2章 捜査中②
その夜、9時からニュース番組があった。月曜から金曜日までやっており、その名を「ニュースマスター」という。高視聴率を上げている。警察による射殺があると他の番組でもとりあげられたが、もっともそれに力を入れているのはこの番組だった。
ゲストは警察署の一式署長だ。本来は海道が参加する予定だったが、ライフル暴走事件もあり、一式署長が代わりに出演することになった。
人気番組だけあって、セットにお金をかけている。シンプルなデザインながらも気品がスタジオに感じられた。スタジオの内のテレビには射殺ショーがなぜ始まったのか、そしていつから始まったのかの経緯が説明されていた。
「21世紀は平和の時代になると、ある国の政治家は言いました。確かに戦争そのものは20世紀に比べて減ったものの、犯罪は増加の一方でした。かつては世界から高い評価をされ、治安も良かった日本でしたが、2050年ぐらいから急激に増えてきました。政府はこれに対して罰則の強化ということで対応したのですが、ある程度の成果はあったものの、犯罪を根絶することはできませんでした。
そこで考え出されたのが射殺ショーです。犯罪者を射殺しているシーンをリアルタイムで放送することです。犯罪者予備軍に対しての警告を促すこの方法によって、犯罪は大きく減りました。そして、同時にクローズアップされたのが狙撃者・・・すなわちスナイパーの登場です。犯罪者という悪を正義の銃で退治する姿は、まさしくアクション映画の主人公のようです。スナイパーは日本に何十人もいますが、その中でも最も人気なのが海道雄一です」
ここで、番組内のモニターには海道の写真が映し出される。正面からの写真だ。海道は元々かっこいい容姿の持ち主だが、さらにその容姿のよさが引き立つ写真だった。
「ただ、残念ながら海道さんは本日出席しておりません」
と、残念そうにアナウンサーは言った。
「皆さんご存知の事と思いますが、先日の事件の時、銃の補正システムに誤作動がありました。幸い、市民が怪我をしてしまう最悪の自体は避けられましたが。ただ、その時のショックが大きかったのです。それで、その今回の番組出演は控えさせていただいたのですがね」
一式署長が簡単に事情を説明した。無理にでも出演させてもよかったが、もともと愛想などあまりない人物だし、その上、今の精神状態では何を言うかわかったものではなかった。失言の一言でもされたら、一式署長はその為に必死で尻拭いをしなければならなくなる。
「番組にはその事に関して多くの手紙が届いております。中には中傷する内容のものもありましたが、その多くが海道さんを心配する手紙ばかりです」
アナウンサーは多くの手紙の内の一通を読み上げた。アナウンサーの言う通り、海道を心配する手紙だった。
アナウンサーは次の手紙を読み上げた。それは海道の精神状態を心配し、励ます内容だった。
「他にも視聴者からの手紙はありますが、時間の都合上、省略させていただきます。海道さんは市民のヒーローなのです。海道さんは退屈な現代社会に娯楽を与えてくれる大切な存在なのです」
「皆さん、海道を心配していただき、ありがとうございます。ただ、我々が射殺をやっているのは平和を守る為です。けっしてこれは娯楽ではないのです。そこを誤解しないでいただきたい」
アナウンサーの言葉に内心怒りを覚えたが、怒りは顔には出さず、訂正にとどめた。
射殺を娯楽の一つとして見られる事に一式所長は反対だった。法律が許しているので、射殺は合法行為ではあるが、けっしてほめられた行為ではない。
その後、いくつかの質問をアナウンサーがしたが、一式所長は無難な回答をした。
やがて、その日の収録は終わった。
その後も捜査は続けて行われたが、犯人の目星はつかめないままだった。海道達も一向に進展しない捜査に嫌気が指した時に新たな事件が起きた。
それはニュースマスターの放送中に起こった。いつもように射殺の実況中継をしていた時だった。
犯人は一人で、銀行強盗だった。覆面をかぶり、手に銃を持って銀行に強盗に入った。犯人の計画ではすぐさま金を奪い、逃走する予定だったが、失敗してしまった。犯人はこれが始めての犯行であり、あまり細かな計画を立てていなかった。銀行の支店の防犯カメラの映像は警備会社にも転送されている。映像を見た警備会社が警察に連絡したのだ。
5分以内に警察がやってきた。犯人は逃げようとするが、警察の動きが早かった。あっという間に銀行周辺を包囲されてしまった。もはや逃げることなど不可能な状況だ。
テレビ局もその動きを察知し、やってきた。銀行の周りを警察が取り囲んでいたが、さらにその周りをテレビ局のカメラマン・アナウンサーが取り囲んだ。1社だけでなく数社だ。
小さな地方のテレビ局もやってきていた。
「皆さん、ごらんください。強盗に失敗した犯人にもはや逃げ道はありません。犯人は一人なので、警察が突入して犯人を確保すれば、事件は解決しそうです。しかし、それでは射殺場面が見られなくなってしまいます。我々としては犯人には粘ってもらって、なんとしてでも射殺が行われることを望みます」
アナウンサーは不謹慎な事を堂々と言う。
射殺が起こるという事はたとえ犯人であっても人が死ぬという事だ。2020年頃までの日本でなら、このような発言をしようものなら、すぐに視聴者から苦情がテレビ局に寄せられる。
SNSでも炎上する。すぐさま、その発言をしたアナウンサーは謝罪をさせられたものだが、今は違った。
射殺が一つのショー・・・最大の娯楽になってしまったこの時代では、そういう発言に対しても寛容になっていた。視聴者にかつてはあったはずの良心が既に失われていた。
カメラは警察が取り囲んだ銀行に向いている。当然、テレビに映し出されるのはその銀行だ。しかし、突然、画面が真っ暗になった。
突然の変化に視聴者は驚いた。アナウンサーも何が起こったのかわからない。
「な、なんでしょう。これは。カメラの故障かな」
アナウンサーはつぶやいた。
カメラマンも同様に思い、カメラが壊れていないかを確認しようとした。一番考えられる原因は、コードがどこかで物理的に切られてしまっているか。もしくは何らかの妨害電波が出ているかだ。
その時だった。真っ暗だった画面が切り替わり、スーツを着たイケメンが画面の中央に出てきた。一見本物かと誰もが思ったがCGだった。科学技術が非常に発達しているのでCGは実写と区別がつかない。目の肥えたテレビ局の人間やプログラマーはCGだと気づいたが一般人はCGだとは気づかない。
「テレビの前の視聴者の皆さん。始めまして。あなた達は射殺をショーとして考えている。しかし、それをおかしいと考えたことはありませんか。射殺とは結局は人を殺すことなのです。それは殺人です。残酷な行為なのです。たとえ法律で許された行為であってもそれは愚劣きわまりない行為なのです。
それなのに、それを楽しいで見ているあなた達はおかしい。人殺しを楽しんでいるあなた達は犯罪者達と同じなのです。今アナウンサーが射殺行為を助長する発言をしましたが、テレビでこんな発言が堂々と行われるのはおかしい。本来こんなアナウンサーはテレビの表舞台から消されなければならないのにおかしい。
こんな発言をするのはこのアナウンサーだけではない。昨日のあるバラエテイー番組内でもあるお笑いタレントが同様の発言をしていました。
全てがおかしいのです。この世の中は」
射殺行為そのもの否定する発言がその後も続く。もちろんこの間にテレビ局も黙って見ていたわけではない。
こちらの意図していない映像が流れているという事は何者かが何らかの方法でテレビ局のネットワークに侵入しているということだ。
テレビ局のネットワークには当然外部からの侵入を防ぐ為にファイアーウォールがあり、仮に侵入を試みようとするハッカーがいても防げるようになっている。にもかかわらず侵入されているとはいうことは、相手は相当な人物なのだ。
その後も画面上ではCGで作られたイケメンが射殺について一方的に演説をしていた。それはその後も続き、番組終了の9時54分になってやっと終わった。
テレビ局は情報セキュリティーの会社に頼み調査を依頼した。
通常、いくら優秀なハッカーでもなんらかの痕跡を残してしまうものだ。それゆえにその痕跡からどこのパソコンからハッキングをしたのかがわかってしまう。最終的には逮捕となってしまう。
テレビ局は犯人がすぐに捕まるものだと思っていた。しかし、いくら痕跡を調べても何の実績もあげられなかった。
テレビ局は当然、警察にこの件を報告した。警察からもテレビ局に聞き込みの為、刑事がやってきた。刑事だけでなく、科学捜査研究所の人間もやってきた。




