10話 お昼に隠れる場所を探したまでは良かったんだけどなぁ
午前中は放心状態のミシェーラ様を何とかクラスの皆様が気に入られるためにお手伝いしていたため、無事平穏に過ごすことができました。
でも、あの放心状態が終わりましたら、絶対に私にちょっかいがきますよね。
お昼休みになり、私はミシェーラ様に声をかけられる前に教室から出ていきました。
どこでもいいから、隠れられる場所を探さなくてはいけません。こないだの場所はミシェーラ様もご存じの場所ですしダメ。
学校の敷地内には大きめの森もありますが、あそこは正直やや薄暗く近寄りがたいんですよね。
校舎内には何かありませんでしょうか。そう思った私はまだあまり使われていない空き教室に目をつけました。開校してまだ三回生はまだ存在しない為、来年から使われるはずの教室にはまだ誰もいません。
しかし、昼休みは例外みたいでした。どこをみてもグループで集まっています。他を当たりましょうか。
屋上、中庭は論外ですよね。テラスや食堂はむしろ昼休みの為の空間と考えますと……倉庫だ。
私は運動場にある大型の用具を入れる大きめの倉庫まで向かいました。中には男子生徒たちが剣術などを学ぶために用意された木製の剣や防具が散乱しています。
「ここなら人がこなそう」
でも、正直甲冑に囲まれるのものすごく怖いですね。動きませんよね。
つんつんとつつきましたが、特に反応はありません。ありましたら泣いて逃げてます。
「しばらくお昼はここで過ごしましょう!」
誰もいない楽園のような場所です! ここでしたらゆっくり休めます。
しかし、座れるところがありませんね。さすがにここの床は土やホコリが目立ちますし、掃除はちゃんとしていないのでしょうか。
「掃除用具はあれですね」
昼休みの半分以上を使い、床掃除を終わらせました。しかし、やはり床に直接座るのは抵抗がありますので、明日から敷くものを用意しましょう。
今日は近くのベンチでも探して休みましょうか。明日から昼休みはここに隠れましょう。
どこかで私の名前のような叫び声が聞こえたような気がしましたが、運よくお昼休みは無事にすぎました。
問題は午後の授業。私はミシェーラ様から指定されている彼女の隣の席に座ります。
「あーら? お昼はどこに行っていたのかしらマリー・コースフェルト?」
「え? え? あー? どこにも行っていませんけど?」
せっかく見つけた安寧の地。脅かされるわけにはいきません。しかし、ミシェーラ様がどちらまで私を捜索したかわからないので、適当なことを言うのは難しい。
「教える気がないのでしたら、明日からしっかり見張らせて貰います。まあ、ギルベルト様のところに行かなかっただけ良しとして差し上げましょう」
うわぁ。ミシェーラ様。お昼もバルツァー様のところに行かれたのですね。それでいて私探しですか。…………?
もしかしなくても、バルツァー様に何かを言われて私を探していた可能性がありませんかね。
知られて困ることと言えば…………夜会だ!
なんでもすると勢いで答えた際に、バルツァー様に次の夜会でエスコートされることになったんでした!!
これを知られていたらまずい。今朝のことだけでもあそこまでお怒りでした。ま、どうせ夜会に出てしまえばバレる事実なんですけどね。
「貴女、今度の我が家の夜会。ギルベルト様にエスコートされるんですって?」
?
…………?
…………????????
「わ、わたわたわわわわたしに、拒否権がありませんので」
バレた。バレた。バレた。それよりも、なんでベッケンシュタイン家の夜会なんですかバルツァー様!!
せ、せめて詳細だけでも聞いておけばよかったです。
「マリー・コースフェルト? 拒否権がなくても死んでも断りなさい? いいわね?」
「…………死にたくないです」
ミシェーラ様が鋭い瞳で私を睨むと、こう囁きました。
「それでしたら、夜会当日。あなたはどこかに攫われたってことで身を潜めなさいな」
攫われた!?
私は、それが例え狂言誘拐だとしても、全身からぶわっと何か嫌な汗が噴き出たような感覚に襲われました。
しかし、そういうことでしたら、バルツァー様のお約束を意図的に破ったことになりませんし、ミシェーラ様のご機嫌も取れます。
きっとバルツァー様も私と逢えなくても残念とも思いませんし、すぐに忘れてくださります。
私達三人が笑って過ごせる未来への道はきっとこれしかないのでしょう。
「わ、わかりました」
「いい子よ。マリー・コースフェルト」
みんなの幸せはそこ。彼女はまだ自分の選択の後悔に気付かない。
今回もありがとうございました。




