014 苦悩の王子と少年の憧れ
あれからのお祖父様は凄かった。
高速で軍をまとめ首謀者、親族、愛人全て取り押さえた。
調べられていたそぶりも無かった為、全員油断したままろくな抵抗も出来ず、隈無く探して呪いの触媒も見つけ速やかに解呪を行なった。
あれからたった一日の出来事で、王への死の呪いという大ニュースと鮮やかな逮捕劇に貴族内国民内でも激震が走り、最近平和で影が薄かったベルドリクス家、軍人貴族の面目躍如である。
ギルヴィードおじ様にはなんで挨拶に行ってこんなことになるんだと呆れていたが、ラフィエル召喚をしたと話したら固まり「呼ぼうか?」と言ったらやめろと断られた。
私は家に帰り、気分が優れないと部屋に籠った。
正直、気が晴れない。
「生贄か……」
呪いの犠牲者が確かに存在していたという生々しい現実になんていうか……精神的に参ったのだ。
「マリア」
呼んでもいないのに控えめに光を放ちラフィちゃんが部屋に現れた。
これは初めてのことで、私を心配して来てくれたことになんだか胸が熱くなった。
「ラフィちゃん……」
「……」
本人としても初めてだからか何と言っていいかわからず、しかし放ってはおけなかったのだろう。
「……生贄の人たち、天国で幸せになってるかな……」
私の言葉によく意味が分からずポカンとするラフィちゃん
「天国とは?」
「あっ」
この『聖女勇者』には天国なんて設定はなかった。
「えぇと……亡くなった後、幸せに暮らしてる死後の国があったらいいなってこと……かな」
「マリアがそういうのなら、作ろう」
「ありがとう……ラフィちゃん」
天使!!
……って、ん? まさか今ここに天国が爆誕した?
「しかし死んだ者を収容する国を作るとなるとひたすら増えていくことになるぞ」
「ええと、それは輪廻転生っていって徳を積んだ、良い行いをした人は逆にこっちの世界に産まれ直すとかしてサイクルを……」
「成る程……しかし悪行を尽くした者はどうするのだ?」
「それは現世に戻る前に反省してもらう為に地獄を作って……」
って、なに設定を創造主と作ってんだ!!
ゲームディレクターだった時のクセでつい設定の穴埋め策を考えてしまった……。
でも、無念の死を迎えた人がまた幸せになる権利が生まれるというのなら、自己満足だが少し心が軽くなった。
それにしても……こんな強力な呪いを作れるのは、細かい薬品物から危険な国防兵器まで幅広く使えるあのマッドサイエンティストな攻略キャラクター……。
しかもご丁寧にシグルド派閥と仲の良いモノリス国にいらっしゃる……。
本人は政治にまったく興味がないし、国に命令されてしょうがなく作ってるんだろうけど、しょうがなく作ってこの威力は本当にえげつない。
(これはなんとかしないとな……)
さすがは攻略キャラというべきか、一番の障害になりそうである。
証拠は「ラフィエル様が出てきて教えて下さった」とかいうと宗教大国クレルモンフェランが出しゃばってきてしまい、本当かどうかの裁判が始まってしまうのでカーグランド王にはご内密にとお願いした。
勿論本当の話だが、クレルモンフェランのキャラクターで前に話題に出した『触ったものの嘘と本当を見抜けたり記憶が覗けたりできる』キャラがいるので、私の存在がバレてしまう都合上、ラフィエル様の話はオフレコでお願いした。
ベルドリクス家のマリアは『ひょんなことでラフィエル様に気に入られ、加護をいただいている』ということをカーグランド王に言った手前、今後は気に入られるほど信仰心の厚いラフィエル様信者のフリをするのが無難だろう。
回復魔法が使えることは言っていないが嘘も付いてない。加護の範囲ってことで。
陛下はラフィエル様に会えたことが嬉しくて堪らないから自慢出来ないことがとても残念そうだったが、しょうがない。
今度みんなの前でラフィちゃん呼んでやっから。
まだ衰弱状態なのは変わりないので陛下が全快するようこっそり祈っておいた。
これで、呪いも解けたし『聖女勇者』シナリオ以上に長生きするんじゃないかな?
「やっぱりシグルド派閥だったな」
そして犯人だが、シグルド派閥の重鎮で『シグルドが王になれば間違いなく甘い汁が吸えるが、ゼルギウスが王になったらどうなるかわからない』者たち。
どんどん旗色が悪くなるのに焦り、王が意見を変える前に殺そうと計画した。というのが話の顛末のようだ。
シグルドはこの件に一切関わっていなかったが、自分の陣営を御せなかった責を問われて王太子の権利を白紙とした。
「つまり……!?」
「あぁ。ゼルも王になる権利が出てきた」
ニィと、ギルヴィードおじ様は悪そうな笑顔をした。その顔怖いよおじ様。
今後は二人と二人の臣下の様子を見て決めると発表。
ちょっとゼルギウスさんの王への道が見えてきた!?
◇
いつものゼルガリオン活動に出かける為に集まったゼルギウスさんの表情は晴れない。
あっ シグルードはあのブチ切れ事件から辞めたそうです。慈善活動は確かにしたのに王子様の道楽と揶揄されちゃうのはちょっと可哀想だけど、こういうのは継続が大事だからね。
私はギルヴィードおじ様と目配せして活動の前にちょっとゼルギウスさんお気に入りの食事処へ向かうことになった。
ガヤガヤとした店内、頼んだ食事が来るまで音遮断は付けずぼんやりと話す。
「まあ、ゼルの考えてる事は理解しているつもりだ」
ゼルギウスさんは王様になる気が無かったのに、何もしてないでいきなり王候補に祭り上げられて「兄と争え」と言われてる状態だ。
「いや。なんつーか、お前らの気持ちもわかってるつもりなんだけどな?」
しかし少し寂しそうに
「でも兄上も今ちょっと疲れてるだけなんだよ」
とゼルギウスさんはフォローした。
「……ゼルギウスさん……」
確かにシグルドは凡庸だけど平時ならそれなりな王になれるだろう。
でも……
「シグルド殿下は今は己の器に収まらない器を要求されて、苦しんでるようにもみえます」
私にも収まりきらない力があるから良くわかる。
今から戦争に駆り出されて傷だらけの兵士たちを見ることに怯えている。聖女に向いてない。
「………………」
ゼルギウスさんは珍しく真顔で、ギルヴィードおじ様も珍しく優しい声だ
「何も今すぐ考えて争えって話じゃない。ゼルはゼルの選択でいいんだ」
そう言ってる間に元気なお姉さんが沢山の料理を持ってくる。
それにお礼を言って食べながらさっきと気分を変えようと軽く話始めた。
「やーっぱりゼルさんに甘いですよね〜〜」
場所が場所だけに略称だ。
「……別に、俺もおめえと家督を争えといきなり言われたら困るだろうからな」
「え"え〜〜問答無用で倒してきそうですけど」
「だから『困る』つったんだ」
勝つつもりではあるのね。
「ゼルさんも『困って』るんですか?『弱いものいじめはしたくない』とか」
「!!」
ゼルギウスさんは口を噤む
「そ、そんな、兄上は弱いものなどでは……」
そうゼルギウスさんがフォローをしようとすると、余所のテーブルから騒がしい声が聞こえる。
「ゼルガリオンに会いたいィ? 無理無理!」
「そんな……っ! わざわざヒューガより来たのに……」
「んん?」
ヒューガとはカーグランドに隣接する国。
いわゆる時代劇あたりの日本風の文化を持った個性的な国だ。
うん、訪ねてきた少年も武士っぽい出で立ちをしている。
ゼルガリオン活動で何回か行ったけど日本食が美味しかった。派閥に入っていない者同士、仲もさほど悪くはないので食料の交易も出来、時々伯爵家でもヒューガ食材を使ったものを混ぜてもらっている。
純粋に和風は出てこないが和洋折衷な感じでそれはそれで美味しい。
「いるんだよなあ、カーグランドに来ればゼルガリオンに会えると思ってるおのぼりさんが」
「俺たちだって会えたことねーよ」
「ピンチにならないとやってこないからな」
「正体はカーグランドの王子、ゼルギウス様ってもっぱらの噂だし、俺たちには雲の上の人だよ」
自分の正体がバレてるのが衝撃らしいゼルギウスさんはガタッと身体を揺らすが、何故バレてないと思ったのか。
っていうかあの少年……なんか妙に顔が良いし、どことなく見知った面影が……
と見ていたら今度は私が身体をガタッと揺らし席を立った。
ギルヴィードおじ様に「お前も何だ」という目で見られる。
あ、あれはヒューガ国プレイ攻略キャラクターの貴族、ヤマシロ カムイくんだあ〜〜!!
和風テイストのザ・武士キャラ。
刀で戦うが防御も高くタンク役としても使える。
左片腕に付いた大きな腕型の防御鎧のような甲冑がトレードマークだ。
今はそんな恰好はしておらず普通の旅装束……と言っても洋風なカーグランドでは和服は目立つ。
見た感じ今は14歳くらいだろうか。一人でよく来れたね。
国内人気はパッとしないが海外ファンからはジャパンサムライとして人気が高い。
日本ゲームの和風キャラは一定のブランド力というか、海外には真似できない日本らしさが入ってて堪らないらしく、そういうのもあって和風キャラは一人はいれるのがゲームでのお約束というか、海外向けへのサービスみたいなとこはある。
それはともかく防御寄りのタンクキタ〜〜!!
今パーティメンバー明らかに足りないしゼルギウスさんは王になるからいつまでパーティ組めるかわかんないし、めちゃくちゃ欲しい!!
結局ゼルギウスさんは身体強化は付いたもののスキルレベルの上がりが悪く、攻略キャラと比べると若干の見劣りはしていた。
本人は普通はなかなかつかない『身体強化』スキルがついて凄い喜んでたけど。
(多分ゼルギウスさんは君主だし戦争フェイズの方が使えるタイプの人なんじゃないかな。お祖父様に頼んで今後は兵法とかそっちに力入れて貰おう)
そしてなによりカムイくんが欲しい理由の一番は、かなり誠実で純情なのです。
ヒロインと両思いであってもアダルトルートはヒロインが頑張らないとなかなか行かない。かなり希少なキャラ!
ヒューガ国スタートでは最初に護衛として配属されるんだけど、細かいところにも気を配れる忠臣だ。
国が負けたバッドエンドルートでは、ヒューガのものたちがヒロインを捨て駒にして逃げ出しても、苦しい生活になってもカムイだけは決して離れず共にいると誓った。
しかし同時に想いも一生伝えることはなかった……。
というバッドエンドのほうが好評で落ち延びて二人が両想いになったり、逆にヒロインの現代世界にカムイと一緒に逆トリップしたりする幸せな純愛二次創作が流行っていた。
しかしヒロインが頑張ってアダルトルートに持っていくとタガが外れたように求めてきてケモノになるので注意が必要だ。
どうしてもこういったゲームはユーザー側の『相手から熱く求められたい!』っていう想いが根本にあるのでガッつく男ばかりになってしまう。
閑話休題。
しょんぼりしているカムイくんに私は「ねえ君、見慣れない格好だけどどこからきたの?」と出来るだけ友好的に話しかけた。
転移でヒューガまで行って三人で観光までしたことを知っている二人は一瞬「何言ってんだコイツ」という目で見てきたが黙っていてくれた。二人とも頭が良くて助かる。
「わたし珍しいものが大好きなの。お話を聞かせてくれたらご飯をご馳走するわ。どうかしら?」
カムイくんはお腹が減っていたのか了承してくれる。
子供がここまで遠征じゃお金も足りないだろうしね。
「しかしここで話すだけであれば」
ご飯には釣られたけどしっかりはしていてちょっと安心した。
私は喜んで私の前の席を勧めた。ゼルガリオンの隣だぞ。
ゼルとヴィードと略称という偽名で挨拶する二人とカムイくんを微笑んで見ながら私はカムイくんを手に入れる為に頭をフル回転させる。
確かカムイくんは貴族だったが身分は低かったはず。
叩き上げで、一番強いという理由で護衛につくのだ。
だから物腰も低めで礼儀正しい。ヒロインにも忠犬してくれるのだ。
「カムイくんというのね、国を跨いで一人旅なんて、その歳で出来るの? 凄いわ」
この世界の人間の価値はスキルでかなり変わる。
ゼルギウスさんがちょっとの身体強化でも喜んでたように、有用な特殊技能が付くことはかなり希だ。
カムイくんはかなりの身体強化の使い手だけど、この歳で一人旅してるならもう目覚めてるのか?
(もう目覚めてるとなるとゲットするのは難易度が跳ね上がる)
「いえ、実家がカーグランド近くなのでなんとか来れただけです」
照れながらカムイは返す。
うう〜〜ん、どうなんだろう。誤魔化すのが下手なタイプだから嘘を付いていたら真顔になりそうなものだが、この様子だとまだっぽいな。
カムイくんの実家の地形までは把握してないけど貴族であることはわかっているからカーグランド寄りを探せば見つかるだろう。
ただ『聖女勇者』で「死んでもいいから聖女様をお守りしろ」とか、結構冷遇されてたのは覚えてる。
バッドエンドでヒロインと捨て駒にされるくらいだもんな……。
身体強化という超有能スキルをもっても冷遇されるなら、持っていない今は幾ばくばかりか……。
スキルに目覚めたらヒューガは絶対に手放さないだろうけど、身体強化がまだなのだとしたら少しは手があるかもしれない。
お腹が空いていたのか運ばれてきた料理をキラキラと眺め食べ始める。
田舎っ子っぽいし帰りに騙されない様ちょっと注意しとこう。
「なんでゼルガリオンに会いたいんだ?」
ゼルギウスさんはそれとなくゼルガリオンの話を振った。正体としては気になるところなんだろう。
自分も正義のヒーローに憧れていたからなんとかしてやりたい気持ちもあるのかもしれない。
カムイくんは食べる手を止め、真剣に語り出す。
「ゼルガリオンは、俺の憧れなのです」
確かにゼルガリオンに憧れてる男の子は多いが頑なに正体を隠しているゼルギウスさんは面と向かって言われたのは初めてで照れで咳払いしてる。
「ゼルガリオンは我がヒューガにも来て、困っている難題を解決してくれました。冒険者としてのていをとっているので各地の魔物を討伐するのは自然なことなのですが……」
カムイくんは真剣な目でなおも語る。
「しかし本当はカーグランドの国の貴族の者かもしれないと聞きました」
「…………」
「……国を背負う立場の者は時に、自分の求めないものでも優先しないといけません」
少し影を落として、私たちには言ってはいないがヒューガ国の貴族として語るカムイくんの言葉にゼルギウスさんは思うところがあり、眼をつぶる。
「それなのに彼は国を超えて、国という境界に立ち向かっている。そう戦う姿に俺は感動したのです」
カムイくんはきっと理不尽なことがあったのだろう。
それに立ち向かうゼルガリオンと自分を重ねて奮い立たせているのだ。
「………………!!」
ゼルギウスさんも驚いたようにカムイくんを見る。
ゼルギウスさんは正義のヒーローという漠然とした憧れと民の喜ぶ笑顔のためだけにやっていただけだろう。
カムイくんに言われたようなことは考えたこともなかったと思う。
しかしヒーローに憧れた少年の心は確かにゼルギウスさんに突き刺さった。
「……良い話を聞いたな。マリアちゃん、ここは俺におごらせてくれ」
ゼルギウスさんはさっぱりした笑顔で私に言った。
ご飯も終わり、わたし達は笑顔で別れた。
勿論帰りは危ない人について行っちゃダメとか、普通はこういうの危ないとか注意したら
「流石に幼いご令嬢や身なりの良い方々が何かするとは思えなかったので」
と笑った。たしかに私10歳だった。
でも飢えてたみたいだし危ないからと帰りに使ってと少しお金を渡した。
そしたらカムイくんは困ったように
「マリア殿はまるで聖女様みたいだ」
と微笑んだ。
「まあ!」
実はそうなんです。
「……良い子だったな」
ゼルギウスさんは眩しそうに遠くに去っていくカムイくんを見る。
きっとゼルギウスさんの中で何かが動いたんだろう。しきりにカムイくんを気にしていた。
それなら……と、私はいたずらっぽく笑ってゼルギウスさんに提案をした。
「……なら、良い子にプレゼント、しませんか?」
◇
カムイはゼルガリオンには会えなかったが良い出会いが出来たと満足に歩みを進めていた。
この街道は滅多に魔物も出ないし、魔物が出て危ないところは乗り合い馬車でサッサと抜けて帰るつもりだ。
周りに人もおらず、自分の足音だけが聞こえる旅路に急に目の前から足音が聞こえた。
「誰だ!?」
驚いて前を向くと、そこには人形や本そっくりの、剣を少しかじったものなら見ただけでもわかる、歴戦の強者がいた。
「ぜ、ゼルガリオン!?」
カムイは驚きと興奮で言葉も出ない。
「キミが俺を呼んでたのを、ソウルで感じたのさ」
「そ、そうる!?」
す、凄い、ゼルガリオンは念探知も使えるのか!
更なる興奮に立ち尽くしているとゼルガリオンの方からカムイに近付き肩を掴む。
「この世には様々な難題がある! しかしキミならきっと大丈夫だ!」
カムイは驚きで声も出ないがゼルガリオンはその後、優しく
「なんたってキミはこんなところまで一人で来れるほど強いんだ」
と、仮面で見えないがきっと微笑んでいるんだろう。
カムイは今までしていた大人びた顔をやめ、幼く声を出して泣いた。
きっと幼い一人旅は不安だっただろう。
しかしそれだけ会いたかった。
泣き止んだカムイはゼルガリオンを見つめ「俺もあなたの様に強くなります」と笑う。
それに頷いたゼルガリオンは踵を返し数歩歩いたら風を纏って消えてしまった。
まるで夢を見たような、ふわふわとした気分だ。
しかし、ゼルガリオンと約束したのだ。
カムイは先程より大股に歩み始めた。




