第72話 妹の目覚め
リーゼがブラックエリクサーを飲もうとする。
——リーゼの動きを止めるしかないか。
——烈・暗黒拘……
ん?
リーゼの動きが止まった……。
リーゼは両手でブラックエリクサーを押さえこんでいる。
ジリジリと口元からブラックエリクサーが離れていく。
「な、なに?」
「飲ませない。私は飲まない」
1人でなにを言っているんだ、リーゼ。
「か、体が動かない。お前はいったい……」
「私が本当のリーゼよ。あなたはニセモノ」
なんだ?
リーゼの体の中に、2人のリーゼがいるのか?
「キール? どうしゃったの?」
エレナが聞いてきた。
「いや、俺にもわからない。だが、抵抗していることだけはわかる」
「兄さん。い、今のうちに、ブラックエリクサーを」
リーゼが言った。
——破・閃鋭風針
風の針でブラックエリクサーを貫いて、瓶を砕いた。
「クッ、よくも……もう1度、私の闇の中で眠っていろ……」
「もう、私はあなたの中では眠らない」
ギリギリと腕を震わせながら、リーゼの両腕が左右へと広がっていく。
「もうあなたに、魔法もマナも使わせない」
「マナ徒は静かに眠っていれば良かったものの、目覚めれば、もっと苦しむことになる」
ふたたび、腕がゆっくりと胸の前へ戻されようとする。
「や、闇の中で、眠っているほうが苦しかった。でも、兄さんが生きていることを知って、希望の光が生まれた」
リーゼ……。
そうか。
本当のリーゼは、シックザールになんらかの魔法を施されて、意識も記憶も封じこまれていたのか。
「その兄もマナ徒だ。聞けば、妹を見捨てて1人逃げたひ弱な男だ。このまま私が、シックザール四天王の名において、抹殺する」
「兄さんは死なせはしない」
ギリギリと腕か胸の前に戻ってくる。
「もう1度、闇の中で眠っていろ。兄は、あの世に送っておいてやる」
「シックザールのリーゼ。悪いが、俺の妹は返してもらう。それはお前の体じゃない」
リーゼに手をかざした。
「魔法か? マナか? 私を殺せば、妹も死ぬんだぞ。マナを使えば、我々と同じになるぞ」
「シックザール。お前らと一緒にするんじゃねーよ」
「に、兄さん……私は、兄さんを信じてる……」
「あぁ、信じてくれ。もう逃げたりはしない。今度こそ、お前を助ける」
——マナ・ベフライウングヒルフェ
リーゼが光に包まれる。
黒い魔法陣が浮かびあがった。
そして、ガラスが砕けるようにその魔法陣が粉々に粉砕された。
光が消える。
リーゼの腕から力が抜けて、スッと下がった。
リーゼ……。
「リーゼ?」
ふっと、リーゼが顔をあげた。
とても柔らかい笑顔だった。
「にぃ……さん……ありがとう……」
リーゼの目元に涙がどんどんたまっていく。
しかし、リーゼの体から力が抜けて、突然、空中を落下する。
「リーゼ! 姫、追ってくれ」
「う、うん」
エレナがリフィーのたづなを引く。
クアア
リフィーが急降下して、リーゼを追う。
間に合ってくれ。
もう少し。
リフィーがリーゼに追いつき、リーゼを抱きとめることができた。
「リーゼ、大丈夫か?」
「……兄さん……体が重くて……自分の体じゃないみたいで……でも、すごく気持ちは軽いの……兄さん、すごく大人になってる」
ふふふ、とリーゼは微笑んだ。
良かった……。
リーゼだ……。
いろいろ声をかけたいのに、なにも言えない。
ただただ、嬉しい。
エレナはなにも言わず、たづなを握っていた。
いつもだったら、甘えてくる素振りを見せてくるところなのに……。
リフィーは秘宝島に向かっていた。
姫、ありがとう。
島に降りて、リーゼを寝かせた。
意識はしっかりしていて、心配はなさそうだった。
「キール、彼女は……」
フレデリックと紫苑騎士団が集まってきた。
「シックザールの魔法にかかっていたようだ。でも、本当の妹を救うことができた」
「そうか。良かったな」
「あぁ」
「キール。みなさん、大変です」
ヴェロニカが建物から駆け出てきた。
「あわわっ、シックザールッ」
リーゼを見て、ヴェロニカがギョッとした。
「ヴェロニカ。もうシックザールじゃない。大丈夫だ」
「あわっ、それじゃあ」
「あぁ」
「はぁ、良かったぁ……」
「それで、なにかあったのか? アルスは?」
「あわわ、そうでした。大量のブラックエリクサーを発見しちゃいました。それはものすごい数で」
「それは……」
と、リーゼがゆっくり起きあがろうとした。
「リーゼ、まだ無理をするな」
「う、うん……そのブラックエリクサーは、各地の魔教会に送るためのもの」
「すでに量産されていたのか。ヴェロニカ、その場所に案内してくれ」
「はい」
フレデリックとともに、ヴェロニカのあとについて行く。
案内された部屋には、ブラックエリクサーをつめこまれた木箱がたくさん置かれていた。
「こ、こんなにたくさん?」
フレデリックが驚いた。
ぞっとする量に、もちろん俺も驚いた。
こんなものを各地で使われたら……。
シックザール魔教会……。
アルスは、1つのブラックエリクサーに手をかざしていた。
ブラックエリクサーが光の中で、分解されている。
「アルス?」
「はいです。なんの影響もない液体にしているのですが、とても時間がかかりますです」
「確かに、このまま捨てるわけにもいかないよな」
「こんな危険な物は、存在させておけません。害のないように廃棄しましょう。秘宝島は、いったん紫苑騎士団で見張りを立てたほうがいいですね。侵入されないように」
フレデリックが言った。
「あぁ、そうしてくれ。シックザールのヤツらもいなくなったし、ひとまず、戻ろう」
その場から引きあげる。
「あ、ちょっと待ってくれ」
階をあがって、ロスワルドと戦った部屋に向かった。
大きな筒の中に闇の指輪を回収した。
ブラックエリクサーを作っていた装置の中にあったものだ。
これで3つ目か。
これらをどうするか、考える必要があるな。
「あっ、そういえば、元勇者パーティーはどうした?」
「あわっ、乗ってきた船で、せっせと島を出て行きました」
ヴェロニカが答えた。
「そうか」
建物から出ると、ニーナが目を覚ましていた。
自分がどうしてこんなところにいるのか、まったくわからず、きょとんとしていた。
シックザールにさらわれて、なにかを飲まされてから記憶がないということだった。
ホワイトエリクサーの効果か、闇の影響はなく、魔法にも問題がなかった。
無事、助けることができたニーナをハザシュの町へ連れ帰ることにした。
リーゼは、紫苑騎士団とともにレイアルロイツの都で手当てしてもらうことに。
のちほど、レイアルロイツで落ち合うことになった。
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