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第82話 暗黒の泉

「答えろ。なぜ、暗黒の泉のことを知っている?」


 若い暗黒騎士の1人に胸ぐらをつかまれた。


「少し前まで暗黒騎士パーティーに所属していたことがあった」


「えっ、じゃあ、お前が5人目という暗黒騎士か……それがなぜ、1人でここにいる? スレッグさまたちと一緒じゃないのか?」


 暗黒騎士は俺を離そうとはしない。


「死霊の山の手前でパーティーから追放されたんだ」


「そんな作り話が通用すると思うか?」


「コレばっかりは信用してもらうほかない。だが、いまはそんな話をしている場合じゃない。獣たちを消したが、またやってくるぞ」


「クッ……いったい、なにが起きているんだ?」


「カミル。コイツの正体も気にしたいところだけど、獣がいない今のうちに侵入者を追ったほうが……」


 女の暗黒騎士が言った。


「ザラ……そうだな。部外者はここにいろ。もし、変な動きをしたら、すぐに拘束するからな。アーモット、行くぞ」


「はいよー」


 暗黒騎士3人は、宮殿の中に駆けて行った。


「それじゃあ、俺たちも行くか」


「わはははは……そうだの。あの若造たちだけでは不安だの」


 若い暗黒騎士のあとを追って、宮殿の中へ入った。


 宮殿の中は物静かで、暗黒騎士たちの足音が地下へつづく階段から響いてきていた。


 ところどころで兵士が倒れていた。

 獣や闇の騎士にやられたのだろう。


 階段が終わり、大きな扉がすでに開いていた。

 その脇には、兵士がたれていた。


 扉の中に入ると、広い空間の奥にシックザールのローブを着た男女がいた。

 その手前で、暗黒騎士3人は、剣を握ったまま倒れていた。


「貴様らは、いったいなにをしている?」


 カミルが剣を杖のようにして立ちあがる。


「見ればわかるだろ」


 シックザールは、黒い泉の縁に立って、魔法陣を発動させていた。


 魔法陣から、黒い獣がはい出てきた。


「ふはははは。はいよ、太陽の檻《タイヨウ・ゲフェングニス》」


 エルドウィンは、魔法陣から次々と出てくる黒い獣たちをオレンジ色の檻に閉じこめていく。


「ん? また余計なヤツらが来たか……」


 男のシックザールが言った。


「お前ら、勝手に入ってきたのか。来るなと言ったはずだ」


 振り返ったカミルに吠えられた。


「なんだ、その様は……威勢だけか?」


「俺たちは、次の暗黒騎士パーティーに選抜されるんだ。こんなところで、倒れるわけにはいかないんだ」


「もちろんよ」


 女暗黒騎士も必死に立ちあがった。


「もちろんだとも」


 3人の暗黒騎士は立ちあがって、剣先をシックザールに向ける。


「合技(ごうぎ)・暗黒(アンコク)」


 3人の剣から暗黒の波動が放たれた。


 さすが暗黒騎士ってところか。

 しかし、スレッグたちに比べたら、威力もまだまだ弱い。

 その小さな暗黒じゃ……。


 シックザールは簡単に暗黒をかわした。


「クソッ」


 カミルは唇をかんだ。


「エルガー。コイツら、邪魔だから始末して」


 シックザールの女が言った。


「仰せのとおりに……ゾフィー」


 面倒くさそうに言ったシックザールの男エルガーが、カミルと女暗黒騎士ザラに手をかざす。


「クッ」


 エルガーの手から雷(いかずち)が放たれた。


「リーゼ」


「えぇ」


 床を蹴って、俺はザラの前に飛びこんだ。

 リーゼはカミルの前に立つ。


 雷に手をかざす。


 雷は、手に吸収されるように消えていった。


「なにっ? 俺のマナを……お前はリーゼ。どうしてこんなところに」


「私は目を覚ましたのよ。人生を狂わせたあなたたちシックザールを潰しにきたの」


「ハハハハ……、所詮、お前とロスワルドも使えないヤツだっただけのこと。ヴェラ・ヴァレーリア教皇さまに従えない者は消すまでだ」


 エルガーは両手をリーゼかざす。

 その瞬間、巨大な火球が生まれる。


 ——させるか。


 黒剣をかまえて、一瞬でエルガーとの間合いを縮めた。


 黒剣を振りおろす。


「グアッ」


 エルガーの左肩を切り抜いて、左腕がぼとりと床に落ちた。


 火球が天井にぶつかって爆発した。


「そうか。お前が秘宝島を落とした賞金稼ぎか。賞金首に仕立てたところで、無意味だったか」


「はた迷惑なことをしてくれたな。おかけでゆっくり飯も食えねーぜ」


 黒剣の切っ先をエルガーに向けた。


「コイツがここにいるってことは、もう遊んではいられない……か」


 エルガーが、チュルっと右手の指にはめていた黒い指輪をなめた。


 黒いオーラに包まれるエルガー。

 すぐに切り落とされた左腕が、黒腕として再生された。


 おいおい、平気で闇の指輪をつけているのか。

 闇に飲まれない対策でもしてるのか?

 こっちも遊んでる暇はないか。


「リーゼ。奥の魔法陣を消してくれ。獣たちが増えても面倒だ」


「わかった、兄さん」


「カリン。リーゼを援護しろ」


「あ、はいっ」


 カリンは、星のついたステッキをかまえる。


「ヴェラ・ヴァレーリア教皇さまの計画を邪魔するんじゃない」


 エルガーが俺とリーゼに手をかざしてくる。

 黒い風の刃が襲ってくる。


 俺はかまわず突っこんだ。

 風の刃を突き抜ける。


「コイツはマナ徒だったな。だが、マナで俺に攻撃はできない」


「だからなんだ」


 ——暗黒龍牙乱斬《ダークドラゴンファングスラッシャー》


 エルガーの放った黒い刃とは比べものにならないほどの大きな刃が、エルガーを切り刻んだ。


「グハッ」


「あの剣技……暗黒剣の大技だぞ……」


 カミルが大きく目を見開いた。


「それじゃあ、本当に暗黒騎士パーティーにいたってことかよ」


 暗黒騎士のアーモットも驚いた。


 エルガーの傷口からは、黒い血液が流れでいた。

 黒い煙となって蒸発し、傷口が修復されていく。


「どこまで闇に染まる気だ、お前らは……」


 ササッと、投擲(とうてき)ナイフをエルガーの周囲に投げつけた。


 そして、手をかざす。


 ——マナ・エクソルツィスムス


 投擲ナイフから白い光が伸びて、エルガーを拘束する。


「ぐっぬっ。クッ、離せっ」


 いっきに白い光に包みこまれると、黒いオーラが吸収されていく。


「グァアアアアア」


 白い光が解き放されると、エルガーはバサッと砂になって崩れてしまった。


 そこにあったのは、シックザールの黒いローブと闇の指輪だけだった。


 ブラックエリクサーを飲んでるわけじゃないから、闇の指輪になることはないのか。


「兄さん。魔法陣を消したわ」


 リーゼは、マナでシックザールの魔法陣を解除していた。

 魔法陣に覆われていた暗黒の泉は、ふたたび黒い光で天井を照らしていた。


「クソッ。どいつもこいつもマナ使いばかりで、やりづらい」


 ゾフィーが泉から飛び退くようにして、砂になったエルガーの上に着地した。


「結局、シックザール四天王は私だけ。他は役立たず。ふふふふ、私こそ、ヴェラ・ヴァレーリア教皇さまの計画を実現させる実力者なのよ」


 低い声のゾフィーは、砂の中から闇の指輪を拾いあげた。

 そして、左手の薬指に差しいれた。


「暗黒の泉の力を吸い上げるのは、お前らを消してからだ」


 グッと拳を握ったゾフィーの両手には、1つずつ闇の指輪があった。


 まったく、そんなものを2つもつけて大丈夫なのか?

 ヴェラ・ヴァレーリア教皇ってのは、どんだけ偉いんだよ。


 俺は、黒剣をかまえた。


「おもしろかった!」

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