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第36話 キールの過去

 賞金首オーディスをとらえたすぐあとのこと。

 助けたマオノに思いもよらないことを言われた。


「どうして俺がマナ()だと?」


 俺がマナ徒であることは、必要以上に知られたくないことのひとつだ。

 彼女クラスの魔導師なら、見抜けてしまう?


「最初は、龍の口に投げこんだ物が破裂して、体内に吸収されていったとき。単なる魔法ではないモノを見た。一瞬だったから、気のせいかと思った」


 へー。

 まさか、あの一瞬を見ていたのか。


「確信に変わったのは、あなたの魔法を吸収したとき」


 なるほど。

 それでか。

 あの短時間で、よくそこまで感じとれたものだな。


「魔力とは別の、異質な力が伝わってきた。マナ。魔法の根源といわれる自然の力。それを直接あやつれる特殊な血を宿したマナ徒……」


「ふん。よく知っているじゃないか」


「私も魔導師のはしくれ。いちおうグレンツェント魔法学院を出ています」


「へー、グレンツェント魔法学院。世界最高峰の魔法学校の出とはね」


「そういえば、あなたの名前はキール……」


「あぁ、キール・ハインドだ」


 そう答えると、マオノは眉間にまゆを寄せた。


「キール・ハインド……キール……。どこかで……あっ、いや、もしかして、あなたは虐殺のあったあの村の?」


 俺は息を飲んだ。


 ――そこまで、この子は知っているのか。


「キール。コイツらをとらえるなんて。本当にただの賞金稼ぎとは思えないが……」


 かけつけたマレルダが、また疑いの目を向けてくる。


「何度も言わせるな。俺はただの賞金稼ぎだ。そうじゃなきゃ、コイツらを追って来ないっての」


 ジッと、マオノの強い視線を感じた。

 でも、俺以外のやつらに、マナのことを言う雰囲気はなかった。


「キール! やったね〜」


 勢いよくエレナに抱きつかれた。

 いつものように腕をからみとられて、やわらかな胸の谷間に押しこまれる。


「よく大人しくしていられたな。えらいな」


「ふふふっ。でしょう。みんな捕まえたね。これで、たくさんお金もらえるの?」


「あぁ。王都に連れていかなくちゃいけないけどな」


「あっ、そうだった……」


 急にマオノが、がく然として膝から崩れるように、その場にしゃがみこんでしまった。


「マオノ、どうした?」


「む、村の人たちが……殺されちゃう……」


 マオノは涙を流している。


 そんなことをオーディスが言っていたな。


「マオノ、いったいなにがあったんだ?」


 マオノはしばらく気持ちを落ち着かせてから、話を聞かせてくれた。


 それは、マオノの村の人を人質にとって、殺さないことを約束するかわりに、マオノがクラオエに協力することだった。


 しかし、オーディスの話では、村の人々は殺されてしまうと。

 その理由は、オーディスが口にしていた計画という言葉。

 その計画は、マオノにはわからない。


「オーディスに聞けば……あっ、そうか。暗黒魔法で痺れてしゃべれないんだったな」


「密猟集団がつかまったなんて、向こう側に知られたら……」


「他に仲間がいるのか?」


「仲間というか、港に密猟した物を船で送る人たちがいる。定期的に連絡を取り合ってるから、このことが知られたら、その計画が早まってしまうかも……」


 マオノの焦点は定まっていなかった。


「落ち着け。ひとまず、そいつらになにかしら渡しに行って、クラオエがまだ生存していることを見せかけておけば、少しは時間が稼げるだろう」


「渡すといってもなにを……」


「それは、ドラゴンの……いや」


 龍に気に入られたアルスを連れ戻してきた。

 龍は近くで、アルスをマジマジと見つめてはいるのだが。


 アルスに、龍の目や龍の珠、爪、うろこに似せたものを作ってもらった。


 器用な魔道具師だ。

 ぱっと見は、それっぽく見えている。

 どかの段階で、ニセ物だとバレるだろうがな。


「これらを渡しておけば、時間を稼げるだろう。なら、すぐに渡しに行こう、マオノ」


「えっ、私が?」


「クラオエのメンバーとして渡せばいいだろ」


「あ、う、うん……」


 マオノは涙をぬぐって立ちあがった。




 リフレリアから乗ってきた飛竜で、俺とマオノはサーシスという港へ向かった。

 サーシスの港は、持っていた地図にぎりぎり乗っていた。


 港のはずれの怪しげな小屋に、マオノが1人で入って行く。

 まもなくして、マオノが出てきた。


「大丈夫だったか?」


 マオノは、俺が隠れていたところに戻ってきた。


「えぇ。またしばらくドラゴン狩りに出ているからって伝えておいた。とくに怪しまれる様子はなかった」


「これでしばらくは、クラオエが存在していると思われるだろう」


「えぇ」


「よし。準備を整えてマオノの村へ行こう」


「行こうって、あなたも?」


「あぁ。乗りかかった船だし、気になることもあるからな。ひとまず、谷へ戻るぞ」


 また飛竜に乗って、ドラゴンの谷に向かう。

 港を離れてから、高度をあげた。


「ねぇ、キール」


 背後から俺の体に腕を回しているマオノが聞いてきた。


「なんだ?」


「あなたはあの村の生き残りなの? だから、賞金稼ぎを?」


「だいぶ、吹っ飛ばしたつなぎ方だな。べつに最初から賞金稼ぎをしていたわけじゃない。それまで身を隠しながら、各地を転々としていた」


「やっぱり、マナの力を狙われていたの?」


「力が狙われていたわけじゃない。マナの力を使う者を排除しようとしていたんだと思う。誰だかわからないが」


「あの村の魔導師は、優秀なマナ徒だと聞いていたから」


「いいと思う人がいれば、悪い、いやだと思うやつもいるってことだ」


「生き残ったのはキールだけ?」


 なんと答えるべきか。


「ご、ごめんなさい。つらい記憶よね……」


 しばらく黙っていると、マオノが謝ってきた。


「今となっては、衝撃的すぎて、夢だったんじゃないかって思うこともある。いったい誰がそんなことをしたのか、いろいろ情報を集めているんだけど、なかなかな……」


「そう」


「マオノこそ、大丈夫だったか? オーディスたちにひどいことされたんじゃないのか?」


「い、いえ。そこまでひどいことは……私がそれなりの魔導師ってこともあって、手出しはしてこなかった。ただ……」


 マオノの声は沈んだ。

 俺の背中にマオノの顔がくっついたのがわかった。


「私より、村の人たちがひどいことをされてないか心配で……」


「無事であることを祈ろう」


「うん……」


 ドラゴンの谷に戻ると、アルスがある物を見せてきた。


「アルス、それは?」


「ブラックドラゴンのうろこです」


 手のひらよりも大きい黒いうろこを数枚持っていた。


「それ、どうしたんだ?」


「龍に言ったら、落ちている場所を教えてくれました。これで、キールの剣、直せます」


「そうか。ありがたい。って、なんか知らない飛竜がいるんだが……」


 エレナたちのもとに、城の飛竜に似た同じくらいの大きさの飛竜がいた。


「おもしろかった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「キールたちは、どうなるのっ……!」


と思ったら


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