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第58話 大浴場と宴

「私もキールと一緒に入る〜〜〜」


 大浴場。

 男風呂の入り口で、俺はエレナに腕を引っ張られていた。


「あわわっ。エレナ、なんて大胆ですこと」


 ヴェロニカが言った。


「エレナ姫。紅蓮騎士団もいるんだ。そういうことは……」


 困ったな。

 リフレリアを出てからというもの、姫さんはどんどん節度がなくなっていくというか……。


「ははは、キール。お前というヤツは……」


 レオンがからかっているのか、あきれているのかわからない笑みを浮かべていた。


「はいはい……女子はこっちで、一緒に入りますよ」


 紅蓮騎士団の女魔道士アンネが、エレナをおさえこんだ。


「イヤー、私、キールとがいい」


「一緒に入りたかったら、夜、誘って入りにくればいいガウ」


 ウルスラもエレナの腕をつかんでさとした。


「あ、なるほど。うん、そうする……」


 ——単純だな……。


 アンネとウルスラも、俺と同じ感想を顔に出しているのがわかった。


「みなさん、姫さんをよろしく頼みます」


 エレナは大人しく女風呂のほうへと連れて行かれた。


 大浴場に入る。

 女風呂と隣接していて、壁で遮られている。

 しかし、天井部分が空いていて、つながってもいた。

 そこから女風呂側の音や声も聞こえてきていた。


「あー……、生き返るな……」


 湯につかって、遠慮なく足を伸ばす。


「キール。本当に今回は助かった。国王のおっしゃったように、ロラストにいてくれてありがとう」


 がっちりとした筋肉質の体を湯に沈めたレオンが言う。


「いや、たまたまだよ。別の村で捕まえた賞金首を引き渡しに来たところだった。そいつもレッドエリクサーを持っていた」


「レッドエリクサー。奇妙なアイテムだな。暴動者たちは、いたるところからやってきていたようだ。隣国のルクセチアからはるばる来たヤツもいた」


「そうか。あちこちで配布していたとも聞いた」


 シックザールの拠点を探るのは難しいか……。


 リーゼはどこへ行った……。


 そういえば、リーゼと一緒にいた男、アレクサンダーを足止めに使っていたとか言ってたな。

 シックザールがなにかしたのか?


「レオン、闇の指輪はどこから」


「ん?」


 レオンがじっと俺の顔を見つめてきた。


「話せない事情があるなら無理にとは言わない。実は、俺も少し前に、闇の指輪を捨てにいくパーティーに同行していた」


「なに? 指輪は1つじゃなかったのか?」


「俺も、もう1つ指輪が存在していることには驚いた」


「そうか……。闇の指輪は、アレクサンダーが闇に飲まれて、その存在を知った。だから、気づいたときには、そこにあったことになる。目が覚めたアレクサンダーはなにも覚えていなかった。キールたちもか?」


「闇に飲まれたヤツはいないと聞いている。国王の指示で、地獄の谷に向かった」


「行くところは一緒か。地獄の谷でなければ、闇の指輪の力を葬り去ることはできないだろうからな。それで、キールたちは指輪を捨てることができたんだな……」


「いや、俺は、その旅の途中でパーティーを追い出されたんだ」


「追い出された? なんで……あ、いや、パーティーにもいろいろ事情があるだろうからな……」


 レオンは察してくれていた。


「あぁ、いろいろあってな」


「それで賞金稼ぎか。それにしても、キールほど能力に秀でた者を追い出すとはな……」


「なに、俺くらいのヤツはどこにでもいるさ」


「それは謙遜しすぎだ。なんなら、紅蓮騎士団に入ってもらいたいくらいだ」


「それは、いくらなんでも褒めすぎだ」


「いやいや、本気で言っている」


「気持ちだけ受け取っておくよ。もし、また地獄の谷へ行くなら、わかってる範囲でのマップを渡すぞ」


「それはありがたい」


「——だって、向こうにキールがいるんだもん。ちょっとくらい覗いたって……」


 仕切りの壁向こうから、エレナの声が聞こえてきた。


「エレナ姫さま、危ないですからやめた方が」


「アルス、私のお尻、しっかり押して……もう少しで向こう側が見えそう」


「ええぇぇ、でも」


「ほら、もっと、強く押して」


「お、押してますぅぅぅ……で、でも、もう、げ、限界ですぅぅぅ」


「ちょっと、アルス……キャーーー」


 女風呂から、人が落ちたり、桶が飛んで転がっていく派手な音が響いてきた。


「ほらほら、言わんこっちゃないガウ」


 はぁ……姫さん、なにやってんだんだよ……。




「都を救ってくれた者たちに乾杯」


 国王の合図で、グラスを口に運んだ。


 夕方から宴となった。

 紅蓮騎士団や俺たち、エレナ、アルス、ヴェロニカも同じ席にいた。


 アルスは、紅蓮騎士団の魔道具士ヨルグと話が盛りあがっていた。


 久々に専門的な話の通じる相手と、興奮気味に話している。


「なんと、エレナはリフレリアの王女であるのか?」


 国王が目を丸々と見開いて驚いていた。


「はい、そうなんです」


 と、姫様笑顔を見せる。


「キールよ。疑うつもりはないが、さらって来たわけではあるまいな」


 国王が問う。


 あっ……。

 最終的に、さらって来た形になってしまったような……。


「いえ、姫がどうしても着いてきたいと……」


「キールがいなければ、きっといま頃も城の中で退屈していたと思います」


 おいおい、国王の前で言うことではないだろ。

 ……でも、まっ、そうだろうな。

 それでも、城を抜け出そうとしていそうだがな。


「そ、そうか。して、キールよ。聞けば、旅の途中だそうじゃな」


「はい」


 妹を探す旅の途中であると伝えた。


「そうだったか。シックザールのあとを追うのだな」


「はい。そのつもりです」


「できれば、マナ徒も救ってもらうと……」


「もちろんです。これ以上、犠牲者を増やしたくはありません」


「頼んじゃぞ、キール」


「はい」


「今日は食べて、ゆっくりと休んでいくがよい」


「はい、ありがとうございます」


 それから食事と酒を堪能した。




 用意された客室で眠る。


 ——狭い。


 眠るエレナとアルスに挟まれていた。


 たく……気をきかしてくれなくていいのに。


 ベッドを抜けた。


「ムニャムニャ……キール……」


 アルスを抱きしめるエレナ。


 月明かりが差しこむ窓の前に立った。

 寝静まる都が一望できた。


 みんなで救った都。

 でも、一部は……。


 レッドエリクサーの集合体に破壊された場所が目に入る。


 ——シックザール魔教会。いったいなにを考えている。


 ——リーゼ。必ず救い出してみせる。


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