第83話 召喚された闇の暗黒魔法使い
「暗黒の泉をなにに使うんだ?」
「ふふふ……こんな豊富なエネルギー源を、ただ暗黒を宿すためだけの飲み水にしておくのはもったいない。私たちが世界を支配するために有効活用させてもらう」
ゾフィーが胸の前で両手を合わせた。
「神聖な暗黒の泉をそんなことに使わせるわけにはいかない」
暗黒騎士のカミルが剣をかまえる。
「お前らは下がっていろ」
俺は片腕を横に伸ばして、前に行くのを止めた。
「ふざけるな。ここは我々の国だ。八大騎士の暗黒騎士スレッグさまがいなくなった今、国を守るのは、我々、暗黒騎士だ」
「そうよ。暗黒騎士パーティーに少しいたくらいで、デカいこと言わないでくれる?」
ザラの語気は強かった。
「はぁ……悪いがお前らが、かなう相手ではない」
「そんなことはないっすよ。俺らが本気を出せば、こんなヤツらなんて」
アーモットが調子づいたように言う。
「だったら、はじめからそうしておけば、こんな事態になってはいなかっただろうがな」
「クッ」
カミルはなにも言えず、唇をかんだ。
「ふふ、誰が立ち向かってこようと同じこと。召喚・闇世界魔女」
魔法陣から真っ黒い影が現れる。
それは、魔女のようなシルエットだった。
なんだか、とてもイヤな予感しかしない。
あの立ち姿、見覚えがある。
いつだったかブラックエリクサーを飲んだ四天王が、大剣を持った騎士と弓使いになっていたっけな。
——と、いうことはだ。
闇のように黒い魔女が、手をかざしてきた。
まるで壁を作るかのように、天井まで届く巨大な黒炎の球が生まれた。
「こ、この魔法は、暗黒大火球弾? この大きさは普通の魔法レベルじゃない」
カミルはただただ火球を見あげることしかできない。
——暗黒騎士パーティーの1人、暗黒魔法の使い手ミレイア。
「えっ、えっ、えっ、こ、こんな魔法みたことない……」
カリンは、まるで最後を悟ったように首を静かに振った。
「ここまでか……」
カミルはうなだれる。
「まったく……はっきり言って、俺をなめてもらっちゃ困るぜ」
黒炎の大火球が放たれると同時に、俺は火球に手をかざした。
目の前から背後に向かって、白く光るベールに包まれる。
黒炎の火球が光のベールの上を滑っていく。
火球は、光のベールに触れたそばから消えていく。
「ふはははは。やりおるのぉ。あの強力な魔法を消すとは、さすがマナ徒じゃな」
太陽騎士団のエルドウィンが、高らかに笑った。
「私たちを守った?」
ザラは状況を把握できていない。
「そんな……暗黒剣を使い、あの暗黒魔法を消すなんて、いったい……」
カミルも理解が追いついていない。
「なんて素晴らしい力の魔女なの……もっと見せてちょうだい」
ゾフィーの声に応えるように、闇の魔女が両手をかざしてきた。
「少しわしにもやらせろ。食らえ——太陽」
エルドウィンが剣を振りかざすと、目がくらむほどの光の球が闇の魔女に衝突する。
闇の魔女の胴体半分がなくなった。
しかし、すぐに闇が魔女の体を再生する。
闇の魔女がふたたび両手をふりかざす。
黒い稲妻が、いっさいの隙間を埋め尽くすように広がった。
——速いっ。
とっさにマナの保護を展開する。
「大丈夫よ、兄さん」
リーゼもマナの保護を展開してくれていた。
「あぁ、さすがリーゼ」
「さすがのマナ徒も強大な魔法の前では、ただ守るしかできないみたいね。このまま魔法を受けつづけて力尽きることね」
ゾフィーの声が空間に響いた。
「その前に、コイツには消えてもらう」
ミレイア。
なにがあったかは知らないが、鎮まってもらうぞ。
「今からなにができるっていうのかしら? なにかをする手段はないんじゃなくて?」
「すでに手は打たれてるんだな、これが」
闇の魔女に手をかざす。
床に刺さったままの投擲ナイフから、白い光が闇の魔女を縛りあげた。
「エルガーをやったときのものを使う気か?」
「ご名答だ」
——マナ・ベフライウング
白い光が闇の魔女を包みこむ。
姿をかたどっていた闇が広い光に吸収されていく。
「させないわ。そんな光に飲まれるなら、その力を私によこしなさい」
ゾフィーが両手の拳を突きつける。
そこには闇の指輪あった。
白い光の中から闇が流れ出て、闇の指輪に吸収されてしまった。
おいおい、召喚した闇を吸収するとかありかよ。
「ふふふ……なんて素晴らしい魔法使いの力なのっ……」
ゾフィーは、闇のオーラに包まれた。
カクッとゾフィーの体から力が抜けて、首が下がった。
そして、ふたたびゆっくりと顔があがる。
それは、ゾフィーの顔であるが、ゾフィーの表情ではなかった。
「あぁ……どこかで見たヤツがいるかと思えば、いつか追放されたキールかしら」
「その声は……ミレイアか?」
「えぇ。知らない体に宿ったみたいね。まさか、こんな形で再会するとは……生きていたの?」
「おかげさまで、とても運が良くてな。お前ら、どうしてそんな状況になっている?」
「あら? 聞きたい? キールが追放されたあとのことを。長くなるわよ——そんな再会を懐かしんでいる状況じゃないのよ」
突然、ゾフィーの声に切りかわった。
「うるさいわね。みずから私を体の中に入れておいて」
ミレイアが言った。
「これは私の体。アンタは力だけ私にあずければいいのよ」
胸の前で両手を合わせて魔力を練るゾフィーが言った。
「なっ、なにを? 私の意識が……クッ、キ、キール。私たちは死霊の山を越えることができず、地獄へ落ちたわ。そして、闇に飲まれた。あんたを追放したことがすべての元凶だったわ。でもね、あとはスレッグがやってくれるわ……」
ミレイアの声は小さくなって消えていった。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと消えてくれたわね」
ミレイア……。
最後、なんて言った?
スレッグがやってれる?
いったいなにを?
アイツはまだ生きているというのか?
「な、なんだ? あの女はスレッグさまのことを……おい、キールと言ったか? どういうことだ」
カミルが聞いてきた。
「まったくわからない」
「暗黒騎士パーティーと一緒にいたんだろ?」
「知るかよ。俺が抜けたあとのことなんか……今、言っていたことが本当なら、スレッグも闇に飲まれたんだろうがな……」
「そんな……あのスレッグさまが闇に……キール、お前がスレッグさまになにかしたのか? だから、パーティーを追放されたんだろ?」
おいおい、なんだその言いがかりは。
「知らねーよ。追放されたことと、パーティーが闇に飲まれたのは無関係だ」
「まさか、召喚した魔女と知り合いだったとは、不思議なこともあるようね。だったら、知り合いの魔法でこの町ごとあの世に送ってあげるわ」
ニヤリと笑ったゾフィーは光に包まれると、天井をすり抜けていなくなってしまった。
「どこに行った、あの女は?」
エルドウィンが聞いた。
「町ごとって言ったから、おそらく外だろ」
「クソッ。やらせはしない」
と、カミルは駆け出す。
「待って」
リーゼがカミルに声をかけた。
「なんだ?」
リーゼが胸の前で両手を合わせる。
一瞬、辺りが光に包まれる。
次の瞬間には、宮殿の外に移動していた。
「リーゼお姉さまの移動魔法」
カリンが言った。
「あそこ、あの女が……なんて魔力……」
ザラが空を指差した。
空に浮くゾフィーからは、闇のオーラが発せられていた。
ゾフィーのかざした手の上には、巨大な黒炎の火球が今も大きくなりつづけている。
火球の周囲を黒い雷が走ってもいた。
——あんなのが町に落ちれば、ここはもう……。
「おもしろかった!」
「キールたち、このあとどうなるのっ……!」
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