第34話 暗黒騎士パーティー12:暗黒落ち(スレッグ視点)
ここは……。
目が覚めたのか……。
俺は寝ていたのか……。
水がゆっくりと打ちつける音が聞こえた。
さっ、寒い。
首元まで水につかっているのか。
全身が凍り漬けになったように冷たくなっている。
目を開けても、真っ暗だ。
いや、目を開けているのか、閉じているのかすらわからない。
とっ、とにかく水からあがろう……。
く、くそ、体が動かない。
体が震えるのを通り越してる。
さびついたように動かない体を必死に動かして、水の上にあがった。
しっかりと剣が握られていることに気づいた。
鎧の中からボタボタと水が抜け落ちていく。
「序・一火団欒」
まだ魔力はいくらか残っている。
体を暖めないと……。
鎧を脱いで、地面から昇る炎に手を向けた。
はぁ……あたたかい……。
それにしてもここは……。
炎の光で、辺りが少し見えるようになっていた。
洞窟の中か?
「ア、アシル!」
洞窟の中に俺の声が反響する。
アシルの首が水から出ていたのだ。
一度はずした仮面をつけ直して、アシルの元へ向かう。
「おい、大丈夫か?」
火のおかけで少し体が温まって、体がさっきよりも動くようになっていた。
巨体のアシルを水から引きあげることができた。
火のそばに寝かせる。
アシルがいるってことは……。
暗い水辺に目をこらす。
「いた。ミレイア、フィリオ……」
少し離れたところに顔だけ出ていた2人を引っぱりあげた。
アシルも含めて、3人は、わずかながらに息をしていた。
また、このまま旅がつづけられるのか?
いや、もう俺の地位は……。
火の魔法をつぎ足しながら、暖をとりつづけた。
しばらくすると、3人は目が覚めて、ひとまず安堵はした。
「ここは?」
まだ体を震わせているフィリオが聞いてきた。
「さぁ、洞窟の中だろう。周囲がどうなっているのか、まだ見てないからわからん」
「お、俺たちは死んだの?」
「どうだかな。少なからず肉体が存在するという認識だけがある」
「私たちは、水に流されたんだっけ?」
水分を含んだ髪のミレイアは、手でおでこを押さえていた。
「あぁそうだ。生命の泉に行く途中で、死神のようなやつと戦っていたんだ」
「そうか。それで橋を渡ろうとしたら落ちた……」
「思い描いていた進み方とは、だいぶ変わっちまった」
「死霊の山に来たあたりから、そんなことばかりだ」
ミレイアは抱えた生足の膝に、顔を沈みこませた。
「よく考えてみれば、キールがいなくなってからじゃないか? 想像していなかったことばかり起きるようになったのは」
フィリオがさらに炎に近寄って言う。
「……」
淡い炎に揺れる洞窟の天井を見あげて、今までのことを思い出す。
「確かに」
「ということは、キールが抜けたから、こんなことになったってこと?」
アシルが投げかけた。
「キールは、死に神?」
フィリオが聞いた。
「バカが。それなら、キールがこのパーティーに参加してから不遇な目に合うはずだ」
「キールが入ってから、それまで以上に旅は順調になったと思う」
アシルのキールに対する声は、もの悲しかった。
「それじゃあ、キールは幸運を持ち合わせた人だった? 俺たちはキールの加護を受けていたとか?」
フィリオは、舌が回るようになってきていた。
「ふん。キールが神とでも言いたいのか?」
「いや、いま思い返せば、キールが抜けてから、本当になにもかもかみ合わなくなった。でも、それはもう変えられない事実……」
顔を伏せたままのミレイアが言った。
「今さら、キールを追いださなければ良かったと?」
「言えるなら、俺は言いたい」
アシルがぼそっと言った。
「……」
アシルのひと言に、誰もなにも言わない。
否定も肯定もしない。
言えなかった。
カタン……カタン……
暗闇のどこからか、金属の音が近づいてくる。
カタン……カタン……
「なんだ?」
「なに?」
ミレイアも顔をあげて、耳をすます。
「誰かが歩いてくる音? 鎧かなにかを着た……」
ミレイアがつづけて言った。
足音が洞窟内に反響していて、どこから聞こえてくるのかわからない。
辺りを見回しても人影は見つからない。
モンスターの足音ではない。
話の通じる誰であってほしいが……。
「スレッグ、後ろ!」
ミレイアの声が響いた。
そばに置いてあった剣を握って立ちあがった。
「誰だ」
暗闇にぼんやりと、もやのように人影が浮かびあがった。
また、発光体かなにかか?
さらに歩み進んできた人影は、黒い鎧を着た男だった。
黒い剣を持っていた。
知っている鎧と剣だ。
あっ!
「ワレス先生」
「誰?」
すぐにフィリオが聞いてきた。
「俺の先生だ」
「なんだ、スレッグの先生かぁ……えっ、こんなところに? なんで?」
一瞬、気の抜けたフィリオの声が、すぐに張りつめた。
「ワレス先生、俺です。スレッグです……」
まったく反応がない……。
俺を忘れているのか?
いや、待てよ。
ワレス先生って、どうなった?
俺が記憶をたぐり寄せていると、目の前の騎士は剣を振りあげた。
「先生、なにをっ」
振り降ろしてきた剣を受けとめる。
耳をつんざくような金属音が、洞窟内に響きわたった。
くそっ。
剣をなぎ払われてしまった。
まったく力が入らない。
手が痺れて、ぎりぎり剣を握っていられるが。
先生はいったい……。
騎士は俺の横を通り過ぎていく。
「えっ、なになに?」
まだ火で暖をとっているフィリオに向かって駆けだした。
「エッ、チョッ、ウグッ」
フィリオは剣で胸をひと突きされてしまった。
「フィリオーーー。先生、なにを……」
はっ。
確か、ワレス先生は……暗黒に飲みこまれたって……。
そう昔に聞いた。
よく見れば、ワレス先生……。
騎士は黒い炎のオーラをまとっていた。
剣を伝って、フィリオもその黒い炎に包まれていく。
「ゴホッ……み、みんな……どこ……真っ暗で……み、ん、な……」
剣を引き抜かれたフィリオの胸の空いた傷口から、さらに黒い炎が吹き出した。
「あっ、あっ、クァアアアアア」
全身を燃やすように黒い炎のオーラに包まれてしまったフィリオ。
ま、まさか、暗黒に飲まれたのか?
「フィ、フィリオ? あっ。い、いやっ。来ないで……」
騎士はミレイアに狙いを定めた。
足下は悪く、あとずさりしてこけるミレイア。
魔力も体力もほとんどなく、まともに体は動かない。
「いやぁ、やめっ――てっ、ゲフッ」
「ミレイアーーー」
ミレイアも騎士の刺されて、黒い炎に包まれた。
そして、まだ立つことがせいいっぱいのアシルも、なんの抵抗もできず剣でひと突きされてしまった。
「ア、アシルっ」
騎士が俺に向けて剣先を向けてきた。
「お、お前たち……」
騎士の背後に、フィリオ、ミレイア、アシルが立った。
面をつけているが、無表情で俺を見ているのがわかった。
騎士と同じ黒い炎をまとって。
「スレッグ、どうなるのっ……!」
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