第91話 いざ、地獄の谷へ
「俺とリーゼ、カリンで広場の敵を倒す。そしたら、いっきに駆け抜けてくれ」
「わかった」
エルドウィンだけでなく、レオンや他の騎士団たちが強くうなずいた。
黄金騎士団だけは、渋い表情をうかがわせていたが納得しているようでもあった。
「エレナ嬢は、我ら太陽騎士団とともに」
エルドウィンが胸を張った。
「うん、よろしく」
「暗黒騎士キール……」
蒼穹騎士団の団長に呼び止められた。
「ん?」
「3人で広場の死霊モンスターを相手にするのはさすがに……実は、うちに精霊魔法を使える魔法使いがいる」
「だ、団長。それを言ってしまうのは……」
蒼穹騎士団のメンバーが驚いた。
そして、周囲の騎士団もざわついていた。
精霊魔法を使える魔法使いが騎士団の中にいたこと。
それが蒼穹騎士団で、初耳だったこと。
「使える魔法の種類を秘匿しておくのも戦略のうち。しかし、この場を進むためにはそうも言ってられない。キール、協力させてくれ。フローラ」
「はい……よろしく」
落ち着いた声の蒼穹騎士団の女魔法使いが前に出てきた。
「あぁ。協力してくれて助かる。それじゃあ、行こう」
俺につづいて、カリン、フローラ、リーゼと広場へ進んだ。
中央まで来ると、俺たちを囲むように、死霊のモンスターたちが現れた。
ぱっと見は、アンデッド系モンスターと変わらない。
だが、剣も魔法も効かない。
ステッキをかまえるカリンの手は震えていた。
「大丈夫だ。もっと引きつけて、いっせいに放つ」
「は、はいっ」
どんどんモンスターの数が増えていく。
「よし! 放て!」
カリンはステッキを振って、無言で炎の壁を地面から生み出した。
あとからマナを使えるようになったとはいえ、この力。
カリンはもともとその素質があったということか。
「極・精霊天元超蝶蝶」
幾千の光る蝶がモンスターたちにまとわりついて、動きを止める。
——マナ・フェアゲッセン
俺とリーゼのマナの白い光が、あたり一面を包みこむ。
それぞれのマナと精霊魔法で、俺たちを囲っていた死霊のモンスターを消失させた。
よし、これで——?
広場の奥の先へ進む道をさえぎるように、腐乱したドラゴンの姿が現れた。
「そんな……大きすぎますよ……」
カリンは見あげて呆然としてしまった。
「目には目を——窮・精霊巨人踵踏潰」
光の雲から巨人の足が降りてきて、腐乱ドラゴンを踏みつぶす。
「この精霊魔法でも倒せないのか……」
まだ型崩れしただけの腐乱ドラゴンがいた。
「フローラ。そうでもないさ。いいところ、もらうぜ」
「もちろん、どうぞ」
フローラがニカッと微笑みを見せた。
俺は、腐乱ドラゴンに両手を向けた。
——マナ・エクソルツィスムス
腐乱ドラゴンの体内が光り出す。
腐乱して空いた体の穴からあふれ出す白い光に包みこまれると、腐乱ドラゴンは音もなく消えていった。
「兄さん、やった!」
「あぁ。よし、今のうちに、向こう側へ」
後方の道で待機していた騎士団に合図を送った。
いっせいに広場を走り抜けていく。
「早く早く」
「本当に死霊のモンスターが消えている。アイテムやカネはドロップしてないのか?」
「きっとレアなアイテムがあるかもしれない」
黄金騎士団が辺りを見回して歩く。
こんなときに、なにを。
「おい、そんなものいいから早く行け」
「そんなに言わなくても……ちょっとアイテムがないか探してただけだ。いちいち命令するな、新米暗黒騎士さんよ」
「そうかい。だったら、あとは自分たちで対処しろよ。みんな、行くぞ」
リーゼたちに声をかけて広場を駆け抜けた。
すでに、次の死霊のモンスターたちが姿を現していた。
「あ、おい、待てって」
慌てて黄金騎士団もついてきた。
広間場を抜けてからは、大群のモンスターに出会うことはなかった。
リーゼとカリンで対処できるほどだった。
ただ、山道は険しく互いに手を取りあいながら登っていった。
無事、日が暮れる前に峠を越えることができた。
そして、峠から先、地獄の谷が見えた。
あとは、ゆっくりと下って向かうだけだ。
日が沈んでいくと、地獄の谷のマグマが、空を不気味に赤くしていた。
地獄の谷の手前で野営する。
夜は、騎士団ごとに見張りを交代して警戒にあたった。
死霊の山を越えて、先には地獄の谷しかない。
名前からして、そんなところに好きこのんで住むモンスターは少なかったようだ。
俺たちを襲ってくるモンスターはいなかった。
明朝。
まだ日が昇りはじめる前に地獄の谷へ出発した。
指輪を捨てて、今日中に死霊の山を越えて戻りたかった。
マグマの赤い光が、空に反射して暗い道をほんのりと照らしている。
地獄の谷に近づけば近づくほど、植物がどんどん減っていく。
ほとんどが岩か黒く固まった溶岩。
とにかく歩きづらく、歩く速度が落ちた。
だが、ここまで来て、引き返すようなやわなヤツらはいなかった。
そう。
あとは、指輪を捨てさえすればいいだけだから。
「ここの先だな」
道幅が狭い。
あたりはマグマの赤い光があたっている。
「ついに、これを捨てるときがきたか」
エルドウィンが先へ進んでいく。
各騎士団団長が前へと進む。
最後に俺が歩いて行く。
崖の先端に八大騎士が並んだ。
真下をのぞけば、マグマの海が煮えてたぎっている。
「確かに地獄のような場所だ」
レオンが眺めながら言う。
「金色に塗り固めてやりたいが、アレで溶かさないと、コイツの力は消せないとはな」
黄金騎士団団長が闇の指輪を見つめていた。
それぞれの騎士団長が、崖の前に指輪を持った手を伸ばす。
他の騎士は闇の指輪が1つ。
俺は5つ持っていた。
——これを捨てれば終わるんだな。
——いろいろあったが、楽しめたぜ。
「なっ、なんじゃ?」
闇の指輪をいっせいに投げ捨てようとしたとき、エルドウィンが言った。
「指輪が光ってる?」
レオンが言う。
手に持っていたそれぞれの指輪が、黒い光を放ちはじめた。
——な、なんだ?
「早く捨てろ」
俺は叫んで、真下のマグマに向かって指輪を投げ捨てる。
騎士たちも、いっせいに投げ捨てた。
——早くマグマに……。
マグマに向かって落ちていく指輪の光が1つに合わさっていった。
その黒い光は、人影を作った。
人影は、宙に浮いている。
「マグマに落ちずに……止まった……」
レオンが言った。
「いったいなにが起きたというんだ?」
黄金騎士団団長が言う。
そして、人影がゆっくりと崖に沿ってあがってくる。
人影は、彫刻されていくように人の姿を形作った。
俺たちは、その黒い人の姿を見つめるほかなかった。
巨体を包む黒光りする鎧に、その背後で大きなマントが揺れる。
「ふふふ……待ち焦がれたぞ、このときを……」
低い男の声。
「その声はっ」
俺は息を飲んだ。
いや、俺だけでなく、その場にいた騎士全員も。
「八大騎士が勢ぞろいで、出迎えてくれるとはな」
「——スレッグ」
ミレイアの言っていたことは、こういうことだったのか?
スレッグは生きていた?
「なにっ? 元暗黒騎士のスレッグは、死んだんじゃなかったのか?」
黄金騎士団団長が言った。
「フハハハハ……我は闇の力を借りて、復活したのだ。世界を闇で支配する闇の王としてな」
「わはははは、笑わせるな。なにが闇の王じゃ……」
エルドウィンが笑い返した。
「分散した闇の力を1つに集めてくれた八大騎士には感謝する。そして、世界でもっもと邪魔な貴様らは、ここでわたしに排除されるのだ」
闇のスレッグが闇の大剣を軽々とかまえた。
一瞬で緊張が高まった騎士たちも剣をかまえた。
「排除されるのは、そっちだ。スレッグ」
俺は黒剣をかまえた。
「続きが気になる、読みたい!」
「おもしろかった!」
「このあとキールたち、どうなるのっ……!」
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