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第77話 雪山の修行教会

「吹雪いてきたな」


 俺たちは雪原の上を飛んでいた。


「早く降りようよ」


 背後で俺のマントの中に入って抱きしめてくるエレナが凍えながら言ってきた。


 なんだかんだ背中は暖かい。


「ここで降りたら、凍死だ。町にたどり着ければいいんだけどな」


「あっ、兄さん。あそこ、誰か倒れてる。しかも」


 俺の前に座っているリーゼが、前方右斜め下を指差した。


「あぁ……シックザールのローブだな」


 こんなところで倒れていたら、もう……。

 シックザールだし、助ける義理はないが……。


「たぶん、子供よ……」


 仕方ない……。


 たづなを引いて、リフィーを降下させた。


「おい、大丈夫か?」


 抱き起こすと、少女だった。

 顔面蒼白だが、息はあった。


「どうしてこんなところに1人で……怪我をしてはなさそうだが、どのみちこのままじゃ凍死する。俺たちもな」


 少女をリフィーの首カゴに乗せて、町へ急いだ。


 町に着く前に、日も暮れかけてきた。

 途中、小さな集落を見つけた。

 お願いして、人の良さそうな老父の家に泊めてもらうことなった。


 少女のためにすぐに布団を用意してくれた。

 すぐに日が暮れ、暖かいスープの夕飯も用意してくれた。


 すぐに集落を見つけられなかったら、あぶなかったな。


 夕食が終わる頃、少女が目を覚ました。

 ここまでの事情を説明すると、少女はすぐに理解した。


「それで、名前は?」


「カリン・レンナルツ」


「カリン。君はどうして、あんなところで倒れていたんだ?」


「教会から逃げてきた。もうあんなところで、修行したって、自分が壊れていくだけ……」


「修行?」


「シックザールの上に行くための」


「そういえば、聞いたことがあるわ。選ばれたものだけが行けるという修行の教会……この近くにあったのね」


 リーゼはうなずいた。


「リーゼ。お前は行かなかったのか?」


「行かないまま、四天王に指名されたから」


 さすが、我が妹と言いたいところだが、シックザールなんだよな。


「えっ、し、四天王のリーゼ・エインスワースさま? ……が、ど、どうしてここに?」


 少女はおびえはじめた。


「怖がらないで。もう私はシックザールじゃないから」


 リーゼは微笑んで言った。


「えっ、シックザールじゃ……ない?」


「えぇ……兄さんに助けられたの」


「お兄さん?」


「キールだ。俺たちはシックザールを倒しに行くところだ」


「だったら、みんなを助けてください。まだ、みんな、無理矢理修行させられていて……私だけ耐えられなくて、逃げ出してきたから……司祭さまやシックザールの考えも理解できなくて……」


 少女は涙目で訴えてきた。


 俺とリーゼは目を合わせた。

 そして、うなずいた。


「わかった。みんなを助けだそう。俺もシックザールの考えは理解できねーからな。もう明日だな」


「えぇ……今日はゆっくり休んで」


 リーゼはカリンの布団をかけ直してやった。




 翌日。

 天気は快晴だった。

 リフィーに乗って、カリンの案内でシックザールの教会へと向かう。


 雪の反射がまぶしいな。


「あそこです」


 山の中腹に、平らになった場所にポツンと教会が建てられていた。


 リフィーをどこかに隠す場所もないか……。


 教会から少し離れたところから、歩き向かうことにした。


「もし、怖いならここにいろ」


「い、いえ、私も行きます」


 カリンはうなずいた。

 しかし、その目には不安を物語るように、目が少し泳いでいた。


 足を雪に沈めながら、教会に歩き向かっていく。


「ちょっと、歩きづらいよー」


 エレナが俺につかまってくる。


「だったら、飛竜で待っていれば良かっただろう」


「1人で待ってるのはイヤ」


 教会が近づいてくると、教会のドアが開いた。

 シックザールの黒いローブを来た少年少女たちが、わらわらと出てきた。


 横一列に並んで、ステッキをかまえてきた。


「みんな……」


「カリン、なんで逃げた? みんな、頑張ってるんだぞ」


 少年が声をかけてきた。


「……だって……」


「だってじゃない。上を目指すことが、シックザールのためになるんだ。そのために、俺たちはここで修行してるんだぞ」


「本当にそうな風に思ってるの? 私たちよりも小さな子供たちに、無理矢理マナを使えるようにするために、あんな苦しい魔法をかけるなんて……できない」


 カリンの最後の言葉は、小さな声だった。


「今、戻れば、司祭さまはきっと許してくれる。懲罰を受ける必要はあるかもしれないけど、カリンがもう一度、心を入れ替えれば……」


「私の心を入れ替えるってなに? 私は私だから……」


「あら、カリン……戻ってきたの?」


 大人の女が教会から姿を現した。


「ヘ、ヘルミーネ司祭さま……」


 カリンの声は震えていた。


「戻ってきたってことは、まだ修行する気があるのかしら?」


「そ、それは……」


 胸に手を当てたカリン。


「ここでなにをしてるか知らないが、シックザールの企みは問答無用につぶさせてもらうぜ」


 俺はカリンの前に出た。


「あなたたちは……ハッ、リーゼさま? あぁ、もう裏切り者のリーゼ。そうか、お前たちが秘宝島を落としたヤツらか……」


 ヘルミーネはニヤリと笑った。

 ステッキをあげると、少年少女たちの頭に小さな黒い魔法陣が浮かびあがった。


「「あっ、あぁあああ」」


 子供たちがいっせいに叫び声をあげた。


 ——あれは、リーゼを正気に戻すときに見た魔法陣。

 ——子供たちをコントロールする魔法か。


「さぁ、裏切り者とシックザールに刃向かう者たちを消しなさい。ここでの修行の成果を見せてやりなさい」


「「はいっ」」


 子供たちは、宙に浮いてすばやく移動すると、俺たちを取り囲まんだ。


 ステッキを突き出すと、雪の槍が辺りから生えるように出現して、飛び向かってくる。


「エレナ姫、カリン、俺たちから離れるなよ」


「うん」

「は、はい」


「リーゼ」


「えぇ」


 俺は右手を。

 リーゼは左手を左右にかざす。


 雪の槍は、俺たちの直前でパラパラの雪の粉になって消えていく。


 リーゼも俺と同じマナ徒だ。

 マナや魔法を同じように無効化させるスキルがある。


「なに? マナだぞ。マナが……なんで……ガキどもの修行が足りないかったか?」


「子供を自分の駒にするような大人は、ろくでもねーな」


「次は、もっと力を出すのよ」


 ふたたび子供たちがステッキを向けてくる。


「もう子供たちを苦しめるんじゃねーよ」


 さすがにこの人数は多いな。


「リーゼ。マナで子供たちを」


「えぇ、もちろん」


 俺とリーゼは背中を向けあった。

 両手を子供たちに向ける。


 ——マナ・ベフライウングヒルフェ


 光が少年少女たちを包む。

 黒い魔法陣が、頭上に浮かびあがると、粉々に砕け散った。


「な、なんだ、あのマナは……ぐぅぅぅ」


 ヘルミーネは唇をかんだ。


 光から解放されると、子供たちはその場にバタバタと倒れていく。


「えっ、みんな?」


 カリンが声をあげた。


「大丈夫だ。アイツの魔法を解いた。気を失ってるだけだ」


「みんな……」


「なにしてくれるのよ、私の修行者たちにーーー」


 ヘルミーネの低い声が雪原一帯に響き渡った。


「おもしろかった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「今後どうなるのっ……!」


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