ボケのオブラートに包まれた聡明さですから、最初は誰でも油断してしまうでしょう。我々の勝因はアイリスさんの五日目の部屋割り指名権ですね。アイリスさんの驚異的な強運のおかげです」
C「グレイさん……。あいちゃんの驚異的な推理力のおかげといってあげたほうが……」
小声でチイが囁いた。
G「うーん、推理力というよりも彼女の場合は鋭い第六感ですよね。女の勘って怖いからなあ」
グレイは一人で納得している。
B「聞き捨てならないですね。前から申し上げているとおり、アイリスさんは実は聡明な女性で、彼女の判断は決して思いつきではないですよ」
ボスが一歩前に出た。
G「これはまた聞き捨てなりませんね。聡明な女性といったら誰がなんといってもチイさんでしょ! なんなら、また青猪亭で議論しますか?」
グレイも負けていない。
B「望むところですよ。前からあなたとは決着をつけたいと思っていました」
G「おお、そうだ。チイさんもごいっしょにいかがですか? 青猪亭……」
突然、グレイがチイに目配せした。
C「ええっ、私ですか? えっと、どうしよっかな……」
不意をつかれたチイは、まごついていた。
I「はいはい、チイちゃん。難しい議論は不良中年たちにまかせて、うちらはカフェ・シエスタで反省会にしましょうね」
C「あっ、あいちゃんとデートですね。光栄です」
G「ええっ、では私もぜひデートに……、いや、その反省会とやらに……混ぜてください、お願いします!
あっ、チイさん、私のことはどうぞ下僕とお呼びください」
B「アイリスさん、前にも申し上げましたがリアルの私は決して中年ではなくて……」
I「はいはい。じゃあ、ついて来ていいけど、カフェの代金はあなたたち二人で払ってもらいますからね」
C「あらあら、あいちゃん、ちゃっかりしてますね」
後ろでチイが笑っていた。あどけない笑顔で……。
ようやく最後まで書き上げることができました。前回の「小説・人狼ゲーム」に比べて、今回の作品は登場人物も多くなり、より複雑に、より面白くを目指しましたが、最後が尻すぼみになってしまいました。でも、書いていながらすごく楽しめた作品です。みなさんのご感想をお待ちしております。
iris Gabe